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2007/02/23

居心地の良い場所

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「おはよう、ジルちゃん。今日も良いお天気よ」
 麗華が、寝室のカーテンを開けながら言った。朝の日差しが眩しい。
「おはようございます、マダム」
 ベッドから起き出し、ドレッサーの前に座ると、上等なシルクで作られた純白のパジャマを着た姿が鏡に映る。……稲作の家ではグレーのジャージの上下。夜も寝ている振りなどしない。
 すっかり身支度を整えている麗華は、ジルの金色の髪を梳き始める。この部屋に泊まった翌朝のいつもの風景。
「柔らかな髪ねぇ、ペルシャ猫みたい」
 髪を梳かしながら言う言葉も同じ。彼女は、亡くなった弟のことを思い出しているのだ。
 これまで、いつの時代に暮らしていても、傍にいる人が好むように振る舞ってきた。彼女の好みは病弱で手の掛かる弟。彼に出来なかった事を、ジルにすることで少しでも彼女の心が癒されるのなら、それでいい。……稲作はジルに智紘を求めない。彼にだったら、わがままも言える。
「ジルちゃん、広木のこと考えているでしょう?」
「どうして」 
「わかるのよ、嬉しそうだから。……朝ごはんの用意が出来ているけれど食べられる?」
「いただきます」

 朝食を終えると、TVのワイドショーをかけながら、何紙もとっている新聞を隅々まで目を通す事が麗華の日課。そうすることで、どんな客のどんな話題にも対応することが出来る。
「マダム、コーヒーのお代わりはいかが?」
「ありがとう。ねえ、ジルちゃん、これってあなたの家の近くじゃない?」
 麗華が指し示した新聞記事を見たジルは言った。
「マダム、私はすぐに帰らなければなりません」

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 そこは田んぼに囲まれた住宅地で、林がほとんどありません。
 唯一こんもりと木が生えているその公園は、近所の人たちの憩いの場になっています。すぐそばに道路が通り、日中の林の下は、犬を連れた散歩の人や保育園児が遊ぶ賑やかな環境ですが、オオタカのペアが棲んでいます。散歩に訪れる人は皆彼らの存在を知っていて、鳴き声がする度に見上げたり、追い掛けたりしていますが、あまり神経質になっていない様子。新築し始めた巣には、クリーニング店のハンガーも使われています。カラスの巣から拝借したのでしょうか。
 人がうるさくても平気で、ハンガーも巣材に利用し、エサはドバト。こんな環境にしか棲む場所がなくなってしまったのか、こんな環境にも適応出来るから繁殖個体数を増やすことが出来たのか。(オオタカは2006年12月公表の環境省鳥類レッドリストで絶滅危惧II類(VU)から準絶滅危惧種(NT)にランクが下がりました。)これからも、新しいライフスタイルのオオタカ夫妻の様子を見守っていきたと思っています。
 他に見られた鳥は、ビンズイ、コゲラ、アオゲラ、ゴジュウカラ、シジュウカラ、ヤマガラ、カワラヒワ、ジョウビタキ、ヒヨドリ、モズ、トビ、ハシブトガラス。

 今日の写真は「ルリミノキ」(2006.12.30鹿児島県で撮影)
 昨日のメジロホオズキをmixiのお友だちのコメントでルビーみたいだと言っていただいたので、今日は「瑠璃実の木」です。

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2007/02/19

トリュフ

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「おじちゃん、これ」
 いつものように美羽の後を付けていた。
 急に振り返った彼女に手渡されたものはバレンタインチョコレート。
「手作りだよ、ママと作ったの。初めての手作りチョコをあげる男の人がおじちゃんっていうのも寂しいもんがあるけどね」
 美羽は楽しそうに笑いながら言った。
「悪かったな。情けねぇなぁ、渡したいやついねぇのか?本命は?」
「うふふ」
 手提げの中にまだ入っているように見える。
「気持ちは、ちゃんと伝えた方がいいぜ。後んなって後悔しねぇようにな」
「おじちゃん、後悔したことあるの?」
「しょっちゅうだ」
「渡してみようかな」
 本命は、これから彼女が向かう塾にいるようだ。
「ああ、頑張れよ。玉砕したら、ナンバー2の俺の胸で泣いていい」
「ばかね、そんなに重い話じゃないの。ちょっと好きかなってカンジ?」
「そうか」
 まだ子供だもんな。
「じゃーね」
 美羽は手を振ると、明るい塾の入り口に吸い込まれていった。
 ……最後のバレンタインかも知れないのだ。


「広木、なんだか嬉しそうだね」
 アパートの鍵を開けていると、後ろから声を掛けられた。昌子だ。
「こんな暗くて、後ろ姿でわかるのか?」
「歩き方でね、いつもより肩の揺れが大きい。あんたは分かり易い男だから」
 勉強を終えて塾から出てきた美羽は、Vサインを出して見せたのだ。
「悪かったな。入れよ」

「いつもの酒だ」
 昌子は日本酒の1升瓶を下げてきた。
「サンキュ。飲むか?――つまみは、魚肉ソーセージとマグロのフレークしかねぇな」
 一応冷蔵庫を開けてみてみる。
「まだそんなもん食べてるのかい。あたしはそれでいいよ」
 チョコレートに目がない昌子は、稲作がさっきまで持っていた美羽のチョコレートを見た。
「これは子供の手作りだから、そっちのを食え」
 ソファの上に、昨日ジルが新宿から預かってきたチョコレートが山積みになっている。
「いいのかい?あんた、けっこうもてるんだ」
「好きなだけ持ってっていいぜ」
 目を輝かせて品定めしている昌子はいつもと違って、甘い物好きな女の子になっている。
「なんだい?」
「何でもねえ」

「あんたさ、あんまりみんなに心配かけるんじゃないよ」
 昌子はチョコレートをつまみに酒を飲みながら言った。この間の事故のことを言っているのだろう。軽い脳震盪を起こしただけで翌朝には退院出来たのだからどうということはない。
「聞いたのか?」
 稲作は美羽のチョコレートを開けてみながら言った。手作りらしい不格好なトリュフだ。
「無茶をする歳でもないだろう。――それ、もらっていいかい?」
 昌子は1つ、口に入れる。
「美味いね。子供にしては上出来だ」 
 いいじゃねえか。それを食えたんだから。

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 今日の写真は「メジロホオズキ」(2006.12.30鹿児島県で撮影)
 群馬では見たことがありませんが、本州南部以南に分布とあるので珍しくないのかも知れませんね。初めて見たので載せてみました。

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2007/02/14

フォンダンショコラ

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「ちわ~す」
 2月14日。
 ここ何年か、喫茶店〔月の光〕は異様な匂いが立ち込めている。
「いらっしゃいませ、稲さん」
「また台所占領されてんのか」
「年に1回のことだから」
「なんだか焦げ臭いぜ」
「今年は、フォンダンショコラだって」
「なんだ?それ」
「熱々の焼きたてにフォークを入れるとね、とろーっと中からチョコが流れ出てくるお菓子」
 よだれを垂らしそうに説明をする絹さん。本当に好きなんだろう。
「出来るのか?妙に」
「……」
 聞くだけ野暮か。すでに変な匂いがしてるし。
 いつもの席で、半次が嬉しそうな笑顔を向けた。生け贄が自分一人では心細かったのだろう。生け贄2号の俺。

 少し間をおいて、のっそりと和哉が入って来た。生け贄3号、子分二人も入れて4号5号だ。
「いらっしゃいませ」
「ブルーマウンテンと今日のお勧めのケーキを」
「申し訳ありませんが今日はケーキが――」
「出来た!!」
 と、厨房から妙ちゃんの声。
 いつもクールな和哉は、しまった、という顔をした。

「さあ、召し上がれ」
 男たちの前には消し炭のような色をした煙を上げる物体が並べられた。

去年のバレンタインデーはこちらをご覧下さい。

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 こんな寒い季節なのにサーファーで賑わう千葉県の海岸に行って来ました。
 目的は海鳥。内陸に住んでいる私たちは海を見るだけでも心躍ります。海岸に出てすぐ、大きな魚が砂浜に打ち上げられているのを見ました。尻尾の形と色から、大きなサメ!と思いましたが近付いてみるとハクジラだということがわかりました。体長150センチほど、口ががイルカのようにとがっていません。後で調べて、スナメリだとわかりました。
 どうして砂浜に上がってしまったのでしょう。

 海鳥は、すぐ近くでアビの群れを見ることが出来ました。一度見てみたかった鳥です。他に、カンムリカイツブリ、アカエリカイツブリ、ウミスズメ、クロガモが見られました。
 アビたちの間の水面に時々スナメリの背中か脇腹が見えました。すぐ傍にサーファーたち。彼らは、サーファーを害のない海の仲間とでも思っているように、気にしていない様子でした。

 今日の写真は「ウメ」(2007.02.12千葉県で撮影)
 やっと咲き始めたウメです。

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 今日2枚目の写真は「スナメリ」(2007.02.11千葉県で撮影)
 死骸ですが、まだ綺麗な状態だったので。

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2007/02/10

知らない方がいいことも

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「これで許してあげます」
「何を?」
「これを一緒に食べようと思っていたのに、あなたは行ってしまうから、日付が変わってしまいました」
「あ?」
 ジルは持っていたカバンの中から小さな袋を幾つも取りだして机に並べた。
「これで1300粒あるでしょうか」
 10袋の福豆。(筆者の怠慢で日にちが経ってしまったけれど)この日は2月3日、日付が変わって2月4日だ。
「あなたに豆をぶつけたかったのに……」
 楽しみにしていたのか。
「ほんとに歳の数だけ食べるつもりだったのか?」
「はい。私だって、みんながしていることをしてみたい」
 豆を歳の数だけ食べるのは、歳に応じた福を身体に入れるためだと聞いたことがある。1300の福か。
「お前、ここ何年も1300歳だと言い続けてるけど、本当の歳わかってるんだろうな」
「1311歳」
「じゃ、数え年で1312粒食わないとな。腹壊すぞ」
「大丈夫です」
 そういえば、ジルがトイレに入るところを見たことがない。
「知らない方がいいこともあります」
 薄暗がりの中、ジルの青い目が光った。
「わかった。聞かないことにする」
「今日は素直ですね。怪我をしたというのに機嫌もいい。――今夜はゆっくりお休みなさい。明日のことは明日考えればいい」

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 今日の写真は「ヤンマタケ」(2007.02.10群馬県で撮影)
 今日は初めてで会う珍しいキノコの仲間を見付けたので載せてみました。
 葉が落ちたツツジの枝に白いトゲトゲが目立つ何か下がっているのが見え、近付いてみると羽根が落ちたトンボの冬虫夏草でした。
 胞子に取り付かれたトンボはどんな最期を迎えるのでしょうか。
 飛び辛くなって、小枝で休んでいる間に身体を菌糸に占領されてしまうのでしょうね。
 苦手な人にはごめんなさいの写真でした。

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2007/02/09

あなたの運命

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「なぜだ?」
 今度は電話から戻った絹さんが訊く。
「勢い余って店の壁にぶつかったせいだと思う」
「頭を打ったのか?」
「たんこぶ出来てる。弛んだ頭のネジが元に戻ったかもな」
 左側頭部に大きなたんこぶ出来てるし、顔は擦り傷だらけだ。体中痛いし。
「どうして、そんな無茶をする。一歩間違えれば大惨事だった」
「いいじゃねぇか、みんな無事だったんだから」
「よくない……」
「俺が行かなきゃ美羽は轢かれてた」
「……いつも上手く行くとは限らない」
「わかったから」
「絹さん、稲作は大丈夫なようですから、帰って休んで下さい。今夜は私が付き添います」
「そうさせてもらうよ。……稲さん、ネジだって回し過ぎればネジ山が壊れたり本体にヒビが入ったりするんだよ」
 と、言うと、絹さんは帰って行った。

「何だ?ありゃ。ジル、絹さんに帰るように暗示掛けたのか?」
「はい。あまり心配を掛けてはいけません、彼も若くはないなですから。言ってもいいでしょうか」
「?」
「彼が言いかけて止めた言葉」
「俺が聞いたことで、あの人が傷付くことなら聞かせるな」
「‘自己犠牲もいい加減にしろ、まだ死にたいのか’ですって」
「――まいったな。絶対に死なねぇことがわかってたから、とれた行動なのに」
 青いペンダントは見えていない。
「わかっています」
「それにしてもよぅ、あの時トラックにぶつかってて身体がバラバラになっても死なねぇのかなぁ」
「そうはならない事があなたの運命。失礼」
 ジルは血が滲んだ稲作の頬をぺろりと舐めた。

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 今日の写真は「カゴメラン」(2007.01.01鹿児島県で撮影)
 ご当地本で見てどこかで見られないかしらと思っていてら会えました。葉の籠目模様が美しいですね。花を見ることは出来ませんでしたが、花もなかなか美しいようです。いつか見てみたいですね。

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2007/02/05

奇跡的に

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「どうかしたんですかい?絹さん」
「行かなきゃ。稲さんが事故に遭った」
「事故って?怪我したの?」
「交通事故。怪我の程度はわからないけど総合病院の救急に運ばれた」
 ガスの火の確認と、電気と、戸締まりと……。
「絹さん落ち着いて。あっしが運転していきますから」
「大丈夫。慣れてるから」
 今まで何度こうして戸締まりをしただろう。
「そうは見えませんが」
「手震えてるよ」


 見慣れない薄暗い天井。
 横を向くと、椅子に絹さんとジルが座っている。
「美羽は?」
「無事だ。――君は?大丈夫?」
「ああ、この通りだ」
「電話かけてくる。店で妙ちゃんと半次君が心配している」

「なに怒ってるんだろ」
 出ていく絹さんの後ろ姿を見送りながら言う。
「わからないのですか。あなたはみんなに心配をかけたのです」
「お前、店に行かなかったのか」
「絹さんのメールで戻ってきました。今何時だと思いますか。2時です、真夜中の」
「美羽に怪我は?」
「奇跡的に無傷です。トラックに跳ねられたというのに」
 !?
「ちょっと待て。トラックになんかぶつかってねえぞ。だからこうして無事なんじゃねえか」
「なぜあなたは気絶――」
  美羽を抱きかかえてトラックの前を走り抜けてすぐ横断歩道の前の商店の壁が目の前に迫った。
 俺の記憶を見たジルは理解したようだ。

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 今年に入ってホームページ‘みけのみちくさ’の模様替えに取り組んでいます。
 ニフティさんが容量を増やしてくれたので、アイウエオ順の図鑑形式にして良いモデルに会ったら写真を入れ替えようかなって。思ったよりかなり大変で、まだ三分の一か四分の一?位しか出来ていません。シーズン前の予習になりそうです。
 毎日少しずつ更新していますので、よかったらのぞいてみて下さい。

 今日の写真は「ヘツカリンドウ」(2006.12.31鹿児島県で撮影)
 辺塚竜胆と書きます。この季節に思いがけない出会いでした。本当はもっと茎が伸びて大きくなります。群馬でも見ることが出来るアケボノソウに似ていますね。辺塚は地名です。

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2007/02/02

悩みと食欲

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 目の前を大型トラックが走り抜ける。
 川嶋敏夫は、言葉にならない叫び声をあげながら娘の姿を探した。
 どこだ!!
「しっかりしなさい!」
 後ろから誰かに肩を掴まれ振り向かされる。
「パパ」
 美羽が立っていた。
「大丈夫?」
「うん」
 しゃがんで美羽の無事を確かめる。
「どこも痛くしなかった?」
 娘をそっと抱き締めた後、周りが見え、音が聞こえだした。


「何かあったんですかい?妙ちゃん、あっしでよけりゃ相談に乗りやすが」
「相談したいことなんてないもん。それに、あったって半ちゃんじゃなぁ」
「ひでえ言われようですねぇ。絹さん」
 食後のコーヒーをテーブルに並べていると急に話を振られてしまった。微笑み返すしかない。半次は、妙ちゃんの微妙な変化に気付くほど繊細な心の持ち主だが、彼女が言う通り、悩みを相談する相手としては頼りない(僕も人のことは言えないけれど)。
 今夜は彼ら二人しかいない相変わらず暇な喫茶店〔月の光〕。
「何か物足りないなぁ。ケーキも食べちゃおうかな。絹さん、今日は何がある?」
 心配する必要がないほど、食欲旺盛な妙ちゃん。
「いちごのショートケーキとザッハトルテしかないけど」
「じゃ、両方」
「ありがとうございます」
 いつものことなので半次は茶々も入れない。
 電話が鳴った。
「はい、喫茶店〔月の光〕です。――何ですって!?」

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 昨日から黒毛和牛逃げて2時間の捕り物の末、捕まったというニュースが流れていますね。自然が豊というか田舎というか、なぜか、私が住む前橋市は動物絡みでニュースになることが多いです。ついこの間はイノシシが街を走り、もっと前は国立大学にカモシカが現れた、何ていうのもありましたっけ。 

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 今日の写真は「ヘゴ」(2007.01.01鹿児島県で撮影)
 昨日ヒカゲヘゴだったので今日はヘゴです。着生植物を栽培する園芸用品のヘゴ材は知っていましたが、これが本来の姿なのですね。
 野生状態で、この皮に着生して鮮やかな花を咲かせているランを見てみたいですね。

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