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2005/10/18

命日

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 あの頃。稲作は、今のアパートと同じ土地に建っていたボロボロのアパートに住んでいた。
《あの夜。
「俺ん家に泊まるの久しぶりだな」
「そうだね。電気、点けないで」
「襲う気か」
「ふふっ、やっぱり素敵だ」
 智紘がカーテンを開けると、青白い光が部屋の中を照らした。
「明日は満月なんだ」
「そんなもんいちいち覚えているのか?」
「みんな知っているよ、昨日は十三夜だった。和菓子屋さんの店先にススキがあるの気付かなかった?」
「知るかよ」
「お団子、食べ損ねたな」
「明日、食えばいいじゃないか」
「明日は売ってないな。……それに、月見の日に食べないと意味がない。縁側に台を置いて、お団子と、ススキと、秋の実りをお盆に乗せて――」
「俺ん家は、柿、栗、なし、ミカン、サツマイモだったな」
「お月様に暫く見て頂いてからいただきなさいっていうのが待ち遠しくなかった?」
「そういえば、耕作と二人でお袋の許しが出るまで正座して待った覚えがあるな」
「年に二回しか食べられない特別なお団子だったんだ。ただ上新粉を丸めただけなのに、おいしかったんだよ」
「俺は、こっちに来て驚いたんだ。中にあんこが入ってなかった」
「稲作の田舎のお団子はあんこが入っているんだね。……ねえ、ここってこんなに静かだった?」
 虫の鳴く声だけが聞こえている。
「二年も経つとガキも成長するのさ。朝なんか、きちんと挨拶が出来るぜ」
「そうだよね。……これ、食べる?」
 成長してないのはぼくだけだ。
 沼田のおじいさんにもらったリンゴを渡すと、稲作は自分のTシャツでちょっと拭いて囓った。カリッという良い音がする。
「稲作、ありがとう。きみに会えてよかった」
「?」
「十歳の夏休み、ぼくが庭に出ていなければ、きみが庭に迷い込んで来なければ、ぼく達はこうしている事はなかっただろう。縁ていうのは不思議だね」
「ああ」
「楽しかったな」
「何が?」
「今まで」
「これからだって、楽しいことあるぜ」
「そうだね。ぼくはとても幸せだった」
「過去形にするな」
「こだわるね?今も幸せだよ。みんなに愛してもらえたもの」》
 智紘と過ごした最後の夜。
 翌日、おまえは、あっけなく死んでしまった。
 俺は、おまえの事を守ってやれなかった。

 あれから5年……。
 俺たちはみんな元気でやってるぜ。新しい仲間も増えたし、妙もお前の傍に来ている。
「私もお参りしてもいいですか」
「もちろんだ。喜ぶぜ。……智紘、こいつが新しい仲間のジルだ。絹さんと妙はあとで来るから」
 仕事前の早朝の事だ。


 今日の写真は「ナメコ」(2005.10.14長野県で撮影) 
 野生のナメコは栽培品と似た形で生えていますね。説明の必要がない美味しいキノコですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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投稿: Bella | 2014/01/22 06:17

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