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2006/02/28

リストカットの理由

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「夢魔、何があった?」
「別に」
「何もなくて手首を切るのか?」
「じゃ、あんたは?」
「お前のことを知りたい」
「わかんない」
「って?知らないうちに傷が付いてたのか?」
 だとすると、多重人格、解離性同一性障害の疑いがある。
「そんなわけないじゃない」
「そうか」
 愛が足りない?
 俺じゃ、力になれないか。
「何かさぁ、生きてるって感じ、するんだよね、血が流れると。……痛た気持ちいいっていうか」
 気持ちいいのか?俺には理解不能だ。
 自傷行為は、子供時代の親との関係に問題がある場合が多いという。子供時代のことを大人になってまで引きずることが理解出来ないのは、他人がどう思おうと、俺は幸せな子供時代を送っていたのだ。
「もっと気持ちが良いこと、あると思うぜ」
「教えてくれるの?」
 大人の会話に発展しそうで、顔が熱くなる。
「仕事とか、趣味とか――」
「ウザイ。赤くなってるし。……それより、あんたのこと教えてよ、男のくせにどうして?」
「俺は克服した。こんな事してもしようがねぇって事が判ったから」
 俺の傷は生かすため。ジルに飲ませた時に付けた物だ。
 本当のことなんて、言えない。
【登場人物紹介】はこちらへ。


 今日は、敷島公園に行ってみました。
 ウメはやっと咲き出したところ。1本の木に数輪といったところです。サンシュユ、オウバイ、ハナニラも咲き出しました。

 今日の写真は「クモマスミレ」(2005.08.06富山県で撮影)
 雲間菫と書きます。キバナノコマノツメと花はよく似ていますが、葉の質が違うのがわかります。固そうで、色も濃いですね。日本のスミレの中で最も高所に自生するスミレです。
 ずっとスミレのお話をしてきました。
 去年までの復習は、一番遅く咲くクモマスミレで終了しましょう。
 今年の出会いを楽しみに、春を迎えましょう。

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2006/02/27

リストカッター

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「放してよ!関係ないでしょ!」
 彼女が怖がらないように、ドアは開けたままにしておく。若い女にとって(若い女じゃなくてもか)、俺は恐怖の対象になるからだ。
「そうとも言い切れない」
 初めて人に自分の傷を見せびらかした。いつもは腕時計で隠している。
 何か切っ掛けをつかみたかったからだ。
「見せろ」
 効果があったのか、彼女は素直に手を出した。俺を恐れてはいないようだ。
 縛ったハンカチを解くと、絹さんの心配の通り、彼女の手首には古い物から新しい物まで、深くはない傷がいくつもある。リストカッターだ。
「医者に行かなくても大丈夫だな。……こんなことしてると、いつかほんとに死んじまうぞ」
 手当をしながら言う。
 恐かった。どう接すればいいのかわからない。だから同病相憐れむ作戦などという、姑息な手を使うことしか思い浮かばなかったのだ。
 俺には、意味もなく自分の身体を傷つけるやつの気持ちがわからない。わからないから調べたことがあるのだ。智紘の手首に傷を見つけた時に……。
 智紘の傷は自殺未遂だった。あいつは、俺のために死のうとした。自分の身体を傷つけた理由はあったのだ。
 あの時調べた情報が、まだ頭の中に残っている。

 彼女は、手首の白い包帯を見て満足そうに微笑んだ。
 そして、俺の傷跡を触りながら言う。
「見かけに寄らないんだ」
「悪かったな。俺の名前は広木稲作。あんたは?」
「夢に悪魔の魔で、むま。本名じゃない、ハンドル」
「呼び名がわかればいいさ」
【登場人物紹介】はこちらへ。


 今、関東某所にあまり来ることがないオガワコマドリが来ています。襟の部分に赤と青の模様がある綺麗な小鳥です。
 ここ数週間、週末はギャラリーが2~300人集まっているそうです。この人気は、今まで見るだけだったバードウォッチャーが、デジスコで簡単に写真が撮れるようになったことも原因の1つかも知れません。見るだけより、証拠を残すことが出来ますから。おかげで皆さんに「オガワコマドリを見たい人はネットで検索してみて下さい」と言えます。

*デジスコ=フィールドスコープ(望遠鏡)にアダプターでデジカメを付け、写真を写せる道具。

 今日の写真は「キバナノコマノツメ」(2005.08.06富山県で撮影)
 黄花の駒の爪と書きます。唯一、スミレという名が付いていないスミレです。名前の由来は、葉の形からです。馬蹄に似ていますか。この仲間は下の花びらが長いのが特徴。

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2006/02/25

汚れたハンカチ

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「ちわ~す」
「稲さん、どうしよう……」
 夕方。いつものように喫茶店〔月の光〕。
 絹さんがドアのところまで出迎えて、手を握ってきた。
 いよいよカミングアウトする気か?

 店の外で事情を聞いた俺は、腕時計を外してポケットに入れると、カウンター席に行った。初めて見る女性客の隣。
「隣、いいか?」
「他の席に行けば。ガラガラじゃない」
「ここじゃねぇと落ち着かないんでね。ここがいつもの俺の席なんだ」
 と言い訳。
「勝手にすれば」
「そうさせてもらう。……なあ」
「はぁ?」
 若い奴らが言う尻上がりの‘はぁ?’だ。聞きようによっては喧嘩を売っているようでもある。
「気になるんだが、それ」
 俺は、彼女の手首に縛られた白いハンカチを指さした。赤い染みが滲み出ている。
「見なければいいでしょ」
「そうもいかねぇんだ。晩飯が食えなくなる。――見ろ、ここのマスター血に弱いんだ」
 絹さんの方を顎でしゃくる。こっちを見て頼りなさそうに笑っている。本当に倒れそうだ。
「ふん」
 彼女は鼻を鳴らした。
「とりあえず見せろ、そんなもんで縛っておくと傷をとがめるぞ。絹さん、救急箱借りるぜ」
 俺は勝手知ったる奥の小部屋に、彼女を連れて入った。
【登場人物紹介】はこちらへ。
☆お知らせ―明日 喫茶店〔月の光〕はお休みさせていただきます☆


 今日も午後、レンジャクポイントに行ってきました。見に来ている人は何人かいましたが、またしても現れてくれませんでした。

 今日の写真は「ホトケノザ」(2004.03.11群馬県で撮影)
 もう一度、ホトケノザ。春の田の畦は、こんなふうに、ホトケノザの紫色の絨毯が、敷き詰められます。これが、春の到来です。

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2006/02/24

亜麻色の髪の乙女

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 妖精はふわりと姿を消した。ジルの手のひらから飛び立ったのだ。
「邪なことを考えましたね」
「え?」
 ヨコシマなことだなんて。彼女が身にまとった布をはぎ取ったら中身はどうなっているんだろうと思ったけれど――やっぱり邪なことか。
「あなたという人は」
 見えなくなった妖精は、俺の頭に乗っているような感じがする。
「腹減ってるんじゃねぇのか?」
「なぜそう思うのです」
「花の蜜とか吸いそうだぜ。苺ジャム舐めるかな」
「蝶やカブトムシではありません」
「何も食わないのか」

「稲さん、お昼はカレーライスでいいの?」
「ああ、大盛り。カレーだったら食うかな?……ジル、絹さんにも逢わせてやってくれ」
「なあに?まだ彼女いるの?」
「俺の頭の上」
「絹さん、手を」
 ジルは絹さんの手を取り、彼女を招き寄せた。絹さんはジルの冷たい手をどう感じただろう。
「おお!」
「見えますか」
「ようこそ、いらっしゃいました。……まさに亜麻色の髪の乙女だ」
 彼女はまた、ふわりと手のひらから消えた。
 淡い光が店内を一周し、開けていた窓から出ていった。

 さ・よ・う・な・ら

「見えた?」
 と興奮気味の絹さん。
「ああ」
「花を咲かせることが忙しいのです。また、来年も来てくれるでしょう」

 俺たちは、しばらくの間、開いた窓の外を見ていた。
「ハックション!」
 絹さんの今年最初のくしゃみ。
 彼女は、裏の杉の花を咲かせていったらしい。  
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 花粉症の季節ですね。毎年、節分の頃には注意体制に入っていますが、今年はまだ症状が出ません。去年より飛散量がかなり少ないらしいので、すっかり安心しきっています。

 今日の写真は「スギの雄花」(2005.03.06群馬県で撮影)
 この写真は、去年の花がたくさん付いた時のものです。叩くと黄色い煙のように飛ぶのは、目薬屋の陰謀、TVのCGかと思っていたら、本当にもわっと飛ぶんですね。

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2006/02/23

スプリング・エフェメラル

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「何だ?今度は幽霊のぴょん吉か?」
 稲作は言われた通り、ゆっくり歩いてジルの前の席に着いた。
 幽霊――。
 自分で言っておいてビビる俺。
「幽霊でもぴょん吉でもありません。……さあ、こちらへ」
 それは、俺の頭の上からジルが差し出した右手のひらに飛び移ったようだ。
 目を凝らして、ジルの手のひらの上を見詰めてみる。
「やっぱり見えねぇなぁ、俺には。……お前、前に智紘が連れてきたヤツか?」
「覚えていてくれて嬉しいそうです」
 どんな姿をしているんだろう。
 子供や智紘やジルにしか見えない妖精。
「あなたにだって見えるはずです。見ようとしていないだけです」
 もう一度、目を凝らしてみる。
「うふふ。稲作、私の手に触れてみて下さい」
 ジルは左手で俺の手を取ると、自分の右手に下からあてがった。妖精を乗せたジルの手を俺の手で包む格好だ。
 !!
 そこにいたのは、灰色がかった薄茶色の長い髪、白い肌と薄い緑の瞳を持った小さな女の子。淡いピンク色の薄地の布を身にまとっている。
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スプリング・エフェメラルとは、早春季植物。落葉樹林の林床に樹木がまだ十分に葉を広げない早春季に芽を出し開花・結実する植物。カタクリやイチリンソウなどです。


 今日の写真は「フクジュソウ」(2006.02.23群馬県で撮影)
 福寿草と書きます。庭に咲いた最初の春の花です。
 今では、なかなか野生のフクジュソウに会うことが出来ません。それでも、セツブンソウやカタクリと同じく、地域の人たちに保護されている自生地もありますから、近くにあったら訪れてみるのもいいかも知れません。フクジュソウの本来の姿が見られます。

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2006/02/22

春が来た

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「もしかして、妖精?」
 演奏を終えて、自分の左肩をうっとりと見詰めるジルに聞いてみた。
「見えるのですか」
 嬉しそうな顔をして聞き返すジル。
「いや、見えないけれど、見えた人を知っているから」
「智紘ですか」
 僕は肯いた。
 ジルの視線が、再び宙を舞う。
 僕には見えない妖精は頭上をかすめ、さっきまでジルが座っていた席に……。
 姿は見えなくても、彼女が起こした小さな奇蹟を僕は見た。ジルが持ってきた小さな鉢植えで、青い小さな花がいっせいに開くのを。
 智紘が連れてきた時は存在を疑ったのに。あの時、僕はどんなに智紘を傷つけたことだろう。

「ちわ~す。絹さん、めし、めし!……どうした?寝違えたか?」
 呼ばれた僕は、不自然な格好で振り返った。彼女が肩に止まっているらしいのだ。
「いらっしゃいませ」
 ジルの視線が僕の肩から、稲作の方に動き始めた。彼女は僕から離れたらしい。
「うわっ、何だ、何だ?」
「稲作、暴れないで」
 頭の上を手で払いそうになった稲作に、ジルが言う。
「そっと、席の方へ来て下さい」
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 今日は暖かなので、麦畑を散歩してきました。
 ヒバリがたくさんさえずっていて、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ナズナが咲いていました。
 麦の芽はまだ短いですが、暖かくなり始めるとアッという間に背が伸びて、穂を出して、麦秋になってしまうのですよ。もうすぐです。
 
 今日の写真は「ホトケノザ」(2006.02.22群馬県で撮影)
 仏の座と書きます。春の野原でピンク色の絨毯を敷き詰めるホトケノザは、近くで見るとこんな模様をしています。

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2006/02/20

瑠璃色の花

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「こんにちは」
「いらっしゃいませ、ジルちゃん」
 仕事に行かない時のジルは、いつもここに来て稲作の帰りを待っている。
 いつもの席。河川敷が見渡せる席だ。
 今日はテーブルの上に小さな鉢植えを持参している。まだ、花が咲いていない。
「ハイビスカスティーを下さい」
 ハイビスカスティーがここのところの彼のお気に入りだ。
「ありがとうございます。それ、どうしたの?」
「昨日、川の土手で瑠璃色の小花が咲いていたので少し頂いてきました。いけませんでしたか?」
「もうそんな季節なんだねぇ。とってはいけない花もあるけど、それは大丈夫だよ。オオイヌノフグリだから」
「変わった名前ですね」
「そうだね」
 夢を壊しそうだから、名前の由来は言わないでおこう。
「少し窓を開けても良いですか」
「どうぞ」
 ぴょん太やぴょん子やコウモリは来ていないようだけれど。
 
 ハイビスカスティーを用意しながら、何となくジルの方を見る。昔からの癖だ。
 !!
 彼は窓から入って来た‘何か’を目で追って、店内を見回している。
「絹さん、ピアノを弾いても良いですか」
「ひ、弾いてくれるの?どうぞ」
「あなたのための曲です」
 ジルは自分の左肩に向かって囁き、ドビュッシーの亜麻色の髪の乙女を弾き始めた。
 デジャ・ビュじゃない。
 昔、そっくり同じ光景を見たことがあるのだ。
【登場人物紹介】はこちらへ。


 土曜日はJRで東京方面に行きました。目的は、アカハジロ・コスズガモ、カラムクドリです。カラムクドリは見られませんでしたが、前者はバッチリ。
 他には、子供の頃以来、久しぶりに上野動物園に行きました。動物たちの環境が良くなっていることに驚きました。子供の頃は、檻の中を動物たちが行ったり来たりしているだけで、匂いも臭かったのに、ずいぶん綺麗になっているのですね。今頃言うなと言わないで。本当に、久しぶりに上野動物園に行ったのですから。
 最後に秋葉原に。駅前でチラシ配りをしているメイドさんを見ました。

 今日の写真は「オオイヌノフグリ」(2004.03.11群馬県で撮影)
 大犬の陰嚢と書きます。そろそろ暖かい日には、群生して咲くのが見られますね。ユーラシア・アフリカ原産の帰化植物です。名前の由来は皆さんご存じの通り。

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2006/02/17

雨上がり

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 妙をアパートに送り届けた後。
 夜道を歩く二人。
 〔月の光〕にいる間、少々お湿りがあったらしい。街灯に照らされた濡れたアスファルトが、二人の影をいつもより賑やかに映している。
「気にしてしまいましたか。今日のあなたは静でした」
「何を?」
「‘いずれあなたを頂く’と言ったこと」
「別に。お前にやるんじゃなくて、俺がお前に付いていくんだけどな」
 気にしていたのは、ジルの方だろう。彼に再会する前の俺は、智紘を、弱い者を庇護する立場だった。今の俺とではそれが逆転しているから、なんて言ったらいいんだろう、どうにもやり辛い。
「俺の方こそ、余計なことを言っちまったようだ。お前の方が俺より、人生経験豊富だったもんな」
 初めて会った時のジルは、社交界に紛れ込み、仮面舞踏会で軟派していたのだから。
「うふふ、良いことばかりではありませんでした。あの頃はいつも渇いていましたし」
「新鮮じゃなくても大丈夫なのか?」
 いつか、聞いてみたかったことを口にしてみた。
「時代の流れです。あなた方がスーパーに並べられている牛の死骸を何の罪悪感もなく食べるのと同じです。誰かを傷つける罪悪感から逃れられるのですから、味や鮮度は気にしません」
 俺たちはしばらく無言で歩いた。

「ほら」
 立ち止まった俺は、ジルの前に右手を差し出した。
 Shall we Dance?
 橋の歩道。
 いつだったか、ジルはここで踊り出したことがあるのだ。  
「今日は月が出ていませんが」
「気分じゃねぇか」
「いいえ」
 ジルは金の髪をなびかせて踊り始めた。
【登場人物紹介】はこちらへ。
☆お知らせ―明日・明後日 喫茶店〔月の光〕はお休みさせていただきます☆


 今日は、一日中冷たい風が収まりませんでした。
 昨日と比べると気温もずいぶん低かったようです。皆さん、風邪などひかないように週末をお過ごし下さい。

 今日の写真は「エゾノタチツボスミレ」(2002.05.05群馬県で撮影)
 蝦夷の立坪菫と書きます。草丈が大きいから、花が小さく見えます。これは白花品で、薄紫色のものもあります。

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2006/02/16

チョコレート・チョコレート♪夜

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「これは私からです」
 ここは、夜の稲作の事務所兼住居。
「お前はいつも自分は男だと言ってるじゃねぇか」
「友達同士もあるそうです」
「そりゃ、女の友達同士の話だろ?恥ずかしくてチョコレート売り場なんか行けねぇし」
「これはチョコではありません」
 見ればわかる。麗華が派手にラッピングしたのだろう酒瓶だ。
「お前にやる物なんか用意してねぇぞ。……これか?」
 左腕を上げてみる。
「お腹は空いていません。お返しなんて気にしないで下さい。いずれあなたを頂くのですから」
 言いながら、ジルの青い目と金の髪が輝く。
「こんな高い酒、味がわからねぇ俺にはもったいねぇな」
 ピンク色の高級シャンパンだ。
「開けますか?」
「いや、絹さんのとこ行こうか、妙も誘って。まだ寝てねぇだろ」

「いらっしゃいませ。どうしたの?こんな時間に」
 奥の席から、聞き慣れた笑い声がする。
「親方いるのか?」
「篠原先生も」
「ちょうどいいや」
「稲か?」
「ジル君と妙ちゃんも。みんなの話をしていたところだよ。今日の昼の」
「ジルに珍しいもんをもらったから、お裾分けだ」

「へーえ、綺麗な色だね。確かに、僕が口にするのは人生最初で最後かも知れないな」
 と、絹さん。
「そうだねぇ、買って買えない物じゃないかも知れないが、買わないだろうねぇ」
 と言ったのは篠原先生。
「俺は、ペットの焼酎でじゅうぶんだぜ」
 親方はアルコールさえ入っていれば何でもいいのだ。
「美味しいけどね。そうだ!ジルの分ケーキとってあるんだよ、食べてみて」
「僕が持ってきてあげよう。せっかくだから、何かおつまみも作るね」
 
「ジル、忘れるな。これが一般庶民の感覚だ」
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 「ぐんま昆虫の森」を訪れて以来、パソコンを立ち上げるごとにライブ映像を見るためにHPに行っています。
 最初は、リュウキュウアサギマダラの羽化のライブ映像でした。残念ながら瞬間を見逃してしまいました。
 次はオオクワガタの羽化。これも脱いでいるところは見られませんでしたが、数時間おきにパソコンを立ち上げる度に、白い羽根が茶色に変わっていく様子が見られました。安全な地中で時間を掛けてゆっくりゆっくりと変化していくのですね。
 今はオオクワガタの蛹化が映されています。見る度にちょっと動く様子に死んではいないことを確認していましたが、見ていなかった何時間かの間に蛹になってしまっていました。皮が割れて出てくる瞬間にはなかなか立ち会えないものです。まだ茶色になっていない真っ白な蛹は綺麗でした。

 今日の写真は「ウスバスミレ」(2005.06.19長野県で撮影)
 薄葉菫と書きます。その名の通り柔らかな葉。葉の形も大きくて特徴的です。
 このスミレも標高が高いところで見られます。ミツバオウレンやオサバグサと一緒に咲いていました。

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2006/02/15

チョコレート・チョコレート♪昼Ⅱ

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 石坂和哉は店内をじろりと見回した後、言った。
「いつものを頼む」
 地元では有名な石坂組の若き組長だ。組の若い者が、一人付いてきている。
 彼のいつものオーダーはブルーマウンテンとその日お勧めのケーキ。
「申し訳ありません、今日はケーキがないのです」
「匂いがするぜ」
 と、若い者。
「確かに、焦げ臭いな」

「ちょうど良かった。会わなかったら自分で食べちゃおうと思ってた」
「?」
 昌子は、和哉と若い者に大小の包みを渡した。
「絹さんにはこれ。あんたにもやるよ」
 僕と半次も包みを渡された。僕のだけが形が違う。
 半次は包みを開けている和哉から目が離せない様子だ。顔色が悪いのは和哉の素性を知っているからだろう。
 中身を見た和哉がぴくりと動く。
 金色の筆文字で「義理」と書かれている。大きなチョコは和哉の任侠臭い事務所の壁に飾っても違和感なしかも。
 それを見て飛び上がった半次は、稲作の後ろに避難した。
「あんたはこの言葉が好きだろう」
 和哉にこんな真似が出来る女性は昌子しかいないだろう。
 若い者と半次は青くなった。
「もらっておこう」
 和哉は受け流すことに決めたらしい。

「お待たせ。みんな運がいいよ、妙ちゃん特製のザッハトルテを食べられるなんて。ジルの分を取って置いて丁度8等分出来たんだ」
 妙ちゃんが切り分けた黒い物体を持って現れた。
 焦げた匂いが強くなる。
「あなた、昌子さんの彼氏?さすがはハンサムだね。でも、眉間に縦じわなんか寄せないで、笑った方がもっとハンサムだよ」
 引き攣った笑いを浮かべる和哉。
 それを見て大笑いする昌子。
 男は、女の子にはかなわないのだ。 
【登場人物紹介】はこちらへ。


 今日は暖かでしたね。庭で枯れ草の始末をしていたら、たくさんの春を見つけました。
 小さな蕗のとう……食べるのにはまだ早そう。
 レモンバームの芽吹き……新鮮なレモンの香り。
 黄蝶。ヤブキリ。ナナホシテントウ。蟻。
 明日から、また寒くなってしまうんですよね。

 今日の写真は「オオバタチツボスミレ」(2004.06.27長野県で撮影)
 大葉立坪菫と書きます。標高がある湿原に生える大型のスミレです。

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2006/02/14

チョコレート・チョコレート♪昼

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 2/14日。昼の喫茶店〔月の光〕。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、昌子さん!」
「よぉ」
 と、稲作。
 妙ちゃんのケーキが出来るまでどこにも行くなという待機命令もあるけれど、もしかしたら彼女が来るのを待っていたのかも知れない。
「あんた、何やってるんだ?入って来なよ」
 昌子に促されて、恥ずかしそうに入って来たのは……。
「半次君、久しぶりだね」
「へぇ、バイトが忙しくて」
「仕事が忙しいのはいいことだよ。ジルちゃんは居ないけれど、ゆっくりしていってね」
「ありがとうごぜぇやす」
「おい」
「あっ、旦那♪」
 稲作を旦那と呼ぶ半次。
「どうしたんだ、その言葉遣い」
「へぇ、実は、あっしは時代劇フリークでして。半次という名を付けていただいた、ここなら、堂々とこんな話し方が出来るんじゃねぇかと思いやして」
「どんな話し方をしてもかまわねえけど、拙者とかそれがしとかじゃねぇんだ」
「へぇ、半次って名は、フリーターのあっしと同じ遊び人風ですからねぇ」
 フリーター=遊び人という解釈は面白い。
 僕は、彼が元こそ泥でギャンブルが大好きな本当の遊び人だという事を知らない。

「広木、これ」
 昌子はラッピングしたビンを稲作に手渡した。
「日本酒?」
「美少年殺しのあんたにピッタリな酒が手に入ったんでねぇ。もう一人増えてるし」
 昌子は半次を見て言った。恥じらう半次。
 熊本県産地酒「美少年」の大吟醸。
「おねえ、酒は有り難いが誤解を招くようなことは言うな」
 
 ドアが開いた。
「いらっしゃいませ、和哉さん」
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 昨日の続きです。
 2カ所目はコミミズク(小耳木菟)に会いに行きました。ネコの耳みたいな耳羽根は、名前の通り小さくて可愛いのです。飛ぶ姿は、首から下は猛禽らしく、翼は細長くて格好いいけれど、丸顔がアンバランス。スタイル抜群なのに丸顔で童顔のモデルさんのようです。
 コミミズクは広い草原や河原が好きで、野ネズミなどを捕って食べます。
 いくら回っても全く見られませんでした。諦めかけた時、斜面になっている草原を、興奮状態でビデオ撮影している人を発見。そっと近付いて、聞いてみると、カメラの先に草むらで休むコミミズクがいました。その人がいなければ会えず終いだったでしょう。広い枯れた草むらの中から、隠した北海道土産の木彫りのフクロウを探し出すようなものだからです。

 今日の写真は「ゲンジスミレ」(2005.04.17群馬県で撮影)
 源氏菫と書きます。葉の裏が紫→紫式部→源氏物語の連想だそうです。かなりこじつけっぽいですが、名前から来る思い込みもあって優美に見えます。小柄な割に芳香が強く、甘くないよい香りがします。

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2006/02/13

チョコレート・チョコレート♪朝

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 2/14日。朝の喫茶店〔月の光〕。
「絹さん、稲作、マダムからお預かりしてきたチョコレートを渡します」
 マダムとは、新宿のクラブ〔Madam☆Rose〕のマダム麗華。年齢不詳の超美形(♂)。
「何で、家で渡さなかったんだ?」
「マダムの言い付けです。二人の反応を見てくるようにと」
 絹さんの、のど仏がゴクリと動く。麗華が男だとわかっているはずなのに、彼女の美貌に参っているのだ。試されることに緊張しているのだろう。
「朝っぱらから食えっていうのか?」
「はい」
 高そうな箱に入った上品そうなチョコレートだ。
 俺は、一粒つまんで口に放り込んだ。甘すぎないから食べやすい。
 もう一つ。
「稲さん、もう少し味わって食べられない?良く鑑賞してから。滅多に口に出来ない芸術品だ」
「あ?」
「ジルちゃん、どこで買ったか知ってる?」
「表参道ヒルズで行列に並んだと言っていました」
「やっぱりね。値段のことを言うのは失礼だけど、君にはそれが一番判りやすいだろう。1粒500円はすると思うよ、そのチョコレート」
「え!?」
 2粒で天丼食える!大福だったら10個――。めまいが……。
「それでは、私はこれで」
「今日は早いんだね」
「はい。去年大変だったので、今日は早めに出掛けます」
 道を歩くだけで、段ボール箱数箱分もチョコレートをもらったジルは、一月後、律儀にも全員にお返しをして回ったのだ。それが大変だったから、今年は少しでももらわないようにしたいのだろう。
「ジルの分は取って置くからね」
 厨房から、妙の声だけが聞こえて来る。
「はい、楽しみにしています」
 妙は、〔月の光〕の厨房を占拠して、ケーキ作りを始めているらしい。

 ジルが出勤して行った後。
「みんな居るかい?」
「いらっしゃいませ、皆さん」
 沼田のじいさん、お千代ちゃん、お梅ちゃんの年寄り3人組がやって来た。
 じいさんは先にもらったらしく、ずっとニコニコ顔だ。
 ジルの不在を残念がった女性陣は、俺たちにも義理チョコをくれた。
 お千代ちゃんは、去年と同じハート形のチョコレートを。
 お梅ちゃんは去年、チョコレート掛けの柿の種をくれたっけ。微妙だけどクセになりそうなピリ辛甘だった。
 今年は……!?
「稲作にピッタリだろう?」
 どこがどうピッタリなんだ!
 “さきイカのチョコレート掛け”なんて、売っていることが凄い。
【登場人物紹介】はこちらへ。
 これ、サービスエリアで見つけてビックリだったのです。興味はありましたが、買う勇気はありませんでした。


 昨日はピンポイントで2カ所、バードウォッチングに行きました。
 1カ所は赤城山の中腹にヤドリギを見に。植物観察としても、この時期のヤドリギは見る価値があるものです。辺りは一面の雪、冬枯れて葉が落ちた木の枝に、球形に見える緑の葉が茂ったヤドリギが、そこかしこに宿っています。双眼鏡で見ると、赤や黄色の実がたくさん付いていて、冬の昼間の花火大会のようです。
 同じ場所にたくさんのヤドリギがある理由、その主に会いに行きました。
 レンジャク(連雀)です。尾の先が赤いのがヒレンジャク、黄色いキレンジャク。名前も戦闘モノのヒーローみたいですが、姿もカッコイイのです。頭で立ったり寝たりする冠羽と、キリッと黒い過眼線は精悍な顔立ちです。ちょっと太めなのはご愛敬。
 残念ながら、昨日はヤドリギの実付きを確認しただけになってしまい、レンジャクには会えませんでした。
 忘れるところでした。ヤドリギが同じ場所に増える理由は、実を食べた鳥が、粘った糞をお尻から下げて飛び、近くの木にくっつけるからです。これは鳥のせいではなく、ヤドリギの子孫を残すための戦略です。
 もう1カ所のレポートは明日にしましょう。

 今日の写真は「ヤドリギ」(2004.02.01群馬県で撮影)
 寄生木と書きます。半寄生の常緑低木です。実は甘くて(舐めてみました)、なるほどと思うほど粘り気が強いです。
 写真のものは丸い小さな黄色い実がなっています。オレンジ色の実がつくものは、アカミヤドリギ。観察した場所では赤実の方が数が少ないようです。

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2006/02/10

初めての手作りケーキは?

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 妙ちゃんが抱えてきた大きな本は、お菓子のレシピ本。
 そう、あの日まで、あと何日もない。
 去年の彼女の作品は、チョコレートを溶かし、イチゴ、オレンジ、キウイなどのフルーツをくぐらせてコーティングする、一番簡単なものだった。にもかかわらず、どうやったのか、焦げ臭い上に例えようのないおかしな味がした。
 みんな、彼女を傷つけまいと、無理して食べたのだった。
「ねえ、ねえ、絹さん、どれが良いと思う?」
 妙ちゃんが抱えてきたのは、パティシエかショコラティエが参考にしそうな豪華な本。普段、店に出すケーキを作っている僕にだって作れそうもない。デコレーションなど出来ないから、〔月の光〕のケーキは数種類の素朴な焼き菓子なのだ。
「そうだね、マドレーヌなんかいいんじゃない?」
 同じ分量の小麦粉、砂糖、卵、溶かしバターを、順番に混ぜて1時間寝かせて、マドレーヌ型に入れて焼くだけ。この昔ながらの作り方は、混ぜるのに力がいるけれど、失敗しようがないし、素朴で美味しい。
「えー、マドレーヌ?」
 妙ちゃんは、ほっぺをプッと膨らませて言った。
「じゃ、カトル・カールは?」
「え?どんなケーキ?」
 パウンドケーキだと言ったら、きっと即却下だろう。
 材料はマドレーヌと同じで、混ぜる順番が違う。柔らかく練ったバターに砂糖を加え、泡立て器でふわふわにし、卵を1つずつ加え、最後に小麦粉を混ぜる。型はどんなケーキ型でもいいだろう。
 両方とも初めての手作りで、誰もが作ってみるケーキだろう。
「チョコは?」
「チョコチップ混ぜてみる?」
「えー、チョコレートケーキがいい。これが作ってみたい」
 妙ちゃんが指さしたのは、難易度が高いザッハトルテ。

 大盛りカレーを食べながら、こちらの会話が気になって仕方ない様子の稲作。耳がマギー審司になっている。
「なぁ、妙。俺たちは心を込めて選んでくれたスーパーのチョコレートでも嬉しいんだぜ」
 この後、妙ちゃんがどんなに怒り、稲作がなだめるのが大変だったのかは、ご想像にお任せしよう。
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☆お知らせ―明日・明後日 喫茶店〔月の光〕はお休みさせていただきます☆


 昼のワイドショーを見ていたら、雅子様と紀子様の不思議として、旧姓がシンクロしていると言っていました。これは、ご結婚当時から有名な話だそうです。

お わ だ ま さ こ
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か わ し ま き こ

お わ だ ま さ こ
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か わ し ま き こ

 なぜ、この話に反応したのかというと、番組で、数学者の秋山仁先生に尋ねていてからでした。数学は、算数が数学に変わった中学生の頃から大の苦手です。
 苦手な数学と、いつも避けて通る純文学作品。その二つが合体した「博士の愛した数式」を読みました。書店に行くと必ず目に付き、つい本屋の策略に乗ってしまったという気持ちで手に取りました。
 こういう静かな小説ってあるのですね。僕はミステリーと時代小説ばかり読んでいるから、表現の豊かさに新鮮な感動がありました。全く解らない数式も美しいものと思えてきました。
 これを機に純文学アレルギーから解放されようと思います。
 今、上映中(?)の映画の配役も作品にピッタリですね。
 僕は、深津絵里さんの可憐な声が好きです。

 今日の写真は「サクラスミレ(2005.05.08群馬県で撮影)
 桜菫と書きます。スミレの女王といわれる大きな花を咲かせるスミレです。
 葉脈に沿って赤紫に線が入るものを、血潮菫といいます。

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2006/02/09

復活!

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「ちわ~す」
「いらっしゃいませ、稲さん。お許しが出たんだね」
 喫茶店〔月の光〕。
 稲作が顔を出したのは5日ぶりだ。ちょっとスリムになったみたい。
「ひでぇ目にあったぜ」
「インフルエンザだったからね」
「違うよ、ジルの監視が凄くて部屋から出られなかったんだ。食いもんはお粥ばっかりで」
「まあまあ、だから良くなったんだ。感謝しなきゃ。今、特製のお茶を入れてあげるから」
「お茶のみに来たんじゃねぇよ。カレーライス大盛り!」
「わかったわかった」

「こんにちは」
「いらっしゃいませ、妙ちゃん」
「あ!稲作!元気になったんだ」
 妙は、大きな本を抱えていそいそとやって来た。
 何か変じゃないかって?
 そう、変なのだ。
 家に閉じ込められていた時、
「いいさ、いいさ、そのうち絹さんか妙が来るから」
 と、言ったのだ。
 ジルの返事はこういうものだった。
「来ませんよ。移ったら大変でしょう。特に妙ちゃんには移したくないでしょう。心配はいりません、二人には、私が付いているから大丈夫だと、良く言い聞かせておきました」
 暗示を掛けたのだ。
 そういう方法をやたらと使わないのが彼の良い所。歯止めが壊れて、私利私欲のために使い始めたら、どんなことが起こるだろう。一番考えたくないことだ。
 いつか来る、俺たちの旅立ちの時、きっと使ってくれるのだろう。
「お待たせしました。飲んでみて」
 絹さんが出したお茶は、真っ赤な色をしている。
「すっぺぇ!何だこりゃ?」
「ジルちゃんお勧めのハイビスカスティーだ。風邪ひきの君には、ローズヒップをブレンドしてみたの。ビタミンCたっぷりだよ」
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 昨日、「トリビアの泉」を見ました。
 一番面白かったのは、バレンタインチョコをもらい易くする方法。
 男の子達が考える当日の行動、いつもより目立つ、髪型をキメる、クールを装う。には、笑っちゃいけないけれど、笑わせてもらいました。良くここでお話する野鳥たちのディスプレーとそっくりですね。
 火曜日の放課後、共学校の男子の机の上には、口が開いたバッグが並ぶのかしら。
 間違われないように、名前がわかるようにしておきましょうね、みなさん。
 
 今日の写真は「コウノトリ」(2005.01.10千葉県で撮影)
 コウノトリ目コウノトリ科。ツルのように大きいですが、姿はサギに似ています。
 今日この写真にしたのは、何故だかおわかりでしょう。去年見に行った野生のコウノトリです。
 野生と言えば、紀子様たちが放鳥した兵庫県コウノトリの郷には野生のコウノトリ「八五郎」が住み着いています。飼われていた誰かに恋をしていたようですが、その後、彼の恋は実ったのでしょうか。僕好みの名前の、彼の恋の行方が気になります。

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2006/02/08

からかいごっこⅡ

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「うわっ、冗談だ、怒るなよ!……あらら――」
 ジルの報復を交わそうと、飛び退いたつもりが。
「危ない!」
 床に激突する寸前、ジルに抱き上げられた。人間には出来ない素早さだ。
「すまねぇ」
 こんな格好で抱かれるのは赤ん坊の時以来だろう。記憶には残っていない。こんなにデカくなってからされるとは思わなかった。
 お姫様だっこ。
 一瞬、ジルの青い瞳が悪戯っぽく瞬いた。
 読まれた?
「無理をするからですよ、姫」
「わっ、降ろせ、降ろせ!」
「じゃじゃ馬みたいに暴れないで♪」
 夜。夜の生き物であるジルの力は、凄まじく強い。どんなに暴れても彼の腕から逃れられない。か弱い女になった気分だ。
「そうです、あなたはか弱い。キスをしてあげましょう」
「ヒッ、止めろ!頼むから降ろしてくれ~」
「私の言うことを聞きますか」

「こんばんは」
「いらっしゃいませ、ジルちゃん」
 ここは、夜更けの喫茶店〔月の光〕。
「まだ開けていたのですね」
「うん。稲さんはどう?」
「グーグー眠っています」
「よく寝るね」
「よく寝るどころではありません」
 この後、珍しくジルは愚痴をこぼした。
「稲さんにはよく言っておくから。親方にもしばらく仕事を頼まないように話しておくからね。心配しないで。……これ、飲んでみて」
 ジルに飲ませてみようと買ってきたお茶。
 ジルの瞳が嬉しそうに輝く。彼は、赤い色の飲み物が好きなのだ。
「美しいお茶ですね。暖かくて美味しい」
 気に入ってくれたようだ。 
 独特の赤色をしたハイビスカスティーが、〔月の光〕のメニューに加わった。
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 千歳さん、うちの子にハイビスカスティーを飲ませてみました。
 今日は、車の硝子が入荷し、ディーラーに修理に行ってきました。やっと哀れなガムテープ姿から解放されました。やっと一安心。
 
 今日の写真は「マキノスミレ」(2005.05.20 新潟県で撮影)
 牧野菫と書きます。シハイスミレの変種で、東日本で見られます。

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2006/02/07

からかいごっこ

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「ったく、妙のヤツろくな事教えねぇんだから」
「でも、大きくて、牙が生えている所は似ています。角はありますか。赤と青だけではなく、黒い仲間もいるのでは?」
「黒鬼?……いるかも知れねえけど、俺は人間だ!角も牙も生えてねぇぞ。鬼は架空の生き物なんだ」
 牙じゃなくて、チャームポイントの八重歯だ!
「吸血鬼も架空と思われているのでは?」
「そうだけど」
「私たちは架空の生き物同士でしょうか」
 さっきの剣幕は治まってちょっと嬉しそうなジル。
 気紛れ女と同棲してるみたいな、俺。
「冗談です。こちらに来て下さい」
「?」
 ジルが額を触ってきた。彼の手のひらは、冷たくて柔らかい。気持ちいい……。
「あなたはどうかしている。どうしてこんなに熱があるのに普通にしていられるのです?」
「大丈夫だと言っただろう」
「あなたは死なないでしょう。でも、無理をすれば苦しむことになります。自分が思い込もうとしているほど強くはないのですよ、心も身体も」
「――」
「私には、弱いあなたを見せてもいいのですよ」

「……じゃぁねぇ、じゃぁねぇ、オッパイしゃわらしぇて」
 思いっきり甘え声で言ってみる。
「!?――誰が赤ちゃんの真似をしろと言いました!私は男の子です!!」
 妙がジルをからかいたい気持ちが解る。
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 駅の近くでチャトラ模様の大きな猫が轢かれていたと、Pさんに聞き、家に来るチャトラかとガッカリしていました。
 立ち話で、隣の奥さんに車の窓が壊れている理由を説明していると、
「ンガ~、ンガ~、ンガ~」
 と、鳴きながら横を通るチャトラ。轢かれていたのは顔なじみのチャトラではありませんでした。彼は愛想もなく行ってしまいましたが、ちょっとホッとしました。
 ごめんね、轢かれていたチャトラ。

 今日の写真は「シハイスミレ」(2005.04.24大分県で撮影)
 紫背菫と書きます。紫背は、葉の裏が紫色に見えることから。赤紫色の可愛いスミレです。西日本で見られるスミレで、甘い香りが楽しめます。

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2006/02/06

油断大敵

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「どこに行っていたのですか」
 真っ暗な部屋の中、青い二つの光が瞬く。
 何度経験しても身が縮むのは、こういう時のジルは怒りに燃えているからだ。瞳の光は高温の青く静かな炎の色だ。小早川伸木の奥さんより恐い。
 電気を点けつと、テーブルの上に冷めたカレーライスが置いてある。
「悪かったよ。親方にどうしてもって頼まれて、断れなかった」
「身体と仕事、どちらが大切ですか」
「男は義理も大切なんだ。親方には色々世話になっているし。ちゃんと薬、飲んだから大丈夫だ。それもチンして食べるから――」
「鬼は外!」
 豆を投げつけられた。
「わっ!何すんだ!」
「妙ちゃんに教わりました。稲作は、なぜ鬼なのですか」
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 今日の題名「油断大敵」は、どちらかというと、この雑談の方になります。
 土曜、日曜で千葉県銚子市、利根川を挟んだ茨城県神栖市に行ってきました。内陸の群馬県では見られない、海鳥を見るためです。土曜の午後近くに出発したために付いた頃は暗くなっていました。途中、印旛沼に住み着いているモモイロペリカンに会うための寄り道をしました。どこからカゴを抜けてきたのかわかりませんが、たった一羽で寒風に耐えている姿は可哀想でした。

 翌朝、銚子港でカモメウオッチング。
 皆さん、カモメの仲間の区別が付きますか?下は、よく見かける3種類です。
 ユリカモメ(全長40㎝)背中が淡い青灰色で、小さくて、くちばしと脚が
             真っ赤なカモメです。
             夏は、黒いお面を被ったような姿に変わります。
 ウミネコ(全長46.5㎝)背中は濃い青灰色で、くちばしと脚は黄色です。
              くちばしの先には黒と赤の点があります。
              羽根の先は黒で、飛ぶと尾に黒い帯があります。
 セグロカモメ(全長60㎝)大きく、背中が青灰色で、脚はピンク色です。
              黄色いくちばしの先には赤い点のみです。
羽根の先は黒。

 カモメの仲間は、日本でも20種類ほど見られるようですが、夏と冬、幼鳥成鳥で違うので、見慣れない僕はなかなか見分けが付けられません。
 昨日は、シロカモメとワシカモメが見られました。両方ともセグロカモメにそっくりで、少し大きく、シロカモメは羽根の先が白のため、止まっていると尾が白いように見えます。ワシカモメは、羽根の先が黒ではなく、背中と同じ色なので、見分けが付けられるのです。

 神栖市の波崎海岸。風力発電の風車が並ぶ観光スポットで海カモウオッチング。
 アラナミキンクロという、Pさんも見たことがない珍しいカモが見られるというので長時間粘りました。クロガモ、ビロードキンクロ(いつか紹介したいじわる模様のカモです)はたくさん見られました。
 風が寒くて、駐車場の車に戻って休んでは出直し、と言う行動をとっていました。20分くらい誰も居なかった隙にやられてしまいました。後ろの窓が割られていました。初めは悪戯で石を投げられたのかと思いましたが、バールで割られて、中に置いてあったくたびれたディパックを2つ盗られてしまいました。中にはそれぞれのデジカメと小物が入っていたのです。
 それから警察に通報して1時間くらい時間が掛かって。哀れな車はガムテープで窓を塞がれて、高速を走って戻りました。
 車通りもあり、警察を待つ間に何組も観光客がやってくるような駐車場でした。
 皆さんも車上荒らしにはご注意を。

 今日の写真は「アカネスミレ」(2005.05.20 群馬県で撮影)
 茜菫と書きます。赤が強い独特の色をしていて、よく見かけるスミレです。

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2006/02/03

年の数だけ

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「おはよう、ジルちゃん。稲さんはどう?」
「さっき病院に連れて行きました」
「一人で行けないほど具合悪いの?」
 午前10時半の〔月の光〕。
 お客は妙ちゃんしかいない。
「いいえ。注射が恐いからと行きたがらないので、無理矢理連れて行ったのです」
「チョビと同じだね」
「何で?」
「病院に連れて行くっていうだけで動かなくなっちゃうんだって。やっと引きずって連れて行くと、今度は予防注射を怖がって大暴れするんだって。危うく稲さんが注射を打たれる所だったって言ってたよ」
「打ってもらった方が静になったかもね」
 そういう効果がある注射じゃないと思うが――。
「どうしましょう」
「?」
「診察室まで付いていけば良かった。稲作は暴れているでしょうか」
「まさか、一応人間なんだから、そのくらい我慢出来るんじゃない?」
 思わず暴れる彼を想像してしまう。案外ありそうな想像図だ。
「そうですよね。……絹さん大盛りのカレーライスを持ち帰りたいのですが」
「ウッソー、今日もカレー食べたいんだって?まだ熱あるんでしょう?」
「はい」
「それだけ元気があれば大丈夫だね。けんちん汁もあるから、持っていってね。……待っている間、福豆でも食べてて」
 1合マスの中に、豆がまだ残っているはずだ。
「いいなぁ」
 妙ちゃんは羨ましそうに言う。
「妙ちゃんは食べないのですか」
「もう食べちゃったんだ」
「もっと食べれば」
「ジルちゃん、福豆はね、年の数だけ食べると、その年は厄を逃れて無病息災で過ごせるっていわれているんだよ。だから年の数だけ食べてね」
 僕と妙ちゃんには、ジルの言葉の後半が聞き取れなかった。
「年の数だけ――1300粒もありません」
【登場人物紹介】はこちらへ。
 デーモン木暮閣下よりは食べる数が少なくて済みそうですが……。
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 今日の前橋は自動車のハンドルが取られるほどの空っ風が吹き荒れています。急に気温も下がったようで寒くなってきました。明日は立春だというのに最高気温は3度の予報です。
 一昨日の宣言通り、恵方巻きを買ってきました。皆さんの仰る通り、色々な種類の巻き寿司が山積みされていました。買おうと思うと目に入りますね。
 穴子の中巻と太巻きのハーフを買ってみました。半分でも効果があるのでしょうか?穴子巻きを買った理由は、先々週のドラマを見て、穴子寿司が食べたくなったらしく、時々言っていたからなのですが、スーパーのものでは美味しくないかも知れませんね。

 今日の写真は「ミヤマスミレ」(2005.05.22群馬県撮影)
 深山菫と書きます。昨日に続き標高が高い所に咲くスミレです。

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2006/02/02

散歩の途中

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 〔月の光〕の裏。夜が明け始めた冬枯れの河川敷。
 川面を眺めながら、ジルは土手に座っている。
「チョビ、あまり遠くへ行ってはいけませんよ」
 後ろから足音が近付いてくる。バランスが良いしっかりとした足音だ。年齢にそぐわず。
「おはよう、今日は一人かい」
「おはようございます、おじいさん」
 稲作の師匠、沼田老人。
「なるほどなぁ」
「何ですか」
「広木がお前にこだわる理由」
「私は智紘に似ていますか」
「似ている、心も」
「私は彼ほど善良ではありません。おじいさんと二人で話したかった。私のことはご存じですね」
「ああ、倅(せがれ)に聞いたよ」
 彼の息子、沼田忠宣は吸血鬼ハンター。
「私が恐くないですか」
「この歳だからのぅ。もう恐いものはないよ」
「死ぬことも?」
「死んだことがないから、少し恐いかな」
「面白い人ですね。私にその恐怖を感じませんか」
「感じないよ。だから倅はお前に何もしなかった」
「私はここに居ても良いのでしょうか」
「居たいのだろう?」
「はい」
「お前が居なくなったら、広木はお前を捜し続けるだろう」
「私を捜してくれるでしょうか」
「そういうヤツだ、広木は。……ジルちゃん、ハンターに会ったことは?」
「一度だけ。目の前で同族が狩られました。……恐いのです」
「ハンターが?」
「いいえ。狩られた仲間のように人殺しになることがです。稲作は私を殺せません。その時は」
「心配しなくていいよ、私たちが居るから」

 沼田親子とジルの経緯は昨年7/10~7/21のエピソード―追い詰められるふたり―をご覧下さい。


 今日は久しぶりに野良猫「にゃうたろう」が顔を出しました。秋にはコロコロに肥っていたのに、ちょっと痩せていました。猫たちは身も細る恋の季節なのですね。
 ちなみに、ヒロイン妙ちゃんの、ちょっと怒った時の口癖「にゃう~」は、にゃうたろうの鳴き声の真似です。
 初めて彼がやって来た時、まだ若くて警戒心むき出しでした。「ハーッ」とか「フーッ」とか威嚇の声しか出しません。
 何ヶ月も経ったある日「ニャー」と鳴いてくれました。何とも可愛らしい声です。が、その後に「ウーッ」と警戒音。「ニャー、ウーッ」で「にゃうたろう」です。
 この話、前にも書いたような気がします。

 今日の写真は「シロスミレ」(2005.06.19長野県で撮影)
 白菫と書きます。標高が高い湿原に咲く白いスミレです。

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2006/02/01

束の間の幸せ

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 〔月の光〕の裏。緑の河川敷。
 川面を眺めながら、ジルが土手に座っている。
 いつか見た風景だ。
 気付いたのだろうか。
 彼は立ち上がってこちらを見た。
 !!
 額から血が流れる。
 次は頬から……。
 ジルは怯まずにこちらに向かって歩いてくる。
 誰かが石を投げているんだ!
 正体がバレた!
 一緒に逃げなきゃ!

「うわっ!」
 目の前にジルの顔。
 一晩中、傍にいてくれたのだろう。
「起こしてしまいましたか。これからチョビと散歩に行ってきます。大人しく横になっていて下さい」
「すまない。気を付けて行ってきてくれ」
「珍しい。気弱になりましたか」
 嬉しそうな顔をして言うと、ジルはまだ夜が明けていない外に出て行った。

 いつか必ず夢で見たようなことが起こるだろう。
 同じ人間の智紘の身にも起こったことなのだ。
【登場人物紹介】はこちらへ。


 2月になりましたね。2月に入ると、ここ群馬県でも数年前からスーパーのチラシで「恵方巻き」を見るようになりました。まだ我が家では取り入れていないのですが、取り入れた主婦の話を聞いて、関東でも流行始めた理由がわかりました。普段だったら海苔巻き寿司では夕飯にならないけれど、縁起物だからと家族も文句を言わないのだそうです。堂々と手抜きが出来るというわけです。
 なるほど。我が家も金曜日は恵方巻きかな♪ 

 今日の写真は「ヒカゲスミレ」(2002.03.30東京都で撮影) 
 日陰菫と書きます。葉の表面が焦げ茶色になっているものをタカオスミレといいます。撮影場所が撮影場所なので、これはタカオスミレ?

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