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2005/10/31

たぬき寝入り

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「嫌です。稲作に危害を加えたら、私はあなたを許しません」
 言葉に反応した和哉の部下2人が、ジルに飛び掛かった。
 弱々しく見えるジルが、大切な和哉にかけた言葉が許せなかったのだろう。愚鈍な彼らにはジルの能力を感じられないのだ。
 手を出さなくてもジルは自分で避けらる。
 わかっているはずの、俺の身体も勝手に反射した。
 わかっているはずなのに、智紘にそっくりなジルを庇わずにいられない。
 部下のナイフが俺の腕を傷つけ、血が飛び散った。
「イッ!!」
 痛いなどと言っている暇はない。
 和哉は見てしまっただろうか。顔に血が降りかかったジルの嬉しそうな表情を。
 傍観していた絹さんは、失神寸前。
 どうする、俺?
「ジル!絹さんを!」
 言いながら、傷を押さえて割って入る。
「止めろ!!」同時に和哉の一声。
 部下は素直に引き下がった。
「大丈夫か?」と、和哉。
「かすり傷だ」
「面白いものを見せてもらった。……深入りすると身を持ち崩すぜ。ま、俺には関係ないが」
 騒がせ代だ、と言って数万円をカウンターに置き、
「ますます昌子は渡せねえな」
 捨てぜりふを残し、和哉は帰っていった。

「稲作、大丈夫ですか」
「ああ」
「下さい」
 ジルは嬉しそうに傷に口を付ける。

 バタン!!
 椅子が倒れる音。
 床には、白目をむいた絹さんが……。


 タヌキって、ショックを与えるとほんとに気絶するらしいのです。鉄砲で撃つと、弾が当たっていなくてもバタンって。それがたぬき寝入りの由来とか。

 昨日ルナシーの話が出たので、一時期夢中になった邦楽の話をしましょう。
 彼らの歌詞の暗さと不条理さに、なぜか惹かれたのです。
 ソフトバレエは、AMERICAを聞いて。
 ピエロは、鋼鉄のメシアを聞いて。
 ラルクアンシエルは、花葬を聞いて。
 グレイには、あまり惹かれませんでした。
 いつも話しているオフコースとはずいぶん違う世界観です。   

 今日の写真は「オケラ」(2005.10.30群馬県で撮影)
 朮と書きます。特徴は、魚の骨のような花の下の苞。もう11月になると言うのに、咲いていました。面白い名前と特徴を持った花です。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/10/30

一触即発

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「昌子はどうした!」
「会社に帰ったけど。こいつら何とかしろよ。二人が怖がるだろう」
 怖がっているのは絹さんだけだが、とりあえず二人と言っておく。
 和哉が合図をすると、部下は手を放した。
「……おまえさぁ、人の迷惑を少しは考えろよ。あんな強面に付け回されたんじゃ息が詰まってしょうがねえだろうが。あいつ、お前のこと嫌いになっちまうぞ」
 稲作は、緊張感無く言った。
「お帰りなさい、稲作」
 嬉しそうにジルが駆け寄ってくる。
「広木、そのオモチャ、どこで拾ってきた」
「私はオモチャではありません」
 昌子の無事を確認した和哉の興味はジルに移っている。尊大な言い方をしているが、和哉はジルを恐れているようだ。ジルを怖がるなんて、からかってやりたくなる。
「気にするな、和哉はこういう男なんだ。お前、友だちになってやれ、和哉は仕事柄友だち少ないんだ」
「嫌です。稲作に危害を加えたら、私はあなたを許しません」


 昨日「13歳の遺言」という再放送番組を見ました。少年の5年間に渡る壮絶な闘病記。
 学校に行くこと、勉強をすること、小学生にとって当たり前ことを懸命にする彼の姿に感動の涙を流してしまいました。
 自分は大切な命を何て無駄に使っている事でしょう。
 皆さんはどうですか。
 
 番組中に元ルナシーの河村隆一さんが少年に感動して作った歌が流れていました。
 化粧をしていない彼の表情は優しくて
 
 汚れた天使の羽 飛ぶことさえ許されず 疲れ果て見た夢に 明日はなかった
    (彼らの曲の中で一番好きな曲です。が、題名がわかりません)
 
 と、歌っていた頃とは作風が変わったのでしょう。
 久しぶりに、彼の甘い歌声を聞きたくなりました。

 今日の写真は「コウタケ」(2005.10.22東京都で撮影)
 香茸と書きます。生のものでもほんのりとしょう油のような魚の干物のような香りがしますが、乾燥させたものは、より香りが強くなります。地域によってはお正月に欠かせず、松茸よりも珍重されるそうです。
 前日に、乾燥コウタケを入れた炊き込みご飯をご馳走になりました。香り、歯ごたえがいいキノコです。
 写真は、別働隊が採取してきたもの。いつか、自分で見つけて写真を撮ってみたいものです。
 
【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/10/29

サメとビスクドール

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 不穏な空気を感じたジルは立ち上がり、和哉と向き合った。
 この対決、何て言ったらいいのだろう。
 美しいのだ。
 ただ見ているだけだったら……。
 金髪碧眼で見る者の理想の姿に見えるジルの美しさはご存じの通りだが、和哉もかなりのハンサムだ。酷薄な性格が顔に表れているクールな美貌の持ち主。
「広木はまだ戻らないのか」
 ジルから目をそらせた和哉は言った。和哉もジルのクリスタルガラスのような青い瞳を直視し続けることが出来ないようだ。僕は、アンティーク・ビスクドールが恐いという理由から、ジルの目を見詰めることが出来ない。
「ええ、まだなのですよ」
「いつものを頼む」
「ありがとうございます」
 彼のいつものオーダーはブルーマウンテンとその日お勧めのケーキ。今日はいい紅玉が手に入ったからアップルタルトだ。
 ジルは、何も言わずに和哉を見ている。
「おい」
 和哉は僕を呼び寄せ、耳元で言った。「あいつは何者だ」
「私は稲作の友だちです」
 和哉の声が聞こえたように答えるジル。
 黙って席に着いた和哉は、ジルから目を離したものの全身で彼を探っている。いつも命の危険にさらされている若き組長は、ジルに違和感を感じているのだろう。
 ジルは、時々和哉に目をやりながら、いつものように椅子から脚をブラブラさせて、ぴょん太の報告と稲作の帰りを待っている。

 柱時計の音さえも耳に付くような、耐え難い空気が〔月の光〕を満たしている。

「顔ぐらい覚えろ!!」
「若の言いつけだ!大人しくしろ!!」
「放せ!!痛てえだろ!」
 怒号と共に入ってきたのは、彼の部下2人に拘束された稲作。
「和哉!てめえ!!」
 またしても、胸に拳銃を突き付けられている!
「昌子はどうした」
 和哉は静に言った。静なのに恐い、恐すぎる。
 稲作は、和哉を無視して言った。
「ジル、手出しは無用だぜ!」


 今日の写真は「チチタケ(裏側)」(2005.10.22東京都で撮影)
 以前見てみたいと言っていたチチタケを見ることが出来ました。表は茶色、裏面を爪で傷つけてみました。乳のような白い汁が見えますか?
 去年、同じベニタケ科のシロハツの白い液を舐めさせてもらいました。その辛いこと、辛いこと。クッキーをもらって食べてもピリピリがなかなか治まりませんでした。
 今回、チチタケの汁も舐めてみました。ほんのり甘い味とちょっとの渋み。クッキーは必要ありませんでした。
 植物のチタケサシはこのキノコを茎に刺して持ち帰ることから名前が付いたそうです。植物に名前を使われるほど好まれているキノコなのですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/10/27

ジルの告白

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「ジルちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。子供じゃないんだから」
「だから心配なのです」
 ジルには稲作に対する恋愛感情があるのだろうか。
「はい、ブラッドオレンジジュース。これ、メニューに加えたら結構注文が多いんだよ。君が飲んでるのを見て、注文してくれる娘もいるんだ」
「そうですか」
 ジルは、僕の話すことには上の空で、ぴょん太からの報告を待っている。
 午後の〔月の光〕。
「少し、お話ししようか」
「?」
「君のことをもっと知りたい。君ともっと仲良くなりたいんだ。稲さんとの出会いや、どうして、稲さんのことをそんなに好きになったのか教えてくれない?」
「本当のことを言って良いのですか」
「もちろん」
「19歳だった稲作が、私が住んでいた国に現れました。彼は私と間違われて殺されかけたのです。私たちは逃げ、二人で旅をしました。稲作は私に約束してくれたのです。仲間になってくれると。そんな事を言ってくれる人間は初めてでした」
 信じた相手にはとことんまで付いていく、稲作らしい話だ。19歳の頃の稲作は、いなくなった智紘を捜して東京に出ていた。あの時、海外にも行っていたのか。初めて聞く話だった。
「彼の言葉を信じて、私は日本に来たのです。私は彼に会うために500年――」
 店のドアが開き、不穏な空気が流れ込んできた。
「いらっしゃいませ――」
 入り口には、石坂和哉が立っていた。
 

 今日の写真は「不機嫌な顔(トビナナフシ)」(2005.10.22東京都で撮影)
 これまで、大好きなナナフシの仲間、エダナナフシ、トゲナナフシに会いました。3番目の出会いはトビナナフシです。背中に、飛べるとは思えないような小さな羽が生えています。
 嬉しくて一生懸命写真を撮っていると、不機嫌そうな目が……。虫に表情があるわけはなく、そういう顔なんですね、トビナナフシさんって。
 あまりに可愛いので接写、あれ?近付きすぎてカメラに上ってしまいました。逃げようという気がないのんびりやさんのトビナナフシです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/10/26

ずっと……

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「人の心配より、自分はどうなんだ?行き遅れるぜ」
「あたしにそういうことを言うのかい?」
「冗談だ。和哉が煩わしいなら話しを付けてやる」
「その時は自分でやるさ。……今日は逢えて良かったよ。ずっと言いたかったことを言えた」
 昌子はずっと気にしていたのだ。
 缶コーヒーは飲んでいる間に冷たくなった。
「何か、寒くなってきたな。そろそろ帰るか」
「あんまり無理するなよ。あたしに出来ることだったら力になるぜ」
「その時は頼む」
 バイクの後ろに跨った昌子は、耳元で囁いた。
「……あんた、ウソが下手だから」
 俺たちは、こんな風にお互いを気に掛けながら生きていくのだろう。ずっと……。


 今日の写真は「チャワンタケ(?)」(2005.10.22東京都で撮影)
 枯れ葉の上に咲いた赤いバラの花のようですね。こういう不思議なものもあるからキノコが好きなのです。チャワンタケの仲間のようですが名前がわかりません。
 夕べ、報道ステーションで野生キノコの特集を放映していました。
 「官邸に毒キノコ!!」という題。生えていたのはテングタケ、ヒカゲシビレタケ。両方とも幻覚幻聴などを引き起こす神経毒系のキノコで、ちょっと前に流行ったマジックマッシュルームでした。見つけた場所が皮肉っぽいですね。でも、このキノコ、僕も両方とも普通の公園で見つけています。写真もありますよ
 アウトドアブームのせいで、きのこ狩りをする人が増えているそうです。きのこ狩りを楽しむ仲間としての助言は、100%間違いないもの以外は絶対に食べないことです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/10/25

倖せなんて

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 もしも、俺とジルのことを知ったら昌子はどんな反応を示すだろう。
 笑って「あんたらしい」と言ってくれるだろうか。
 それは人の幸せではないと、俺たちを地の果てまで追い掛けるかも知れない。
 俺は、昌子の美しい横顔を見ながら思った。
「……あんたさ、今の生活に満足しているのかい?幸せなのか?」
「どして?」
「あんたみたいなその日暮らしと、過去の亡霊のような連中に付きまとわれた生活は、あたしから見ると幸せとは思えない」
「それだったら、幸せだぜ。美味いものはたまに食うから美味いんだ。腹が減っていればなお美味い。……妙には、智紘の分も幸せになってもらわなきゃ困る」
「それが先約か」
「まさか、俺には無理だ。見届ける、智紘の代わりに。俺よりいい男を捜すのは大変だ」
「馬鹿言うな。ジルは?」
「ヤツは、ああ見えても俺よりずっと強い、心も体も。……だから、おねえが心配するようなことは、何もねぇんだ」


倖せなんて(オフコース)

どんなにあなたを 愛しても愛されても
あふれるほほえみに 包まれた時でも
よく晴れた午後には
誰も知らない街へ
ひとりで消えてゆきたい
そんな時があるから
*倖せなんて 頼りには ならないみたい
 今日はよく晴れた 暖かい日です

*Repeat…

 「でももう花はいらない」以来、オフコース付いています。今日の曲はマイナーなのでファンしか思い浮かばないかも知れませんね。
 残された人には思い当たる事がないのに、行き方知れずになった人の中にはこういう気持ちの人もいるのかなぁ、とぼんやりと考えてしまいます。全てのしがらみを捨てて……。

 今日の写真は「ムラサキシメジ」(2005.10.22東京都で撮影)
 お腹がぷっくりしていて何とも可愛らしい姿ですね。枯れ葉の中からフェアリーリング(菌輪)を描いて輪になって顔を出しています。味にあまりクセがないキノコです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/10/24

先約アリ

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「このまま、どっかへ逃げようか……あんたとだったらどこででも生きていける」
 気が弱ったのか、普通の女に近付いたのか。昌子の口から出た言葉とは思えない。
 逃げ隠れして暮らすなんて、彼女には一番似合わない生き方だ。
「俺は、付き合えねえな。先約がある」
「本気にしたのか?冗談だ。……先約ねぇ」
 昌子は俺を見てニヤリと笑った。
「たまにはこういうところも良いね。山はすっかり秋だ。……いい機会だから言っておくよ」
 昌子は缶コーヒーを開けながら言った。
「5年前のこと。あたしがあんたの立場だったら同じ事をした。惚れた女には少しの間でも悲しい思いはさせたくない。それが裏目に出ただけさ」
 全く、自分のことを惚れた女だなんてよく言う。こっちの方顔が熱い。
「あたしは、あいつに頼まれたんだ、あんたのこと。だから、気に掛けない訳にいかない。遺言だからな」


 今日の写真は「ズミ」(2005.10.15長野県で撮影)
 酢実と書きます。別名・コリンゴ、コナシ、ミツバカイドウ。
 日当たりの良い高原の湿地に多く、春、つぼみはピンク、花は真っ白で木を覆い尽くすように咲きます。
 小さな実は、別名でコリンゴ、コナシといわれるように食べられますが、大きさは1センチ弱。果実酒にも使えます。

【登場人物を少しずつ紹介します】
赤木昌子……地元の有力会社赤木建設の美人社長令嬢で元不良。
      稲作、智紘の同級生。
      稲作に事務所を提供し、陰で仕事を世話している。
      稲作と相思相愛だったのだが……。

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2005/10/21

逃走

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 俺は途中自販機で買った温かいコーヒーを昌子に渡した。
「サンキュ」
「たまにはバイクもいいだろ?」
「あぁ、久しぶりだ。いつもこんな無茶な走りしてんのかい」
「今日は特別だ。族上がりのおねえを満足させるには、このぐれぇしねぇとな」
「族じゃねえ。ヘッドの女だっただけだ」
 だけ?昌子らしい。
 ここは赤城山の中腹。ちょっと開けていて見晴らしが良い場所にバイクを止めた。
 なるべく細い悪路を選んで突っ走ってきたのだ。妖しい車は付いてこないところを見ると完全にまいたようだ。ぴょん太も付いてきていないがバイクに発信器は付いたままだ。
「黙って見張らせてるのか?」
「普段は気にしやしないさ――」
 息抜きは必要なかったか。昌子はそんなことを気にするような女じゃなかった。
「けど、あんたといるところは見られたくないね。何するかわかんない。さっきみたいなことや、こんな事を平気でする」
 昌子にボディーガードを付けているのは石坂和哉。覚えているだろうか。〔月の光〕に時々息抜きにやってくる、地元のやくざ石坂組の若き組長だ(6/6サメと子犬)。
 5年前。智紘の最期を看取ったのは昌子。それを見届けたのは和哉だった。
 和哉はあの時から昌子に思いを寄せているが、彼女の気性をわかっているのか強引な手段をとらないでいる。
「このまま、どっかへ逃げようか……あんたとだったらどこででも生きていける」


 今日の写真は「ミヤマウメモドキ」(2005.10.15長野県で撮影)
 深山梅擬と書きます。別名・ホソバウメモドキ。東北地方、中部地方~近畿地方日本海側の湿地に生える木です。
 もっと秋が深まると枯れた葉が落ち、枯れ木に赤い実の花が咲いたように見えます。
 撮影場所の群生地、唐花見湿原ではこれからが見頃になるでしょう。 

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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2005/10/20

監視×2

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「一人、しつこいヤツがいるんだ」
「?……お坊ちゃん達は、正体バラせば泣いて逃げるだろ?」
「そこが可愛いと言うんだ」
「おねえ、のろけに来たのか?」
 稲作は昌子を‘おねえ’と呼ぶ。
「そういう問題じゃない」
 昌子は、俺の耳元で囁いた。
 次の瞬間、俺は昌子を突き飛ばし、胸ぐらを掴んで吊り上げた。
「止めろ!!撃ち殺される!」
「ほんとだ」
 今まで上手く隠れていた男達が、こちらに向かって一斉に動いた。ただのチンピラではなく、プロの動きだ。
 俺は、彼らに向かって両手を挙げる。降参のポーズだ。
「あいつら、どこにでも付いてくるんだ」
「金掛けてるな」
 俺の頭上にもオナガのぴょん太が飛んでいる。こっちはタダだ。
「あたしが結婚して幸せになったら、あきらめるんだとさ。その前にこれじゃデートも出来ねえだろ?」
「一般人には気付かれないだろ」
 俺は男達の方を顎でしゃくった。
「見られてて、デートなんか出来るかよ」
「ちょっと息抜きさせてやる。走れ!」
 俺たちは、〔月の光〕の駐車場まで走り、止めて置いたバイクに跨ると疾走した。


 風太君の次はツヨシ君。
 好きだった動物たちが注目を浴びるのは嬉しいですね。子供の頃、動物園に行くとレッサーパンダとマレーグマを見るのが楽しみでした。レッサーパンダは顔が可愛いから、マレーグマは、熊とは思えないだらけた姿、笑ったような弛緩した顔が見たくて檻の前に行ったものです。
 今、そのマレーグマのツヨシ君が人気者だそうです。
 食べ物を年上のメスに横取りされた時、そのメスに遊んでもらえなかった時、二本足で立ち上がって、前足で頭を抱え激しく頭を振りながら「ウオーン」と啼くのです。そんなに駄々をこねなくてもいいのに、という様子が可愛いのです。CMにも出演していますね。
 人間にもツヨシ君のような男の人、増えていません?

 今日の写真は「アケボノソウ」(2005.10.15長野県で撮影)
 以前紹介しましたが、ほとんど枯れていた湿原で出会った一輪です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
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2005/10/19

でももう花はいらない

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「ちわ~す」
「いらっしゃいませ、稲さん」
 〔月の光〕。カウンター席に座っていた赤木昌子がこちらを見た。
 予想通り、いや、期待通りだ。
 昌子は出ようと、目で合図した。
「絹さん、また後で来る」
 
 〔月の光〕を出て河川敷を歩く。
 前を行く昌子の髪が風になびいている。あの頃のままだ。色を付けようとかパーマを掛けようとかいう考えはないのだろう。
 昌子はいい女だ。
 新宿で評判の麗華や彼女の店の連中と比べても引けをとらないだろう。
「もう5年だ。少しは考えろ」
 振り返った昌子が言った。
「何を?」
「うちに来いよ」
「言ったろう、コネは嫌だと」
「その日暮らしじゃ、嫁ももらえねえだろ?」
 気付いただろうか。俺が二人いるようなこの会話。昌子は俺の前では、何年たっても不良少女のままだ。
「そんな気は無ぇんでな。お前こそそんなんじゃ婿が来ねぇぜ」
「期待を裏切って悪いが話は山ほどある」
 だろうな。みんなこんな昌子を知らないだろうから。
 こうして話しているとあの頃のままだが、俺たち二人の間には埋めることが出来ない溝がある。


でももう花はいらない(オフコース)

もう僕には花は咲かない
いつの間にか大事なものを失くした
もう戻れない道を振り返っても
人ごみに落としてきた
いくつかの愛は見えない

緑の髪に胸をおどらせ
歩いた学生時代は
夢のように過ぎて終わった
その時に落としてきた
かげりのない心も見えない

今は欲しくはない
*花なんて大人に 似合いはしない
 花なんて大人に 似合いはしない
花なんて大人に 似合いはしない
花なんて大人に 似合いはしない

*Repeat…

 僕とオフコースの出会いの曲。
 初めて聞いた時は誰が歌っているのか、どんな題名なのかも知りませんでした。新入生歓迎会でフォークソング愛好会の先輩方が歌ってくれたのです。
 茶髪は不良(ヤンキーではなく(^^;)といわれた時代、ほとんどの生徒が緑の黒髪だった時代です。
 秋には、あの時代を懐かしんで聞きたくなってしまうのです。

 今日の写真は「バイカモ」(2005.10.15長野県で撮影)
 キノコ続きだったので。
 梅花藻と書きます。他の花はほとんど終わっていたのに、水中のバイカモだけは咲いていました。湧水池など清流にしか咲けない可憐な花です。撮影地は姫川源流。

【登場人物を少しずつ紹介します】
赤木昌子……地元の有力会社赤木建設の美人社長令嬢で元不良。
      稲作、智紘の同級生。
      稲作に事務所を提供し、陰で仕事を世話している。
      稲作と相思相愛だったのだが……。

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2005/10/18

命日

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 あの頃。稲作は、今のアパートと同じ土地に建っていたボロボロのアパートに住んでいた。
《あの夜。
「俺ん家に泊まるの久しぶりだな」
「そうだね。電気、点けないで」
「襲う気か」
「ふふっ、やっぱり素敵だ」
 智紘がカーテンを開けると、青白い光が部屋の中を照らした。
「明日は満月なんだ」
「そんなもんいちいち覚えているのか?」
「みんな知っているよ、昨日は十三夜だった。和菓子屋さんの店先にススキがあるの気付かなかった?」
「知るかよ」
「お団子、食べ損ねたな」
「明日、食えばいいじゃないか」
「明日は売ってないな。……それに、月見の日に食べないと意味がない。縁側に台を置いて、お団子と、ススキと、秋の実りをお盆に乗せて――」
「俺ん家は、柿、栗、なし、ミカン、サツマイモだったな」
「お月様に暫く見て頂いてからいただきなさいっていうのが待ち遠しくなかった?」
「そういえば、耕作と二人でお袋の許しが出るまで正座して待った覚えがあるな」
「年に二回しか食べられない特別なお団子だったんだ。ただ上新粉を丸めただけなのに、おいしかったんだよ」
「俺は、こっちに来て驚いたんだ。中にあんこが入ってなかった」
「稲作の田舎のお団子はあんこが入っているんだね。……ねえ、ここってこんなに静かだった?」
 虫の鳴く声だけが聞こえている。
「二年も経つとガキも成長するのさ。朝なんか、きちんと挨拶が出来るぜ」
「そうだよね。……これ、食べる?」
 成長してないのはぼくだけだ。
 沼田のおじいさんにもらったリンゴを渡すと、稲作は自分のTシャツでちょっと拭いて囓った。カリッという良い音がする。
「稲作、ありがとう。きみに会えてよかった」
「?」
「十歳の夏休み、ぼくが庭に出ていなければ、きみが庭に迷い込んで来なければ、ぼく達はこうしている事はなかっただろう。縁ていうのは不思議だね」
「ああ」
「楽しかったな」
「何が?」
「今まで」
「これからだって、楽しいことあるぜ」
「そうだね。ぼくはとても幸せだった」
「過去形にするな」
「こだわるね?今も幸せだよ。みんなに愛してもらえたもの」》
 智紘と過ごした最後の夜。
 翌日、おまえは、あっけなく死んでしまった。
 俺は、おまえの事を守ってやれなかった。

 あれから5年……。
 俺たちはみんな元気でやってるぜ。新しい仲間も増えたし、妙もお前の傍に来ている。
「私もお参りしてもいいですか」
「もちろんだ。喜ぶぜ。……智紘、こいつが新しい仲間のジルだ。絹さんと妙はあとで来るから」
 仕事前の早朝の事だ。


 今日の写真は「ナメコ」(2005.10.14長野県で撮影) 
 野生のナメコは栽培品と似た形で生えていますね。説明の必要がない美味しいキノコですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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2005/10/17

さよなら

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「ギャーッ!」
 一は膝を押さえて火がついたように泣きじゃくった。アパートに戻って風呂から出た直後だ。
「どうしました?一君」
「ちょっと転んだだけだろ?大げさに泣くな」
 俺は、脱衣室から声を掛けた。一は風呂から上がって、走り回って転んだのだ。全く落ち着きがない。誰に似たんだ。
「膝から血が出ていますよ」
 例によって、ジルは、一の膝をぺろりと舐めた。
「!?」
 ジルの行動に固まる一。
「今、救急箱を持ってきますから、じっとしていて下さい」
「大丈夫か!?」
「うわ~ん!」
 一は、俺が声を掛けた途端に泣きだした。
「驚かすなよ、ちょっと擦りむいただけじゃねぇか。……男は滅多なことで泣くもんじゃねぇんだぜ。俺も親父に言われたんだ。さあ、ジュース飲もうぜ」
「うん!」
 リンゴジュースを飲んでいる一は、ジルのトマトジュースが気になるようだ。俺はもちろんビール。
「ジル、一口くれ」
「どうぞ」
 一は変な顔をした。
「甘ぇ……」
「オレンジジュースですから」
「ウソだ!オレンジ色じゃねぇ!」
 一は、ジルが買い置いていたブラッドオレンジジュースの味見をしたのだ。
「楽しいですね、一君がいると」
「ああ」
 ずっとこのままという訳にはいかないだろう。

 昨日から、応接室の床に布団を並べて寝ている。並べても、一は俺の布団に入って来て、腕を枕にして寝ているから、一組しか使っていない。
「明日は、俺が飯とみそ汁を作ってやるからな」
「うん」
「梅干しは、お袋が作ったのがあるから」
「うん」
「もうすぐお兄ちゃんになるんだから、弟を可愛がらなきゃ、駄目だよ」
「弟なの?ほんと?」
「そうだ。お前は、弟を守る強いお兄ちゃんにならなきゃいけない」
「うん、なる!」
「稲作って言う名前、そう悪くはないぜ。みんながすぐに覚えてくれる」
「うん――」
 ふっと、腕から一の頭の重みと温もりが消えた。
 俺は起き上がって、一が居た場所を見詰めた。
 敷き布団が、小さく凹んでいる。

 俺が3歳の時。
 赤ん坊が生まれる直前でお袋に構ってもらえなかった。
 みんなが笑うから、自分の名前が嫌いだった。
 好きな絵本の主人公の名前を自分の名前だと言い張っていたことがある。一だと。
 そんな時、一度だけ、親父に遊園地に連れて行ってもらった覚えがあるんだ。
 今の俺は、あの頃の親父とそっくりで……。

「……一君、帰りましたか」
 ジルが部屋の入り口に立っていた。
「知っていたのか」
「あなたと同じ味がしました。初めて会った時のあなたと同じ味が」
「俺が作る朝飯、食わしてやれなかったなぁ」
 手のひらに、柔らかな坊主頭の感触が残っている。

 翌日〔月の光〕。
「いらっしゃいませ、あれ?一君は?」
 稲作がジルと一緒にやってきた。
「帰った。……夕べ親が連れに来た」
「父親は、稲作じゃなかったのです」
「そういうことだ」
「うそー、あんなにそっくりだったのに?さよならぐらいしたかったな。また遊びに来てくれるかなぁ」
 先に来ていた妙ちゃんは残念そうだ。ちょっと母性本能が目覚めかけたのかも知れない。
「何か、一君がいないと静だね」
 僕も残念だ。今日のお昼は何を作ってあげようかと張り切っていたのに。
「うん、何だか寂しい」
「お母さんは、稲さんの知り合いだったの?」
「まあな」
「大丈夫なのかなぁ、一君。一人で稲作の所なんかに置き去りにされたんだよ。お母さんとお父さんに愛されているのかなぁ」
「あいつが両親に愛されていることは、俺が保証する」
「稲さんがそう言うのなら、大丈夫だよ、妙ちゃん」
「もっと一緒に遊びたかったなぁ。写真、撮しておけば良かった」
 たった2日間の出来事だったのに、僕らは、変に脱力してしまった。
 それぞれが、これからのことに思いを巡らせ、希望と不安を抱いていたのだ。
「何か、子供欲しくなっちゃった。ねぇ、稲作」
「悪くなかったぜ。父親の真似事も」


 このエピソードは、今流行のファンタジー風にしてみました。
  *最初から読みたい方はこちらをクリックしてください。10/8分に飛びます

 今日の写真は「ブナハリタケ」(2005.10.14長野県で撮影)
 ブナの倒木にびっしりと付いている様子は大変美しく、針茸の名の通り下面は無数の針が垂れ下がったようになっています。
 独特の甘い芳香は、昔のお母さんの白粉みたい。持ち帰る車の中も甘い香りで一杯になります。
 炊き込みご飯にしても香りは消えません。
 パン粉を付けてフライにしたら、歯ごたえは豚もも肉の薄切りのようで、香りは消えず、キノコだと信じてもらえませんでした。
 泊めていただいたペンションのご主人によると、キノコは天ぷらよりパン粉を付けたフライの方が低温で火が通るためうま味や香りがとばないのだそうです。
 ブナハリタケと一緒に市販のマイタケもフライにしてみました。美味しくいただけましたから、皆さんもぜひお試し下さい。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/10/16

レトロな遊園地

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 午後はオフ。
 というと聞こえがいいが、仕事がないし日曜日だから、一をどこかに連れて行ってやろう。
「どこに行きたい?」
「遊園地!」
 俺は、‘親子水入らずで行っていらっしゃい’というみんなに見送られて、ウエスタンスタイルで決めた一を、華蔵寺公園に連れて行った。華蔵寺公園遊園地は隣の伊勢崎市にある、江戸川乱歩の小説に出てきそうなレトロな感じの遊園地だ。
 二人で豆汽車に乗り、バッテリーカーに乗る。3歳児だから、保護者同伴じゃないと駄目なのだ。子供の身体ってやつは柔らかくて暖かい。髪だってビロードのように柔らかいのに、そのうち俺のように針金みたいな髪になってしまうのだろう。
 ‘小型の乗り物’というのは子供一人で乗せても大丈夫。
 一はご機嫌で俺に向かってVサインを出している。
 こんな時、父親だったらカメラを構えるものなのだろう。使い捨てカメラを買っておけば良かった。
 昼飯は売店で買ったホットドッグとジュースをベンチで食べる。
「チキンナゲットも食うか?」
「うん!」
 俺たちは、誰が見ても親子に見えるだろう。このままずっと、一と暮らすのも悪くない。
 メリーゴーランドに乗り、大観覧車に乗った。
「うわーっ、高けぇなぁ」
「降りたら、ソフトクリーム食おうぜ」
「うん、チョコ味がいい」
「俺も遊園地に、一度だけ、親父に連れてきてもらったことがあるんだ」

「ただいま!!」
「お帰りなさい、元気がいいね。楽しかった?」
「うん!楽しかった!」
 稲作と一君が遊園地から戻ってきた。手をつないで入ってきた二人は、誰が見ても仲良し父子だ。
 ここは〔月の光〕。
「お腹空いたでしょう?何を食べますか、一君」
 と、僕。
「スパゲキーとプリン!」
「あれ?一ちゃんはプリンが好きなんだ。お父さんは嫌いなのに」
 と、からかう妙ちゃん。
「俺だって、子供の頃は食ったぜ。ガキの頃から酒飲んでたわけじゃねぇ」
「稲作だったらほ乳瓶に日本酒が入ってても不思議じゃないよね、人肌の濁り酒とか」
「バカいうな」
「あれ?ジルとオバチャンは?」
 と、一君。
「ジルちゃんは一足先に帰ってお風呂や布団の準備をしておくって。……麗華さんは仕事があるからって帰ったよ。一君によろしくって」
 色々が一君を中心に回り始めている。
「手に負えなくなったらいつでも言って、だって」
 と、妙ちゃん。麗華さんは、もしもの時は一君を引き取る気満々の様子だった。
「一君はどんなスパゲティーがいいですか?」
「赤いの!」
「トマト味がいいんだね。具は何がいいかな」
「俺専用のナポリタンを作ってやってくれ」
「味、濃いんじゃない?」
 妙ちゃんが味が濃いのではないかと心配した稲作専用のナポリタンは、タマネギ、ピーマン、ウインナーの具をバターで炒め、ケチャップで味付けをしたものだ。昔のデパートの食堂や、昔の喫茶店、今ではお弁当の付け合わせなどに入っている懐かしい味のスパゲティーだ。
「二人で同じものを食いたいんだ」
「稲作、自分が食べたいだけでしょう?」
「まあな」
 ナポリタンとカスタードプリンを目の前にした一君は目を輝かせた。
「どう?」
 今の子の口には合わないのではないかと、僕はドキドキしてしまう。
「うめえ!」


 華蔵寺公園HPはこちらです。江戸川乱歩感が味わえますよ。ドナルド~。

 今日の写真は「ハナイグチ」(2005.10.15長野県で撮影)
 カラマツ林に生える赤くて美しいキノコ。その上美味しいのです。
 ラクヨウ・ラクヨウモタシ・ジコボウ・リコボウなどの地方名があります。ナメコのような滑りと食感があり、信州の人に愛されているキノコです。
 ハナイグチが入ったきのこ汁は美味しいですよ。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/10/13

ファッションショー

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「一君、お父さんが帰ってくるまで、ジルちゃんとお留守番なんだ」
「うん」
 ここは〔月の光〕。
 一君は稲作のように大きくなるのだと、ホットミルクを飲んでいる。
「ただいま!……一ちゃん、こんな感じでいい?」
 妙ちゃんが、大きな袋を下げて入ってきた。
「はい、歯ブラシと、バナナ味の歯磨き。あとは下着と洋服。もっと大きい方が良かったかなぁ」
 衣類はみんな5~6歳用だ。
「奥の部屋でお着替えしようか。昨日の服のままでしょう?」

「ご免下さい」
「いらっしゃいませ、麗華さん!」
 一君をオモチャにしそうな人が、また一人やって来た。
 いつも通りの派手なロングドレス。
「マダム、いらしゃったのですか」
 ジルが連絡したらしい。
「だって、逢いたかったのですもの。――あなたが一ちゃんね。可愛いわぁ」
 一君は、麗華さんをじろりと睨む。
「うそつき!俺は、可愛くなんかねぇ!オバサンもジルの一味だな」
 一君は、麗華さんに警戒心むき出しだ。
「まぁ、オバサン!?言うことまで、広木にそっくり。一ちゃんにお土産があるのよ」
「食いもんか?」
「ケーキもあるわよ」
「わーい!」
 後から、大きな袋を幾つも抱えた殺し屋みたいな男が入ってきた。
「青田さんまで」
 と、ジル。
「俺も見に来たんだ。期待通りだぜ」
 青田さんはジルに向かって親指を立てた。麗華さんの店の用心棒だそうだ。

「とりあえず着せてみたけど、イメージと違うわねぇ」
 一君は、それはないだろう、というような格好で奥の部屋から登場した。麗華さんに言われたのか、くるりと回ってポーズを決める。
 襟元と袖口にフリルが付いた真っ白なブラウスに、紺のベルベットのスーツ。どこかの国の王子様みたいだ。服だけは。中身は日に焼けたくりくり坊主の子猿君みたい。鼻水垂らしてるし。
 次は、入学式みたいなカチッとしたスーツ。普段着としては、あり得ない。
 次は、青田さんみたいな黒ずくめ。これは、ありかも。父譲りの強面には似合っている。小さなサングラスを胸ポケットに差している。
 次は、ウエスタンスタイル。胸元にヒラヒラの付いた革のベストと小さなカウボーイハットが可愛い。ベストを脱げば普通にジーンズとスニーカーだ。
「これが一番似合うわね」
 
「ちわ~す。ジル、子守り頼んで悪かったな。マダム、青田さんまで。何の騒ぎだ?こりゃ」
 稲作がチョビの散歩から戻ってきた。
「オヤジ!」
 一君は、稲作の片脚にしがみついた。
 稲作は、一君の帽子をとると、大きな手のひらで、しがみつく一君のくりくり坊主頭を力強く撫で回した。


 今日の写真は「オオイヌタデ」(2003.09.06群馬県で撮影)
 大犬蓼と書きます。昨日のイヌタデと比べてみましょう。名前の通り全体的に大型で、花の先が垂れ下がっているのが特徴です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
麗華……クラブ〔Madam☆Rose〕のマダム。年齢不詳の超美形(♂)。

☆お知らせ☆―明日・明後日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/10/12

メイド・ロボット

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 一は、夕べ夜泣きもせずに俺の隣で寝て、食卓についている。
 テーブルにはフレンチトースト、スクランブルエッグ、サラダ、ヨーグルト、果物。俺の前にはコーヒー、一には牛乳、ジルにはトマトジュースが置かれている。
「珍しいパンだな」
「‘クレーマー・クレーマー’を思いだしたものですから。一君には柔らかくて食べやすいかと思いました」
 古い映画か。
 ダスティン・ホフマンが息子にせがまれて作ったフレンチトーストは黒焦げだったが、ジルが作ったものは焼き加減も甘さも非の打ち所がない。
「オヤジ、すげーな」
「何がだ?」
「ロボット買ったのか。オフクロ、ブスだから」
 口が悪い子供だ。
「買ってねえ」
 一はジルを指さした。
「メイド・ロボット。昨日、絹さんの所のテレビでやってた」
「何だ?そりゃ」
「ニュースかワイドショーで、秋葉原の特集を放映したのでしょう。今一番注目されている場所ですから」
 でかい電気屋が出来たんだっけ。その上オタクも注目されている。
 一には、アニメかゲームのキャラクターとコスプレした娘の区別が付いていないようだ。
 言われてみればジルは、メイドカフェのウエイトレスみたいだ。ゴージャスな金髪碧眼、自分の想像力の中で一番の理想の姿に見えてしまうのだから。短いスカートとフリルの付いた真っ白なエプロンのメイド服を着せたら、きっと‘萌え~’って感じになるだろうな。
「鼻の下が伸びていますよ、ご主人様」
 げっ、妄想を読まれた。僕(しもべ)は、どちらかと言えば俺の方なのだ。
「やっぱりだ。ご主人様って言ったぞ」
「止せよ、ジル。子供に冗談は通じねぇぞ」

「どうしました、一君。お口に合いませんか?」
 一は、朝食になかなか手を付けようとしない。
「ご飯とみそ汁と納豆と梅干し――」
「あ?」
「――じゃねぇと、腹の足しになんねぇ」
「お前、肉体労働者か?……今日はジルが作ってくれたものを食え」
 ジルは気を悪くしているかと思ったら、珍しく笑っている。
「うふふ、あなたにそっくりですね。明日はあなたが腕を振るって下さい」
「好き嫌いしてると、俺みたいに大きくなれねぇぞ」
「食う!」
 一は、フレンチトーストにかじり付いた。
「いかがですか?」
「うめえ!」
 一は、俺にそっくりなガツガツした食べ方で、朝食と格闘している。
「一、もう少しゆっくり食え。よく噛んで。逃げやしねぇから」
「うん。……ジル、どうしてトマトジュースしか飲まねぇんだ?やっぱりロボットなのか?」
 顔を上げた一は言った。
「私はダイエット中なのですよ、一君」


 今日の写真は「イヌタデ」(2003.09.06群馬県で撮影)
 犬蓼と、書きます。別名アカマンマ。
 葉に辛みがないため、役に立たないから、犬蓼。
 役に立たない=犬が付く。植物にはそういう名前が多いのです。イヌヨモギ、イヌゴマ、イヌガラシ……イヌノフグリは違いますね。
 猫が付くものは、形や見た目に寄る物が多いですね。ネコノメソウ、ネコノシタ、ネコヤナギ。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/10/11

父子ごっこ

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「稲作、一君に私のベッドを使ってもらって下さい」
「いや、応接の床でいい。俺が一緒に寝る。ベッドは落っこちると大変だからな」
「羨ましい。一君、お布団を敷くのを手伝ってくれますか?」
「やだ!」
 一は、つないだジルの手を振り払った。

「一人で歯磨き出来るか」
「うん」
「歯ブラシ、大きいのしか買い置きがねぇんだ。明日買ってくるから、今日はこれで我慢しろ」
「うん。……バナナ味」
「なに?歯磨き粉か?それも明日買ってやるから。歯磨いたら、風呂だ」  
「うん」
 一は嬉しそうにうなずいた。
「稲作、本当の父親みたいですね」
「しょうがねぇだろ。絹さんや妙に頼むよりは俺の方がまだマシだと思うぜ」
 3人で事務所兼住居のアパートに戻ってきている。
 歯磨きを終えた一は、言われた通りにシャツを脱ぎだした。ぽこんと突き出た幼児のお腹は突いてみたくなるほど可愛い。でべそも愛嬌だ。
 一はシャツが頭に引っ掛かってなかなか脱げずにいる。
「一君、手伝いましょうか」
「やだ!!さわるな!!」
 俺がシャツを上に引っ張ると、シャツが脱げてくりくりの坊主頭出てきた。
 一の剣幕に、ジルは一歩下がったところから俺たちを見ている。
 小さな子供には、ジルが自分たちとは違うことが感じられるのかも知れない。
「せっかく手伝ってくれるというのに、何で嫌がる?」
「バケモノ、さわるな!」
「一!言って良いことと悪いことがある。ジルのどこがバケモノなんだ?」
「恐いんだもん。手が冷たいんだもん」
「何が恐い?」
「いいんですよ、稲作。慣れていますから」
「こいつのために良くねぇだろう。言ってみろ、一」
「目と頭の色が恐い」
「テレビで見たことあるだろう。ジルは外国の人だから俺たちと目と髪の毛の色が違うんだ。恐くなんかないんだよ。‘ごめんなさい’しなさい」
 一は、ジルの傍に行って、ちょこんと頭を下げた。
「一君、頭を撫でてもいいですか?」
「うん!――姉ちゃん、オヤジの愛人か?」
 お袋さんは、一に昼メロでも見せているのか。
「私は、一君と同じ男の子ですよ」


 今日の写真は「ハルタデ」(2004.05.12群馬県で撮影)
 春蓼と書きます。タデの仲間では一番早くに見られます。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/10/10

オヤジと呼ばないで

P82500301
「ちわ~す」
「こんばんは」
 稲作とジルがやって来た。
「稲さん、大変だ。そうっと奥の部屋を見てきなさい」

「何の冗談だ」
 戻ってきた稲作が言った。
「お父さんは君で、お祖父さんは耕助さん、お祖母さんは早苗さんだそうだ。身に覚えは?それとも僕らに隠して育てていたのか?」
「ネズミにもコウモリにもそんな報告は受けていません。それにしても可愛い。寝顔があなたにそっくりだ。食べてしまいたい」
 ジルの感性は僕らとは違うらしい。
「身に覚えがないとは言い切れない」
「なんか煮え切らないね」
「わかんねぇんだもの」
 わからない。そうなのかも知れない。妙ちゃんのような素人娘にはシャイな稲作も、夜の街ではもてるらしい。

 一君が、奥の部屋から目を擦りながら起きてきた。
「オヤジ!?」
 稲作を見つけて駆け寄ってくる。
 親子の対面。
「お前、名前は?」
「一」
「一か。……こっちにおいで」
 一君は、稲作の片脚にしがみついた。
 稲作は、大きな手のひらで、そっと一君のくりくり坊主頭を撫で回す。
「帰ろう、俺んちに」
「うん」
「稲さん、連れて帰るの?」
「この子が大事なら、そのうち何か言ってくるさ」
「来なかったら?」
「わかんねぇ。一が俺をオヤジと言ってくれるからなぁ」
 一君は、稲作が出した人差し指を、小さな手のひらで掴んだ。
「オヤジ!肩車!」
「そうか」
 稲作は、一君を肩に乗せると帰って行った。

 残された僕らは、それぞれつぶやいた。
「ボクがママ、じゃなくてお袋になっても良い」
 と妙ちゃん。
「私がもらって、理想の姿に育てたい」
 と、ジル。
「お母さんが迎えに来てくれるのが一番なんだけれどねぇ。まだあの子には母親が必要だ。出来れば両親が……」

 
 今日の写真は「シロバナサクラタデ」(2003.08.25群馬県で撮影)
 白花桜蓼と書きます。長い雄しべが印象的な、華やかな蓼。
 7日から田んぼに生える植物を紹介しています。しばらく続けてみますのでご覧下さい。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/10/09

推測

PICT00511
「こんにちは、絹さん」
「いらっしゃいませ、妙ちゃん」
 お客様は小さな男の子が一人。いつも稲作が座る席に腰掛けている。妙ちゃんの所からは、くりくりの坊主頭しか見えないだろう。
「珍しいお客さんだね」
「うん、とっても珍しいんだ。――あ、妙ちゃん!」
「坊や一人でお利口だね。お母さん待ってるの?」
 妙ちゃんは、一君が座る席の隣に行き、しゃがんで声を掛けた。
「坊やじゃねぇ」
 味噌を塗った大きなおにぎりを頬張りながら答える一君。
「一君だよ、妙ちゃん」
 こちらを振り返った妙ちゃんの頬が、笑顔が、引きつっている。
 こちらに走って戻る。
「どういう事よ!絹さん」
 耳元で言うには声が大きい。
「お父さんは稲さんだって」
「言われなくたってわかるよ!にゃう~!……水1杯ちょうだい」
「落ち着いて。あの子に罪はないんだから」
「わかってるよ」

 気を落ち着けた妙ちゃん、再挑戦。
「坊や――」一君はじろりと妙ちゃんをにらむ。
「じゃなくて一ちゃん幾つ?」
 一君は指を3本出した。3歳?にしては大きすぎる。
「大きいのねー。お母さんの名前は?」
「わかんねぇ」
「じゃ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは?」
「耕助と早苗。……姉ちゃん、オヤジの愛人か?」
 おにぎりを食べ終えた一君は、大きなあくびをした。

「瓜二つだね。稲さんの子供時代はきっとあんな風だっただろうね」
「憎たらしいところまでそっくり。絹さん、フルーツパフェ!」
「はい、ありがとうございます。……お味噌を塗ったおにぎりが好きなんて、好きな食べ物まで同じなんて可愛いよね」
「可愛いかなぁ?3歳にしてはしっかりしているけど。お母さんの名前、わざと言わないのかもよ」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの名前を言えるのだものね」
 一君を奥の小部屋に寝かせた僕らは、あれこれ推測する。
「一ちゃんだからね、天才なのかも」
「じっちゃんが耕助だから?」
「お父さんがバカボンパパだから」
「誰それ?」
 歳の差で、話がかみ合わない僕ら。

「ちわ~す」
「こんばんは」
 稲作とジルがやって来た。

 
 今日の写真は「キカシグサ」(2005.10.08群馬県で撮影)
 和名は不明だそうです。高さは10㎝ほど。昨日のホソバヒメミソハギの足下で小さな花を咲かせていました。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/10/08

この子誰の子

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「オヤジ来てるか?」
「いらっしゃいませ――?」
 あるべき場所にお客様の姿がない。視線を下に下ろすと、小さな男の子。5,6歳か。
「ぼく、どこの家の子?お父さんに、ここで待つように言われたの?」
 見たことがある子だ。近所の子供?
「ぼくじゃねえ、オレだ。オフクロに言われた」
 この小ささで親父お袋は珍しい。一般的にはパパママだろう。
「ジュースでも飲んで、お父さん待っていようか」
「オレ、金ねえぜ」
「お父さんにいただくから心配しなくていいよ」
「じゃ、みそむすびもくれ」
「みそむすび?」
「そんなことも知ねぇのか。味噌を塗ったにぎりめしだ」
 この言いぐさ。まさか……。
「ぼく、お名前は?」
「ぼくじゃねえって言ってんだんべぇ。一(はじめ)だ」
「一君って言うんだ、お父さんのお名前はいえるかな?」
「広木稲作」
「!?」
 見たことがあるはずだ。この子は稲作にそっくりなのだ。話し方まで。


 今日はシーズン最後に近い休耕田観察に行きました。
 見られたシギ・チドリは、コチドリ・ツルシギ・コアオアシシギ・アオアシシギ・タカブシギ・ダイゼン・アメリカウズラシギ。田んぼの水がほとんど抜かれてしまっているため、みんな僅かに水が残ったところに集まっていました。

 今日の写真は「ホソバヒメミソハギ」(2005.10.08群馬県で撮影)
 細葉姫禊萩と書きます。帰化植物で田んぼの雑草ですが、よく見るとピンクの可愛らしい花を段々に咲かせています。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/10/07

想い出の味

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「絹さん、いいもん持ってきたぜ」
 いつもの通りスーパーのレジ袋に入れて稲作が持って〔月の光〕にやってきた。
「ギンナンだね、それとクルミ」
 ギンナンはきちんと下処理してあり、クルミは中身が出してある。
「公園と河原で拾ってきたんだ。午後はオフだったから」
 オフというと聞こえがいいが、ただ仕事がなかっただけのような気もする。
 彼がギンナンやクルミをしゃがんで拾っている姿を想像してしまった。色黒、長髪、まるで原始人だ。
「何笑ってるんだ?ギンナン炒ろうぜ」
 炒ったギンナンを割ると、半透明に見える美しい緑色。
「綺麗だね」
「ああ、美味いな。……なあ、絹さん。頼みがあるんだけど」
「なあに?」
 
 2時間後。
「なになに?香ばしい匂い!」
 匂いに誘われて妙ちゃんがやってきた。
「いらっしゃいませ、妙ちゃん。クルミのケーキだよ」
「絹さん、一番良いところを一切れ皿に載せてくれ。好物だったんだよ、お袋さんが作ったクルミのケーキが」
 稲作は、店に飾られた智紘の肖像画にケーキを供えた。
「そうなんだ。……ボクは、キミのことをぜんぜん知らない。会っていれば、きっと仲良しになっていたのに」
 妙ちゃんは、自分とよく似た肖像画に話し掛けた。
「このケーキに入れてもらったオニグルミは、俺と智紘が友だちになった切っ掛けなんだ」


 今の季節、必ずニュースでスズメバチの話題が出ますね。
 彼らはクマが天敵なのだそうです。クマのような黒っぽい色の服装は避け、白い帽子をかぶり、香水に反応するので付けるのは止めましょう。
 植物観察を趣味にしていると、ちょっとした林を歩くだけでもスズメバチに遭遇することがあります。独特の低い羽音で近付かれると、思わず首をすくめてしまいます。羽音が聞こえたら、急な動きをせずにそっとその場を離れる事にしています。
 先日も、ヤマノイモのムカゴを見つけ、夢中で採っていたら、周りを飛び回られ、途中であきらめて帰りました。飛んでいたのは民家の近くに丸い巣を作る黄色スズメバチではなく、一回り大きくてオレンジと青のはっきりした色のコントラストのオオスズメバチでした。綺麗ですが恐いハチです。その時、少しだけ採れたムカゴは塩ゆでにしていただきました。 
 
 今日の写真は「チョウジタデ」(2005.09.19群馬県で撮影)
 丁字蓼と書きます。花が丁字に、葉が蓼に似ているからだそうです。
 田んぼにたくさん咲いていますが、花が小さいので目立ちません。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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2005/10/06

大人の科学

PICT00381
「皆さん、準備が出来ましたよ」
「何だ?何が始まる?」
 店の電気が消え、天昇、壁、一面に満天の星空が広がった。

「なんだなんだ?カラオケでも始めるのか」
「やはりここは暗いから、よく映りますね」
「オリオン座はどれだ?俺はそれしかわかんねぇんだ」
「親方、カシオペアや北斗七星くらいわかるだろう。これと、これだ」
 篠原先生は天井の星に向かって指を差す。
「どれどれ?わかんねえなぁ」
「これが夏の大三角形。この明るい星が、ベガ、デネブ、アルタイル」
「大三画関係?すげーなぁ」
「親方、一杯飲んでるのか」
「よし!稲の意見に乗った。……♪別れ~るこ~と~は辛い~け~ど~」
「しょうがないなぁ、親方、私はこの歌がいい。♪あの娘~どこにいるのやら~」
 〔月の光〕に集まったオヤジ達の声は、妙に生き生きしている。
「絹さん、こりゃ何だ?何の集まりだ?」
「何の集まりだろうねぇ。これ、‘大人の科学’っていう本の付録なんだよ」
「オトナの?エロ本か?」
「違う!僕と親方は学研世代なんだ」
「ガッケン?」
「僕らが小学生の頃はね、毎月学研のおばさんが‘科学と学習’っていう雑誌を学校に売りに来たんだ。付録が毎月楽しみでね」
「俺は学習しか買わせてもらえなかったぜ。少し勉強しろって」
 と、親方。親の言うことを聞かなかったようだ。
「私が子供の頃はそういう本はなかったな」
 篠原先生は二人よりだいぶん年上だ。ここにいる理由は、星が好きだからなのだろう。
「僕は、科学派でした。トランジスタラジオなんか必死で組み立てて、聞こえた時の嬉しかったこと」
 絹さんは、子供のようにはしゃいでいる。
「?」
「本屋にこれが売っていて、子供の頃のことを思い出したら、つい買っちゃたんだ。今月の付録はピンホール式プラネタリウム」
「以外と細かい作業だったな」
「子供の頃より、指先が鈍ったのかも知れないですね」
 絹さんと親方は共同作業をしたらしい。

「皆さん、こんばんは。歌声が聞こえていました。コンサートですか」
「ジルちゃん?いらっしゃい」
 ジルは真っ暗な店の中をすたすたと俺の方にやって来て、耳元で囁いた。
「黙って出て行かないで下さい。あなたが暴れたら私しか押さえられないでしょう」
「もう暴れねぇよ。お前、顔の傷は?」
「治りました。お陰様で」
「ジル君、体調はどうかね?」
 この中で、俺の他に篠原先生だけがジルの秘密を知っている。
「良好です。今は特に。ねえ、稲作」
 一瞬、ジルの全身が輝いた。
「ばかやろう」
「……絹さん、ピアノを弾いてもいいですか」
 ジルが奏でたのは、ディズニーの星に願いを。

 
 〔月の光〕の僕らの会話は、先日のきのこ狩りの夜にされた話が元になっています。
 夏の大三画関係とか、学研の科学と学習とか、大人の科学とか。
 その時の話題になったピンホール式プラネタリウムの付録が気になって、買ってしまいました。組み立ては久しぶりに楽しめましたし、僕は気に入りました。
 
 今日の写真は「ツクバネソウの実」(2005.10.01群馬県で撮影)
 名前の通り、羽子板の羽根みたいですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/10/05

プラネタリウム

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「いらっしゃいませ、稲さん大丈夫なの?」
「あ?」
「お腹。ふらふらしているし」
「もう治った。何か食わしてくれ」
 お粥だけじゃ腹が減って眠れない。寝過ぎのせいもある。
 ジルのおしゃべりめ。ヤツが部屋で休んでいる間に抜け出して来たのだ。もちろん〔月の光〕に着くまでの間、頭の上をコウモリは飛んでいた。
「春と秋が油断するから一番危ないんだ。古い物を食べちゃダメだよ」
 そっちの食中毒ってことになっているのか。最近は古い物を食いたくたって食えない状況にある。消費期限切れの食料はジルが容赦なく捨ててしまうからだ。
「おい、病原菌を振りまくなよ」
 絹さんにしゃべったのはジルじゃなかった。チョビの散歩を頼んだ便利屋の親方。
「親方。何でここにいるんだ?遅いから明日挨拶に行こうと思ってたんだ。迷惑かけてすまなかった」
 夜の10時を回っている。
「いちゃ悪いか、俺だってたまにはコーシー飲みたいこともある。誰かさんのせいで余分な運動したからな。いってぇどんな散歩させてんだ」
「チョビは大型犬だから、たくさん運動させないとな」
 チョビは飼い主と俺と親方にしか心を開かない超大型犬。グレート・デーンという種類だ。
「大丈夫なのか?近付くな」
「移る腹痛だったら今頃ここにいねぇよ。どっかの病院の隔離病棟だ」
「なぜうちに診せに来ない。腹痛を軽く見ない方がいい。こっちに来なさい」
「え?」
 なぜ先生までいるんだ?
 俺は一番奥の席にいる篠原先生の傍に行った。彼は近所の開業医だ。
「何食べた?わざとじゃないだろうな」
「まだ変か?わざとじゃねぇ」
「わざとだとしても、懲りただろう」
「わざとじゃねぇって!」
 ベニテングタケをトリップ目的、マジックマッシュルームとしてわざと食うやつがいるらしい。美味かったけど二度とご免だ。
 
「皆さん、準備が出来ましたよ」
「何だ?何が始まる?」
 店の電気が消え、天昇、壁、一面に満天の星空が広がった。


 今日の写真は「シラタマホシクサ」(2004.09.29愛知県で撮影)
 白玉星草と書きます。秋の湿原、緑の中の天の川のようです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/10/04

二人の関係

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「んが~……ん?」
 事務所。稲作は、ソファ兼ベッドの上で何度目かの目覚めを迎えた。
「目が覚めましたか」
「また見ていたのか。どうした!?その顔」
 ジルの綺麗な顔の左側、目の上から頬にかけて酷い傷がある。人間だったら大変だ。
「覚えていませんか。あなたが投げ飛ばしたのです」
「?」
「覚えていなければいいです。あなたをからかった罰が当たったのでしょう」
 俺がよく言うからジルまで使っている。罰が当たったなんて。
 起き上がった俺は、部屋の中を見回した。時計が壊れて床に散乱している。机の上にあった書類も、粉々になった花瓶も、灰皿も床の上。
「何があった?」
「あなたがしたことです。……よかった。今度暴れたら押さえきれる自信がありませんでした。もう陽が高い。今はあなたの方が力が強いですから」
 昼間のジルは力が人並みに落ちるのだ。
「陽が高い?今、何時だ?」
「11時47分です。お昼の」
「なんだと!?」
「チョビの散歩は、あなたが体調不良だと話して便利屋の親方に頼んでおきました」
「体調不良?」
「毒キノコを食べて暴れていると伝えた方がよかったですか」
「みんなは?」
「キノコを食べたのはあなただけでした。5本全部」
「ベニテングか?」
「だから篠原先生にも連れて行かなかったのです。あなたなら死にはしないから。……あんなに暴れるのなら連れて行けばよかった」
「すまなかった。本当に申し訳ない。……頭痛ぇ。……けど、腹減った」
 謝って、頭を上げ下げすると頭痛がする。
「でしょうね。全部吐いたし、お腹も下しましたから。お粥を温めてきます。今日は一日安静にしていたほうがいいでしょう。食べたらまた休んで下さい。私も少し休みます」
「待て!!」
 キッチンに行きかけたジルの背中がビクリと動いた。夕べ余程酷い目に遭わせたらしい。
「またですか!」
「こっちが先だぜ」
 俺は、ジルの後ろから首に左腕を回した。
「もう止めて下さい」
「飲めよ」
 ジルは不思議そうな顔をして俺を見た。いつも通りの青い瞳。
「いりません。明日、マダムの所でいただきますから」
「その顔で東京まで行くのか?」
「明日には少し戻るでしょう」
「夕べ何言ったか知らねぇが、これが俺の気持ちだ」
 ジルは、回した俺の手首に優しく噛み付いた。
 
 
 今日の写真は「チシオタケ」(2005.10.01群馬県で撮影)
 傷つけると暗赤色の液が出ます。確認のために裂いてみると手に液が。乾いても血のようでした。かぶれたりしませんが、食用も不可です。
 これは血潮茸ですが、一度見てみたいキノコに乳茸(チチタケ)というのがあり、こちらは傷つけると白い液が出ます。なぜ見たいのかというと、栃木県に行くと「チタケうどんあります」という看板を見かけることがあるからです。栃木の人の大好物が見てみたい、「チダケサシ」と植物にまで名前が使われるキノコを見てみたいのです。
 ちなみに、群馬県ではウラベニホテイシメジが人気ですが、食べたことはありません。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/10/03

本音

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「いらっしゃいませ、妙ちゃん、ついさっきまでジルちゃんがいたのだけれど、稲さんを迎えに行くって帰ったんだ。追い掛ければまだ間に合うかも知れない」
「いいよ、夕飯食べに来ただけだから。稲作とはさっきまで仕事で一緒だったし」
 ふと、思い出した。この三人、昔の稲作、智紘、春菜の関係に似ている。稲作の恋人だった春菜は、いつも智紘の次に自分を置いていた。だから二人の仲は破綻してしまったのだ。
「ねえ、妙ちゃん。稲さんのこと、好きなんだよね?」
「いやだなぁ、何言ってるの?あらためて言われると恥ずかしいよ」
「ごめんね。ジルちゃんに遠慮しているのかな、って思ったものだから」
「遠慮なんかしてないよ。……でもね、何か割り込めない所があるんだよね、あの二人の間って……」

 目覚めたら、幻覚に襲われるのだろうか。
 本当に、しょうがない人だ。
 だからこそ、私はこうして稲作の傍にいる。彼は、この私にさえ何の躊躇いもなく与えてくれ、渇きを癒してくれたのだ。
「ん?」
 事務所。ソファ兼ベッドの上で彼は目を開けた。
「目が覚めましたか」
「智紘?」
「私は智紘ではありません。まだ戻りませんか。何か飲みますか」
 目が据わっている。酒に酔わない彼の、泥酔状態を初めて見た。
「ジル!!」
 飛び起きた稲作は、私を突き飛ばした。普段のような抑制がきいていない。私は壁まで飛ばされた。大きな手が私の首を掴んで壁に押さえつける。震えが伝わってくるのはキノコの作用。身体が痙攣している。
 ベニテングタケは幻覚を見たり精神が錯乱する。その昔シャーマンが儀式に使ったりもした。
「一度やってみたかった!やっぱり死なねぇのか!」
 大きく見開かれた目が私を見詰める。尋常ではない。彼の本音を訊きだしてみようか。
 今度は私が彼を突き飛ばした。しりもちを付いている彼に問う。
「私を消したいのですか」
「わかんねぇ!」
「仲間になりたくないのでしょう」
 私は彼の傍に座り、彼の髪を撫でながら言った。
「違う!」
「それでは、妙ちゃんのことはどうするのですか」
「――妙は、そのうち俺を卒業する。してくんなきゃ困る!」
「田舎のご家族やこの町の皆さんを悲しませることになりますよ」
「――俺は、誰よりも長生きする!そうすれば誰も俺を知らなくなる――」
「試してみませんか」
 私は、銀の短剣を差しだした。
「何をする気だ」
「これで胸を貫けば、私は消えて無くなるはずです」
「はずだと?」 
「試したことがありません。さあ」
「いやだ」
「なぜです」
「わかんねぇ。……今のままがいいんだ、ずっと、今のままが」
 先のことを考えられない可哀想な人。愛おしい人。
 唇をいただこうか。
「うっぷ!」
 稲作は、私を払い退けると、トイレに駆け込んだ後、昏倒した。


 中毒の話を書きながら、きのこ狩りときのこ汁を堪能してきました。入れたキノコはハナイグチ、ナラタケとたくさんの野菜。食べる時間には辺りは真っ暗。正に闇鍋状態でした。口に入った感触で、このにゅるにゅる感はハナイグチ、なんて考えながら食べるのもまた一興でした。
 今回はナラタケの見分けを教えていただきました。聞いている時はわかるのですが、自分たちだけで鑑定して食べる勇気がなかなか湧かないキノコの一つです。

 一昨日、昼メロのお話の中で「デザイナー」の話が出ました。新聞を見てびっくり。今日から始まりましたね。これだったら舞台は日本、流行の韓流ドラマみたいですからいいかも知れません。一条ゆかりさん物は視聴率がいいのでしょうか。
 主人公はマンガから抜け出してきたような瞳の大きな女の子ですね。朱鷺さんの真っ白なスーツと教育係の長髪が笑えました。
 こちらは原作を読んでいるので違った楽しみ方が出来そうです。
 
 今日の写真は「ツリバナ」(2005.10.01群馬県で撮影)
 くす玉を割ったような、吊花の実です。花は小さくて目立ちませんが秋の実は可愛くて綺麗ですね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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