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2005/11/30

達人技

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「さて、始めるか。わしが勝ったらわしの言うことを聞け」
 沼田のじいさんは、後退って手刀を構えた。
「待て、俺が負けることになってるんじゃねぇか!」
「そうだったっけ?」
 ショッカーは仮面ライダーに負けなくてはならない。子供の夢を壊すわけにはいかないだろう。なぜなら、お千代ちゃんとお梅ちゃんが公園に遊びに来ていた子供達を連れてきてしまったのだ。
「勝っても良いのか?」
「勝てるかな?」
 稲作は、半ば本気でかかっていった。本気を出しても勝てないだろうけど。
「イーッ!!」
 それでも役割を忘れないところが俺の良いところ、か?
「修行が足りんな」
「仕方ねぇだろ!生活苦なんだから」
「寝る間も惜しめ」
「あるか!」
 俺たちの拳法は八卦掌。円を描くような動きは優美だ。
 子供達は、じいさんの達人技に魅了されている。

「どうだい?テレビのライダーより格好いいだろう?」
 お千代ちゃんに言われて、子供達は微妙な表情で頷いている。格闘の技は保証するが、俺たちの見た目は昔のジャッキー・チェンの映画に出てくる赤鼻のお師匠と敵道場の用心棒みたいなのだから。

「イーッ!!」
 いい加減疲れたところで、じいさんの蹴りを受けて、稲作は倒れ込んだ。
 なぜか大勢集まったギャラリーは拍手をしている。
 興奮した子供達は稲作の周りに集まって、脚を蹴ったりパンチを浴びせたりしている。痛くないけど損な役回りだ。
「これこれ、悪漢はもう降参したのだ。これからは心を入れ替えて善良になるな?」
「イーッ!」
 子供達にわかるように土下座をして、じいさんを拝む。
 それにしても、今時悪漢なんて言葉、子供に通じるのか?

 帰り道。散々飲み食いした女性陣は後部座席でイビキをかいている。
 二人に席を空け渡したじいさんは助手席に乗っている。
「広木、お前も心を入れ替えろ」
「俺は善良だぜ。この上どう心を入れ替える?」
「ジルと淫らな事をしていないか?」
「してるか!聞こえるだろ、恥ずかしいことを言うな」
 後ろから、イビキのデュエットが聞こえてくる。
「大丈夫、爆睡だ。……人として、してはいけないことをしていないかと聞いているのだ」
「腹を空かせたヤツに食事を分けてやることが、人としてやっちゃいけねぇ事なのか?」
 俺には解らない。吸血鬼に血を飲ませてやることが、そんなにいけないことなのか。


 今日も昨日の続きです。
 板倉町に行く前に、館林市と甘楽町に境にある多々良沼に寄りました。オオハシシギ、アオアシシギ、オナガガモ、ミコアイサなどに会いました。
 目の前の沼の中に長い竹竿が刺さっていて、その上にカワセミが止まっていました。
 その猟の上手いこと。見ている間に13回飛び込んで12回獲物をくわえて戻ってきました。中には半透明なカワエビも混ざっていて、視力の良さと達人技に我々ギャラリーはうっとり。お腹がいっぱいになって飛び去るまで、カワセミの妙技に見取れていました。

 今日の写真は「セツブンソウ」(2005.2.27栃木県で撮影)
 節分草。この花はセメント採掘場などがある石灰岩地を好みます。
 僕たち野草好きは冬の間、セツブンソウの開花を待ち続けているのです。シーズン到来を告げてくれる花だからです。
 
【登場人物を少しずつ紹介します】
沼田さん……〔月の光〕の常連で、稲作の拳法の師匠。
お千代ちゃん……知恵袋的存在の細身のおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。
お梅ちゃん……料理上手なふくよかなおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。

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2005/11/29

白いエプロン

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 じいさんとジルのことについて話し合ったことは、まだない。
 その勇気がないのだ。
 なぜなら、じいさんの息子は吸血鬼ハンター(7/10のブログをご覧下さい)で、ジルの正体を知っている。ってことはじいさんも知っているはずだが、その事について話し合ったことがないのだ。
「別れる気はないのか?」
「そういう事じゃねぇんだ。運命っていうか、宿命っていうか」
 ジルは500年も俺を待っていたのだ。裏切れるはずがない。
「忠宣の手伝いをする気はないか?いずれ跡を継ぐ事を前提にして。……そうして、傍で見守るのも友情と思うが」
 初めてジルに会った時、殺戮に狂った彼の仲間がハンターに退治されたことがある。
 じいさんは、もしもの時は俺にその役目をしろと言っている。
「悪いがその気はねえ」
 約束は、仲間になることなのだから。

「ただいま!二人のぶんのソフトクリームも買ってきたよ」
 お千代ちゃんとお梅ちゃんが帰ってきた。
 

 今日も昨日の続きを。
 毎年言っているので覚えている方もいるでしょう。板倉町に行ったのは、貴婦人タゲリに会うためではなく、コクマルガラス淡色型に会うためでした。
 この季節、渡ってくるカラスがいるのです。ミヤマガラス、コクマルガラスです。広い田んぼに群れをなしているカラスを見たらちょっと観察してみてください。細くて白っぽいくちばしをもったミヤマガラスと一回り以上小さくてくちばしが短いコクマルガラスかも知れません。その中でも白いエプロンを掛けたような淡色型のコクマルガラスは数が少なく目立つのでバードウォッチャーの憧れなのです。写真を載せているサイトさんは多いですから、興味がある方は検索してみて下さい。

 今日の写真は「フクジュソウ」(2005.2.2群馬県で撮影)
 福寿草。お正月の鉢植えや、春の庭の彩りとしてなじみ深い花ですね。落葉樹林内の明るいところに群生するのですが、民家近くでは保護を受けないと生き残っていけないようです。
 撮影地は自生地ですが、手厚い保護を受けていて「福寿草祭り」が開催されています。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/11/28

冬の貴婦人

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 景色を見ながら弁当を食べていたら、沼田のじいさんに肩をたたかれた。
「あれ?二人は?」
「ポップコーンとソフトクリームを買いに行った」
「この寒いのに」
 日差しが暖かいとはいえ冬。
「これからショウをやるのだ」
「どんな?」
「仮面ライダーショーだ」
「そんなイベントの看板なんてあったっけ?」
「わしらがやるのだ」
「え!?衣装は?」
「そんなものはいらん。わしがライダーでお前がショッカーだ」
 言われなくてもわかっているけど、今どきショッカーはないだろう。じいさんはライダーと言うより仙人の風貌だ。
 とりあえず拳法の型を見せて、最後に‘やられた~’ってやればいいんだろう。

 簡単すぎる打ち合わせをした後、じいさんが言った。
「お前、あの子と別れろ」
 !?
 いくら俺でも、じいさんの彼女には手を出していない……と思う。
 断言出来ないところが情けない。
「誰のことだ?」
「ジル」
「な~んだ。脅かすなよ。どの女のことかと思った」
「お前がそんなにもてるはずがなかろう」
「悪かったな。ジルには、ただ部屋を貸してやってるだけだ。じいさんが考えているような関係じゃねえ」
「わしがどう考えていると?」
「男色」
「お前とあの綺麗な子がそんなことになるはずがないだろう。――ふざけるな」
 じいさんとジルのことについて話し合ったことは、まだない。


 昨日は県内とちょっとだけ県外に出てバードウォッチングをしてきました。
ちょっとだけ県外というのは、‘鶴舞う形の群馬県’の鶴のくちばしの所、栃木県、茨城県、埼玉県のちょうど境目にある渡良瀬遊水池に行ったのです。
 ‘鶴舞う形の群馬県’は、群馬の子供は誰もが遊ぶ‘上毛かるた’の「つ」で読まれています。他県の人にはそうは見えないだろうと突っ込まれてしまいそうですが、群馬県出身の人は信じて疑わないのです。
 鶴のくちばし部分、板倉町の田園地帯、耕耘機で土を掘り返したばかりの所に貴婦人達が数百羽。こんなにたくさんのタゲリを見たのは初めてでした。この貴婦人たち、ミミズとか土中生物が好物なのです。

 今日の写真は「タゲリ」(2005.11.27群馬県で撮影)
 田鳧と書きます。ハトくらいの大きさのチドリの仲間。冬の田んぼに渡ってきます。
 画像がぼやけていてすみません。こんな時、こだわる人は望遠レンズと良いカメラが欲しくなるのでしょうが、僕はそこまでこだわれないタチなもので。
 
【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/11/26

冬桜

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「今日一日、お前はわしの下僕じゃ。何でもいうことを聞けよ」
「ったく。しょうがねぇ爺さんだな」
 稲作はレンタカーのワゴンを運転している。  後ろの席には、真ん中に沼田のじいさん、右側にお千代ちゃん、左側にはお梅ちゃんがいる。助手席には風呂敷で包まれた大きな三段重と魔法瓶。包みからは良い匂いが漏れてきている。
 両手に花で花見に行くから運転手と荷物持ちをしろ、という沼田のじいさん=俺の拳法の師匠にいわれてここにいる。ただ働きかと思ったら日当をくれるらしい。その代わり下僕扱いだ。

「稲作、弁当を持って付いてこい」
「はいはい」
「はい、は1回!」
「わかったよ」 
 珍しく風のない小春日和、ピクニックにはちょうどいい。
「稲作、なんでジルちゃんは来ないんだい?目の保養が一つ減るじゃないか」
「俺で我慢しろ」
「――」
 無言で睨むだけなんて。小娘みたいな仕草をするお梅ちゃん。
 相手が婆さんでも、なんか傷付くなぁ。

「春と比べると寂しそうだけど、綺麗なもんだねぇ」
 と、お千代ちゃんは溜め息をついた。
 冬桜はソメイヨシノと比べると花が小さくまばらだ。
 気温は春と同じようだが、周りの木々は葉を落とし始め、これから冬に向かう寂しさがある。
 
「いじけたのかい?こっちにおいでよ」
「ここでいい」
 弁当タイム。お千代ちゃんの手作り弁当をもらって、離れたところで食べている。
 下僕はご主人様の邪魔をしないものだ。


 今日の写真は「フユザクラ」(2004.11.28埼玉県で撮影)
 この写真は去年、冬桜で有名な埼玉県の城峰公園で撮したものです。
 群馬県では、鬼石町の桜山公園が有名です。冬桜の季節になると、必ずニュースに流れるほど有名スポットですが、混んでいそうなので行ったことがありません。

【登場人物を少しずつ紹介します】
沼田さん……〔月の光〕の常連で、稲作の拳法の師匠。
お千代ちゃん……知恵袋的存在の細身のおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。
お梅ちゃん……料理上手なふくよかなおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。

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2005/11/25

甘露

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「寝るとこだったか?」
 店を閉まって一杯飲んでから休むのが、僕の一日の終わり。
「一緒に飲む?たまには二人で飲むのもいい――ってもう飲んでるみたいだね」
 稲作からアルコールの匂いがしている。
「ああ、なんか目が冴えちまって。散歩してたら灯りが漏れてたから覗いてみたんだ」
「やっぱり一人は寂しいんでしょ。……ジルちゃん、どうしてるかな」
「麗華の店はまだ開いてるから」
「まだ仕事中か。……お湯が沸いたみたい。寒いから焼酎のお湯割りにしようと思ってたんだ。同じでいい?」
「サンキュ」
「美味しい水を汲んできたんだ。箱島の湧水」
 名水100選に選ばれている東村の湧水は水量が豊富だ。駐車場から水場まで距離があるから、マイ猫車を置いている人もいるらしい。いくつもの猫車が塀に鎖とカギで括り付けてあった。
「沸かしてないのを1口くれ」
 僕はペットボトルに汲んできた水をコップに注いで稲作に渡す。
「どう?」
「うん、甘くて良い水だ」
「飲もう」
 焼酎のお湯割りを彼にも手渡す。
 湯気が白く見える季節になった。


 これまで何回かドラマ「デザイナー」について書いてきました。
 せっかくですから、最終回の今日も書かないとね。
 原作を膨らませたサイドストーリーも良かったですね。原作通りのラスト、若いみなさんには如何でしたか。30年以上も前、少女雑誌リボンで連載されていたのです。

 今日の写真は「ソシンロウバイ」(2005.1.10群馬県で撮影) 
 素心蝋梅と書きます。中国原産のこの庭木は、花の少ない真冬に蝋細工のような花を咲かせてくれますね。この花の甘い香りが好きです。もうそろそろ咲き出すでしょうか。
 
【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/11/24

冷たく柔らかい頬

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「ただいま……」
 部屋の中は静まりかえっている。
 まだ出迎えも返事もないか。
「ただいま」
 稲作は着替えもせずに、まずは彼の部屋に行く。
 麗華が飾った青い薔薇の位置、布団のしわ、眠りについた日のままで横たわっている。 あれから10日、ジルはまだ目を覚まさない。
 俺は寝相が悪いから、朝起きて布団が掛かっていたことがないのに。
 俺ほどでなくてもいいから、
「寝返りぐらい打ってくれればなぁ……」
 そっとドアを閉めて居間に行く。何だか飲みたい気分だ。この前麗華が持ってきた酒が残っていたはず。俺は、飲み残しのブランデーを見つけて、カップに満たした。

 もう一度、ジルの部屋に戻った。
 酔わない酒を飲み干して、眠っているジルを見る。
 もしもあの時、俺と出会っていなかったら、こんな安アパートの6畳間で眠る羽目にはならなかっただろうに……。
 あの頃のジルは、夜な夜な映画の中でしか見たことがないような、貴族の社交パーティーに呼ばれ、時々美女から食料を調達しては楽しくやっていたのだ。あのまま、ああいう社会から縁を切らずにいれば、今頃は彼に魅せられた金持ちの貴族の末裔か、彼のような種族に好意的な好事家に、城の一部屋も提供してもらって快適な眠りにつけているかも知れない。
 ここにジルが訪ねて来るまで、あの時のことは夢の中の出来事だと忘れていたのだ。
「こうなっちまったもんは、仕方ねぇよなぁ」
 稲作は、ジルの冷たく柔らかい頬に、そっと触れてみた。


 昨日はサボってしまってすみませんでした。どうしてもお話が浮かばない事ってあるのです。その上今日はココログのメンテで15時まで使えないということで、こんな時間になってしまいました。
 
 今日の写真は「アカネスミレ」(2005.11.23群馬県で撮影)
 この寒さの中咲いていました。茜菫です。名前の由来は花の色からです。
 スミレが咲く季節が待ち遠しいですね。
 明日からは春を待ちながら少しずつ春の花を紹介していきましょう。自分の復習も兼ねて。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/11/22

タグふれんず

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「いらっしゃいませ、稲さん」
「カレーライス大盛り!」
「稲作、ジルがいなくて寂しいでしょう?」
「あ?」
「そうだよねぇ、いつも傍にくっついていたものね」
 ジルが眠りについて1週間。
 僕と妙ちゃんは、彼が新宿の麗華の所でお世話になっていると説明されている。
「静になって清々してるぜ」
「ほんと?ジルが帰ってきたら言い付けよっかなぁ」
「小学生か、お前」
 言い付けられたら後が恐いのだろう。

「後でお掃除しに行ってあげようか?」
「何でだ?」
「ジルがいないと散らかしてるんじゃないかと思って」
 どうやら妙ちゃんは、ジルがいない間に稲作の心を掴もうと画策しているらしい。
「残念だな。俺の部屋はお前の所より綺麗な自信があるぜ」
「ほんと?だったらボクの部屋の掃除に来てよ!」
「時給は高いぜ」
「も~う、お金取る気?」
「当たり前だ。うちの事務所は貧乏なんだから」


 タグふれんずに参加してみました。
 使い方が今一つわかりませんが、可愛らしいキャラが画面を明るくしてくれるようです。入ってすぐにペットが仲間入りしました。hanakoと名付けました。
 僕の居住地はブルーベリー村だそうです。
 
 だからではありませんが、ブルーベリーの苗木を植えました。
 購入した苗は、ハイブッシュ系のあまつぶ星とおおつぶ星。群馬県で作られた品種だそうです。気候は合っているでしょうが、実が付く大きさに育ってくれるでしょうか。 

 今日の写真は「サルトリイバラの実」(2005.11.19群馬県で撮影)
 猿捕茨と書きます。名前の由来は棘があるからでしょうか。花は緑色で地味ですが、赤い実はこんなに目立ちます。
 群馬県では柏餅を包む葉には柏の葉を使いますが、西日本ではこのサルトリイバラの葉を使う所もあるそうです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/11/21

好き嫌い

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「美味しい?」
「ああ」
「その揚げ物も?」
「うまかったぜ」
 やっぱり麗華の手料理は最高だ。
「よかった!それをあなたに食べさせてみたかったのよ。本当に美味しかったのね?」
「何で?」
「材料は、レバー」
「!?」
 俺がどうしても食えない食い物。笑ってくれてもいい。
「家の娘達にも食べさせてみるわ。あの娘達ダイエットばかりしているんですもの。貧血が心配なのよ」
「俺で実験したのか!」
 麗華がいうあの娘達とは、彼女の店で働く女装した男達。みんな麗華と違って、心も女だ。

「どうするつもりなの?これから」
「どうもしねぇさ」
 食べ終えて、飲みに入っている。普段は飲まないワインだ。
「心配じゃないの」
「心配してもしょうがねぇだろ。なるようにしかならねぇさ」
「ジルちゃんは私たちを見届けて、また、旅を続けるのかしら」
「そうかもな」
「寂しいでしょうね」
 俺も一緒だ、とは言えなかった。
「あなた、何か隠していない?」
 読まれたか。
「別に」
「私は、あなたを本当の弟のように思っているのよ」
「すげぇ兄弟だな」
「ふざけないで。頼ってくれていいのよ」
 大勢の仲間に囲まれているが、麗華は天涯孤独の身の上だ。
「ああ」
「光や智紘のようなことだけにはならないでね。お願いだから」
 俺がジルのようになることを、麗華は受け入れてくれるだろうか……。


 この春、芽が出てしまったサツマイモを植えてみました。
 夏から秋は、蔓がどんどん伸び大きな葉が茂りました。昨日掘ってみると芋は一つも出来ていませんでした。去年は3本取れたのに、今年は栄養がみんな葉に行ってしまったようです。 

 今日の写真は「ヤクシソウ」(2005.11.19群馬県で撮影)
 薬師草と書きます。一昨日のリンドウと同じく、辛うじて咲き残っていました。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/11/19

青い薔薇

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「本当に、眠っているだけなの?」
「本人は眠ると言ってた。俺たちが眠るのとは違うんだろうけど」
 元々息をしていないし、心臓も動いていないのだ。眠っているのか、また動き出すのか、確かめようがない。
「綺麗な顔をしているわね」
 麗華は妄想の世界に入っている。
「――こんなに似合わないパジャマを着せて」
「着せたんじゃねぇ。自分で選んで着たんだ。触るなよ、後が恐いんだから」
「まぁ、せっかくお花に合わせて色を選んだのに。……起きたら渡してね」
 リボンが付いた派手な袋の中身はすけすけのネグリジェか?
 目覚めた時にそんなものに着せ替えられていたら、俺はジルに殺される。
 麗華は、大きな箱を開けて中から花を出し始めた。
 薔薇の造花。
 たくさんの青い薔薇。
「これはプリザーブドフラワー。元々は生きていたのよ。あなた、生花だと水を換えてくれないでしょう?」
 麗華は、俺が思った通りのことをする。
「言っとくけど、ジルは死んでねぇぜ。元々生きてねぇんだから」
「心細いのね、広木。今夜は泊まってあげましょうか」
「冗談じゃねぇ。何をされるかわかんねぇ。俺も、ジルも」
 もちろん冗談だ。こんなおかしな格好をしているが、麗華はノーマルな男だ。麗華は本名じゃない。
「美味しいものを作ってあげるわよ」
「ほんとか?……どうしてもっていうなら、俺の寝床を貸してやる。ソファでもいいか?」
 こう見えて彼女は料理上手。この申し出を断ることは出来ない……ところが情けない。
「わかりやすい人ね。寝る気なの?」
「朝まで酒か」
「当たり前じゃない」


 今日は出掛けていて、UPがこんな時間になってしまいました。妙義・松井田方面。紅葉も盛りを過ぎ、野草の花もほとんど見られませんでした。

 今日の写真は「リンドウ」(2005.11.19群馬県で撮影)
 竜胆と書きます。あまりに可愛い蕾だったので、撮してみました。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/11/18

眠る人形

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 いつもだったら、ドアを開ければすぐに出迎えてくれるのに。
 ベッドに横たわるジルは、声を掛けも目を開けない。
‘時には数年間、眠ってしまうこともあります。あなたが好きだから、今はそんなに眠りません。いつか一緒に、ゆっくり眠りましょう’
 そう言ってベッドに横たわると、ジルは動かなくなった。
 等身大のビスクドール。白い肌に巻き毛の金髪。
 目を開けば青い瞳だ。
 目を開けば……。
 
『まぁ、そうなの。今度は私の家で眠るように言ってちょうだい。あなたのところより絶対に寝心地を良くするからって。来てくれるのなら、ベッドを新調してもいいわ。ジルちゃんと一緒に選びに行って――』
 話を合わせるために麗華に電話をした。
 電話の向こう側の麗華は妄想状態。触るなと言っても触るだろうし、部屋中を薔薇の花で埋め尽くすに違いない。
 ジルは彼女の世話にはなりたがらないだろう。
「逢いに行っても良いかしら」
「あまり目立たないようにして来いよ」

「葬式帰りか……」
 麗華は頭痛がするような格好をして現れた。ふわふわした黒のロングドレスと帽子姿で、大きな箱を持って。
 目立たないようにって言ったのに。


 「眠る男」という映画をご存じでしょうか。
 群馬県民以外で知っている方は、かなりの映画好きの方ですね。1996年、県民200万人達成記念に県が制作した作品です。
 舞台は群馬県の山村。山で事故に遭い眠ったままの主人公「眠る男」の、周囲の人々のゆっくりとした生活を描いた映画です。介護をする母親、主人公の同級生、温泉に入る母親と赤ちゃん、水車小屋の老人と少年、駐輪場のオモニ、小さなスナックで働く南国出身の外国人女性たちの日常。
 紅葉、雪景色、ブナの森の新緑……山村の四季の映像が美しい、それを楽しむための映画なのかも知れません。
 季節が巡って、男は眠ったままこの世を去り、赤ちゃんは河原を歩くようになり、外国人女性は町を去る。
 クライマックスは、眠ったまま亡くなった拓次の同級生が山頂に立ち、ブロッケン現象で映った自分の陰に問い掛けるところでしょう。
「拓次、人間って、大きいんかい、小さいんかい」
 
 普段、単純明快なハリウッド映画ばかり見ているので、見終わった後の余韻に浸る、こういう映画もたまには良いですね。

 今日の写真は「ベニテングタケ」(2004.09.26群馬県で撮影)
 傘の上に乗せているのは1円玉です。ベニテングタケってこんなに大きくなるのです。
 なぜ、今日の写真はこれなのかって?
 撮影地は、武尊牧場キャンプ場の白樺林。近くのブナ林は「眠る男」のロケ地で、映画の撮影に使われた泉が残されているのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
麗華……クラブ〔Madam☆Rose〕のマダム。年齢不詳の超美形(♂)。

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2005/11/17

眠りのサイクル

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「どした?何か元気ねぇな」
 今は昼間のせいかもしれない。が、この間から元気がないように見える。
「そろそろ寝ようと思うのです」
「寝るのか?」
 そうか、眠かったのか。
「はい」
 稲作とジルが〔月の光〕のいつもの席で、ひそひそ話をしている。
「そうか、寝るのか」
「言っておきますが――」
「わかってるって。触らねぇよ」
 ジルの睡眠サイクルは俺たちと違う。眠るとなると何日も起きないのだ。初めて眠った時は2週間起きなかった。
 初めの2~3日は我慢した。5日を過ぎた頃、触ってしまったのだ。タオルで拭いたり、着替えさせたり。
 だって、5日も同じ寝間着を着たままなんて気持ちが悪いだろうと思ったのだ。
「私はあなたのように汗や皮脂を分泌しませんから、その必要はないのです」
 ジルは、着て寝たパジャマと目覚めた時に着ていた物が違ったから怒ったのだ。吸血鬼でも服を脱がされたのは恥ずかしかったらしい。
 いっそのこと映画のように棺に入っていてくれれば、気にならないし埃も被らないかも知れない。俺の家に置いておくのは恐くて嫌だけど。
 
「どうしたの?二人とも静だね」
 絹さんがやってきた。
「そうか?……こんどジルが2週間ほどマダムのところに泊まるから、その相談をしてたんだ」


 今、「デザイナー」を見ながら書いています。シリアスな少女漫画を実写にすると違和感が強いことが多いなかで、この作品はいいですね。若い人が綺麗なのは当然ですが、国生さゆりさんが美しい。おにゃんこ世代ではないので、アイドル時代をあまり知りませんが可愛かったでしょう。
 女性陣は派手に着飾ってもバラの花を背負っていても恥ずかしくはありませんが、朱鷺さんと柾さんを見ていると恥ずかしくなるのは何故でしょう。
 韓流ドラマも真っ青な結末は、原作通りなのでしょうねぇ。

 今日の写真は「ハンショウヅルの実」(2005.10.23東京都で撮影)
 半鐘蔓と書きます。名前は花の形を半鐘にたとえたものです。センニンソウの仲間のため、実の形も似ていますね。同じセンニンソウ属のクレマチスの実をご覧になったことが事がありますか。似ていますよね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/11/16

最後の恋

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「チョビ、落ち着いて聞けよ。今日はジルがいねぇんだから。ハナコがまた会ってくれるってさ」
「ワホッ!?」
 言った言葉がわかったのか、チョビの足取りが軽くなった。
 最後の恋。
 チョビを見ていてそう思う。
 犬は、人ほど見た目の年齢がわからないけれど、やはり老いてきているのだ。初めて会った時は俺と変わらない若者だったのに。……俺とジルもやがてそうなる。
 昨日の速攻アプローチは拙いけれど、気持ちはわからなくもない。飼い主が諦めてしまっている現在、でかい身体の2匹が出会う確率はゼロに近い。一緒に散歩していても会う犬はチョビとは合わないチビ犬ばかりだ。

「いらっしゃいませ、稲さん、チョビ。寒くなってきたね。――昨日は残念でしたね」
 いつもの通り〔月の光〕に寄ると、マスターの絹さんがミルクを持って出てきた。
「それがさ――」
「ほんと?」
 絹さんは、自分のことのように喜んだ。 


 以前も迷惑トラックバックについて書きました。
 普通のサイトさんでしたら内容に繋がりがなくても、歓迎してこちらからも遊びに伺っています。
 電子メールを確認すると、トラックバックが付きましたというメールが入っていました。全部英文です。学校で6年も勉強したのに読めません。……ヒロシです。じゃなくて、嫌な予感がして見に行ってみると思った通りの画像サイトです。早速消して一安心、も束の間、翌朝また別の英文のサイトが……。行ってみたら今度は男同士で抱き合っている!ドキドキしちゃうじゃありませんか。どうしてなんでしょうねぇ。

 今日の写真は「サワフタギの実」(2005.10.15長野県で撮影)
 沢蓋木と書きます。名前の由来は、沢を覆うように茂るから。春にはたくさんの白い花を付けるサワフタギですが、秋には写真のような青い実になります。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/11/15

チョビの恋

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 ケーキを平らげミルクを飲み終えたチョビは、ハナコに突進した。
 驚いたハナコは逃げ惑う。
 チョビは、止めに入った稲作を押し倒して抱き付いた。チョビは80㎏近くある。俺より重いのだ。そのうえ、もの凄い馬鹿力だ。
「止めろ!チョビ!みっともねぇじゃねぇか!俺、お前みたいな性格してねぇぞ!――止せ!ワ~ッ!!」 
 今まで見合いが成立しなかった理由がわかった。いつもこれで失敗しているのだろう。
「チョビ!!」
 ジルの一声で、シュンとなって尻尾を巻くチョビ。さすがは狼さえも僕(しもべ)にするだけのことはある。同席してもらって良かった。
「チョビ、慌ててはいけません。女の子には優しく接しなければいけません」
「助かった。レイプされるかと思ったぜ」
「油断するからです。心がチョビを見ていなかったのでしょう」
 見抜かれた。ハナコの飼い主の有紀に気を取られていたのだ。
「稲作」
 ジルは小さな声で囁いた。
 内緒話か?
 ジルの口元に耳を近付けると、ぺろりと頬を舐められた。
「おい、止せ」
 キスされたみたいに見えるじゃないか。
「有紀さんは、ハナコを追って行きました。後で絹さんに絆創膏をもらって下さい」
 引っかかれて滲んだ血を舐めたのだ。何て目敏い。他を要求しない所を見ると傷は1カ所だ。
「ご馳走様でした」
 ジルは言い残して、ハナコと有紀の後を追った。
 この日のお見合いは中断。たぶん破談だ。

 翌朝。
 悄気てとぼとぼ歩くチョビを連れて、散歩していると携帯が鳴った。
 有紀からの電話は、「また会って下さい」というものだった。
 ジルが二人を説得したのだろう。彼の魅力で。
 

 今日、紀宮様が結婚されました。素敵なカップルですね。穏やかで暖かい家庭を築かれることでしょう。
 僕は、お二人に感謝しているのです。ニュースで流れる映像に、黒田さんがフィールドスコープ(望遠鏡のような)を持ち、紀宮様が双眼鏡を下げている姿が映ります。宮様は、皇居のカワセミを研究されていて、山階鳥類研究所に勤められていました。
 紅白歌合戦で紅白の数を数える印象が強いバードウォッチングを、少し違うイメージにしていただけたように思うのです。

 今日の写真は「ヒラタケ」(2004.12.18群馬県で撮影)
 野生の物は、こんなに大きくなります。野生といっても、これは家の庭の切り株に生えていた物。去年は食べる勇気がありませんでした。今年は切り株がボロボロになっていて、もう生えてきそうにありません。
 ちょっと前まで「しめじ」の名前で売られていましたが、今は、「ぶなしめじ」に立場を追われてしまって、あまりスーパーで見られなくなってしまいましたね。たしかに、形はブナシメジの方が絵になりますね。ヒラタケには、ブナシメジにない歯ごたえや香りなど、美味しさがあると思います。
 昨日久しぶりに売っていたのでお吸い物にしてみました。こんな香りだったかしら、と違いを思い出しました。
 このヒラタケ、西欧ではオイスターマッシュルームと呼ばれて親しまれているそうです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/11/14

順位

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 2匹は大人しくケーキを食べているが、お互いを意識しまくっているようだ。相手が立てる物音にピクピクと反応している。
「俺は広木稲作。チョビの散歩係だ。この話、飼い主からもよろしくと頼まれているから、心配はいらねえ」
 チョビには何度かこういう機会があったようだが、毎回不成立だったらしい。
「私はジル。チョビと稲作の友だちです」
「こいつは犬の気持ちが良くわかるんだ。だから、一緒に立ち会ってもらった」
「チョビ、おかわりはいかが」
「ガルルルルルゥ」
 声を掛けた絹さんを威嚇するチョビ。
「こら」
 見合いの印象が悪くなるじゃないか。
 チョビの中では、ジル>稲作>チョビ>絹さんという順位がある。絹さんはチョビより格下なのだ。これでジルが同席している理由もわかるだろう。俺の手に負えなくなってもジルの言うことには絶対服従なのだ。
「……ところでハナコは幾つだ?」
「3歳です」
「成立したら犯罪に近いな。チョビは10歳のオヤジだ」
 絹さんと妙の歳の差よりも大きい。
「ワホッ」
 チョビは余計なことを言うなと俺を睨んだ。
「仲が良いのですね。何となく似ているし……ごめんなさい」
「いいのですよ、稲作とチョビは性格も似ているから気が合うのです」
 と、ジル。
 有紀はジル興味津々の様子。先からチラチラと彼を見ている。当然の反応だ。 


 昨日「TRICR」を見ました。ずっとこの作品のファンで、最初のシリーズから見ています。初めの頃は間に慣れるのに時間がかかりましたが、慣れてしまうと独特な世界観から抜けられなくなるのです。毎回のゲスト出演者は好みの性格俳優さんばかり。随所にちりばめられたオヤジギャグ的なグッズや地名も見逃せません。
 この作品で、仲間由紀恵さんと阿部寛さんが好きになりました。

 今日の写真は「ヤマボウシの実」(2005.10.16群馬県で撮影)
 山法師と書きます。街路樹としても植えられていますから、見たことがある方も多いでしょう。「頭状の花序を僧兵の頭に、総苞片を白い頭巾に見立てたという説がある」と図鑑に書かれています。花が義経の家来の頭巾をかぶった弁慶みたいということでしょうか。
 写真を撮り終えて、さて、一ついただこうかと手を伸ばした時、ブーンという聞き慣れた聞きたくない低い羽音が。あきらめて、そうっとその場を立ち去りました。甘く柔らかいヤマボウシの実はスズメバチの大好物なのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/11/13

見合い

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「ご趣味は?」
「食うことと寝ること。それと走ることだ。そっちは?」
「まぁ!同じだわ」
 俺と向かい合っているのは、皆さん予想の通り、超が付くほど美人。二十歳前後と思われる、小柄な女の子だ。
 場所は喫茶店〔月の光〕。
 客が座っているのを見たことがないオープンカフェスペース。たまに夏場、客でもない年寄りが団扇で蚊を追い払いながら、夕涼みをしていることがある。今の季節、大人しく座っているにはちょっと寒い。
「ごめんなさい。店の中に入っていただけないものですから」
「いいえ、楽しいですわ」
 絹さんが、コーヒーとケーキを3組持ってテーブルに置いた。
 後ろからジルが、大きな犬用の水入れに入ったミルク2つと、直径20センチのケーキを半分に切り分けたものを皿に入れて俺たちの足下に置き、空いた席に座った。チョビはガツガツ食べ始める。
「ワンちゃん用に塩分と糖分とバターを控えていますから、心配はいりませんよ。こんなに美味しそうに食べてくれるのなら、ドッグカフェにでもしようかなぁ」
 チョビを見ながら、絹さんは言う。そんな味気ないケーキが美味いのか?チョビ。
 こんな田舎にドッグカフェの需要がある訳がない。都会には、人間のより高いケーキを食わせて、自分の旦那より高い服を着せて、自己満足に浸るオバサン達もいるらしいが。
 チョビの見合い相手は、ご主人の許しが出るまで大人しくお座りをして待っている。白地に黒の斑点があるハールクインというホルスタインの子牛のような柄をした、グレートデーンのお嬢ちゃんだ。「待て」も訊かないチョビとは育ちが違う、っていうか普段は言うことをきくのに。もしかして、照れているのか、緊張しているのか。
 チョビはフォーン、ベージュ色で口の辺りが黒い。これが、彼の犬相をより悪くしている。
「チョビ、一人で食ってんじゃねえ。あの――」
「この子の名前はハナコです。私は、山田有紀。ハナちゃん、食べていいわよ」
 ヤマダハナコか。この娘、こだわりがないタチのようだ。
 ハナコは、この種類の犬ってこんなに品良く食べることが出来るのかと思うほど、綺麗な食べ方でケーキを食べ始めた。


 グレートデーン。小さな子供なら、背中に乗れそうなほど大きな犬です。一度だけ出先で見かけたドッグランで走り回る姿を見たことがあります。思っていたより大きくて、驚きました。

 今日の写真は「カジノキの実」(2005.10.16群馬県で撮影)
 梶の木と書きます。コウゾ属クワ科の植物で、和紙の原料として栽培されていました。その野生化したものに、時々河原で会うことが出来ます。高さは4~10メートル。葉も桑より大きく厚いです。直径3センチほどの丸い実は食べられるそうです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/11/12

拉致?

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「ジル、いつから気付いた?」
「つい、先ほど」
「俺もだ。付けられているのは俺か?――お前か?」
「わかりません」
「チョビか?」
「ワホッ」
「何々、どうしたの?」
「あいつだ」
 俺は、物陰からこちらをのぞいているヤツの方を見ずに、後ろを親指で指さした。
「誰も居ないよ」
 絹さんが見た時には、物陰に隠れたのだろう。
「あんた、とろいからな。気色悪ぃからとっ捕まえてくらぁ」
「私が――」
「お前、中で休んでろ」

「おい、あんた!朝から気色悪ぃんだよ、何の用だ?」
 〔月の光〕の様子を伺う男の肩を叩いた。
「うわぁ!」
 男は飛び上がった。
 裏口からそっと出て、男の後ろに回り込んだのだ。
 そんなに警戒する心配のない、絹さん型の中年男だ。
「話は中で聞こうじゃねえか」

 拉致してきた男に、コーヒーを出すように言われた。
 何だか酷くおどおどしている。
 コーヒーを一口飲んだ男は言った。
「あのぅ、お見合いをしていただきたいのです」
 見合い!?


 今朝起きた時には、雨が降っていましたが、今は風が吹き、照ったり曇ったりの不安定な空模様です。
 雨の後は、雨を待っていたキノコの芽が、あっという間に成長するのですって。公園に行くと、遅咲きの何かに出会えるかの知れませんね。
 遅いと言えば、先週文化の日に、何で今頃という鳴き声を聞きました。ツクツクボウシです。鳴いても雌は来ないでしょうに‘いと哀れなるほどなり’ですね。
 歌心でもあれば何か浮かびそうですが、僕らの会話は、
「鳴いても、ヒヨドリに見つかって、食べられてしまうだけなのに」でした。

 今日の写真は「シロソウメンタケ」(2005.10.23東京都で撮影)
 シロソウメンタケ科のキノコです。食用になるそうですが、写真のものしかなかったため、取らずに置きました。図鑑では、肉は白く、はなはだもろい、と説明されていました。観察者としては、さわって匂いを嗅いで食べてみるべきでしたね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
にゃうたろう……〔月の光〕にミルクをねだりに来る野良猫。
チョビ……稲作が仕事で散歩を請け負っているグレート・デーン。
ねずみ&こうもり&オナガのぴょん太……ジルの友達。

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2005/11/11

尾行?

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「どうした!」
 〔月の光〕に向かって走り出すと、ジルが付いて来ないことに気付く。
「何でもありません」
「飯、食って来たのか」
「今日もバイトに行きますから」
「腹減ってるんだろ」
「大丈夫です。少しふざけ過ぎました」
 ジルは眩しそうに空を見上げた。
 今朝は快晴。朝の光はジルにはきついのか。
「遠慮しなくていいんだぜ」
「していません。あなたには、特別な時にいただきたいのです」
「わかった」

「ちわ~す」
「おはようございます。稲さん、ジルちゃん、チョビ」
 いつも通り、俺たちの帰りを待っていた絹さんがチョビのミルクを持って外に出て来た。
「今日はいい天気だねぇ」
 チョビは、もらったミルクを豪快にジャブジャブ音を立てて飲んでいる。
 腹を壊すんじゃないかって?
 大丈夫。チョビが飲んでいるのはドッグ・ミルク。缶に入った粉ミルクを溶いたものだ。
 それほど美味くはない(こっそり飲んでみた)と思う。

「なあ、ジル」
「はい」
「気付いているか」
「はい」
 こんな早朝だというのに、俺たちの後を付けて来ているヤツがいる。
 

 今週3度目の喪服です。野鳥観察の大先輩が亡くなりました。
 季節の変わり目で風邪も流行っています。皆さん、お体に気を付けてお過ごし下さいね。

 今日の写真は「ツルリンドウの実」(2005.11.03群馬県で撮影)
 蔓竜胆と書きます。花は色が薄くて地味ですが、こんなに可愛い実が付きます。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/11/10

ミミクリ

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 朝の河川敷。
 いつものように、チョビを連れて散歩をしていた。
「稲作、無事でしたね」
「あのなぁ」
 無事に決まっているじゃないか。そう何回も柿の木から落ちてたまるか。
 バイトの翌朝、ジルは始発に乗って帰ってくる。寝ていないはずだがいつもの通り。眠るサイクルが普通の人間とは違うのだ。
「チョビ、良い子にしていますか」
「ワン!!」
 ジルには大人しく従うチョビだが、人には飼い主と便利屋の親方と俺にしか懐かない大型犬だ。
「牛乳もらいに行こうぜ」
「ワン!!」
「なぁ、ジル」
 〔月の光〕に向かいながら話す。
「はい」
「いまさら聞くのも何なんだけど」
「?」
「お前、初めてあった時、黒髪で黒い瞳だったよな?」
「こんな風に?」
「うわっ!」
 一瞬で髪と瞳の色が変わる。ホラー映画も真っ青だ。
「こちらでは、金髪と青い目に見えるように暗示をかけているのです。そのせいで顔のパーツの印象が薄らぐでしょう」
「そうか?」
 動悸が治まらない。
 現実ではどっぷりと浸かっているのに、ホラー映画は大嫌いだ。
「来日するまで、日本人はみんなあなたのような黒髪だと思っていました。顔も凹凸が少なく似た印象だと」
「来てみてビックリだったろう?」
「はい。赤や青の髪や瞳の人もいます」
 ジルのバイト先は新宿。東京には色々な格好のヤツがいる。
「ご主人様」
 一瞬、青い髪と赤い瞳に変わったジル。
「うわっ!!」
 あまりのショックに、萌え~という感情は湧かない。
「ま、まさかお前、サムライやニンジャが居るとは思っていなかっただろうな」
「少しだけ」
 ジルにとっては江戸時代なんて、つい最近の事なのだ。


 リンクに、掲示板 喫茶店〔月の光〕を加えました。
 本館〔みけのみちくさ〕の掲示板です。「ブログ」のコメントとは違う味わいがあるものなのですが、あまり活用されていないのです。
 管理人は僕ですので、よろしかったら遊びにいらしてみて下さい。

 今日の写真は「アゲハモドキ」(2002.06.16群馬県で撮影)
 本人にとってはあずかり知らぬことでしょうが、モドキ、とか、ダマシ、とかが名前に入るのは気の毒な気がしますね。食草は、ミズキ・クマノミズキ・ヤマボウシ。アゲハモドキガ科の蛾の仲間です。
 今日の題名はミミクリ(擬態)です。アゲハモドキはジャコウアゲハに擬態しています。
 なぜでしょう。
 ジャコウアゲハはウマノスズクサを食草にします。幼虫がウマノスズクサにある毒分を体内に取り込む毒蝶なのです。ゆっくり飛んで、鳥などに毒蝶であることを見せつけるのだそうです。
 アゲハモドキはジャコウアゲハの真似をして、食べられないように毒のある蝶になりすましているのですって。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/11/09

収穫

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「ギャーッ、キャッキャッキャッキャッキャッ!」
 頭のちょっと上の枝に、オナガのぴょん太が止まって鳴いている。近くで聞くと随分な騒音だ。
「うるせえなぁ、お前のせいで木から落ちるぜ」
 今日はお千代ちゃんの家の柿をもいでいる。
「稲作、気を付けておくれよ。前みたいに落ちて脚折ると大変だからね」
 何年前のことを言っているんだ。6,7年も前の話じゃないか。年寄りにとってはつい最近の出来事なんだろう。
 ジルも誰かから聞いたに違いない。きっとその誰かは面白可笑しく話したのだろう。おかげでぴょん太の監視がうるさい。
「最後の1個は残しておこうな」
「今年は落ちずにすんだね」
「またそれを言う」
 週に一日、お千代ちゃんの家に来る。ひとり暮らしの彼女の、男手が必要な家事を手伝う家政夫のような仕事だ。ここ何回かは、来るたびに柿の収穫を手伝った。
「さあ、お食べ。今年はほんとに豊作だったねぇ」
 鉢に山盛りに盛られているのは、前に収穫した柿。渋柿だから樽柿にしたものだ。
 縁側に腰掛けて、渋茶と柿とせんべいをもらう。
「おーい、ぴょん太!こっちの柿の方が甘えぞ」
「ギャーッ?」
 木の上から、返事が返ってくる。
「へーえ珍しい。飼っているのかい?」
「ジルの友だちなんだ」
「来いよ!」
 柿の木の根本に一欠片置いてやったら飛んできてくわえ、もと居た枝に戻った。
「可愛いもんだねえ」
「ギャーッ!」
 ぴょん太は羽根をばたつかせて鳴いた。喜んでいるようにも見える。
「可愛いかねぇ」
 !!
 靴の上を走り回るのは、大きなネズミ。
「お前もか」
 俺と目があった大きなネズミは、長い2本の前歯をむきだして頭を激しく縦に振っている。
「ヨロシク!」とでも言っているように。 


 上記の会話にある柿の木から落ちたエピソードは本館の短編「Indian summer」にあります。超オバカなお話ですが、よろしかったらご覧になってみて下さい。

 
 今日の写真は「ツチグリ」(2005.11.05群馬県で撮影)
 土栗と書きます。このキノコには、ちょっとした里山でも出会うことが多いのです。
 湿度によって開閉する、キノコの晴雨計と言われているそうです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。
ねずみ&こうもり&オナガのぴょん太……ジルの友達。

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2005/11/08

悲しみの演出

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「ちわ~す」
「いらっしゃいませ、稲さん、ジルちゃん」
「どうしたんだ?」
 昨日、一昨日の臨時休業のことを訊かれている。
「ちょっとね」
 お客様に一時の安らぎを味わっていただくための喫茶店。話すことはルールに反する。でも、僕らは客と店主以上の関係にあると思っている。
「言いたくなきゃいいけど」
「伯父が亡くなってね」
「そうか。親交が深かったのか?」
「6年ぶりだった。最後に会ったのは伯母の葬儀のとき」
「そうか」
「僕ぐらいの年齢になると、こういう話の方が多くなる」
「そうだろうな。仕方ねぇさ、順番なんだから」
「ありがとう」
 稲作は、僕の肩を2回叩いてジルと一緒にいつもの席に向かった。これが彼の優しさなのだ。

 いつも静かなジルだが、今日は特に大人しい。いつも通りに、手のひらで包んだブラッドオレンジジュースを見詰めている。
「どうした?」
「あなたには、不思議に感じるかも知れませんが、私にも絹さんの気持ちはわかります。何回体験しても、慣れることはありません」
「わかってるさ」


 僕の年齢になると、親類や知人の葬儀に立ち会う機会が増えてきます。今は自宅ではなく、葬祭ホールでの別れが多くなりました。
 必要なもの全てが揃っているし、マニュアルもしっかりしています。結婚式場よりも葬祭ホールの建設が多いのは、需要が増えているのでしょう。
 故人が好きだった音楽が流れ、祭壇には、好きだった本や小物が展示され、メッセージカードや、折り鶴ようの千代紙まで並べられていました。葬儀の前にはスクリーンに「千の風になって」の詩と、美しい風景が映りました。
 一番驚いたのは湯灌(ゆかん)の儀式でした。親戚一同の目の前で、シャンプー、ひげそり、爪切り、タオルケットの下で全身を泡立てた石けんを付けたスポンジで洗い上げるのです。手を洗ってあげてくださいと言われ、近い親族だけ伯父の手を洗いました。直前まで冷やされていた冷たい手でした。ここまでの湯灌に立ち会ったのは初めてでした。慣れていないせいなのでしょうか、気持ちは複雑でした。
 業者のどんな演出よりも、最後のお別れで、伯父に話し掛けていた伯母の姿に泣きました。

 今日の写真は「キッコウハグマ」(2005.11.05群馬県で撮影)
亀甲白熊と書きます。閉鎖花(花を咲かせずに実になる)を付けたものには時々思いがけない所で出会うのですが、花を見たのは初めてです。高さ10センチほどの小さな多年草で、急ぎ足で歩いていると見過ごしてしまいそう。でも、こうしてみると可愛いでしょう?

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/11/05

「準備中」

「あれ?」
「どうしました」
 〔月の光〕に「準備中」の札が下がっている。灯りも点いていない。
「人の気配がしねえな」
「どこかにお出かけでしょうか」


 伯父が亡くなりました。
 子供の頃、遊びに来てお土産を買って来てくれたり、お小遣いをくれたり、してくれた伯父でした。

 明日、明後日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます。

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2005/11/04

卵かけご飯のこだわり

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「腹減ったな。飯と卵!」
「またお金がないのですか?好きな物を食べてください。私が支払います」
「今日の気分が飯と卵なんだなぁ、これが」
「僕も真似したい気分だな」
「珍しい」
「この間、ニュースでやっていたんだよ。10月30日は卵かけご飯の日なんだって。みんな凄く美味しそうに食べてた。……君の食べっぷりには負けるけどね」
 稲作は大盛りのどんぶり飯の真ん中に箸で穴を開け、生卵を割り落とした。真っ黒になるほどしょう油をかけている。
「何か体に悪そうな食べ方だね」
「しょっぱい方がいっぱい飯が食えるんだ。そっちこそ何だよ、女っぽいな。それに洗い物が増えるじゃないか」
 別の小鉢に割入れて、カラザを取ってよくかき混ぜる。しょう油を少し垂らす。普通の食べ方だと思うけれど。
「カラザ気持ち悪いし、黄身と白身、ちゃんと混ざっていた方が美味しいでしょ」
 ジルまで真似してどんぶり飯をかき混ぜている。
「――あっ、ジルちゃん、それソースだよ」
「絹さんのご飯を一口下さい。……私のソース味の方が美味しいように思うのですが」

「こんばんは。どうしたの?みんなで侘びしく」
 やって来た妙ちゃんが言った。
「いらっしゃいませ、妙ちゃん」
「今日の気分なんだ。妙もどうだ?」
「美味しそうだけど、生卵は苦手だなぁ。……絹さん、ご飯とバターを1カケちょうだい。マーガリンじゃ駄目だよ。それと、うま味調味料ある?」
 妙ちゃんは、熱いご飯に穴を開け、バターを埋め、周りにしょう油を回しかけた。その上から、うま味調味料を振りかけて、かき混ぜている。
「ゲッ!妙、何やってんだ?お前」
「ボクの定番はこれなんだよね~。北海道名物バターご飯。食べてみる?」
「いらねぇ。ほんとに名物なのかよ」
 4人で並んで食べる。
 どんぶり飯にはカウンター席がよく似合う。
 

 シンプルな料理(って言わないかな)に限って人それぞれに思い入れがあるのですね。
 ニュースでは野外の会場で、色々な種類の卵、調味料、トッピングの漬け物など、参加者は楽しそうに思い思いの卵かけご飯を食べていました。
 目玉焼きも、焼き加減やかけるものに人それぞれのこだわりがありますよね。僕は子供の頃はソース派でしたが、今はしょう油にコショウ。これを思い出すとジルちゃんの作ったソース卵かけご飯もありかも知れません。
 卵焼きだって、家庭や地域によって思い入れのある味があると思います。出汁巻き卵、砂糖を入れた甘い味、塩味など。僕にとっての卵焼きは、砂糖に塩をひとつまみ入れた甘い味、母が作ってくれたお弁当の卵焼きの味です。
 
 今日の写真は「本日閉店(タマアジサイの実)」(2005.10.23東京都で撮影)
 写真は花が咲き終わった後の玉紫陽花。つぼみの時はまん丸の玉のよう、それが割れて、花火のような紫色の両性花(真ん中の部分)と白い装飾花(周りの花びらのような)が咲きます。
 自然観察の先輩と歩いていると、面白いことを教えていただくことがあります。花が終わって実を結ぶと、周りの装飾花が下を向いて、本日は閉店しましたって看板を返すのですって。 

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/11/02

ザクロの味

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「ちわ~す」
「お帰りなさい、稲作!」
「いらっしゃいませ」
 ここは喫茶店〔月の光〕。
「ジル、もう来ていたのか。ちょうどいいや。お千代ちゃんの家になってたのをもらってきた」
 いつも通りの夕方。いつもの席に着いた稲作は、手に持っていたスーパーの袋から何かを取りだし、ジルに手渡した。
「何ですか?」
「食ったことねえのか。それはいい、この味の感想をお前に聞いてみたかったんだ」
 稲作が手で二つに割ったのはザクロの実。
「美しい。宝石のようです」
 ジルはザクロの実を一粒摘み取ると、光にかざしながら言った。
 いわれてみれば、宝石のガーネットのことをザクロ石という。割った様子と結晶が似ているのだ。
「歯で軽くジャリジャリやって、周りの汁を吸ったら、種は吐き出すんだぜ」
 相変わらず、母親のよう事を言う稲作。ジルには意味がわかっていないようだが、素直に口に入れている。
「どうだ?」
「甘酸っぱい果物の味がします」
「他には?」
「味がするだけで、食べた気がしません」
「なーんだ、お前でも特別な味はしねぇのか。……子供の頃、祖母ちゃんに脅かされておっかなくて食えなかったんだ。人の子供の味がするんだって言われて」
「鬼子母神の伝説だね」
 水を出しながら、僕は言った。
「人の味?」
 ジルは、再び幾つかの宝石のような実を取りだして口に入れてみている。


 昨日、ドラマ「火垂の墓」を観ました。
 毎年終戦記念日近くに1度は放映されるアニメ版は観たことがありませんでした。観ることが出来ないでいたのです。お恥ずかしい話ですが、子供と動物の受難ものには涙腺が壊れてしまうのです。このお話は、題名を見るだけで駄目でした。
 今回、ついに見てしまいました。哀れな兄妹の姿に、涙腺は予想通りの反応でした。でも、見てよかったと思っています。兄妹を悲劇に追いやった時代、祖母の生きた時代を見ることが出来たからです。松嶋菜々子さんが演じた久子さんに祖母の姿を重ね合わせました。祖母は早くに祖父を亡くし東京から疎開してきて、女手一つで6人の子供を育てました。農家の人に着物と食料の物々交換をしてもらった話や電車に揺られて闇米を買いにいったを聞かせてもらったことがあるのです。
 祖母は気が強い明治生まれの女性でした。気が強くならなければ生きていけなかった時代を生きてきたのだと、祖母を懐かしく思い出しました。
 番組の最後に、世界には今でもあの兄妹ような子供達がいるというテロップが流れました。
 重い現実を突き付けられました。
   
 今日の写真は「ザクロの実」(2005.11.2群馬県で撮影)
 石榴と書きます。西南アジア原産。
 春に咲く花も独特の朱赤で独特の色をしています。実はもっと美しく宝石のようですね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/11/01

キャラクター問答

PICT00381
「あれ?」
「あれじゃねぇよ。前も言ったろう、脅かすなって。また篠原先生に来てもらったんだからな。おかげで俺が怒られちまったぜ」
「何?」
「何じゃねえよ。……打ち所悪かったのかな」
 僕は〔月の光〕の奥の小部屋で寝ていた。傍に稲作がいる。
 そうだ!
「ジルちゃんは?」
「先に帰した。今何時だと思ってるんだ」
 時計は12時。
「ランチタイム……」
「夜だよ。さっきは夕方だったろう。……ほんとに、どういう精神構造してんだ?タヌキが化けてるんじゃねぇだろうな。シッポが生えてても驚かねぇぞ、俺は」
「ごめんね。ジルちゃん見たら、ブラッシー思い出して」
「何だ?そりゃ」
「噛み付きレスラー。……腕、大丈夫?」
「ついでに篠原先生が診てくれた。ジルは、噛み付いたんじゃなくて舐めたんだ。あいつ、傷は舐めれば治ると思ってるから」
「そうなの?……ジルちゃん気を悪くしちゃったかなぁ。良い子だっていうことはわかっているんだけれど、恐いんだ、アンティークドールみたいな青い瞳が」

 極楽とんぼの絹さんでも、ジルの異常さを感じるのか。

「腹減ってない?サンドイッチがあるぜ。妙が作ったんじゃないから。ジルが作っていったんだから大丈夫だ」
「ありがとう」
「前から聞こうと思ってたんだけど」
 俺は下手くそなコーヒーを淹れながら言った。
「なあに」
「ここに出入りしている連中って美形が多いだろ?」
「そうだね、おかげで目の保養になる」
「なのに何で主役の俺が猛犬顔なんだ?どうも納得がいかねぇ」
「僕に言われてもねぇ。筆者は個性派脇役好きだそうだから、それでじゃない?君は智紘君が生きていた時は、脇役だったじゃない。……僕だって店の看板背負っているのに、何度会っても思い出せないような無個性な人という人物紹介だよ」
「気絶魔って言うのも入れといてもらった方がいいな」
「も~う。……そう言えば、この間聞いたんだ。2時間ドラマ好きの筆者は、月9を振って2時間ドラマの帝王と女王の夢の共演を見たらしい。何でも、いつも主演女優の使い走りみたいな役ばかりだった帝王が狩矢警部の役で、女王はその奥さんだったとかで大層な喜びようだった」
「俺たちって、そんなやつに書かれているのか……」
「そうなんだよ……」 
 二人は大きな溜め息をついた。


 今日の写真は「メナモミ」(2005.10.23東京都で撮影)
 豨薟と書きます。花が咲いているのに地味で目立ちません。良く見ると花の周りにベトベトした粘液を出すせん毛がありますね。
 同じひっつき虫でも、メナモミはベトベトで、オナモミはカギ状のトゲでひっつきます。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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