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2005/10/06

大人の科学

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「皆さん、準備が出来ましたよ」
「何だ?何が始まる?」
 店の電気が消え、天昇、壁、一面に満天の星空が広がった。

「なんだなんだ?カラオケでも始めるのか」
「やはりここは暗いから、よく映りますね」
「オリオン座はどれだ?俺はそれしかわかんねぇんだ」
「親方、カシオペアや北斗七星くらいわかるだろう。これと、これだ」
 篠原先生は天井の星に向かって指を差す。
「どれどれ?わかんねえなぁ」
「これが夏の大三角形。この明るい星が、ベガ、デネブ、アルタイル」
「大三画関係?すげーなぁ」
「親方、一杯飲んでるのか」
「よし!稲の意見に乗った。……♪別れ~るこ~と~は辛い~け~ど~」
「しょうがないなぁ、親方、私はこの歌がいい。♪あの娘~どこにいるのやら~」
 〔月の光〕に集まったオヤジ達の声は、妙に生き生きしている。
「絹さん、こりゃ何だ?何の集まりだ?」
「何の集まりだろうねぇ。これ、‘大人の科学’っていう本の付録なんだよ」
「オトナの?エロ本か?」
「違う!僕と親方は学研世代なんだ」
「ガッケン?」
「僕らが小学生の頃はね、毎月学研のおばさんが‘科学と学習’っていう雑誌を学校に売りに来たんだ。付録が毎月楽しみでね」
「俺は学習しか買わせてもらえなかったぜ。少し勉強しろって」
 と、親方。親の言うことを聞かなかったようだ。
「私が子供の頃はそういう本はなかったな」
 篠原先生は二人よりだいぶん年上だ。ここにいる理由は、星が好きだからなのだろう。
「僕は、科学派でした。トランジスタラジオなんか必死で組み立てて、聞こえた時の嬉しかったこと」
 絹さんは、子供のようにはしゃいでいる。
「?」
「本屋にこれが売っていて、子供の頃のことを思い出したら、つい買っちゃたんだ。今月の付録はピンホール式プラネタリウム」
「以外と細かい作業だったな」
「子供の頃より、指先が鈍ったのかも知れないですね」
 絹さんと親方は共同作業をしたらしい。

「皆さん、こんばんは。歌声が聞こえていました。コンサートですか」
「ジルちゃん?いらっしゃい」
 ジルは真っ暗な店の中をすたすたと俺の方にやって来て、耳元で囁いた。
「黙って出て行かないで下さい。あなたが暴れたら私しか押さえられないでしょう」
「もう暴れねぇよ。お前、顔の傷は?」
「治りました。お陰様で」
「ジル君、体調はどうかね?」
 この中で、俺の他に篠原先生だけがジルの秘密を知っている。
「良好です。今は特に。ねえ、稲作」
 一瞬、ジルの全身が輝いた。
「ばかやろう」
「……絹さん、ピアノを弾いてもいいですか」
 ジルが奏でたのは、ディズニーの星に願いを。

 
 〔月の光〕の僕らの会話は、先日のきのこ狩りの夜にされた話が元になっています。
 夏の大三画関係とか、学研の科学と学習とか、大人の科学とか。
 その時の話題になったピンホール式プラネタリウムの付録が気になって、買ってしまいました。組み立ては久しぶりに楽しめましたし、僕は気に入りました。
 
 今日の写真は「ツクバネソウの実」(2005.10.01群馬県で撮影)
 名前の通り、羽子板の羽根みたいですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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