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2005/09/30

チョット、イイデスカ

PA0508201
「稲さん、遅いね」
 たまに声を掛けないと心配になることがある。
 ジルは、今話題のハシビロコウのように微動だにしないことがあるのだ。
 ここは、〔月の光〕。
「迎えに行ってきます」
「どこにいるのかわかるの?」
「使いが来ました」
 窓の外にはコウモリが飛んでいる。

「ちょっといいですか、皆さんこんばんは」
 河川敷の片隅。
「なんだ?何か用かい?あいにく俺たちの神様は八百万の神だぜ。ワハハハハハ」
「やっさん、神道なのか?」
「さあな」
「言っている意味がわかりません」
「俺たちは宗旨替えはしねえってことさ」
「私は宗教者ではありません」
「何だ、あんたお目目が青いし金髪だから、改宗のお誘いかと思ったぜ。ワハハハハハ」
「友だちを引き取りに来ました」
「友だちって、そのデカい兄ちゃんかい?」
「はい」
「おい、りょうさん、兄ちゃんのお迎えが来たぜ」
「お迎えだと?」
 振り返って私を見た、りょうさんの目に映ったのは、
「智紘か?」
「知っているのですか」
「一度だけ、会った」
「私は智紘ではありません。稲作を連れて帰ります」

「すげえな、あの外人さん。あんな大男を担いで連れてったぜ」
「――」
「どうした?りょうさん。震えてるのか?」
「智紘は死んだはずなんだ。あいつ、亡霊だ。……稲作は、生きていたか?」
「いっぱい食って飲んで、りょうさんの隣で大の字になって寝てたじゃねぇか」


 お世話になっているサイト様の日記で、昼メロ(と言っていいのでしょうか)の話題がありました。今まで昼メロを見たことがなかったのですが、原作者のお名前が気になって、禁断の扉を開けてしまいました。「正しい恋愛のススメ」。マンガが原作のドラマです。
 登場人物がどんな風に描かれているのか目に浮かぶようですが、見るとガッカリするかも知れないと思うと書店で手にすることが出来ません。演じている俳優さんがピッタリだからということではなく、画風が変わっているだろうと思うからです。
 子供の頃、リアルタイムで一条ゆかりさんの作品を読んでいました。マンガって自分が作品に接していた頃の作者のクセが一番好きな表情だったり絵柄だったりしませんか。
「ティータイム」「デザイナー」「砂の城」「こいきな奴ら」時代の彼女の絵が好きです。
(完全な筆者モードの話題になってしまいました。お気付きでない方もいらっしゃるかも知れませんので。〔月の光〕のマスター僕(絹)は男性ですが、筆者は子供の頃「りぼん」を読んでいた女性です。チャンピオン、ジャンプも読んでいましたが)

 今日の写真は「ベニテングタケ」(2002.10.05群馬県で撮影)
 白樺の根本に輪になって生えている姿は、おとぎの国のキノコのようですね。この可愛らしさは、世界でも工芸品や絵画に描かれています。日本では、スーパーマリオを思い出す?
 食べようとは思えない、毒キノコらしい毒キノコですね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/09/29

闇鍋

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「稲作、稲作だろ?寄っていきなよ」
「あ?――りょうさん!生きてたのか」
「随分なご挨拶だな」
 黄昏時。
 仕事帰りの河川敷で4~5人の人影を見た。流行のアウトドアでバーベキュー、といった騒々しさがない。楽しげに鍋を囲む男達の中の一人に呼び止められたのだ。
 りょうさんの本名を知らなかった。会うのは6年ぶりか。今も時々仕事を回してもらっている便利屋にいた頃、派遣先で一緒に働いた仲だ。慣れない土木作業で吐いた弱音を聞いてもらったことがある。
 りょうさん達は一見ホームレス風だが、冬が寒いこの田舎でそんな暮らしは立ち行かない。住むところも、ある程度の仕事もあるのだろう。俺と同類だ。
「針金みたいでデカいし髪が長げーから、お前だと思った。相変わらずだな」
「お互い様だぜ」
「食ってかねーかい」
「何が入ってるんだ?」
 俺は鍋の中をのぞき込んだ。暗くて中はよく見えない。
「それぞれ持ち寄ったもんが入ってる」
「闇鍋か。靴下とか靴とか入ってねぇだろうな」
「マンガじゃねぇんだから。間違って入ってても、熱湯とこいつで消毒にならぁな」
 一人が焼酎の瓶を持ち上げた。
「何も持ってねぇけど、呼ばれてもいいのか?」
 俺は、輪の中に座って鍋を突いた。
「美味い!」
「ほら見ろ」
 りょうさんは、他の男たちから小銭を集めている。
「なんだ?」
「今の若いやつは癇性だから、絶対食わないって言うから賭けたんだ。おかげで儲かったぜ」
「気に入った。兄ちゃん、一杯やりな」
「すまねぇ」
 完全に一団にとけ込んでいる、俺。
「タマゴタケか。良い出汁がでてるぜ」
「タマゴタケ?おい、誰がキノコ入れちまったんだ?食えるやつだったのか?」
 みんな頭の上に?マークが付いている。
「食えるって?タマゴタケじゃないのか?」
「取ってきたの誰だ?」
「俺だ。赤いキノコで――」
 よかったタマゴタケか。
「傘に白い点々があって白樺の木の下で輪を描いてた」
「何だって!?そいつは毒キノコだ。みんな食うな――」
「あれ?兄ちゃん、寝ちまったのかい?案外酒に弱いんだなぁ」


 今日の写真は「タマゴタケ」(2005.07.23群馬県で撮影)
 真っ赤で毒キノコのようですが、とても良い出汁が出る美味しいキノコです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/09/28

彼岸花

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「いらっしゃいませ、稲さん。珍しいね、花なんか持って」
 と、言ってもさっき田んぼで摘んできた彼岸花だ。
「こうして見ると綺麗なもんだな。妙がジルに持ってけって言うから」
「欧米の人はこの豪華さを好むらしいね」
「持って帰るまで差しておく物貸してくれ」
「牛乳瓶でいい?」
「ありがとう」

「いらっしゃいませ、ジルちゃん」
 アメリカンを飲んでいると、いつもの通りジルがやった来た。
「ネリネですか」
 テーブルの上の彼岸花を見たジルが言った。
「ネリネ?――妙からお前にだ」
「ネリネ、ギリシャ神話の水の神から取った名前です。南アフリカ原産の花、別名ダイアモンドリリー」
「これは彼岸花だ。原産は日本か中国だろう」
「美しい」
 牛乳瓶から1本、彼岸花を抜き取ったジルは、ちょっと鼻を近付けた後、パクリと花びらを口に入れた。
「お前!」
「うふふ、私に毒は効きません」
 俺を見たジルの瞳が青く輝く。
 元々生きていない者に毒は無意味だ。
 彼岸から、こちらを見ているお前に、この世界はどう映っているのだろう。


 今日の写真も「ヒガンバナ」(2005.09.25群馬県で撮影)
 昨日と同じ場所での撮影です。規模はずっと小さいですが一見、巾着田のようです。地方紙、ローカルニュースで話題になったそうで、雨模様なのに見学客が大勢いました。
*巾着田=埼玉県で有名なヒガンバナの自生地。

 ジルの言う「ネリネ」も園芸品として僕らを楽しませてくれています。
 色とりどりの花を咲かせるネリネは、彼岸花より時期が遅れて花も葉も同時に咲きますが、ヒガンバナ科の植物です。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/09/27

曼珠沙華

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「稲作!おにぎり持ってきたよ」
 コンビニの袋じゃない。水筒まで持っている。ってことは、妙の手作りの握り飯か?
 ちょっとだけ、不安が過ぎる。彼女が作った食べ物が美味かった試しがないからだ。
 見た目は上出来。きちんと同じ大きさの三角になっている。問題は中身か。
「どうしたの?美味しいよ。事務所の冷蔵庫に入っていた梅干し入れて握ってもらったから」
 握ってもらった?
「誰に?」
「決まってるじゃない、ジルだよ」
 なぜか安心してかぶりつく俺。冷蔵庫の中の梅干しは田舎のお袋の手作りだ。
「美味い」
「でしょ。はい、お茶。……なんかさぁ、もの凄く似合うよね。風景ととけ込んでるって言うか」
 ここは田んぼのあぜ道。周り一面の稲は穂を垂らして刈り入れの時を待つばかりだ。
 今日の俺は、ここの持ち主の婆さん、お由ちゃんに借りた年季が入った麦わら帽子をかぶり、首にタオルを巻いて畦の草刈り作業をしている。草刈りと言っても、先端に回転式の刃が付いた刈払機で畦に生えた草を刈るのだ。自分で言うのも何だけど、俺は器用だからこういう作業は得意なのだ。
「ねえ、スケジュールに入ってたから来てみたんだけど、これも仕事なの?」
 事務所の看板にある「探偵事務所」らしい仕事はほとんどない。恥ずかしいのに降ろせないのは大家の赤木昌子が承知しないからだ。しかも今日は、交換条件による無賃作業。田んぼに生えた野草や余った野菜をもらう代わりに、こうして草刈りの手伝いをするのだ。
「稲作、ちょっと大きくなりすぎてるけど、持ってくかい?」
 田んぼの持ち主、お由ちゃんが持ってきたのは大きく育ったオクラ。
「いつもすまねぇな」
「あれまぁ、そっちのお嬢ちゃんは許嫁(いいなづけ)かい?」
「ブーッ!」
 お茶を飲みかけていた俺は思わず吹き出した。
「お由ちゃん、水戸黄門の見過ぎだぜ」
「私は月形竜之介の黄門様が好きだった」

「綺麗な花なのに、毒があるんだよね」
 妙の前には、刈り残して置いた彼岸花が揺れている。
「ああ、でも食べられるんだよ」
 と、お由ちゃん。
「根っこを摺り下ろして、水で何回も晒せば毒が抜けるらしいぜ」
「よく知ってるね」
「まあな」
 さすがの俺もそこまで困ったことがないから試したことはない。昔、飢饉の時などにはそうして食べたと聞いたことがある。
「なんかさぁ、ジルに似合うゴージャスな花だと思わない?」
 彼岸花を見てゴージャスと思うのは若い感覚なのか。
 たしかに、ジルに似合う花ではある。

 
 今日の写真は「ヒガンバナ」(2005.09.25群馬県で撮影)
 彼岸花。説明の必要がない身近な花ですね。
 別名を幾つか羅列してみましょう。曼珠沙華・葉見ず花見ず・死人花・幽霊花・墓花・火事花……など、地方名は500以上あるそうです。
 
【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

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2005/09/26

僕(しもべ)

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「いらっしゃいませ、稲さん。ジルちゃんはどうしてる?」
 〔月の光〕に入るなり、待ちかねていたように絹さんが訊いた。
「後から来る。どうしてるって、どういうことだ?」
「オナガの雛、助からなかったでしょう。ガッカリしているんじゃないかと思って」
「知ってるのか、絹さん」
「最初に、ここに連れてきた」
 それで猫のエサなんか持ってたのか、あいつ。
「元気になった。おかげでダニに集られたぜ」
 稲作は思い出したようにおへそのあたりを掻いた。ダニは柔らかいところが好きなのだ。
「よかったね。でも、飼うのはまずいよ。野鳥だから、自然に帰してあげないと」
「それは大丈夫だろう」

 なぜなら――。
「ジル、頼むからカラスは止めてくれ」
 以前言ったことがある。
 夜、コウモリやネズミに付け回されても夜陰に紛れて目立たないが、昼間、カラスにカーカー鳴かれながら頭上を飛び回られるのは困る。元々恐そうに見える俺に、不気味さまでプラスされたのでは、益々商売あがったりだ。
「だめですか?カラスは頭がいい鳥です。友だちになりました。あなたを見守ってもらおうと思ったのですが、いけませんか」
「困る」
 だいたい、何でこの俺が、ジルに頼まれたカラスに見守ってもらわなければならない?
 どう考えたって誰かを守のは俺の役目のはずなのに――。

「いらっしゃいませ、ジルちゃん。オナガ、元気になったんだって?」
「はい」
「逃がしてあげたの?」
「逃がす?捕まえたわけではありません。友だちになりました」
 店の窓を開けたジルは、呼びかけた。
「ぴょん太、ぴょん太!」
 バサバサバサバサバサ。
 どこからともなくやって来たオナガのぴょん太は、窓枠に止まると、
「ギャーッ、キャッキャッキャッ」
 と、けたたましい声で鳴いた。
「キャットフードが気に入ったからえさ台に置いて欲しいそうです」
「凄い!たった二日でこんなに懐くなんて!言っていることも解るなんて。毎日、えさ台に置いてあげる!オナガは果物も好きだよね」
 楽しそうに相づちを打つ絹さんは、本気で言っているのではないだろう。彼は、ジルのことを15,6歳の子供だと思っているのだ。
「ギャーッ、キャッキャッキャッ」 
「ありがとうと言っています」

 ジルが言う、友だち=僕(しもべ)なのだろう。コウモリ・ネズミの忠実な働きぶりを、俺は見たことがある。その僕に見守られる俺は、彼にとってどんな存在なのか。
「稲作、ぴょん太だったら綺麗ですから、あなたの周りを飛んでもかまわないでしょう」
 オナガも彼の好きなカラス科の鳥だ。


 今日の写真は「シロツチガキ」(2005.09.25群馬県で撮影)
 一度見てみたかったのです。これほどいい状態のものに出会えるとは思えませんでした。大きさは3㎝ほど。このままブローチにしたいような可愛らしさですね。
 革細工のような写真の正体はキノコのシロツチガキです。資料には漢字で書かれていませんが見たまま「白土柿」でしょう。ホコリタケの仲間で真ん中の丸い部分を摘むと埃のような胞子が飛び出します。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/09/23

小鳥 

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 夕立。閃光と同時の轟音と共に、店の灯りが消えた。
 近くで雷が落ちたようだ。
急に外が暗くなって激しい雨が降り始めたから覚悟はしていたが、これだけ近いと身が縮むほどの迫力がある。この町は雷が多いから慣れているはずなのに。
 ドアが開き、ずぶ濡れのジルが入ってきた。
「降られてしまいました」
「奥の部屋に入って。タオルと着替えを貸してあげるから」
「ありがとうございます。でも、その前にこの子を」
 ジルは、懐から何かを取り出した。
「まだ、生きています。温めれば助かるかも知れません」
 またネズミ!?いや、ビショビショになった灰色の小鳥だ。――手渡された時触れた彼の手は酷く冷たい。冷え切ってしまっているのだ。シャワーを浴びさせようとも思ったが、停電中だし、水を伝って感電することもあるというから、まだ落雷が恐い。
「速く着替えなさい。風邪をひいてしまう」
「それより、その子をお願いします。私には温めることが出来ません」
「わかったから――」
 僕の手のひらの中にいるのは、まだ尾が短いオナガ。幼鳥のようだ。乾いたタオルで拭いて、新しい一枚に包み、近くにある適当な大きさの箱に入れた。小鳥は、ぐったりして動かない。可哀想だけれど助からないかも知れない。
 そうだ、どこに仕舞ってあったっけ。……僕は、引き出しの中から冬の残りの携帯カイロを見つけ出し、タオルと箱の間に置いてみた。
「絹さん、どうですか?」
 着替え終えたジルが訊いた。
「まだわからない。……さあ、温かいコーヒーを飲みなさい」
「ありがとうございます」
「今夜は僕が預かろう」
「いいえ、私が連れて帰ります。元気になったら、何を与えたらいいのでしょう」
「そうだね。ここのえさ台に来るオナガはキャットフードが好きだよ。お湯で柔らかくしてあげてみたらどうだろう」
 食べる元気が出れば助かるだろう。僕はジルに少しのキャットフードを渡した。

 その夜。
「うわっ!」
 暗闇から、二つの青い光が俺を見た。
「脅かすな。いるなら電気ぐらい点けろ」
「すみません」
 遅くなったから、とっくに自分の部屋に行っているだろうと思っていた。ジルは眠らなくてもいいのかも知れないが、いつもは普通の人間と同じ行動をとっているはずなのに。
「何か食べますか」
「食ってきた。遅いから、すぐに寝るぜ」
「お願いがあります。一緒に寝てください」
「あ?」
「この子と」
 ジルは箱の中から、タオルに包んだ死にかけたオナガを取り出した。
「あなたは温かいし、この子の母親と同じように鼓動しています。きっと安心して眠れるでしょう」
「駄目だ。俺は寝相が悪いし、野鳥にはダニが湧いてるんだぜ。痒くなる」
「お願いします。あなたが潰さないように、私が見張っていますから。お願いします」
 結局、眠くて仕方なかった俺は、ジルに根負けして、オナガを抱いて眠った。

 バサバサバサバサバサ。
 朝。聞き慣れない音で目が覚めた。
「ぴょん太、飛び回ってはいけません。――そんなところでフンをして」
 ぴょん太?元気になったオナガに名前まで付けている。


 今日の写真は「ガガイモの実」(2005.09.17群馬県で撮影)
 蘿藦と書きます。実を触ってみると柔らかくなっていました。あと何日か経つと茶色くなって割れて、中からタンポポのおじいさんみたいに長い綿毛の種が旅立ちます。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/09/22

焼き肉奉行

PICT02291
「絹さんは?」
「年寄りは、家でお茶漬けの方がいいんだって」
 ってことで3人で焼き肉に来ている。
「ジル、特上カルビ追加していい?」
「どうぞ」
 妙のやつ、やっぱりパスタより焼き肉の方が好きなんだ。肉を前にして目がらんらんと輝いているし、顔がてかてか光っている。服装も髪型も今まで通りに戻っている。こっちの方が妙らしい。
「妙ちゃん、ゆっくり食べても肉は逃げません」
 ジルは、ビールを飲む振りをしながらレバ刺を食べている。
 俺は、妙の肉の焼き加減の見極めの良さに見とれていた。というよりは、箸が出ないというか、先に食われちゃうというか……。
「稲作、何もたもたしてるの。焦げたら美味しくなくなっちゃうよ、お皿出して!」
 焼き肉奉行だ。
「そうです、あなたにはたくさん食べていただかないと」
「なに?なに?どうしたの?」
「血が薄いのです」
「うっそ~、稲作、貧血なの?」
「違う!金欠だ」
「じゃ、レバー食べなくちゃね。レバーと、タンと、ハラミと」
 妙は俺の親父ギャグを無視して、次に注文するものを選んでいる。
「俺、レバーは食わねぇぜ」
「いいよ、ボクが食べるから」
「妙、ちゃんと野菜も食えよ」
「食べてるよ」
 と、いいながら、微妙に俺の皿に野菜を余分に乗せているようだ。野菜は好きだからいいけれど。奉行の手腕恐るべし。
「妙ちゃんが食べた栄養はどこに行くのでしょうか」
 そう、妙はいくら食べても太らない体質のようだ。
「謎だな。お前ほどじゃねえけど」
「うふふ」
 ジルの瞳が青く輝いた。 


 今夜、『電車男』が最終回を迎えますね。このシーズン、いくつか見た連続ドラマのなかで一番好きな作品でした。
 少しの勇気が自分を変えてくれるかも知れない、愛が自分を強くしてくれる。古典的なテーマなのに、多くの人の友情に支えられて成長する電車君の姿はとても素敵でした。電車君、勇気をありがとう!
 そういえば、僕も‘独男’でした。

 今日の写真は「ツリフネソウ」(2005.09.19群馬県で撮影)
 釣船草と書きます。ツリフネソウ属の属名は、lmpatiens(こらえきれない)というのだそうです。ツリフネソウは、ホウセンカの仲間。それを聞くとなぜ‘こらえきれない’のかわかりますね。
 僕が子供の頃は、どこの家の庭にも色とりどりのホウセンカが植えられていました。熟した種を見つけては、指で触って弾けさせて遊んだものです。もちろん、ツリフネソウの種も弾けます。どこかで出会ったら、触ってみて下さい。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

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2005/09/21

年上

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「今夜は焼き肉を食べに行きましょう。絹さんと妙ちゃんも誘って」
「んが?――俺は、年下のやつに奢ってもらうほど落ちぶれてねぇぜ」
 稲作は、肩を掻きながら言った。夕べ蚊に刺されたらしい。
 〔月の光〕で、注文した大盛りのライスと生卵を待っている。メニューにない特別注文品だ。ジルに懐が寂しいのがばれている。
「年下?」
 ブラッドオレンジジュースを飲んでいる、ジルの瞳が青く輝いた。
「どう見ても年下じゃねぇか」
「私の年齢は――」
「わかった、わかった」
「収入もあなたよりずっと多い」
「お前ってそんなに給料多いのか」
 ジルは週に何日か麗華の店で働いている。それも夜だけだ。
 俺は、朝から晩まで働いても節約しなければ暮らせないのに。
「マダムに頼んでみましょうか?」
「用心棒は安月給なんだ」
 生産性のない用心棒の小遣いは、ホステス(?)よりずっと安いのだ。
「そうなのですか」
「ところで、何で飯を奢ってくれようなんて思ったんだ?」
「味が、薄くなっています」
「?」
「あなたの」
「いつ吸った」
 俺は、自分の手首や腕を確認してみた。特に気になるところはない。
「うふふ」
「恐いんだよ、お前」
「夕べ、あなたの肩に蚊が止まりました。見ていると、お腹が膨らんできて」
 食ったのか……。


 今日の写真は「オタカラコウ」(2005.09.19群馬県で撮影)
 雄宝香と書きます。宝香=防虫剤の竜脳香のことで、根の香りが似ているのだそうです。
 林道の湿ったのり面に生えていました。草丈1~2メートルの目立つ花です。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
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    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/09/20

一日遅れの

PICT02311
「遅くなって悪かった」
 スーパーの袋を下げてやって来た稲作は言った。
 謝ってもらうような約束をした覚えがない。
「何か約束してたっけ?」
「まあいいから。そこに座れ」
 彼はカウンターから出て、椅子に座れと促した。
「お客様が来ちゃうよ」
「大丈夫だ。準備中にしといた。2,30分だから」
「何するの?」
 彼は、僕の後ろに回って肩を揉み始めた。
「お客さん、こってますね」
 何の冗談だろう。
「肩なんかこってないよ」
「候補者リストの名簿が最下位だったから、一日遅れになっちまったんだ」
「???」
 比例区の選挙じゃあるまいし。
「俺、年寄りとの付き合い多いから。……沼田のじいさんに、お千代ちゃん、お梅ちゃん――」
 稲作は、近所のお年寄りの名前を言い並べた……最後に僕の名前が入っている。
「も~う!」
「この間笑い者にしてくれたお返しだ。――待てよ、もう少し揉んでやるから」
 稲作は、からかわれたことがわかって立ち上がろうとした僕を止めて言った。
 僕は、肩こりじゃないけれど気持ちがいい。こんなに上手いのなら、お年寄りにも評判がいいだろう。
「実家の裏山に一杯なっていたから、持ってきたんだ。絹さんこういうの好きなんだろう?焼酎にでも漬けなよ」
 渡されたスーパーの袋には、たくさんのサルナシが入っていた。


 今日の写真は「サルナシの実」(2005.09.19群馬県で撮影)
 猿梨と書きます。実の大きさは2㎝ほど。断面が何かにそっくりですね。
 そう、サルナシはキウイフルーツの仲間です。柔らかく熟れている実は甘く、味もキウイフルーツにそっくりです。
 キウイフルーツの原種は中国原産のオニマタタビ。それをニュージーランドで品種改良したのがキウイフルーツです。
 キウイの由来はわかりますよね。実の形と色がニュージーランドにいる飛べない鳥「キウイ」に似ているからです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/09/19

月夜

PICT01971
 中秋の名月。
 早仕舞して、月に、団子と秋の実りとススキを供えた。
「さて」
 とっておきを開けて、月見酒といくか。
 BGMは虫の声。ミカドコオロギ、ツヅレサセコオロギ、カネタタキ……。
 たまには独りもいい。
 窓の外には月。……だけじゃない。
 河川敷から二人の人影が近付いてくる。一人は踊っているようだ。

「満月の夜は力が漲ります」
 月の光を浴びて踊るジルは、瞳は青く全身は金色に輝いている。
「狼男か、お前は」
 少し後ろで見ている稲作が言った。
「それは誰が見てもあなたでしょう。私は吸血鬼」

「ちわ~す。散歩してたら小腹が空いたんで団子食いに来た」
「素敵なオブジェですね」
 稲作は店に入って来るなり、お団子を一つ摘んでかじり付いた。
「やっぱり上新粉だけで丸めた団子は美味いな」
 近所の和菓子屋さんの期日限定人気商品。
「さすがに鼻が良いね。開ける前から匂ったのかい?」
「おっ!水芭蕉の純米大吟醸。こんな高い酒飲んだことねぇ」
 日本酒の瓶を見て嬉しそうな顔をする。
「何かつまみを持ってこよう」
「いいよ、俺は団子で」
「私は、夜気だけで十分です」
 稲作は2つ目のお団子に手を伸ばす。何の味も付けていない大きなお団子を、よく飽きずに食べられるものだ。僕は翌朝、焼いて砂糖しょう油を付けて食べるのが好きなのだ。
「僕はそれじゃつまみにならない」
 独りだったらお酒だけだったけれど、みんながいるのなら、つまみが欲しい。
「どう?」
「美味い!」
「美味しいです」
 二人は、僕のとっておきを気に入ってくれたようだ。
「ところで絹さん、これはススキじゃねぇ。オギだぜ」
 飾っていたススキを1本抜いて見た稲作が言った。
「オギ?」
 やっぱり独りより、誰かと一緒の方がいい。  


 先日参加した観察会で教えていただいた、ススキとオギの見分け方です。
薄(すすき) ノギがある。大きな株のようになる。どちらかというと乾燥した所に生える。
荻(おぎ) ノギがない。株にならない。河原や湿地に生える。
 穂の中から、一つだけ小さな実を取って見て下さい。
 実の真ん中から、1本だけ長い毛(ノギ)が出ていたら、ススキ。全体が同じ長さだったら、オギ。

 今日の写真は「ナンバンギセル」(2005.09.18東京都で撮影)
 南蛮煙管と書きます。煙草を吸うパイプの形。
 ススキの仲間やミョウガなどに寄生する寄生植物です。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/09/17

虫除け効果

P92301191
「遅くなってごめんね」
「いらっしゃいませ、妙ちゃん。お待ちしてました――ほんとに妙ちゃん?」
 女の子は、服装でずいぶん変わる。
 午後は店を閉めてジルと二人で、妙ちゃんの誕生日祝いの準備をしていた。
「稲さん!?その顔――」
 妙ちゃんは、立てた人差し指をイタズラっぽく唇に当てると、シーッという仕草をした。何とも可愛らしい。
「また蚊に食われたかな、痒くねぇけど」
「大丈夫だよ、ボクが守っておいたから。それ以上顔が恐くなったら営業に関わるし」
「それに虫除けの効果があるのですか?」
 真面目な顔で訊くジル。可笑しくて、吹き出しそうだ。
「ふふふ、でも自分が刺されちゃった」
 妙ちゃんは、内股をボリボリ掻いている。せっかく女の子らしい格好をしているのに。――視線を感じた。それも、見るな!という威嚇の視線。
「妙、女なんだからそんな所掻くんじゃねぇ」
 僕から目を離した稲作が言った。
「だって、痒いんだもん。やっぱり、ジーンズがいいな。――目的果たしたし」
「なんですか?目的って」
「な・い・しょ」
 妙ちゃんが果たした目的は、稲作を見ていればわかる。

「さあ、妙ちゃん、好きなだけ食べてね」
 4人では大きすぎるイチゴのケーキとコーヒーで、ささやかな誕生会が始まった。
「これ、食いきれるのか?」
 ‘食べる人’はほとんど妙ちゃんひとり。
「大丈夫、大丈夫。明日も食べるから」
 僕は、稲作の顔が気になって仕方ない。吹き出してしまいそうで、コーヒーをまともに飲めそうもない。
「ねえ、妙ちゃん、そろそろ許してあげたら?」
「何をですか?」
 ジルには可笑しさの意味がわからないだろう。
「しょうがないなぁ。いいよ稲作、顔拭いても」
「何?まさかお前、またやったのか――あれ?何も付いてないぜ」
 稲作は、頬をゴシゴシ拭いたおしぼりを見て言った。いつかのように、キスをされたと思ったのだ。
 もう駄目、限界を超えた。
「ハハハ、稲さん、洗面所で鏡見てきて」

 洗面所から漏れてくる稲作の叫び声をバックに、ジルは冷静に言った。
「あの文字には、虫除けの効果があるのですね」
 額に口紅で『肉』。
 

 すみません。若い人には通じませんか?

 今日の写真は「ウリカワ」(2004.09.23群馬県で撮影)
 瓜皮と書きます。葉が、むいたマクワウリの皮に似ているから、ウリカワなのですって。オモダカ科オモダカ属ですから、花はオモダカとそっくりですね。
 皆さんマクワウリをご存じでしょうか?黄色く細長いウリです。僕が子供の頃はまだ売っていたのでしょう、食べた記憶があります。甘みが薄い素朴な味でした。当時のメロンといえば小さくて丸くつるつるした緑色のプリンスメロン。実は堅いけれど甘いメロンでした。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/09/16

プレゼントは……

P92101071
 もったいない気がしたのだ。
 他人に妙の生足を見せて走るなんて。
 ――なまあし。
 ゴクリ、生唾を飲み込んだ。
 何考えてるんだ、俺。どうしちゃったんだろう。
 今考えることは一つ。大切な妙を傷つけないように慎重にバイクを運転しなくっちゃ。
 消えろ!雑念。

 道を指示され、イタ飯屋に連れて来られた。
「どれにしようかな?」
 この店のランチは、好みのスパゲッティ、ドリンクとサラダ、スープが付いている。
「なぁ妙、バイク乗るつもりだったらミニスカートは止めろよ」
「なんで?……転ばないように運転してくれればいいよ」
 メニューに見入っている妙は、俺の話に上の空、まして気持ちになど気付かない。
「ボク、これとこれね」
 妙はペペロンチーノとミルクティーを指さした。
 デートなのにニンニクたっぷりのパスタ。……どうして、そんなことが気になるんだろう。
 俺はナポリタンとアイスコーヒー。
 ナポリタンが無い店が多いが、ここにはあった。あったことに一安心。無かったら、何を食べたらいいかわからなくなる。

「ねえ、稲作。それ、止めない?」
「?」
「早死にするよ、高血圧で」
 俺は味が薄すぎるナポリタンに塩を掛けまくっていた。
「お前こそ、それ全部食えるのか」
「あったり前じゃない。だからここに来たんだもん」
「デザートも頼んでいいんだぜ」
「いいの」
 遠慮してるのか。
「絹さんとジルがケーキ用意して待っててくれてるんだ。10号(30㎝)のだって」
 妙は、うっとりしながら言った。
 ジルの青い瞳…ケーキ…すっかり忘れてた。
「さあ、帰ろう!ケーキを食べに〔月の光〕に!」
 
「なんでここで止まるの」
 〔月の光〕の100メートルほど手前。
 バイクを止めた稲作は、妙を乗せたまま河川敷に降りた。
「危ないじゃない!」
「座れ!……渡しそびれた。〔月の光〕に行ってからじゃ渡せねぇから」
 草の上に座った稲作は、ポケットにしまい込んでいた小さな包みを手渡してきた。くしゃくしゃになっている。
「なによ」
「金がねぇから、小さな石だ」
 そう言って、草の上に横になる。
 小さな袋の中身はサファイアのピアス。……ピアスは、昨日までの妙が、唯一女らしさを残していた部分だ。
「ありがとう!大切にする。……付けてみるね」
 鏡無しで、ピアスを付け替えるのはなかなか大変だ。草むらに落とさないように気を付けなくっちゃ……。
 ……やっと出来た。
「どう?」
「んが……似合うよ、とっても――」
 心がこもっていない、っていうか半分寝てる?
 いくら付けるのが遅いからって。
「ねえ、〔月の光〕に行こうよ」
「少し眠ってから行くから、先行っててくれ……」
「こんな所で寝ると、また蚊に刺されちゃうよ」
「んが~」
「しょうがないなぁ」
 しばらく付き合うか。
 妙は、稲作の隣で草に寝そべってみた。
 空には、秋の雲が浮かんでいる。 
  

 群馬県のパスタ専門店は、量が多い店が多いのです。群馬にお越しの際、胃袋に自信がある人は試してみてください。

 今日の写真は「コガマ」(2004.09.21群馬県で撮影)
 小蒲と書きます。写真のコガマは毎年同じ場所、近所の田んぼの縁で見られます。農家の人に大切に保護されているところが嬉しいですね。
 何?
 フランクフルトが食べたくなったって?
 しょうがないなぁ、稲さんは。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/09/15

計画倒れ

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 最初の計画では、バイクの後ろに乗せて赤城山の覚満淵にでも連れて行こうと思っていたのだ。標高1360メートル、小尾瀬と呼ばれている手軽に行ける群馬県の避暑スポットだ。そして、焼き肉にでも連れて行こうと思っていた。
 これじゃ、計画は総崩れ。
 あの格好じゃバイクに乗せられないし、焼き肉の匂いが付くのは嫌だろう。

 全速力でボートを漕いで、汗だくになった俺は、今度はバラ園の「熱帯植物園」に連れてこられた。色とりどりの蘭の花が咲き乱れている。一角にある水槽には、熱帯魚、は虫類、両生類も飼われている。
「見て!こいつ可愛いよ!」
 ウパッという顔をして白くて、赤いエラが出ているアホロートルが、水槽越しにこちらを見ている。ウーパールーパーを久しぶりに見た。
 暑い。ここは温室、熱中症になりそうだ。

「バカ~、バカ~」
 白い大きなオウムが、俺に向かって叫んだ。
「おかしいな。ボクには‘コンニチハ’って言ってくれたのに」
「うるせえ!バカ鳥!」
「バカ~、バカ~、バカ~」
 オウムは興奮気味に、黄色い冠羽を立てて羽根をバタつかせている。
「オウム相手にムキにならないでよ。……かわいちょうにねぇ」
「オハヨー、オハヨー」
 赤ちゃん言葉で話し掛けられたオウムは、機嫌を直してカゴ越しに、妙にすり寄っている。
 かわいちょうなのは俺の方だ。
 計画は全て覆されて、どうしたらいいのかわからない。なんで何も思い浮かばないまま妙に主導権を握られてるんだ。そのうえ、鳥にまでバカにされて。
「あのバナナ食えるのかなぁ」
 青いバナナの実がたくさんなっている。
「もうお腹空いたの?しょうがないなぁ。バイクどこに置いたの?ランチ食べに行こう、もうすぐお昼だよ」
「その格好でバイク乗る気か?」
「もちろん!」


 これは、敷島公園バラ園内「熱帯植物園」の一コマ。
 白い大きなオオム「キバタン」が出迎えてくれます。実際の「キバタン」はお利口だから「バカ~、バカ~」とは言いません。
 今日の題は「計画倒れ」でしたが、実際の僕は無計画なこと甚だしいのです。家事をしながら朝の気分で考えて書き、そのままUPしてしまうのですから。

 今日の写真は「イボクサ」(2004.09.21群馬県で撮影)
 疣草と書きます。葉の汁を付けるとイボが取れるといわれることから付いた名前です。
 ツユクサ科だからでしょうか、小さいピンクの花はツユクサに似ていますね。
 僕が子供の頃は「イボコロリ」という薬のTVCMが流れていました。今はイボ・ウオノメ・タコ・シモヤケ・アカギレで悩んでいるという話をあまり聞きませんね。食生活や住環境が良くなったせいでしょうか。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/09/14

変身

PICT01771
 背中を突くやつがいる。
 なんだよ、と振り返った俺が見たのは――。
 さっきから目の縁には入っていたのだ。
 だが、俺が待つ相手とはまるで違うから、気にならなかった。
 俺が待っていたのは、白のTシャツ、ブルーのジーンズ、パーマヘアで、銀色の小さな球形のピアスを付けた、智紘にそっくりな女の子なのに。
「妙か?」
「そうだよ」
 妙は、ノースリーブでシワシワしたベージュのキャミソールを着て、同じような素材の青い短いスカートをはき、かかとが高いミュールサンダルを履き、真っ白でツバのある帽子をかぶっていた。帽子からのぞいた髪はストレート。パーマを伸ばした髪はいつもより長く見えた。当たり前だ。その上しっかりと化粧をしている。
「なんだよ、その格好」
「わるい?」
「いや」
 わるかねぇけど――露出した痩せすぎの肩と腕、細すぎる脚が、俺には痛々しく見えた。
 こいつ、こんなに痩せていたんだ。顔だけ見ていると丸顔だから気付かなかった。
 だが世の中の意見は、俺とは違うらしい。周りの視線が集まった。
 ヒールが高いサンダルを履いた妙は、身長が180近い。世間的には完全なモデル体型なのだ。顔だって、智紘似の可愛い顔をしている。
「稲作こそどうしたの、その顔」
 俺は思わず鼻の下を押さえた。伸びてたか?
「違う!まぶた」
「蚊にくわれた。ブユかもしれねぇ。……一緒に歩くの恥ずかしいか?」
 無傷でもみっともないのに。
「バカね。……今日の目的は、あれなんだから」
 妙が指さした先は、ボート乗り場。親子連れか子供同士しか乗っていない。

「いつか自慢してたでしょ。自分より速く漕げたやつはいないって」
 したけど小学生の頃の話だ。
 この後俺は、カルガモやバリケンを追い散らし、子供達の驚きの視線を受けながら、全速力でボートを漕いだ。
 キャーキャー言って喜ぶ妙は、22歳になったばかりの女の子なのだ。
 俺は、ポケットの中の小さな袋の存在をすっかり忘れていた。   
 

 今日の写真は「ミズオトギリ」(2005.08.06長野県で撮影) 
 水弟切と書きます。池や沼、湿原に生えます。
 僕の好きなオトギリソウの仲間では珍しくピンク色です。1㎝ほどの小さな花は午後に開いて夕方にしぼむ儚さ。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

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2005/09/13

悲しい伝説

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「困ったね」
「?」
「その顔でデートだなんて」
 稲作は、左目の上と、おでこの真ん中と、右のほっぺが、虫に刺されて腫れている。
 ここは夜が明けた喫茶店〔月の光〕。
 話は『9月10日 夜明けのコーヒー』の続きになる。
「デートじゃねえって言ってんだろ。これからチョビの散歩で汗流すから元に戻るさ」
「散歩、行くのかい。寝て無くて大丈夫?」
「当たりめぇだ」
 犬の散歩というとのんびりしていそうだが、彼らの散歩はちょっと違う。大型犬グレート・デーンのチョビと2時間ハードに走るのだ。自身のトレーニングも兼ねているらしい。

 待ち合わせ場所に10分前に着いた。
 まだ妙は来ていない。
 それにしても、こんな所を待ち合わせ場所にするなんて。
 恋人同士だったら、お艶さんの嫉妬で別れ話になるかも知れない。
 ここは敷島公園「お艶観音」前。
 こんな所に石碑があったっけ?
 暇に任せて読んでみる。
 お艶さんが淀君だったとは初耳だ。
 悲しい末路をたどった者は、こんな風にどこかで生きているかも知れないと思われるものなのか。義経が大陸に渡ってジンギスカンになったなんて言われるように。
 俺が知っているお艶さんの伝説はこうだ。
『昔、まだここが利根川の川原だった頃、お艶という名の美しい娘が、対岸に住む青年に恋をしました。娘は毎日この赤い岩の上に立ち、対岸の彼に逢うのを楽しみにしていました。
 でもある時、青年の気持ちが冷めてしまったのです。
 それでも娘は毎日あの岩の上に立って青年を待ち続けました。
 彼は姿を見せなくなってしまいました。
 娘は悲しみのあまり、あの岩から激流に身を投げてしまいました。』
 滋光池という小さな池の真ん中に赤い大きな岩がある。その岩の上に立って、お艶さんは毎日対岸を見ていたのだ。

 背中を突くやつがいる。
 なんだよ、と振り返った俺が見たのは――。


 今日もちょっと観光案内風でした。
 僕たちが慣れ親しんでいる公園に伝わるお話です。
 お艶観音、お艶が岩、石碑の内容が知りたい方はこちらをどうぞ。
 
 今日の写真は「オトギリソウ」(2005.08.28栃木県で撮影) 
 弟切草と書きます。この草を鷹の傷を治す秘薬としていた鷹匠が、その秘密を漏らした弟を切ったという伝説による名前。飛び散った血が葉や花の黒点になった……。
 名前の元の伝説は、悲しく恐いのですが、僕はこのおしべがキラキラしたオトギリソウの仲間が好きなのです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/09/12

朝の風景

PICT01711
「んが~……!!」
 わっ!なんだ!!
 目覚まし時計より一発覚醒だ。
 目の前にジルの顔があった。
「おはようございます」
「脅かすな!心臓が止まるかと思ったぜ」
「心配はいりません。あなたの心臓は丈夫です」
「そういうことじゃねぇ。――いつから見てた?」
「3時間ほど前から」
「!?――頼むから止めてくれ。落ち着いて寝られねぇじゃねぇか」
「ぐっすり眠っていました」
「今晩から鍵掛ける」
 ソファから飛び起きて、タオルケットをしまえば寝床は応接室に早変わり。
「止めて下さい。見ませんから……少しの間しか」
 そう言いながらジルは、除菌プラスと書いてあるスプレーを、ソファに丁寧に吹きかけている。毎朝の風景だ。初めのうちは俺って臭いのかと気になったが、客を招く部屋だから、きっとジルは気を遣ってくれているのだろう。
「冗談だ。あんまり見るな、恥ずかしいから」
 ジルはちょっと嬉しそうな顔をした。どうせ、鍵なんか掛けたって手品のように開けてしまうに決まっている。
「朝食の用意をしましょう」
 朝飯は、トースト、コーヒー、スクランブルエッグ、サラダ。ジルが作ってくれる。納豆とみそ汁が懐かしいが、目の前で食べるなという納豆禁止令が出ている。苦手はニンニクじゃないらしい。 
 
 食後、俺はコーヒー、ジルはトマトジュースを飲んでいる。
「妙のやつ、誕生日に何をやると喜ぶかなぁ」
 妙の誕生日が近い。本人から聞いたんじゃない。知らないうちに頭の中に入っていたのだ。
「女性は誕生石の指輪を喜びます」
「指輪?誕生石って?」
「9月の誕生石はサファイアです」
 ジルのサファイアのような瞳がキラリと光った。
「サファイアって高いよなぁ。それに――」
「それに?」
「誤解されねぇか?」
 これが、『9月10日 夜明けのコーヒー』前の出来事だ。


 今日の写真は「アカエリヒレアシシギ」(2005.09.11群馬県で撮影)
 赤襟鰭足鷸と書きます。一昨日は18羽、昨日は5羽見られました。
 襟が赤く無いじゃないかって?襟が赤くなるのは夏羽で、今の季節の休耕田では夏羽を見ることは出来ません。
 鰭足?他のシギにはヒレがないのに、アカエリ君にはヒレがあります。でも、泳ぎはそれほど得意ではないようで、ゼンマイをまき過ぎたアヒルちゃん人形みたいに、ちょこちょこと忙しなく泳ぎ回る様子がとても可愛いのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/09/11

睡眠学習?

PICT01021
 数日前。
「ねえ、ジル」
「はい」
 稲作の事務所件住居。主は仕事で留守で、暇を持て余した妙がジルに話し掛けてきた。
「好きな人の誕生日って気にならない?」
「私は気になりません」
「稲作のも?」
「男同士ではそんなお祝いはしないのだそうです」
「ボク、女なんだけどなぁ」
「お祝いをしましょう。稲作と絹さんも一緒に」
「ありがとう、ジル。でもね――」
 
 その夜。
 夜はベッドに横たわって、目を閉じているようにしている。
 普通の人間と同じように……。
 それが、今まで生き延びてきた秘訣。
 夜中に一度だけ、ベッドから出て夜気を浴びる。それが密かな喜びなのだ。
 自分がここに押し掛けて以来、稲作のベッドは事務所のソファ。
「んが~」
 なんと無防備な。大口を開いて寝ている。
 稲作は、私のもの。
 人の間は、人の楽しみを与えてやろう。
 耳元でささやく。
「稲作、妙ちゃんの誕生日は9月○○日ですよ」


 今日の写真は「トモエシオガマ」(2005.08.28栃木県で撮影)
 巴塩竃と書きます。上から見るとねじれた花が巴形に並んで見えます。

 塩竃とは?
 海水を煮詰めて塩を作る竈のこと。
 塩竃を「浜で美しい」ということから「葉まで美しい」に掛けた名前だそうです。
 オヤジギャグのように苦しい理由ですが、シオガマギク類の葉は特徴的で花が咲いていなくても見分けることが出来ます。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/09/10

夜明けのコーヒー

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 夜が明けていく。
「夜明けのコーヒーを君と二人で」
「あのなぁ、誤解を招くようなこと言うな。俺たち一夜を一緒に過ごした訳じゃねぇし」
「事実を口にしただけだよ」
 絹さんと向かい合って座ってコーヒーを飲んでいる。そういえば、こういう飲み方をしたことはなかった。同じ時間に飲んだとしても絹さんはいつもカウンターの向こう側だ。
「なに?」
「いや、こんな風にあんたと飲んだこと無かったなと思って」
「そういえば、そうだね。あれ?ジルちゃんは?」
「あの後、すぐに帰した。やつが一緒にいたんじゃ目立ってしょうがねえから」
 でも、一晩中頭の上をコウモリが飛んでいた。
「君――」
 絹さんはじっと俺の顔を見詰めて言った。
「橋の上で居眠りをしている間に不覚を取ったな」
「?」
 チン。厨房のオーブンから音がして、謎の言葉を残したまま絹さんは行ってしまった。

「ほんとはおやつに食べるものなんだろうけど。ジャムとサワークリームでどうぞ」
「パン?」
「スコーンだよ」
 腹が減っているから何でも美味い。
「そんなに慌てて食べなくても、取らないよ。もっと焼いてこようか?」
 ガツガツ食うのが俺のクセだ。
 絹さんは機嫌良さそうに俺が食うのを見ている。飼い犬を見る主人のようだ。
 人心地ついた俺は、さっきの謎を思い出した。
「さっきの、不覚を取ったって何のことだ?」
「かゆくない?……左目の上と、おでこの真ん中と、右のほっぺ。虫に刺されて腫れている……よだれの跡付いてるし。帰る前に顔を洗ったほうがいいよ」
「マジかよ。この後デートなんだ」
「デート!?」
「じゃねぇ、妙に呼び出されてるんだ」
 慌てて言い直した俺は、余計に墓穴を掘った。


 今日の写真は「アケボノソウ」(2005.08.27栃木県で撮影)
 曙草と書きます。花びらにある黒紫色の斑点を夜明けの空に見立てた名前です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/09/09

独りじゃないから

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 橋の上に稲作がいると思うと、どうも寝付けなかった。
 窓の外が白み始めている。パソコンの電源を入れてみた。
件名 いなさくえ
‘あなた なんで こない かわり こわいおとこいた じやま しねない’
 僕は、稲作の携帯に電話した。
「何だ?こんな時間に」
 僕は、メールの内容を彼に伝えた。
「あんただったのか、人の名前を語って」
「違うよ、僕じゃない。身に覚えが全くない。君でもないみたい」
「じゃ?」
「うちの常連のお客様かなぁ」
 僕は店のブログ『〔月の光〕だより』を公開している。こだわりの豆や水、メニューや日々の出来事を書いている(すいません、書いてません)。そこには僕のメールアドレスも載せてある。
「どっかで見てたのか、気付かなかった。……そっちに戻らぁ」

 俺じゃなかったのか。
 気付かないうちに、誰かを傷つけていたのかと思った。
 軟派のつもりはないが、弱い立場のやつに弱いところがある。
「おはよ」
「いらっしゃいませ、稲さん。コーヒー淹れるね」
「ありがと。――絹さん、パソコン貸してくれねぇか」
「いいよ」
「返信どうにすんだ?」

 稲作は、不器用そうにキーを叩いている。今時珍しい一本指打法だ。
件名 Re.いなさくえ
‘こわいおとこでわるかったな。おれがほんもののいなさくだ。なにがあったかしらないが、しぬなんていうな。おれたちは、つきのひかりで、あんたをまっているから。あんた、ひとりじゃないから’
 送信した後、稲作は言った。
「とんだ、笑い者かも知れないけどな」

 この後、メールの送り主から、再びメールが来ることはなかった。 


 今日の写真は「トリカブト」(2005.08.27栃木県で撮影)
 トリカブトの同定は難しくて良くわかりません。これは、オクトリカブトかヤマトリカブトだと思います。
 鳥がかぶる兜のように美しいから付けられた名前ですが、毒性の強さで恐いイメージになってしまいました。花粉までもが有毒だといいますから本当に恐いです。
 昨日のアズマレイジンソウも同じく、キンポウゲ科トリカブト属です。
 花の形が似ていますね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/09/08

月夜にダンス

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件名 いなさくえ
‘あたし あなた すき あいしてる きようよる おおわたりはし うえまてるよ いつまでもまてる あなた こなかたら あたし しぬ’
 これをどう読むか。
 こういう話し方をする外国人と付き合いがない訳じゃない。
 だが、愛されたり待たれたりするほどの仲になった女はいない……はずだ。
 メールの送り主は、〔月の光〕のアドレスに俺宛のメールを送ってきた。〔月の光〕に俺が出入りしていることも、先に絹さんの目に触れることも、彼が俺に知らせるだろうということも、近くに大渡橋があることも知っている。

「絹さん、この中にコーヒーを入れてください」
 ジルが魔法瓶を手に現れた。
「どうしたの?こんな時間に」
「稲作に持っていきます」
「仕事なんだ」
「いいえ、大渡橋の上にいます」
 店のすぐ近くに架かっている橋だ。
「?」
「ここで見たメールの指示だそうです」
 僕はパソコンを開くと、見ないつもりだった削除済みアイテムを開いた。やっぱりここまで消していなかった。
 彼宛のメールを読んだ。
「何これ、身に覚えがあるって?」
「わかりません」

 からかわれているのかも知れない。それならそのほうがいい。
 星が綺麗だし、夜風が涼しい。
 一晩ぐらい、知らない誰かにからかわれてもかまわないじゃないか。
 稲作は、橋の歩道に作られているベンチに座って空を眺めた。
 利根川の音が激しい。台風の影響で増水しているのだろう。
「稲作」
「どうした。今日は帰らないと言っただろう」
「これを持ってきました」
 紙袋の中にはコーヒーとサンドイッチ。
「ありがたい。あんまり暇で寝ちまいそうだったんだ」
「素敵な夜だ」
 両手を広げて空を見上げたジルは、夜気を全身に浴びて輝いて見えた。
「――稲作、一緒に踊っていただけませんか」
「できねぇ」
「手を――」
 立ち上がって手を伸ばした傍らで、優雅に踊るジルは美しかった。


 僕らは、この大渡橋付近に住んでいることになっています。
 橋にはこんな詩碑があります。 
『大渡橋』
大渡橋(おほわたりばし)は前橋の北部、利根川の上流に架したり。鉄橋にして長さ半哩にもわたるべし。前橋より橋を渡りて、群馬郡のさびしき村落に出づ。目をやればその尽くる果を知らず。冬の日空に輝やきて、無限にかなしき橋なり。

 僕らが思うより有名な郷土の詩人「萩原朔太郎」さんの詩です。
 セカチュウのサクちゃんも、おじいちゃんが萩原朔太郎さんから名前を付けたと言っていませんでした?

 今日の写真は「アズマレイジンソウ」(2005.09.03静岡県で撮影)
 東伶人草と書きます。麗人(見目麗しい人)ではなく、伶人は雅楽を奏する伶人の冠に花の形が似ているところから付いた名前です。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/09/07

男と女

PICT00481
「わほっ!何だこりゃ」
 伸ばしっ放しの黒髪が、大きなリアクションでバサッと揺れた。耳が長い犬みたいだ。
 稲作は、メールの件名を見て喜んでいる。
 パソコンのメーラーを開いたままだったのだ。
 奥様ランチ、人妻倶楽部、○○女子学園保健室……。送り主は何とかメールを開かせて、添付のURLをクリックさせようと必死なのだ。
「稲さん、見てもいいけれど、URLをクリックしないでね。変な請求が来ると困るから」
「男って、ほんとバカだよね」
 一緒にのぞき込んでいた、妙ちゃんの冷めた一言。
「何でだ?」
「そんなの見て喜んでるじゃない。女性向けのそういうメール見たこと無いよ」
 たしかに、女性向けの迷惑メールが来たことはない。
「だいたい、女が見ず知らずの男にお金払ってまで付き合うわけないよ。これぞ、と思った人には法を犯してでも貢ぐ人はいるけど」
 女性は現実的なのだ。
 毎日うんざりするほどの迷惑メールが送られてくる。僕などは、暇な時に消せばいいけれど、仕事でパソコンを開く人は毎朝嫌な気分になることだろう。先日メールした件ですとか、Re.とか、仕事関係かと思うと妖しい内容なのだから。でも、確認しないで消すことも出来ない。ほんとに仕事のメールだったら大変だから。
「あれ?このメール――」
「なに?」
「俺宛だ」
「なになに、見せて!」
 興味津々の妙ちゃん。
 稲作は、ノートパソコンを持って逃げ回り、ひとりで読むと、
「絹さん、これ消してもいいか」
 と、言った。
 何だか顔が赤いみたい。
「いいよ、君宛のだったら」
 Outlookは削除を押しても削除済みアイテムに内容が残ることを、稲作は知っているだろうか。見ないけれど。


 先日、思いがけない方からトラックバックをしていただきました。
 8月31日の「チャンス」托卵する野鳥の‘ききなし’について書いた日記です。
 いつものようにサイトさんにご挨拶に行くと、『続・八ヶ岳あかげら日誌』の主は「塀の中の懲りない面々」を書かれた作家の阿部譲二さんでした。サイト名の通り、野鳥に興味がおありのようです(アカゲラはキツツキの名前)。一時期よくTVでもお見かけしましたよね。
 今は、八ヶ岳に仕事場を設け、年間80日間は八ヶ岳で過ごされているのだそうです。
 羨ましい八ヶ岳での生活や野鳥などの写真満載の素敵なブログです。何より良いのはご本人の笑顔の写真がとっても素敵。充実した生活を送られているのですね。誕生日が僕の父と一日違い。同じ歳の父にも阿部さんのような笑顔でいてほしいです。
 興味がある方は、右側の「最近のトラックバック」から訪ねてみてください。それこそがトラックバックの本来の機能ですから。

*トラックバック=「あなたのブログを、私のページで紹介しました(リンクしました)」の自動通知機能。

 今日の写真は「アキノウナギツカミ」(2005.08.27栃木県で撮影)
 秋の鰻攫と書きます。茎の下向きのトゲがあり、ウナギでもつかめるという意味から付けられた名前。凄い想像力ですね。
 この、金平糖のような花が好きで毎年撮すのですが、なかなかうまく撮れません。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/09/06

キノコの季節

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「腹減った!絹さん、飯!!」
「どうしたの!?」
 突然現れた稲作に、僕らは驚いた。退院するという話を聞いていなかったからだ。
「言ってくれれば手伝いに行ったのに」
「手伝いに来てもらうことなんか何もねぇ」
「もう大丈夫なの?」
「ああ。――ところで良い匂いがしてるな」

「稲作!あなたも食べますか?」
 厨房から出てきたジル。手には出来たてのオムレツ。
「どうですか?」
「うん、美味い」
 いつも表情が薄いジルが、一瞬嬉しそうに見えた。
「一度採ってみたいんだが、俺んちの方には生えてこねぇんだ。……もう、キノコの季節だな」
 稲作は、残りのアンズタケを摘んで匂いを嗅ぎながら言った。


 今年の休耕田は不作です。変な言い方ですね。休耕田なんだから作物を作っていませんものね。不作なのは、休耕田に現れるシギが少ないということなのです。
 例年だったら、今頃はキアシシギ・タカブシギ・アオアシシギ・コアオアシシギなどが訪れるのですが、今年はアオアシシギを一回確認しただけです。大勢で羽を休めるはずのショウドウツバメもまだ見ていません。ちょっと心配です。

 今日の写真は「ハイマツ」(2005.08.05富山県で撮影)
 這松と書きます。名前の通り風の強い高山の尾根に這うように生える低木です。
 今日はここも野鳥でいきましょう。ハイマツが生えているようなところで、カラスの鳴き声を聞いたら周りを見回してみてください。小柄で全身に白い点々があったら「ホシガラス」です。彼らの食べ物は、このハイマツなどの高い山に生えている針葉樹の松ぼっくりなのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/09/05

仙人の贈り物

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 昨日一昨日とお休みをいただき、10人の仲間達ときのこ狩り&キャンプをしてきました。僕が参加させていただいたのは、今年で2回目。毎年、都合で来られない人がいたりして人数や顔ぶれが変わります。
 ただ、今年からずっと、人数がひとり足りなくなってしまいました。

 去年と違って天気に恵まれて暖かでしたが収穫は今一つ。いつものコースを歩き、昼食をとっていた時のことです。
 僕らがこれから下ろうとしていた道から、作業服を着て年季の入ったリュックを背負った人が、ゆっくりゆっくり登ってきました。リュックの中には新聞紙で包まれたものが幾つも入れられています。ちょっとオレンジ色のキノコが見えています。
 仲間のひとりが尋ねました。
「アンズタケですか?」
 リュックを背負った人は、嬉しそうに中身を見せてくれ、ご自身の体験談などを聞かせてくれました。途中、空っぽに近い僕らの籠に、新聞紙一包み分のたくさんのアンズタケを入れてくれ、自分が見つけた場所を教えてくれ、まだ採れることを教えてくれました。
 仲間達によると、彼のように、苦労して採ったキノコを他人にくれたり収穫場所を教えてくれる人は滅多にいないというのです。そうですよね。

 夜。キンキンに冷えた生ビールと、キノコ尽くしの料理を食べながら話が弾みます。
 思いがけないハプニングの話、アサギマダラが付いてきてなかなか離れていかなかった話、その風貌と話の内容から仲間達が‘仙人’と名付けたキノコをくれた人の話……。

 宴を始める前に仲間達は、彼女のために生ビールをお供えしました。
 創作料理が得意で、ワインを愛する人でした。
 キャリア・ウーマンで、元気溌剌とした人でした。
 2度しかお目に掛かっていませんが、彼女には教えていただきたいことが、まだまだたくさんあったのです。
 あのアサギマダラは、彼女だったのかも知れません。
 蝶になった彼女が、僕らに会う前の仙人に耳元でささやいてくれたような気がしてなりません。
『あの人達は、私の友だちだから収穫を少し分けてあげて』って。
 仙人が分けてくれたのは、彼女が大好きだったアンズタケだったからです。

 その夜、澄んだ空気の下で、初めて乳白色に見える天の川を見ました。
 Milky Wayの意味を初めて見ました。
 

「綺麗!本当に食べられるの?」
 仙人のお裾分けをいただいてきた僕は、店に来ていた妙ちゃんとジルに見せた。
「香りを嗅いでごらん」
「良い匂い。キノコじゃないみたい」
「干した杏みたいな色と香りがするから、アンズタケっていうんだよ」
「ジロール。市場でよく買いました。同居していた人の好物だったので。……彼女は、オムレツが好きでした」
「えーっ、ジル、国に彼女がいるの?」
「私がオムレツを作りましょう。彼女が好きだったオムレツを」
 ジルは、妙ちゃんの質問に答えずに、厨房に入っていった。
             (アンズタケの写真はこちら。キノコの国6でご覧下さい


 今日の写真は「テンニンソウ」(2005.09.03静岡県で撮影)
 天人草と書きます。花の色は地味ですが、高さが1メートルほどになるため群生して咲く姿には圧倒されます。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/09/02

目ヂカラ

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 子供の頃から、じっとしていることが苦手だ。通信簿にもいつも落ち着きがないと書かれたていた。
 それが、じっとしていなければならないのだから拷問に近い。
 俺の前世は、きっと回遊魚だったのだ。

 ドアが開いて、大きな赤い薔薇の花束が入ってきた。
 俺には見慣れているが、この田舎では浮きまくる服装の男と共に。
「マジかよ、青田さん」
「何がだ?」
「そんな格好で花束を持って――めまいがするぜ」
「大丈夫か?」
 めまいの原因はあんただ。
 青田は〔Madam☆Rose〕の用心棒。稲作が勤めていた時に、良い意味でも悪い意味でも世話になった男だ。仕事柄、稲作と良い勝負の強面の上、マフィアみたいな黒服にサングラスを掛けている。抱えきれないほどの赤い薔薇の花束を、麗華に預かったといって持ってきた。
「マダムは用があってな。代わりに俺が来てやったんだ、面白そうだから」
「面白いか?」
「もっと唸ったりしてるのかと思った」
「サディスト」
「その様子じゃ、大丈夫らしいな。……これは俺からの見舞いだ」
 彼が差し出した箱の中身は、○◆◎●のラムレーズンのアイスクリーム。いつも長蛇の列が出来ている人気店だ。死んだ仲間との思い出がある、俺たちにとって特別な食べ物。
「その格好で並んだのか」
「悪いか」
 俺たちは無言でアイスクリームを食べた。大した話もしないまま、青田は帰っていった。
 半分は本気で俺を心配し、半分は麗華に報告するために。
 
 ドアの隙間から、カレーライスがのぞいた。
「遅いぞ!」
 楽しみが食べることだけというのが情けない。
「動かないのに、こんなの食べてると太っちゃうよ」
「!?」
 妙!
 いずれバレると思っていたが早すぎる。絹さん、なんて口が軽いんだ。
「酷いよ、稲作。ボクにだけ黙っているなんて」
 妙の、涙で潤んだ大きな瞳が俺を見た。
「ご、ごめんな。お前に心配かけたくなかったし、笑われたくなかったし」
「ほんと?」
 見る見るうちに満面の笑顔に変わる妙。……だまされた。
「なぁ、妙、そのアイスクリーム全部やるから――」
「ほんと!?○◆◎●のアイスだ!やったー、大好きなんだ!……今日からは、毎日、ずーっと傍にいるからね。カレー食べさせてあげようか?」
 貢ぎ物は逆効果。ある意味、ジルよりも手強い。 


 今日の写真は「シラタマノキ」(2005.08.28栃木県で撮影)
 見たまま、実が白いから白玉の木です。実は食べられませんが、葉に面白い特徴があります。どこかで出会ったら、ちょっとだけ葉を千切って匂いを嗅いでみてください。湿布薬のようなスーッとしたサロメチールの匂いがします。 
 
【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

☆お知らせ☆―明日明後日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/09/01

愛について

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「止めなくて、良いのですか」
「いずれわかっちゃうことだからね。稲さんには言うなって言われていたから黙っていたけれど、バレちゃったものは仕方ない」
 ウソが下手な僕は、少しほっとしている。
「悪いようにはならないでしょう。稲作はいつも相手にとって最善の方法を考えていますから。自分のことは忘れてしまって」
「そうだね、そのせいで損ばかりしている。世の中は、少し器用でズルいぐらいじゃないと生き辛いんだけれどね」
「私が稲作を好きなのは、その不器用な所です。……彼は私たちに愛を与えようなどとは思っていない。愛してほしいとも思っていない。人は、愛されたいからその人を愛する。常に代償を求めるのではないのですか」
 宗教に関心がない僕には良くわからないけれど、ジルの考え方はキリスト教的なのではないかと思う。‘汝の敵を愛せよ、然れば汝も愛されん’という。
「彼はきっと慈悲深いのだよ」
「慈悲?」
「代償を求めない絶対愛、理由のない愛とでも言ったらいいのか」
 これは、仏教的な愛。
「それで満足出来るのですか」
「解らない」
 稲作は、ジルが言うように代償を求めない。でも、その対象を失った時の彼を見ているのは、こんな僕でも辛かった。
「稲作は、私とある約束をしてくれました。今とは状況が違う、旅の途中でのことです」
「君とその約束をした時、彼にもその約束をすることが必要だったのだと思う。心配しないで。彼は君との約束を破らない」
《明日につづきます》


 今日の写真は「タマガワホトトギス」(2005.08.28栃木県で撮影)
 玉川杜鵑草と書きます。名前は、京都府井出の玉川から。
 昨日に続いてホトトギスです。こちらは黄色が特徴。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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