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2005/12/25

クリスマス・イブ

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「妙ちゃん、プリンセスみたいです」
「ドレスだけはね」
 ジルが見立ててくれた白いドレスはシンプルだけど品が良い。
「自信を持って下さい。あなたは美しい。私もあなたに合わせてみました」
 美容室でメイクをしてもらっている間にジルも白いスーツに着替えて来た。美容師達がざわついている。誰の目も惹き付けるほどジルは綺麗。
「さあ姫、お手をどうぞ」

「ウソみたい!イブにどうしてこんなに素敵なお店のこんなに良い席が取れるの?予約してたんじゃないよね」
「ふふふ、マダムにお願いしたのです。気に入っていただけましたか」
 高級そうなフレンチレストラン。窓の外は夜景がキラキラ輝いている。
 ジルは気持ちが良いほめ言葉を言ってくれるが、下心が全くない。心が無いというか、ロボットに言われているようなのだ。稲作にもこうなのか。
「私は誰にも恋愛感情を持ちません」

「稲さん、良いの?」
「何が?」
「今日渡さないと、意味が無くなっちゃうんじゃないのかなぁって思ったものだから」
 妙ちゃんとジルがいる時から、時々胸のポケットを押さえる仕草をしている。
「何買ったの?」
「……誕生日の時とお揃いのペンダント」
 稲作は素直に話した。サファイアのペンダント。
「行って来る!どうせ最後は麗華の店だろうから」

 稲作を送り出すと一人きりになった。
 クリスマス・イブのこの時間に、町外れの喫茶店に来る客はいない。待ち合わせとして何組か使ってくれたようだけれど。
 今年も独り。
 雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう……今年はホワイトクリスマスの所が多そうだ。
 ゆきへ、を間違えて、ゆきえ、と打ったら、有希枝と変換されてしまった。
 変なことを思い出す。
 兄は夜更け過ぎに雪江に変わるだろう(山下達郎クリスマス・イブの曲にのせて)……男らしい兄のカップを持つ手の小指が立っていたっけ。あれはボキャブラ天国だったか。
 急に、最後のholy nightが聴きたくなった。
 レコードプレーヤーは何年も使っていない。変え針もないか。

 昔のことばかり思い出している中年男のクリスマス。
 寂しそうに見えるかも知れないが、ここ数年では最も明るく楽しいイブなのだ。
 稲作は元気を取り戻し、この町に戻ってきてくれたし、妙ちゃんもジルもいるのだから。


 来シーズンに備えて春の花の復習をしていきましょう。
 今日の写真は「スミレ」(2005.04.25群馬県で撮影) 
 スミレにはスミレという名前を持つ菫があります。すっと伸びた茎、濃い紫色の花、凛とした姿をしていますね。
 歌詞ではありませんが、アスファルトの割れ目、コンクリートの隙間で咲く姿を見かける強い花でもあります。
 ちなみに、スミレの中にワカシュウスミレ(若衆菫)という名を持つ品種があります。側弁の基部に毛が生えていないのだそうです。若いから髭が生えていないということのようです。菫を見かけたら花の中を覗いて見て下さい。側弁の基部とは、めしべ両脇の花びらの根本のことです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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投稿: Makayla | 2014/01/22 12:44

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