« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »

2007/05/30

黄金色の波

Mugibatake
「君とこうして麦畑を見るのは3度目だね」
「――麦秋」
「うん」
 麦は黄金色に色付いている。
「二条大麦が私の髪の色に似ているのでしたね」
「うん」
 二毛作のこの地域は、今、麦が収穫期を迎えている。色が薄くてノギが長い麦が二条大麦、ビール麦と言われている麦。色が濃い方が小麦だ。
「――しばらくの間帰国しようと思います」
「そうか、たまには帰らないとね。待っている人がいるでしょう?」
「……はい。でも、私が帰って来る場所はここです」
 ジルは国に帰ってきても土産話をしてくれたことがない。事情がありそうだから、彼から言い出すまで、こちらからは聞かない。
「待ってる」
「私が留守の間のことは、友達に頼んでおきます」
「わかった。僕も稲さんが無茶しないようによく言い聞かせるから」
 彼には稲作のことしか見えていない。
「ありがとうございます」
 青い瞳が微笑んだように見えた。
 風が、ジルの髪と麦の穂を黄金色に波打たせている。


 今日の写真は「麦畑」(2007.05.28群馬県で撮影) 
 二条大麦と小麦が栽培されています。色が薄い方が二条大麦で、ビールの原料になるため、ビール麦とも呼ばれています。

Maidurusou
 今日2枚目の写真は「マイヅルソウ」(2007.05.26長野県で撮影)
 鶴が羽根を羽ばたかせている姿に見立てた名前です。

| | コメント (1) | トラックバック (1)

2007/05/25

秘密

Rasyoumonnkazura3
「絹さん、カレーライス大盛り!」
「いらっしゃいませ、こんな時間に珍しいね」
 ここは喫茶店〔月の光〕。
「バイク往復4時間飛ばして、温泉まで入って来たから腹へっちまった」
「?」
「実家帰って来た。ジルと一緒に」
「親孝行してきたんだ」
「そんなんじゃねぇさ。ジルが行きたいっていうから」
 ジルは駅でバイクを降り、そのまま東京に向かった。

「あの子は良い子だね」
「ん?」
 運ばれてきた大盛りカレーライスにウスターソースをかけてかき込み始めると、絹さんが言う。
「ジルちゃんは、みんなの気持ちを察して行動してくれる」
 察してというか、心を読んでだが。
「ああ、いいやつだ。……なぁ、絹さん」
「?」
「もしもの話だが、あいつに重大な秘密があったとしても、そう思ってくれるか?」
「どういうこと?」
「何でもねぇ、忘れてくれ」
「……秘密かぁ、誰にだって人に言えない秘密の一つや二つはあるものだよ。僕にだってね。君にだってあるんだろう?」
 彼の考える秘密は、おねしょが小学生まで直らなかったとか小さな事なのだろう。のんきな喫茶店店主の顔を見ながら思う。


Rasyoumonnkazura4
 今日の写真は「ラショウモンカズラ」(2007.05.20栃木県で撮影)
 羅生門葛と書くこの植物、その理由は、花の形を京都の羅生門で渡辺綱が鬼退治をしたときに、切り落とした鬼の腕に見立てた名前ということです。
 いつも思うのですが、すごい想像力ですね。確かに大きくごつい感じがする花ですが、皆さんはこの花を見て、切り落とした鬼の腕を想像出来ますか。

| | コメント (39) | トラックバック (0)

2007/05/21

コーヒー牛乳

Yamabukisou4
「なんだか、フラついていますが」
 やっと解放された温泉の帰り道。
「婆さんたちに精気を吸い取られちまったみたいだ」
「本当ですか?お婆さんたちは、すごい能力をお持ちなのですね」
 ジルに冗談は通じない。
「ばか。長湯したから、のぼせたんだよ」
 出るに出られなかったのだ。
「どうしたらいいのでしょう」
「どうしたらって――いい方法がある」
「?」
 昔から変わらない田舎道。
 やっぱり昔のままの場所に牛乳屋があった。
 温泉の帰りは決まってこれだった。
「いいか、こうして腰に手を当てて飲むんだ」
「これが効くのですか」
 やっぱり湯上がりは、ビン入りのコーヒー牛乳。


 ホームページを始めて丸4年、今日から5年目のスタートです。
 サイト名「みけのみちくさ」は変わりませんが、見た目や内容はずいぶんと変わりました。最初は日記と花旅行記でした。冬場に書くことがなくなったらどうしようと始めたのがお話を書くこと。稲さんたちとは3年半の付き合いになります。彼らと出会ったおかげで、文章を書く若い人たちに出会え、違う世界を見せてもらうことが出来ました。
 始めた頃はYahoo!に載せてもらう事が難しく、登録申請しても駄目だったことを思い出します。今は自ら登録なんかする必要はないですものね。
 今日は、また新しい気持ちで始めようと、昔を思い出してみました。

 今日の写真は「ヤマブキソウ」(2007.05.20栃木県で撮影)
 花がバラ科のヤマブキに似ていることからヤマブキソウといいます。よく似ていますが、こちらはケシ科で花びらが4枚です。
 薄暗い林の下で咲いていると、目を奪われる鮮やかさです。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007/05/19

Nagahasisumire3
 わっ!!
 なんだなんだ!
 出口を塞ぐように入って来たのは近所のばあさんたち。
 いくら年寄りでも、それは目の毒。いや、目のやり場に困るってもんだ!
「何を見ているんだい」
 言う前に隠せ!見てるんじゃなく、見せられてるんじゃねぇか!
(稲作、先に出てもいいですよ)
 ジルは稲作だけに伝えてきた。
「一人に出来るかよ」
 それに、タオルは向こうの岩の上だ。見せられるのも困るが、見られるのはもっと困る。
 稲作は白濁したお湯に肩まで浸かった。

「この日が来るのを、毎日仏様に拝んで待ってたんだ」
「??」
(お重さんは前に私が来た時に、私の身体を触ったら神経痛が治ったのでそうです)
「マジか?」
(気のせいでしょう。私にそのような能力はありません)
「説明してやる」
(気のせいでも、皆さんの体調が良くなるのでしたら、私は構いません)
 ジルが彼女たちに微笑みかけると、遠慮がちに彼の腕や手のひらにさわっていく。
「なんで、ジルがここにいるってわかった?」
「あたしは、野中さんとメル友なのさ」
 メル友!?こんな田舎の年寄りもそんなもんを使っているのか。
「――ついでに稲作、ちゃんと仕事してるかい」
「早苗さんを泣かすような事するんじゃないよ」
「いいねぇ、若い男は。若さのお裾分けがもらえそうだよ」
 彼女たちは、ジルをさわった方じゃない方の手で、俺を突いたり叩いたりしていく。
「なんか、酷く差があると思うんだが」
「そんなことはありません、あなたはどこに行っても人気者ですね」
 皮肉か。


 昨日庭に出ていると、ムクドリが尋常ならざる声で鳴いています。
 どうしたのかと思ってみてみると、‘みみげ’が、お隣さんの2階の戸袋に頭を突っ込んでいたのです。お隣さんは毎年ムクドリに戸袋を提供している奇特な御方です。
 食べられてしまったのかと思いましたが、今日も元気な鳴き声が聞こえていましたから、‘みみげ’は、頭も手もヒナに届かなかったようです。
 ブログでは久々の‘みみげ’登場です。‘くろ’も元気に遊びに来ていますよ。

 今日の写真は「ナガハシスミレ」(2007.05.14群馬県で撮影)
 別名のテングスミレでもわかる特徴は、距と呼ばれる花の後ろの部分がテングの鼻のように長いのです。このスミレも、前回のオオバキスミレと同じく、日本海側で見ることが出来ます。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2007/05/16

混浴露天風呂

Oobakisumire3
「お前、前に来た時もここに入ったのか?」
「はい」
 だってここは、
「混浴露天風呂じゃねぇか!!」
 新緑の中を流れる沢沿いに作られた乳白色をした岩風呂。子供の頃は裸で沢で泳ぎ、寒くなると戻ってきて温泉で暖まったっけ。
 淡い期待を胸に足を踏み入れてみたが、思った通りじいさんが1人。若い娘が入っているなんていうのはTVの中だけだ。
「お前、広木んとこの稲作だな」
「へ?」
 3軒先の家の野中のじいさんだった。
「昼間っから温泉に入って良い身分だな」
 確かに、親父は畑に出ていて家にはいなかった。
「こんにちは」
 愛想良く挨拶するジル。
「お前が噂の――」
 野中のじいさんはジルの腕を触った後、両手を会わせると、風呂を出ていく。
 ここでは外国人は珍しいが、見たことくらいはあるだろう。映画やテレビだってあるし。いくらジルが金髪碧眼で白い湯に溶け込んでしまいそうな白い肌をした美青年に見せているとしても、拝むことはないだろう。
「何だ、あれ?」
「さあ」

「お前、温泉好きだな」
 ジルは鼻歌を歌いながら、手のひらでお湯をすくって首にかけたりしている。
「はい、あなたと同じ温かさになれるし、この香りも好きです」
 ここの温泉はほのかな硫黄臭がする。
 しばらくすると脱衣所が賑やかになった。
「そろそろ出るか」

「そうはいかないよ!」


 今日の写真は「オオバキスミレ」(2007.05.14群馬県で撮影)
 日本海側の雪が多い地域で見られます。雪解け後、田んぼの畦に群生する様子は大変美しいのです。
 この写真は県内の日本海寄りで撮影しました。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007/05/13

母の日

Akebonosumire3
「おい!大丈夫か!!」
「はい」
「しっかりつかまってろ!」
「はい。――あの、そんなに大きな声を出さなくてもわかりますが――」
「あ?」
 そうか。声に出さなくてもわかるんだっけ。でも、バイクに二人乗りしている時は叫ばなきゃ、格好がつかねぇだろ。
「あなたの気分が良いのでしたら構いません」
 こんな天気がいい日に、高速を突っ走るのは確かに気分が良い。


「ただいま。誰か居るか?」
 恐る恐る玄関の戸を開けると、前掛けで手を拭きながらお袋が出てきた。昔から変わらない。
「なんだい、お前、来るんなら電話ぐらいよこしな」
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。ジルちゃんが一緒なら尚更だ。何にも用意してないじゃないか」
「おかあさん、これをどうぞ。稲作は恥ずかしいのですって」
 といいながら、ジルは、途中で買った赤いカーネーションの鉢植えを渡した。
 誰が恥ずかしい!母の日なんて照れくさくて、今まで何もしたことがなかった。
「嬉しいねぇ。ありがとう、ジルちゃん」
(稲作、思っているだけでは伝わらないこともあるのですよ)
 ジルは俺に伝えてきた。
 わかっているけど……。
(お母さんは、あなたの元気な姿を見られたことが嬉しいのです)
「何もご馳走がないけど、ゆっくりしていってね」
 お袋は、漬け物か煮物の残りでも出してこようと、台所に行く。
「近くにいるのですから、たまには帰らないと」
 バイクで2時間。そんなに遠くはないのにあまり帰ってこない。
「ジルちゃん、日本にいる時はここを家と思って良いんだから、遠慮無く遊びにおいで。温泉好きなんだろう?稲なんか一緒じゃなくても良いから。……稲と一緒に住んでくれてるんだもの、日本のお父さんお母さんだと思って良いんだよ」
 思った通り、漬け物や煮物や駄菓子を盆に一杯のせて戻ってきたお袋が言った。
「本当ですか」
 嬉しそうなジル。


 今日の写真は「アケボノスミレ」(2007.04.21長野県で撮影)
 今日はスミレにしましょう。
 葉が開く前に咲き出すアケボノスミレです。花びらの厚い質感と、独特のピンク色が美しいスミレです。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007/05/11

木陰で

Hasiridokoro2
「恋人同士に見えるでしょうか」
 手首からくちびるを離したジルは身体を寄せてきた。
「ばか。見えるか」
 見えたところでどうと言うことはない。思いたいヤツは思えばいい。
「そういうあなたが好き」
「ばか」
 風に吹かれた金色の柔らかい髪が、俺の頬をくすぐる。
 しばらくの時間……。

「……私、眠ろうと思うのです」
「そっか――」
 ずいぶん寝てないもんな。
「準備しなきゃな」
「いいえ。今回はマダムにお願いしようと思います」
「そっか」
 家のアパートより麗華の高層マンションの最上階の方がセキュリティーはしっかりしている。今回は二十日間か一月か。
「なるべく会いに行くから」
「だから甘えたくなったのです」


Hasiridokoro3
 今日の写真は「ハシリドコロ」(2007.05.04群馬県で撮影)
 今の季節、よく見かける植物です。咲いたばかりのものは花の色も薄くて、小さな花束のようですね。下の写真の成長した姿は同じ植物ではないみたいに見えませんか。
 走野老と書きます。根がヤマノイモ科のオニドコロに似ていますが、全体にアルカロイド系の猛毒を含んでいて、間違って食べると幻覚症状を起こし、苦しんで走り回ることからハシリドコロと言うそうです。
 生えたての葉は柔らかそうで美味しそうに見えてしまうので、間違えて食べてしまう人がいるのです。山菜取りを楽しみたい人は、命を守れる知識と最低限のマナーを持っていただけたらと思います。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007/05/10

昼下がりの秘事

Kakkosou1
「マダムは、和哉さんがお気に入りのようです。夕べ、お店に招待していました」
「物好きだな」
「どちらがです」
「両方」
 稲作はアイスキャンディーをかじりながら言った。
 暑い。アイスキャンディーがどんどん溶ける。
 〔月の光〕近くの公園。
 毎年恒例のアミガサタケ生け贄イベントは、無事終わった。
「あなたは、親心を知らないようです」
「親心?」
「いえ、姉、兄、かしら。マダムは可愛いあなた達を仲良くさせたいのです」
「冗談だろ」
 どんなにひいき目に見ても、俺たちは可愛くはない。麗華とジルにしか言えないセリフだ。
「そうなれば、和哉さんはあなたの力になってくれるでしょう」
「俺はヤクザは嫌いだ」
「いい人なのに――」
 空を見上げたジルは、少しよろめいた。
「どした?」
「日差しが眩しくて」
「ここんとこ急に暑くなったからな。木陰で休もう」
 真夏ではないから木陰は涼しい。
 ジルが吸血鬼だということをつい忘れてしまう。映画のような吸血鬼だったら、俺はとっくに彼を灰にしているだろう。
「飲むか?」
「少しいただいても良いですか」
 ジルは差し出した左手首にそっと噛み付く。
 久しぶりだった。彼の普段の食餌は、麗華が手配した医療用の血液。それを麗華の所で済ませてくる。
 昼日中、公園の木陰で座る俺たちがしていることに、気付く者はいないだろう。


Kakkosou2
 今日の写真は「カッコソウ」(2007.05.06群馬県で撮影)
 関東地方北部の狭い地域でしか見ることが出来ないサクラソウの仲間です。写真は自生ではなく復元地で繁殖させたものだと思います。暗かったので写りが良くありませんが、花が大きく美しいため、盗掘される心配があります。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007/05/02

お袋の味

Oomisumisou0
「お帰りなさい。用意は出来ていますよ」
 1時間ほどして、麗華と和哉が戻ってきた。二人はさっきの席に向かい合って座った。
「今日は国籍にこだわらず素材の味を生かした料理を作ってみました。最初はタケノコのお刺身をお召し上がり下さい」
 茹でたタケノコの上の部分を薄切りにし、裏庭で摘んだ木の芽をはさんだ。ワサビ醤油で食べていただく。
「美味しいわ!新鮮なタケノコでなければこんな風に食べられないわね」
 和哉は黙って食べている。
 スープはアミガサタケの香りを生かしたクリームスープ。メインは上州牛のステーキとアミガサタケのソテー。
「と、俺が作った、さっきのタケノコの残りとアミガサタケを入れて煮た筑前煮だ」
 と、稲作。
「あら、美味しい。どう?和哉さん」
 切り方は雑だが、色合いは美味しそう。
「美味い」
「だろ?俺ん家のお袋の味だ。どう作ってもこの味になっちまうんだよなぁ」


 今日の写真は「オオミスミソウ」(2007.04.29新潟県で撮影)
 佐渡島に行って来ました。色とりどりのオオミスミソウ、カタクリ、アマナ、キクザキイチゲ、シラネアオイ、ニリンソウのお花畑の山道を歩いているようでした。
 佐渡で出会ったお花たちをまとめて紹介しています。よかったら、ご覧下さい。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »