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2007/04/28

散歩

Higosumire2
「和哉さん、お料理が出来るまでお散歩でもしません?」
「それはいい。いっていらっしゃい」

 〔月の光〕の連中に送り出されて、麗華と二人で歩いている。
「あなた、あのお店が好きなのね」
「――」
「どんなお客でも同じに接してくれるでしょう?あなたでも、私でも」
 あの、得体の知れない外国人でもだ。あの店に出入りする連中は、どうしてああも無防備でいられるのだろう。
「あのマスターは俺が智紘の友達だったと勘違いしている。友達の友達は友達だと思っているらしい」
「今は立派な常連客でしょ」
 無性にあの店のコーヒーが飲みたくなることがある。
「あの歳まで良く無事で生きてこられたものだ」
「私たちとは住む世界が違うのよ。だから、あそこに行くと気持ちが休まるのよねぇ」
「フン」
「うふっ、あなた、お父様にそっくりね」
「知っているのか?」
「昔、お世話になったの」
「!?」
「心配しないで、あなたが思うような関係じゃないわ。可愛いのね、坊や」
「!!」
「やっぱり広木は見る目があるんだわ」

*僕らの関係は‘登場人物紹介’、稲作とジルの出会いは‘間違われた男’、僕らとジル の出会いは‘誘蛾灯’、ブログでのお話は‘日々のエピソード’をご覧下さい。左フレームの‘〔月の光〕リンク’からも行けます。


 今日の写真は「ヒゴスミレ」(2007.04.21長野県で撮影)
 葉の切れ込みが深く細いスミレです。
 たくさん咲いていたからでしょうか、普通は鼻を近付けないと香りを楽しめないのですが、写真を撮しているだけで芳香が漂ってきました。

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2007/04/24

今年の生け贄

Hinasumire4
「いらっしゃいませ、和哉さん」
「ブルーマウンテンと今日のお勧めのケーキを――用事を思い出した、出直す」
 石坂和哉はきびすを返した。彼がいつも座る席の向かい側に異様な物体(?)が座っていたからだ。
 喫茶店〔月の光〕。
「酷いわ、あなたをお待ちしていたのに」
 異様な物体――に見える麗華が声を掛ける。ここが秋葉原だったらそんなに目立たないだろう、フリフリのドレスを着ている。
「こんにちは、絹さん。お千代さんからお預かりしてきました。アサボリタケノコ?」
 入って来たジルが、和哉の退路を断った形になった。
「ちっ」と、舌打ちする和哉。
「それはステキだ!どうやって食べよう」
 空気が読めない絹さんが感嘆の声をあげた。
「いらっしゃいませ、和哉さん、マダム」
 全てを知って微笑みかけるジル。
 厨房でアミガサタケの下処理をしていた稲作は、小さくガッツポーズをした。一昨年は絹さん、去年は常連客のS君、今年の生け贄は和哉に決まった。
「和哉、いいところに来たな。今日のあんたはスペシャル・ゲストだぜ」

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 今日の写真は「ヒナスミレ」(2007.04.21長野県で撮影)
 優しい雰囲気のヒナスミレです。

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2007/04/20

キノコ犬

Hotarukazura3
「もう、桜は散ってしまいましたね」
「そうだな」
 散歩をしてくると言ったら、ジルも付いてきた。いつものことだ。
「稲作、なぜ植え込みの中ばかり見ていますか」
 桜の木の下を探りながら歩いていた。
「ちょっとな――」
 四つんばいになってコンビニのレジ袋を開いていると、
「フンですか?」
「お前なぁ」
「だって、あなたフンをする時のチョビにそっくりです。足踏みしているところも。自分で後始末が出来てえらいですね」
 真顔で冗談を言うジル。チョビは毎朝散歩をさせているグレート・デーン。
「お前の前で、そんな事したことあるかよ」
「時々トイレのドアを開けっ放しにしています」
「悪かった、気を付ける」
 見付けたアミガサタケをジルの目の前の差し出す。
「モリーユ。こんな所にあるのですか」
 稲作は、何ヶ所かこういう場所を知っている。先客が採った跡を見たことがないから、誰も知らないのだろう。
「今日辺り、来そうな気がするんだ」
「マダム?」
「ああ。あの人の嗅覚は、キノコ犬どころか妖怪並みだからな」

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 今日の写真は「ホタルカズラ」(2007.04.15千葉県で撮影)
 有るところにはあるものですね。こんな群生を見たことがありません。

Amigasatake1
 今日2枚目の写真は「アミガサタケ」(2005.05.04群馬県で撮影)
 今年はまだ良い状態の物に出会っていないので、一昨年の写真です。最近は食べられることを知っている人も多いですね。あとは見分ける力と勇気の問題でしょうか。

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2007/04/19

擬態

Oobaumanosuzukusa1
 大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店〔月の光〕。
 マスター、絹さんの趣味は、自然観察。休み時間、裏の河川敷でバードウオッチングをすることと、休日にはどこかに出掛けて山野草の写真を撮ってくることを生き甲斐にしている。他の客がいない時に、その自慢の写真を見せてくれる。
「この花、初めて見たの。図鑑に楽器のサックスに似ていると書いてあったんだけど、本当に面白い形をしてると思わない?」
「はい」
 今日の犠牲者はジル。彼はカウンター席から、こっちの席にに来たそうな視線を向けた。
 稲作は、‘ちょっとの間付き合ってやれ’と、ジルに伝える。目と目を見交わすだけで会話が出来るのは、こういう時も役に立つ。
「……これは食虫植物でしょうか」
 鈍感な絹さんは、ジルの心の無い相づちに気付かない。
「ちょっと似ているけど、これはオオバウマノスズクサの花だよ。カンアオイに近い仲間なんだ」
「――」
「見てみて、この蝶の食草なんだよ、だからこの花があるところには、このジャコウアゲハが飛んでるんだ」
「……」
「ウマノスズクサには毒があるから、それを食べるジャコウアゲハにも毒がある。だから鳥に襲われないんだ。……そうだ、ずいぶん前に撮った写真があるんだ……これこれ、見て、そっくりでしょう?」
「擬態ですか」
 助けてくれと言う視線を送っていたジルの顔が、一瞬、面白そうに見えた。
「そうそう、アゲハモドキっていう蛾なの。毒がある蝶の真似をして、食べられないようにしてるんだ。……一緒に混ざっていたら気が付かないかも知れないね」
「そうですね、気が付かないかも知れませんね。――あなたには」
 こちらを見て笑ったジルの赤いくちびるの端からのぞいた、鋭い犬歯が光った。

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 左フレームの‘〔月の光〕リンク’からも行けます。


 今日の写真は「オオバウマノスズクサ」(2007.04.15千葉県で撮影)
 関東以西の山地の林内に生えます。なぜか、関東以西というと、群馬県では見られないことが多いのです。寒いのでしょうかねぇ。

Zyakouageha2
 今日2枚目の写真は「ジャコウアゲハ」(2007.04.15千葉県で撮影)
 写真のものは羽化に失敗したらしく、写っていない方の羽根が伸びきっていませんでした。可哀想ですが、飛べないかも知れません。
 お話の方で、私の分身、絹が蘊蓄を述べていましたが、HPに写真がありますので紹介しておきます。ジャコウアゲハのメスアゲハモドキです。良かったらご覧になってみて下さい。

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2007/04/17

幻日

Imgp45461
「こっちは咲くのが少し遅いんだ」
 1本の桜の木の下にやって来た。
「これが八重桜」
 ジルは、枝をつまんで丸く咲いた桜の花を見ながら言った。
 花見の時、お千代ちゃんにもらった桜の塩漬けを毎日大事そうに飲んでいるから、咲いているところを見せてやろうと思ったのだ。何で、桜が好きなんだろうなぁ。
「散り際が、潔いからです。……私と違って」
 考えを読まれたことより、‘私と違って’という言葉にドキリとした。
「あら」
 空を見上げたジルは声をあげた。
「うわっ!?」
 太陽が3つある!!
 思わず手を合わせる。
「どうしました」
「こういう時は拝んどくに限る」
「ただの気象現象です。……あの小さい方の太陽は私」
 実際には存在しないとでも言うのか。


 今日の写真は「幻日(げんじつ)」(2007.04.15千葉県で撮影)
 太陽の右側に小さなもう一つの太陽が見えます。左にも同じものがあり、太陽を中心に円形に光っていました。初めて見る不思議な現象です。
 いつも植物観察で下ばかり見ているものですから、教えていただかなければ見られませんでした。
 幻日は太陽と同じ高度の太陽から離れた位置に光が見える大気光学現象のことです。詳しくはフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』で検索してみて下さい。

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2007/04/12

花見

Hikagesumire3
「どうだ絹さん、俺が作るのより美味いだろ?」
「うん」
「本当かい?絹さん」
 と、お梅ちゃん。
「ええ。稲さんには悪いけど、やっぱり年期の違いかな」
 絹さんは、蕗味噌を塗った握り飯を食べながら言った。こういう微妙な違いは彼にしか理解出来ないだろう。
「だと思ったから、お梅ちゃんに作ってもらいたかったんだ」
 ビニールシートの上には、みんなが持ち寄ったご馳走が所狭しと並べられている。
 料理が得意なお梅ちゃんの太巻き寿司、いなり寿司と卵焼き。その他に、昨日頼んで作ってもらった、フキノトウの天ぷら、蕗味噌を塗った握り飯、ヤブカンゾウの若葉のぬた、よもぎ団子。洋食系はいつもの通り、絹さん作のハムと卵とポテトサラダのサンドイッチと鶏の唐揚げ、ウインナー。他は各種の飲み物と、こういう席には絶対に欠かせない焼きまんじゅう。
「私はこの太巻き寿司が好きです」
 味が判らないジルは、見た目で楽しむ。
「美味しい美味しい」
 同じく味が判らない妙は、雰囲気で味わう。
「豪勢なお弁当ですねぇ、こんな賑やかな花見は初めてッス」
 半次は普通に喜んでいる。
「みんなの手作りは最高だろう?」
 沼田のじいさんも楽しそうだ。
 俺は、一通り食べてごろりと横になる。毎年の風景だ。
「食べてすぐ寝ると牛になるよ」
 と、お千代ちゃん。
「牛」
 すかさず反応したのはジル。
「――稲作は食べるといつもすぐ横になっていますが牛になったところを見たことがありません」
「面白いねぇ、ジルちゃんは。はい、これをお飲み、紙コップじゃ風情に欠けるけどね」
「?」
 飲み物を渡されたジルの瞳が輝いた。
 紙コップの中で、八重桜の花が開いている。桜湯。


 今日の写真は「ヒカゲスミレ」(2007.04.08群馬県で撮影)
 珍しく花の形が良いモデルに出会いました。良く見ると、側弁の毛(花の中の毛)も、茎の毛も多いですね。とっても毛深いヒカゲスミレです。

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2007/04/09

夜桜

Genngisumire4
「お帰りなさい」
 レジ袋一杯の収穫を手に事務所に戻ると、いないと思っていたジルに出迎えられた。
「あれ?今日は東京じゃなかったっけ?」
「今日はお休みしました」
「具合が悪いのか?」
 それとも眠くなったのか?
「嬉しい」
「あ?」
「あなたが心配してくれるのが」
「気を付けろよ、お前がどっか悪いって言ったって、俺にはどうする事も出来ねぇんだからな」
「きっとあなたなら最善の努力をしてくれるでしょう」
「してどうにかなるもんならするけどな」
「だから好き」
「ばか」
 まるで恋人同士のじゃれ合いみたいだ。摘んできた野草を洗いながら思う。
「お前も来るか?明日が楽しみだろ」
 洗った野草をお梅ちゃんの家に持っていく。明日の花見の料理に使ってくれるというのだ。


 帰り道。外はすっかり暗くなっている。
「ちょっと遠回りをしていこう」
 公園は酔い始めた花見客で一杯だ。
「こんなに暗いと桜が見えないでしょうに」
「どうでも良いんだよ。奴らにとっちゃぁ、飲む口実なんだから」
 
「この桜が一番美しい」
 立ち止まって見上げるジル。公園を通り抜けて、うす暗い道を歩いていると、1本の大きな桜があった。満開。
 ブランコや滑り台がある、ここも小さな児童公園だ。街灯も提灯もないから、木の下で花見をしている者はいない。
「二人だけでお花見ですね」
 と、言いながら桜の幹に手を当てると、金色の髪が輝き、全身が青白く光る。
「わっ!何だ何だ」
「花の気が伝わってきました」
「脅かすなよ」
「踊っていただけますか」
 手を差し出すとジルは優雅に踊り始めた。
 この美しい存在を守るためだったら、俺はどんな事でもするだろう。


Gennzisumire5
 今日の写真は「ゲンジスミレ」(2007.04.08群馬県で撮影)
 葉の裏が紫→紫式部→源氏物語の連想だそうです。小柄な割に芳香が強く、甘くないよい香りです。
 2枚目の写真は、走る自動車の助手席から見付けたゲンジスミレです。葉の裏側の色がわかりますか?
 林道を走っていて、花を見付けては止まって観察するのがこの季節の楽しみです。

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2007/04/03

秘密の花園

Hamadaikonn2
「絹さん、これ食った事あるか?」
 ビニール袋一杯に野草が入っている。
 この季節、稲作は色々な野山の幸を持って来てくれるのだ。
「これさぁ、この前食ったステーキに2,3本乗ってたヤツと同じだと思うんだけど」
「どれどれ、……ずいぶん立派なクレソンだね。同じものだと思うよ、よく付け合わせに使われるから」
 袋の中身は新鮮で美味しそうなクレソン。
「うちじゃ、水菜とか水ガラシとか言ってたぜ。食うんなら置いてく。水の綺麗なところに生えてたヤツだから大丈夫だぜ」
「ありがとう、後でサラダにして食べよう。君って、本当に色々な場所を知ってるね」
「食えるもんだけだけどな。そこは、もうちょっと経つと、花が咲いて一面真っ白になるんだ。誰も採るヤツはいないし」
「へーぇ、秘密の花園みたいだね。君だけの」
「その頃になったら連れてってやるよ」

 オチがなくてすみません。
 昔、あまり綺麗な川ではなかったので食べはしませんでしたが、そんな群生を見た事があります。川岸からは全く見えなかったのに、河原に降りて見ると一面の花畑になっていました。その後、河岸工事で無くなってしまいましたが、あの場所以外であんな光景を見ていません。


 今日の写真は「ハマダイコン」(2007.04.01神奈川県で撮影)
 土日で三浦半島方面へ行ってきました。巨大な三浦大根も買ってきました。
 海無し県に住んでいる私たちは、海辺のハマダイコンの群生している様子を見ると、嬉しくなってしまいます。

Umisoumenn1
 今日2枚目の写真は「ウミソーメン」(2007.04.01神奈川県で撮影)
 植物だけでなく、磯を見ているだけでも飽きません。
 至る所にウミソーメンがありました。間違ってこぼしたカップ麺みたいです。現在、名付けるのなら「ソーメン」ではなく「ラーメン」ですね。
 生みの親の「アメフラシ」は、見付ける事が出来ませんでした。

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