« 2005年7月 | トップページ | 2005年9月 »

2005/08/31

チャンス

PICT00381
 大盛りのカレーライスを持って店を出ようとした時だった。
「あれ?いつから出前サービス始めたの?」
 と、妙ちゃん。
 今日は東京へ行くと言っていたのに。
「ちょっとね。……今日は学校に行くって言ってなかった?」
「稲作のおかげで、行きそびれちゃったんだ。いつも暇なのに、今日に限って依頼の電話が多くてさ。どこ行っちゃったんだろう、いつ帰ってくるかわかんないから仕事受けられないし、必要経費だって渡してないのに」
 妙ちゃんは経理も担当しているのか。
 妙ちゃんだけには知られたくない稲作は、極秘任務で出張(ウソっぽいが)ということになっている。妙ちゃんだけには…っていう所が二人の微妙な関係を思わせる。
「ねえ、絹さん。それ、カレーライスの大盛りだよね。それと、ウスターソース……」
 まずい。
「どこに持っていくの?」
「ちょっとそこまで」
「ふ~ん」
「絹さん、もう隠すのは無理です。実は――」
 ジルから話を聞いた妙ちゃんは、怒り出すと思ったら、黙ってしまった。
 それどころか泣き出しそうだ。
「どうしよう」
「?」
「おたふくかぜ……私たちの赤ちゃんが……」
 ふらふらと出ていこうとする。そんな情報どこで仕入れたんだ。
「待って、妙ちゃん。そんなことにならないために大事を取って入院しているんだよ。先生も大丈夫だって言ってくれたから」
 大人になってから罹る流行性耳下腺炎は、たしかに重いけれど不妊の原因になることはまれなのだそうだ。
「ほんと?」
「君に逢うのが恥ずかしいって言うから、黙っていたんだ。だから、待っていてあげてね」
「これ、私が持っていくね!食べさせてあげようっと!」
 僕の話をぜんぜん聞いていない妙ちゃんは、カレーを持って出ていった。スキップしながら。
《明日につづきます》


 今日の写真は「ヤマジノホトトギス」(2005.08.22群馬県で撮影)
 山路の杜鵑草と書きます。この斑点模様が好きという人と気味が悪いという人がいますが、僕は前者。花の形もいいですね。

 野鳥のホトトギスは、夏の高原には欠かせないBGM。「トッキョトカキョク」「テッペンカケタカ」という‘ききなし’が有名です。
 ホトトギスはカッコウの仲間。他の鳥の巣に卵を産んで育ててもらいます(托卵と言います)。
 カッコウの仲間は他に、ツツドリ、ジュウイチがいます。
「トッキョトカキョク、トッキョトカキョク」
「カッコウ、カッコウ」
「ポポ、ポポ、ポポ」
「ジュウイチ、ジュウイチ」
 どれも一度は耳にする高原の歌い手ですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 
よろしかったらクリックを。
   ↓
人気BLOGRanking

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2005/08/30

安全な場所

PICT00261
 〔月の光〕にはいつも通り、のんびりとした時間が流れている。
 ジルはいつも通りトマトジュースを飲んでいる。
「僕は、これを届けに行って来るけれど、ジルちゃんは行かない?」
 ふつう出前はしないがこれは特別。大盛りのカレーライスとソース。
「私は、ここにいます。店番をしていましょうか」
「ありがとう。すぐに戻るからいいよ、準備中の札下げておくからね」
「わかりました」
 ジルは綺麗だけれど、何をするかわからない所がある。お客様の前でネズミでも出されたら大変だ。
 わからないと言えば、情が厚いのか薄いのかもわからない。あれほど付きまとっていたのに、一度‘来るな’と言われただけで大人しく引き下がっている。
 3日前、僕の予想通りの展開になった。
 稲作は、篠原先生に診てもらい、そのまま何日かお世話になることになったのだ。彼と知り合ったのは彼が高校生の頃だったが、子供の頃から風邪もひいたことがないと言っていた。
 そして、この間子供との約束で田舎でカブトムシを捕ってきたのを覚えているだろうか。
 お梅ちゃんのお孫さんは、せっかくお祖母ちゃんの家に遊びに来ていたのに風邪をひいて、外に出られなかったらしいのだ。彼はとても元気で、負ぶさったり絡み付いたりしてきて強面の稲作に懐き、意気投合してカブトムシを捕ってきてあげる約束をしたのだそうだ。
 他の子供にうつるからと、外に出してもらえなかったお孫さんは、寄りによって流行性耳下腺炎に罹っていた。
「様子を聞いてきてあげるからね」
「心配はしていません。あそこほど安全な場所はありません。稲作は動けませんから、いなくなる心配もない」  
《明日につづきます》


 今日の写真は「ミズオオバコ」(2005.08.18群馬県で撮影)
 水大葉子と書きます。農薬を使ったり、水路がコンクリート製になる前は普通に見られた水草だそうですが、僕はここでしか見たことがありません。
 子供の頃、田んぼにトウキョウダルマがエルを捕りに行ったものですが、地元の田んぼでは何年も目にしていません。アオハダトンボやハグロトンボも見なくなりました。
 ふと思い出すと、あの頃当たり前に身の回りにいた自然の仲間達が、静に姿を消していたことに気付くのです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/29

罰(バチ)

PICT00961
「絹さん、折り入って相談があるんだ」
 いつもだったら、もっと早い時間に「腹減った!飯!」という挨拶でやってくる稲作が、静にやってきた。
 ランチを終えてくつろぐお客が3組ほどになっている。忙しい時間を外して訪れたようだ。
「何?珍しいね」
「……紹介してほしいんだ」
 小さな声で、もごもご言っていて聞き取れない。これも大声で早口の彼にしては珍しいことだ。
「もっと大きな声で言ってくれなきゃ聞こえないよ」
「あんたが行ってた病院を紹介してくれ」
「ん?どこのこと」
「俺が後をつけたとこだ」
「後をつけられたっけ?」
「忘れちまったのかよ。○▲◇●が痛えから病院を紹介してくれって言ってんだよ!!」
「!?」
 最後の言葉はいつも通りの大声だった。
 店の中にいる全員が僕らを見た。
「ちょっと、みんな食事中なんだ。奥の部屋で聞こう」

「心当たりがあるのか」
 店の奥、僕の休憩部屋で話を聞いている。
「最近は、おとなしいもんだぜ。俺も歳をとったのかなぁ」
「その若さでそんなことを言うな。僕の立場はどうなる。……そんなことはどうでもいい、心当たりはないんだね?」
 だとすると、他の病気か。
「いや待て、一つある」
 稲作は、一昨日の妙に対しての心の葛藤を、恥ずかしそうに語った。
「――だから、罰が当たったんだ」
 こういう所が、彼の可愛い所なのだ。 
「君、本気で言っているのかい?……僕だって人間だし、男だ。色々な思いが渦巻くこともある。考えただけで、罰が当たったりなんかしないよ」
「そうかなぁ」
「病院を紹介してあげるから。言っておくけど、僕は君と同じ症状だった訳じゃないからね。――あれ?」
 気付いてしまった。稲作の耳の下が腫れていることに。熱もある。
「君、篠原先生に診てもらってからの方がいいみたい。子供の患者がいないか確認してあげるから」
《明日につづきます》


 時々、パソコンの情報誌を買います。今回は、付録のCD‐ROMに惹かれて買ってしまいました。AQUAZONEを使ってみたかったのです。その上、無料でカクレクマノミがゲット出来ると書いてあります。
 ニモだ!
 ということで、買った時のままだった僕のパソコンのスクリーンセーバーは今、ルリスズメダイ10匹とカクレクマノミ3匹が泳いでいます。エサを撒くと食べに来る所も可愛いですよ。
 もう一つ。そのCD‐ROMで紹介されていたアドベンチャーゲームのフリーソフト「ZODIAC2」にはまってしまいました。登場する「軽装の男」が気になって仕方なくなってしまったのです。6種類のエンディングを全て見終えた後出現するシナリオは、「軽装の男」ファンの僕には涙ものでした。気になる方は「ZODIAC2」のサイトに行ってみて下さい。

 今日の写真は「イワインチン」(2005.08.28栃木県で撮影)
 岩茵陳と書きます。花盛りの時期に会えずにいたので、嬉しい出会いでした。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/28

ご来店ありがとうございます

 お休みをいただいている間に、10000ヒットを越えていました。
 大勢の皆さまにご来店いただき、僕たちは幸せものです。
 喫茶店〔月の光〕登場人物一同、これからも精進して――
「おいおい、何かたっくるしい挨拶してるんだ?何を精進するんだよ」
「そうだよそうだよ、今まで通りでいいじゃない」
「私も、そう思います」
「そうかなぁ」
「そうだよ」

 それでは、あらためまして――
「またかよ!」
「ごめん、ごめん」
 喫茶店〔月の光〕は、今まで通りのんびりとやっていきますので、これからもよろしくお願い致します。 
 

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005/08/27

葛藤

PICT01851
「ねえ!止まってよ!!」
「大丈夫か?」
 切羽詰まったような妙の声に、稲作はバイクを止めて聞いた。
 ソフトクリーム2個と牛乳1本、飲むヨーグルト1本、一度に腹に入れれば起こることは一つ。
「ちょっと待て、もう少し走れば町の中心に出る」
 役場や学校の側なら、コンビニの1件や2件あるはずだ。親切そうなオバチャンに借りてもいい。
 妙は、‘ご休憩4000円’と書かれた派手な看板を指さしている。
「我慢出来ねぇのか?」
 土産まで買わされた上に4000円は痛い。
「ちょっと、なに勘違いしてるのよ!!……見たこと無いの……見てみたいの」
 ご休憩4000円。
 誘われてるのか!?俺。
 体が熱くなっていく。
「駄目だ、金が無え」
「そのぐらい、私、持ってるよ」
「便所はコンビニまで我慢しろ。しっかり掴まれ、行くぞ!」

 帰り着くまでの間、ジルの二つの言葉が、ずっと頭の中を渦巻いていた。
『あなたは、貴重な乙女だ』
 ジルが初めて妙に会った時、言った言葉。ヤツには見分けがつくのだ。
『GPSの発信器をバイクに取り付けてもいいですか』
 いつも本人、ネズミ、コウモリのどれかしらに付きまとわれているから、別に構わないと思ったのだ。
 ――おかげで、取り返しがつかないことをせずにすんだような気がする。

「ただいま!ジル、ずっといたの?」
「はい」
 寄り道もせずに戻った稲作と妙。
「ほら、お土産!チーズケーキ。バターとチーズは絹さんにお土産だよ。後で美味しいケーキつくってね。チーズケーキ、食べようよ!」
 妙ちゃんとは対照的に、稲作は酷く疲れた様子だ。
「どうしたの?稲さん。お腹の具合でも悪いの?」
「――放っておいてくれ。心の葛藤の結果だ」
「お帰りなさい、稲作」
 稲作を見詰める、ジルの瞳が青く輝いた。


 ジルと妙ちゃんの初めてのやり取りは、『YUUGATOU―誘蛾灯―』というお話の中にあります。よろしかったらご覧下さい。

 今日の写真は「カセンソウ」(2005.08.07群馬県で撮影)
 歌仙草と書きます。この花が、田んぼの畦にところどころ残されているのは、農家の人に大切にされているのかも知れません。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/26

デジャ・ビュのように

 P81200621
…………
 …………
 …………
 稲作と妙ちゃんが出て行ってから、お客様が誰も来ない。
 彼の他に。 
彼はいつもの席で頬杖をつき、微動だにしないで窓の外を見ている。
 !?
 不思議な気分に襲われた。
 似ている。
 あの絵と構図も同じだ。
 今まで思ったこともなかったのに。
「何か?」
 ジルの青い瞳がこちらを見た。
「いや、何でも」
「稲作にも言われます。私は智紘に似ていると」
 思っていたことを、言い当てられてしまった。
「何か、飲む?」
「それでは、コーヒーをいただきます」
 コーヒーの注文を受けて、ホッとする僕。
「マンデリンを。智紘が好きだったコーヒー」
 マンデリン……。
「知っているの」
「はい。……あれを弾いては、いけませんか」
 ジルは、ピアノを指さした。弾き手のいないピアノは、今では店のインテリアになってしまっている。
「弾けるの?」
「前の前に一緒に住んでいた人は、ピアニスト。私は筋が良いと、褒められました」
「絹さんには、この曲を」
 ドビュッシーの月の光。
 ――涙が流れた。
「泣かないでください。……時々弾いても良いですか。私は彼を、あなたは智紘を思い出すために」


 予想通り、台風11号は群馬県を逸れました。
 被害を受けた方には、お見舞いを申し上げます。まだ天気が不安定ですから、十分気を付けてくださいね。

 台風のせいではないと思いますが、明け方おかしな夢を見ました。
 夢の中の僕は、上司に退職のあいさつをしました。帰り際、女子社員が腰に膝掛けを巻いてくれました。何?と思って下を見るとお尻丸出し。そんな格好で上司に会い、歩いていたことを恥ずかしいとも思わずに外へ出ると、火山が噴火していて熱い火山砂が降ってきました。これはたまらないと、入った建物はたぶん学校。迷ってなぜかなかなか出られない途中で、放送室にたどり着きました。そこにはお笑いコンビ「くりーむしちゅー」の二人がいて、3人で部屋を出ました。降りようとした階段に溶岩がせまってきています。
 それを見た「くりーむしちゅー」上田さんの緊張感がない一言。
「やべーよー」
 場面は地上に変わり、後ろからせまる溶岩から逃げる、僕。
 脇道を逃げようとしても、前から溶岩が。
 溶岩に飲み込まれた所で目が覚めました。
 この夢、どう思います?

 今日の写真は「キツネノカミソリ」(2004.08.12大分県で撮影)
狐の剃刀と書きます。葉の形を剃刀に見立てた事によります。濃い赤があまりに美しいかったのでモデルになってもらったのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005/08/25

その笑顔を見るために

PICT01151
「ジルちゃん、二人は当分の間帰ってこないと思うけど」
「私は、待っていると約束しました」
「また、ネズミかコウモリに見張らせているのかい?」
「オートバイには付いていけません。だからこれです」
 ジルは、バッグから小さな機械を取りだし、電源を入れて見ている。
「高速道路を移動中のようです」
「なに?」
「GPSの受信機です」
 ハイテク機器も持っているのか。
「そんなの持たせているの?」
「オートバイに付けてあります」
「内緒で?」
「稲作はプロです。勝手にしろと言われました」
 プロ?……そういえば、彼は私立探偵だったっけ。そんな道具を使う仕事の依頼が来るとは思えないけれど。……普段使っていればメンテナンスも楽か。そういう問題でもないような……。

「ねえ、ねえ」
「なんだ?」
「あれ、何?」
 信号待ち。
 妙が指さした先には、雑然と植えられている農作物。大きさもまちまちだ。
「こんにゃく畑だ」
 もう目的地に近い。
「面白い。初めて見た、どうやって食べるのかなぁ。買って帰って絹さんに作ってもらおうよ」
 妙は、後ろで何かごちゃごちゃ言っている。が、稲作はそれどころではなかった。背中に神経が集中してしまうのだ。ガリガリに痩せているけれど、妙は一応女で、体も胸も柔らかい。
 胸……まずい、考えるな、俺。
「ちょっと!聞いてるの!」
「もうすぐ着くから」

 夏休み真っ只中。牧場は大勢の人で賑わっていた。家族連れも多いが、カップルが多い。
「どうだ?」
「おいし~い!」
 妙は幸せそうに笑った。
 その顔が見たくて、休憩も入れずにやって来たのだ。のどが渇いているだろうから、美味さも倍増のはずだ。
「牛乳も美味しそうだね」
 妙は、2つ目のソフトクリームをなめながら、次に目がいっている。
「いいなぁ」
「あんまり食うと腹壊すぞ」
 って、彼女の視線に先には、手を握りながらソフトクリームをなめ合っているカップル。
 俺は1歩後ずさった。
「逃げても駄目だよ。――まだ帰りがあるんだから」
 無事に帰れるのか、俺。 


 昨日からローカルネタですね。下仁田はネギとこんにゃくの町です。特産の太い下仁田ネギは、最近は都市部でも売っているそうです。手に入れたら、すき焼きに入れて食べてみてください。とろけるように甘くなりますよ。美味しい季節は秋から冬です。

 今日の写真は「ユウスゲ」(2005.07.31群馬県で撮影) 
 夕菅と書きます。別名はキスゲ。名前の通り、夕方に開いて翌午前中に閉じてしまいます。レモンイエローのユウスゲは、ニッコウキスゲとはまた違う美しさがあり、顔を近付けると、花にぴったりな爽やかな香りがします。
 撮影場所は榛名湖近くの「ゆうすげの道」です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2005/08/24

ドナドナ

501681
「いらっしゃいませ、ジルちゃん、妙ちゃん」
 沼田さん篠原先生と、入れ替わるようにふたりが来店した。
「ねえねえ稲作、神津牧場って知ってる?」
 と、少々興奮気味の妙ちゃん。
「ん?下仁田の牧場かな?」
 ウスターソース掛けの大盛りカレーを食べ終えて、のんびりお茶を飲みながら答える稲作。
「そうそう、可愛いんだよね。ジャージー牛」
 ジャージーは、ホルスタインより小さくて全身ベージュ色の牛だ。
「そうか?ただの牛じゃねぇか」
「ねえねえ、そこのソフトクリームものすご~く美味しいんだって、知ってた?」
 どこで聞いてきたのか夢見心地の妙ちゃん。高原の牧場でソフトクリームをなめる自分の姿を想像しているのだろう。
「牛乳は濃くて美味かったぞ」
「ソフトクリームもコクがあって美味しいよ」
「え~!ふたりとも行ったことあるの?」
「ふたりで行ったんじゃないよ。僕は、若い頃に何度か行ったことがある」
 飼っている牛はジャージー種だけという、県内では有名な観光スポットだ。
「いいな、いいな、連れてってよ!」
「今からか?下仁田だぞ」
「どうせ、午後仕事無いんでしょ」
 一応探偵助手の妙ちゃんは、稲作の仕事状況を把握しているようだ。
「絹さん、車貸してくれ。ジルも来い」
「私は、行きません。ここで待っています。絹さん、トマトジュースを下さい」
「ジル、行かないの?残念だなぁ。……稲作、バイクでいいよ!高速二人乗りOKになったんでしょ」
 残念どころか嬉しそうな妙ちゃんは、助けを求めるような表情を浮かべた稲作を引っ張って出て行った。

「ジルちゃん、一緒に行かなくていいの?」
 ジルは気を利かせたのだろうか。
 稲作と妙ちゃんとソフトクリームの取り合わせは、「ソフトクリーム・キス事件」としてまだ記憶に新しい。大げさだけど、ジルにとってはそうだったのではないかと思っていた。思い過ごしだったのなら、その方がいい。
「私たちには、たくさんの時間がありますから」
 ジルの瞳が青く輝いた。


 手軽にハイキングが出来るような高原の売店で、一番の人気はソフトクリーム。軽く汗を流しながら高原の景色や空気を満喫した帰りのソフトクリームは格別ですね。
 色々な所で食べていますが、香料臭くない素朴な甘みの、神津牧場のソフトクリームは別格です。

 今日の写真は「ジャージーの子牛」(2003.10.05群馬県で撮影)
 もちろん、神津牧場撮影です。子牛って、黒目がちで可愛いですね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/23

溜め息

PICT00141
《一昨日のつづきです》
「稲さんに何か問題があるのですか?どこか体の具合でも悪いんじゃ?」
「どうみても健康そのものでしょう」
「頭は少々弱いようだがな」
「もういい歳なんだから、少し考えて行動出来るといいんですがね」
「あいつは、脳味噌も筋肉で出来ているんだろう」
 篠原先生と沼田さんの会話を聞いていると、心配しているのか、けなしているのかわからない。
 僕は、??という気持ちで二人の会話に割って入った。
「あのぅ」
「話が脱線してすまないね、絹さん。……心の問題なんだ」
「智紘が亡くなってから、ようやく立ち直ったと思ったのになぁ」
 それは、僕だってわかっている。この中の誰よりも一番間近で見ていたのだから。
 今思うと、あれは共依存という状態だったのではないかと思う。稲作は智紘の行いを全て許し、見守り、後始末に奔走していた。あの頃の彼は智紘のためだけに生きていた。
 見た目と言動がそうは見えない所も、彼自身と周りが、余計に彼を追い詰める。
「ジルちゃんですか?あの子は智紘君と違って健康なんですよね。今は、稲さんにくっついて離れないですが、そのうち日本に慣れれば状況が変わってくるのではありませんか?あんなに綺麗なのですから、女の子達だって放っておかないでしょう」
 そうであってほしい。

「ちわ~す。絹さん、腹減った!……なんだなんだなんだ?ジジイが三人雁首揃えて溜め息付いて。みんなで老後の心配でもしてるのか」
 僕たちは、また、溜め息をついた。


 今日の写真は「オオヒナノウスツボ」(2005.08.16群馬県で撮影)
 大雛の臼壺と書きます。草丈は1メートルほどありますが、花の色と大きさのせいで目立ちません。大きく撮すと、こんな形のお花です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2005/08/21

心配のもと

PICT02011
「いらっしゃいませ、先生、この間はジルちゃんがお世話になりました」
「いや、大した世話はしていないんだが――」
 篠原先生は、軽く会釈をすると、カウンター席の沼田さんの隣に座った。
「ジルが?」
「ええ、交通事故に遭いまして――」
 と僕。沼田さんは知らなかったようだ。
「先生、治療したのか?」
「したような、しないような」
 見交わす目と目。見つめ合う二人……。
「そうか、あんたも知ったか」
 何やら二人は深刻そうだ。
 ジルに何かあったのだろうか。彼の小食と顔色の悪さがいつも気になっているのだ。
「絹さん、心配そうな顔をしなくてもいいよ。ジル君に何かあった訳じゃない。私たちが心配しているのは……」
「広木の方だろう?」
「ええ」
《明日につづきます》 


つい先ほど、ドン、という近くで大きなものが落ちたような感じがしました。
 新潟でまた震度5強の地震があったようです。今のところ被害の報告はないようです。
 前橋は震度2でした。

 今日の写真は「フシグロセンノウ」(2005.08.14長野県で撮影)
 節黒仙翁と書きます。薄暗い林の下で輝くように咲く、朱赤色の大きな花です。
 なぜ、仙翁?=仙翁は中国原産の多年草です。直径 4 センチくらいの深紅色の花をつけるそうです。京都府嵯峨の仙翁寺に伝わったのでこの和名。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/20

雷雨

PICT02111
「ヘチマ?食べるの?」
「本気で言ってるのか?まさか見たことねぇのか?」
「ヘチマじゃないの?」
「キュウリ」
「ウッソー!そんなの売ってないよ」
「売り物にはなんねぇからな」
 〔月の光〕キッチンでの稲作と妙ちゃんの会話。
 僕は、キッチンから閉め出されてしまった。
 お化けキュウリは店では売っていないけれど、この季節田舎では普通に見かける。と、言うよりはいただくのだ。キュウリは収穫時期を2~3日逃しただけで大きくなり過ぎてしまうから、持て余してしまうのだ。
「じゃ、これも見たことねぇだろ?」
「ミョウガ?」
「これもこうなったら売り物にはならねぇ」
 稲作は、花が咲いたミョウガを見せたのだろう。

「はい、絹さん」
「うん、美味しい」
 種を取って皮をむいたお化けキュウリとナスの薄切りとミョウガをピリ辛のタレで和えてある。何とも夏らしい一品。
「だろ。……お千代ちゃんの所で喜んでもらったら、どこに行っても持たしてくれるんだ。助かるけど、毎日食ってるとキリギリスになりそうだぜ」
 そういいながら、大盛りライスに和え物を乗せてかき込んでいる。
「美味しそうに食べるねぇ。でも、そんなのばかり食べているとキリギリスになる前に栄養失調になっちゃうよ」
「こればっかじゃねぇさ。俺にはこういう強い味方もある」
 彼は残りのライスの上に、生卵を割って落とした。
「あっ、雨だ」
 外が暗くなり、大粒の雨が窓を叩き始めた。


 3時過ぎから、さっきまで雷雨が降っていました。午前中の暑さとうってかわって涼しい風が吹いています。

 今日の写真は「ホツツジ」(2005.08.14長野県で撮影)
 穂躑躅。以前ミヤマホツツジを紹介しました。今日はホツツジの花を紹介します。見分け方は、めしべの向きです。ミヤマホツツジと比べてみてください。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2005/08/19

なるようになる…のか?

PICT00861
「まだ大丈夫みたいだな」
「なになに?」
 やって来た稲作は、黄緑色の虫かごを下げて入ってきた。似合わないことこの上ない。
「見ろ」
「クワガタムシ!」
「お梅ちゃんちで、俺の田舎にはいっぱいいるって言ったら、遊びに来ていた孫がいつ帰るんだっていつ帰るんだって煩くてな。朝一で捕ってきた。夕べ、お袋に電話して街灯の下にスイカの食べかす置いといてもらったんだ」
「それでそんなに捕れるの」
「悪かったな、田舎で。……変な格好のヤツは混じってねぇな」
「?」
「今、子供達の間で飼うのが流行ってるんだと。ホームセンターにも売っていて、その孫がお梅ちゃんにねだってたんだ。それも輸入物。角がいっぱい生えているカブトムシなんて何か邪道な気がして」
「そういえば、放してしまった虫で雑種が出来てしまわないかとか、国産の虫が生存競争に負けてしまわないかとかニュースで言ってたね」
「なるようにしかならねえさ。ブラックバスやミシシッピーアカミミガメみたいに日本に溶けこんじまうかも知れねぇし。……やっぱり格好いいだろ?日本のヤツは」
 得意そうな彼の虫かごの中には、大きなカブトムシ、オオクワガタ、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタ、コクワガタが入っている。
「ほんと、格好いいねぇ。僕はミヤマクワガタが好きだったんだ。このオオクワガタ、ちょっと前だったら相当高価だ」
「そんなだから、輸入なんかし始めるんだ。……あの子には、最後まで面倒見るように、ちゃんとした飼い方教えなきゃ」

 男の子は幾つになっても、カブト虫・クワガタ虫が好きなのだ。おじさんになってもね。


 ってことで、
 今日の写真は「ミヤマクワガタ」(2005.08.05富山県で撮影)
 深山鍬形。クワガタソウの仲間では、一番色が綺麗で華やかです。2本突きだしたおしべがチャームポイント。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005/08/18

懺悔

PICT01921
「もう帰れよ。若いお姉ちゃんじゃねぇんだから、心配いらねぇのに」
 見ている人がいたら、危ない男の独り言にしか聞こえないだろう。
 頭上を何匹かのコウモリが飛んでいるのだ。
 ジルには、俺がやんちゃな飼い犬にでも見えるんだろう。どっかで喧嘩でもしないか心配なのだ。

 事務所のドアを開ける。
 ジルの心遣いに乗ってみるか。
 部屋が暗い方が居心地がいいのかな。
 灯りを点けずにソファに座った。
 智紘――お前と俺の大切な人を、傍で守ることも出来ねぇ。おねえは、本人や周りが思うほど、強い女じゃねぇのになぁ。情けない男だよ、俺は。
 智紘――妙は少し元気になったよ。俺のことを好きだと勘違いしているようだけど、良くなっている証拠だろう。いつか、女らしくなって、彼氏を紹介してくれる日が来るだろう。
 智紘――考えても仕方ねぇ事だけど、ジルが5年早く俺の前に現れていればと思う事がある。
 智紘――俺はジルと約束をした。お前と会う、ずっと前の約束なんだ。……その約束を、破る気はねぇんだ。


 智紘と会うずっと前の約束。そのお話を書いたのは去年末のことでした。
 よろしかったらご覧になってみて下さい。題名は「間違われた男」です。

 今日の写真は「ツノハシバミの実」(2005.08.14長野県で撮影)
 以前紹介した角榛の実を見つけました。名前の由来がわかりますので紹介します。
 秋には、西洋榛(ヘーゼルナッツ)と同様に食べることができます。
 花の写真はこちら

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/17

PICT00191
「私は、もう少しここにいます」
「わかった」
 と、言い残し、稲作は出て行った。
「どうしたの?」
 いつもべったりと稲作にくっついているジルなのに。
「二人だけで、話したいこともあるでしょう。また、1年会えないのですから」
 ジルにしてみれば、気を利かせたつもりなのかも知れない。
 16日の夜なのだ。帰ってきている智紘と本当に話せるわけではないけれど、そういう時間も必要かも知れない。
「コーヒー、飲む?」
「トマトジュースを」
 差し出したトマトジュースを、うっとりと見詰めるジル。どうしてあんな顔が出来るのだろう。
「何か?」
 ピカッ!一瞬、僕を見た目が青く輝いたように見えた。
 青い瞳、金色の髪、白い肌……。
 まずい。僕は、アンティーク・ビスクドールが恐いのだ。
 パタン、パタン、パタン、何かが窓にぶつかる音。
 ……風が、出てきたのか。
「窓を――」
「?」 
「開けてもいいですか?」
 バサバサバサバサ、黒い影が3つ、店の中に入ってきた。
 影はしばらく天井近くを飛び回ると、ジルの頭と両肩に止まった。
「稲作は無事に家に戻ったそうです」
「コウモリ!?」
「ネズミは駄目だと、稲作に言われたので」 
 

 今日の写真は「カリガネソウ」(2005.08.16群馬県で撮影)
 赤城山でもやっと咲き始めました。雁草と書きます。花の形を飛ぶ雁に見立てたのだそうです。
 昔は前橋でも、V字形の隊列を組んで雁の群が上空を飛んでいたそうです。今では、V字形の隊列を組んで飛んでいるのは、当時はいなかったカワウの群。
 ここで、野鳥の雁について。
 秋、雁は新潟や東北の水田地帯に渡っていきます。何千何百の群れのほとんどがマガンですが、時々ヒシクイ、シジュウカラガン、ハクガン、カリガネなどが混ざっていることがあります。中でも、マガンにそっくりで、一回り小さく、くちばしが短く、目の回りに黄色い縁取りがあることはわかっていても、カリガネを探すのは至難の業。
 カリガネソウ、どうしても、あの愛らしいカリガネの顔を思い浮かべてしまいます。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/16

盂蘭盆会

PICT01951
「ジル、大したことなくって良かったね。顔に傷が付かなくて良かった」
「ありがとうございます、妙ちゃん」
「男なんだから、顔に傷の一つや二つあったっていいじゃねぇか」
「稲作だって、傷なんかない方がいいよ。それ以上恐くなったら、誰も近付かなくなっちゃう」
「悪かったな」
 〔月の光〕にはいつも通りの時間が流れている。

「みんな揃っているね、お墓参りに行って来たかい?」
「ああ、行って来たぜ」
 稲作は、そういうことはきちんとしている。
「はいお裾分け」
 お千代ちゃんが、開けた風呂敷の中身は――。
「わっ、おはぎだおはぎだ」
「今度はおはぎ?」
「暦の上では秋だからな」
「智紘君にも」
 僕は、いただいたおはぎを1つ、肖像画の傍に供えた。
「?」
 ジルは、目の前で起こっていることが理解出来ないようだ。
「気付かなかったか?13日に連れてきたんだぜ。今夜、帰るんだ。……お前が帰ってくる所は、ここだもんな」
 稲作は、優しく智紘の肖像画に話し掛けた。


 ここのところ、更新時間が不規則で申し訳ありません。
 今月一杯はそんな風になりそうですけれど、よろしくお願いします。

 今日の写真は「ナンバンハコベ」(2005.08.14長野県で撮影)
 南蛮繁縷と書きます。へんてこな形をしているために南蛮と付いていますが、外来種ではないそうです。この形が大好きで見つけると写真を撮ってしまいます。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/13

魅了

PICT00901
《昨日のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックして下さい
 絹さんが店に戻った後。
 麗華と俺は篠原家のリビングに通されていた。
 篠原先生は鼻の下が伸びきっている。
「さっき教えたろう」
「そんなことは関係ない。美しいものは美しい」
「ありがとうございます」
 麗華は流し目で医師をからかっている。この俺でさえ、気が迷いそうになるのだ。
 医師はノックダウンに近い。
「ゴホン」
 彼は、女先生のわざとらしい咳払いと机の下の足蹴りで我に返った。
「私たちは、どうすればいい?」
「誰にも言わずに黙っていてくれればいい。今回みたいな事が起こったら、また助けてくれるか?……あんたたちのことだ、研究しようとか、どっかへ売り飛ばそうとかって気はねえよな」
 夫妻とは長い付き合いだ。二人がそんな了見の奴らだったら、最初からここに連れてきたりはしない。
「そんなこと、考えも付かなかったわ」
「すまない、余計なことを言った。俺たちは、俺たちが生きている間だけ、ジルを見守ってやれば良いんだと思う。俺たちの代で、消しちゃいけないと思う」
「どういうことだ?」
「あいつ、1300歳なんだとさ」
 誰も、何も言わなかった。みんなジルの不思議を見ているからだ。

「皆さん、こちらにいらしたのですか」
 俺たちは、ジルの青い瞳に魅せられていた。


 今日の写真は「チシマギキョウ」(2005.08.05富山県で撮影)
 千島桔梗と書きます。岩場にへばり付くように群生している姿は、強風に耐えているようですね。花の内側の長い毛が生えています。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/12

特製ドリンク

PICT01241
《昨日のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックして下さい
「ビックリしたよ。大したことがなくって本当に良かった」
 昨日から何度も言っている。ショックだったのかも知れないが、繰り言を繰り返すなんて、やっぱり絹さんは年寄り臭い。
「食べる?」
 リンゴで器用にウサギを作っている。お子様ランチじゃないんだから。
 頭や腕に痛々しく包帯を巻いたジルは、困った顔をして俺を見た。俺たちの食べ物を食えない訳じゃないが、たぶん食欲はないのだろう。
「俺がもらうぜ。丸ごとの方がうめえんだけどな」
 稲作は、リンゴのウサギを口に放り込んだ。

「ありがとうございます」
 見なくてもわかる、薔薇の香りと、薔薇の花束と共に入ってきたのは、麗華。彼女にしてはいつもより地味な服装だ。
「マダム!」
 嬉しそうなジル。
「お見舞いよ。特製ドリンクもあるわ」
「ありがとうございます」
 特製ドリンクの中身は、もちろん……。
 これで、ジルの傷はすっかり癒えるだろう。

「広木君」
「?」
「彼女もジル君の仲間なのか?」
 初めて麗華を見た篠原医師は言った。
「仲間じゃねえが、女でもねえ」


 夕方からずっと雷が鳴っていて更新が出来ませんでした。落ちるとパソコンが壊れるらしいのです。他のものも壊れるかも知れませんが。
 今の季節、前橋は雷が多いのです。
 
 今日の写真は「ウサギギク」(2005.08.05富山県で撮影)
 兎菊と書きます。可愛い見た目と名前の菊です。この花に会うと、高山に行った感じがします。
 この花を見つけると「わー、ウナギイヌだ!」と言ってしまうのは、赤塚不二夫さん世代のせい。
 オオマルバノホロシ(湿地に咲くナスみたいな花です)を見つけると「おお、まるばのほろし」(おお牧場は緑の曲で)と歌ってしまうのは誰のせい?

【登場人物を少しずつ紹介します】
麗華……クラブ〔Madam☆Rose〕のマダム。年齢不詳の超美形(♂)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/11

共有

PICT01111
《昨日のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックして下さい
 突然、診察室のドアが開いた。
「どうしたの!?」
「母さん」
 篠原医院のもう一人の医師である、彼の夫人が入ってきた。みんな「女先生」と呼んでいる、元気な女性だ。
 最悪。彼女からどう隠そうかと、相談する間もなかった。
「診せて!」
 彼女は外科が専門なのだ。
 俺たちは、どうしよう、と顔を見合わせた。
「!!」
「どうした?」
 彼女の勢いは止まり、診察台に横になっているジルを見詰めている。
「智紘君――」
「あんたにも、そう見えるのか。俺にも智紘に見えるんだ。先生、この秘密、女先生にも共有してもらうぜ」
「どういうこと?」
 こういう時、女性の方が順応が早い。彼女はジルの正体を追求せずに、協力することを約束してくれた。
「ごめん下さい」
 事故のことを聞いた絹さんが、駆けつけてきた。
《明日につづきます》


 本格的なシギ・チドリ観察を始めました。前橋・玉村・伊勢崎の休耕田です。
 今日の成果:タマシギ2・コチドリ17・イカルチドリ2・ムナグロ63・イソシギ1・オオジシギ1
 タマシギは、鳥の中では珍しくメスのほうが目立つ鳥。メスはのどが赤褐色で、目の回りにツタンカーメンのマスクのような勾玉もようがあります。
 繁殖は一妻多夫で、メスが求愛し、オスが抱卵・子育てをします。子供を連れて歩いているのはお父さんです。
 見てみたい方は、検索すると写真が見られると思います。タマシギはファンが多いのです。

 今日の写真は「タカネヤハズハハコ」(2005.08.05富山県で撮影)
 高嶺矢筈母子と書きます。花に白、ピンク、黄色が混ざった可愛らしいハハコグサです。

 サボりにサボっていたホームページの行動記を、やっと更新しました。
 ブログに載せたもの、載せなかったもの、これから載せようと考えているもの、一括で見られますので良かったらご覧になってみて下さい。
 こちらをクリックすると行動記に飛びます

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2005/08/10

秘密

PICT00661
《昨日のつづきです》
「なんて、乱暴な、真似をするんだ。もしもの、ことが、あったらどうする」
 かなり遅れて入ってきた篠原医師は息切れ状態。
 稲作は、診察室のベッドにジルを寝かせて待っていた。
「珍しく客がいなかったぞ」
「客じゃない、患者だ。今日は午後休診だ」
「開いてたぞ。物騒な」
「母さん、閉め忘れたな」
「おかげで助かった」
 会話をしながらも医師はてきぱきと治療の準備を進めている。
「ジル君、痛いところは?」
「ありません」
「知ってるのか?」
「お千代さんたちのアイドルだからね。一目でわかった」
「バアサンたち、医者に用があるようには見えないが」
「高齢だから、悪い所もあるさ」
「待合室は社交場か」
「君らしくない、ずいぶん冷静だ。ジル君が心配じゃないのか。トラックに跳ねられたんだぞ」
「心配はいらねえ。それよりあんたの方が心配なんだ。巻き込むことになってしまった」
「?」
「脈を取って見ろ」
「?」
 医師は慌てて、ジルの胸のあちこちに聴診器を当てている。
「アンドロメダなのか。機械音もしない」
「オヤジギャグが言えるようじゃ、大丈夫だな」
「ちょっと貸してくれ、せっかくあるんだからな」
 稲作は、アルコール綿をつまみ取ると、ポケットからナイフを取りだし消毒し、自分の手首を切ってジルの口に含ませた。
「!?――何をする!」
「見ろ」
 ジルの傷が、見る見るうちに癒えていく。
 医師はよろけながら、机の引き出しから薬を出した。
「薬は効かねえ」
「私のだ。気付け薬」
「俺たちだけの秘密だったんだが、すまねえ。……そんな訳で、しばらくここに置いてやってくれ。あんなにみんなに見られちゃ、すぐに治るわけにはいかねぇからな」
「どんな訳だ」
「よろしくお願いします」
 起き上がったジルは、いつもと同じ涼しい顔で言った。 
《明日につづきます》
 

 今日の写真は「ハクサンイチゲ」(2005.08.05富山県で撮影)
 花も草丈も大きく美しい花です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/09

動転

PICT01441
《昨日のつづきです》
「人工呼吸の経験は?」
「無え!」
 彼は、ジルの頭をそらせ、下あごを引き下げ口を開けさせた。彼は――智紘が世話になった篠原医師だ。〔月の光〕の近くで開業している。普段着だから気付かなかった。
 動転している。
「気道を確保した。いいか、そのまま鼻を摘んでゆっくり3秒間息を吹き込め。合図をしたら繰り返すのだ」
 言われた通りにするしか術がない。
「もう一度」
 一度息を吹き込んで、医師が胸を5回押す。脈拍の確認。 
 単調な作業。戻れ、戻れ、戻れ、戻れ……。
「3分……。救急車はまだか」
 救急車!?
 その一言で、俺は、我に返った。真剣に、一心不乱に、蘇生術を施していたのだ。
「起きろ!!」
 俺は、ジルの肩を掴んで揺すった。
「諦めるな!」
「目を開けろ!!」
 俺は医師の言葉を無視して、ジルの肩を掴んで揺すり続けた。
「乱暴するな!」
『――もっと……キス……』
 ジルは、俺だけに伝えてきた。
 畜生!
「目を開けろ!救急車で連れて行かれるぞ!」
 ジルは、大きな青い目を開いた。
「おお!戻った!じっとして、すぐに救急車が来るからね」
「私は大丈夫です。にゃうたろうは?」
「猫?いないぞ」
「無事だったようですね」
 ジルは、平気な顔をして起き上がり、辺りを見回している。頭から血が流れ落ちる。身体も服もボロボロだ。
 普通だったら即死状態。
 普通の人間だったら……。
「動いちゃ駄目だ!」
「先生、あんたのところに連れて行ってもいいか?」
「うちの設備じゃ手に負えない」
「大丈夫なんだ」
 稲作は、ジルを抱き上げると走り出した。
《明日につづきます》 

 
 今日の写真は「タテヤマリンドウ」(2005.08.05富山県で撮影)
 ハルリンドウの高山型。ある程度標高がある湿原で、普通に見ることが出来ます。なぜか、ここ立山のタテヤマリンドウは、限りなく白に近い色をしています。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/08

スローモーション

PICT01711
「いいねぇ。僕もさわってみたい」
 僕は、ジルが野良猫にゃうたろうののどを撫でるのを、羨ましく眺めながら言った。にゃうたろうとは、まだ、鼻ET(彼の鼻先と僕の指先の触れ合い)しか出来ないのだ。
「じっとしているように頼んであげましょうか」
「それじゃ駄目なんだ。自分の意志で僕に懐いてくれないと」
「そうですか。……そろそろ稲作が帰ってくる時間です。たまには迎えに行ってみます。行きましょう、にゃうたろう」
「にゃう」
 にゃうたろうは、ジルの前を先導するように歩いていく。
 ジルは不思議な青年だ。彼の心の中には稲作のことしかないのだ。それを煩わしがらない稲作もまた不思議だ。

 見た事柄が、スローモーションに見える時がある。
 それは、自分の身に迫った危険を回避しようとする時、あまりに衝撃的な出来事を目の当たりにした時だ。
「稲作!」
 声に振り返った時だった。
 ジルの身体がスローモーションのように宙を舞っている。
 4車線、車通りの多い幹線道路の向こう側。
 跳ね飛ばしたトラックは猛スピードで走り去った。
 見ていた人々が彼に駆け寄る。
「大変だ!息してない!」
「脈もない!」
 稲作が向こう側に着いた時、心得のある人が蘇生術を始めていた。
「俺の友だちです――」
「何をボーッとしてる!早く手伝いなさい!」
《明日につづきます》 


 立山旅行。1日目は軽い散策、2日目は一の越から雄山に登りました。一番のお目当ての、トウヤクリンドウはまだつぼみでした。がれていて僕にとっては登り辛い山でしたが、信仰の対象の山で、山頂でご年輩の方も夏休みの家族連れも多く、遠くから見ると蟻の行列のよう。ばてている自分が恥ずかしかったです。
 砂崩しのように人の上り下りでいつかは山頂が低くなってしまうのでは?(ありえない)なんて想像してしまうほどの賑わいでした。
 途中、これも初見もイワヒバリに出会えてまた感激。体はずっと大きいのにヒバリに似た声でさえずっていました。
 山頂では、宮司さんに拝んでいただきました。
 標高3003メートル、谷間を飛ぶチョウゲンボウを上から見下ろす不思議な風景でした。

 今日の写真は「タテヤマチングルマ」(2005.08.05富山県で撮影)
 種類は全く同じですが、ピンク色のチングルマをタテヤマチングルマと呼びます。せっかくの立山、やっと見つけたものは遊歩道から遠く、望遠で撮しました。
 ピンク色に見えますか?
 
【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/07

価値観

PICT00321
「どうしましょうか」
「どうしようったって……」
 昔の恋人の訃報を聞かされた絹さんに、かける言葉が見つからない。
「ごめんね、大丈夫だよ。彼女は幸せだったから――」
 俺たちは、生きていた年月が長い短いで、その人の幸不幸を判断しない。
 智紘が不幸だったと思いたくないから。
「――きっと、僕と一緒になっていたら彼女は幸せじゃなかったと思う」
「そんなこと、わからねぇじゃねぇか」
 もっと、幸せになっていたかも。
「住む世界の違いって、やっぱりあると思う」
「そうでしょうか。私はずっと好きな人の世界に合わせて生きてきました」
 ジルのような生き方もあるかも知れない。が、彼女はそんな風には生きられないだろうと、俺でも思う。

「稲さん、君、ステーキ好きでしょう?」
「何で?」
 稲作は犬みたいに、よだれを垂らしそうになりながら聞き返した。
「どんなステーキでも美味しいでしょう?」
「もちろん!」
「たとえ話なんだけれど、彼女は僕らが食べたことがないような高いステーキじゃないと美味しいと思わないと思うんだ。毎日が、彼女にとってまずい食べ物と、着心地の悪い服と、住みにくい住まいじゃ、幸せとは感じられないんじゃないかな。……それを越えられるほどの強いつながりが、僕らにはなかった」
 同じものを見て、同じように美しいと感じたり、同じ事を信じていたりしたら、越えられたのかも知れないけれど。


 昨日一昨日とお休みをいただき、ライチョウと高山植物に会うために、立山に行って来ました。
 扇沢から、トロリーバス、ケーブルカー、ロープウエイ、トロリーバスと乗り継いで、着いたところは残雪が残る別世界。
 山小屋というには食事も温泉も良い「雷鳥荘」さんに連泊し、高山の雰囲気を味わってきました。ただし部屋は相部屋で、初日は男女8人、2日目は4人。若い方からご年輩の方まで、幅広い年齢層の山男山女で、聞かせていただいた登山談は大変楽しいものでした。一組のご夫婦は、定年後、家にいる日の方が短いほど二人で日本全国の山を歩いているとのこと。夫婦で同じ趣味を持ち、元気で過ごせるのって素敵ですね。

 今日の写真は「ライチョウ」(2005.08.04富山県で撮影)
 なんと願いを込めて書いた予告通り、会えてしまいました。しかも、カメラで写せるほど近くでした。目の上の赤いアイシャドーも見えますね。ハトより少し大きいキジの仲間です。
 初日の夕方、小雨が振る中を宿を目指して歩いている時でした。初めは1羽の雌が、周りで人々がカメラで写していても平気で木の葉を食べていました。そのうちに4羽(2つがい)になって、グエッ、グエッ、と美声とは言えない声で鳴き交わしたり、追い掛け合ったり……。
 こんなに簡単に見られる物かと思っていたら、それが今回の旅、最初で最後の出会いでした。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/04

心残り

PICT01011
《前回のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックしてください
 もしも、あの時、違う選択をしていたら――誰でもそう思う時がある。行動派の彼女のことだから、体験してみたかったのかも知れない。
 あれから半年、彼女が〔月の光〕を訪れることはなかった。
 稲作は、カレーライスにソースをかけて食べ、隣でジルがトマトジュースを飲んでいる。
 いつも通りの風景だ。

「いらっしゃいませ」
「ブレンドを」
 初めてのお客様。少し緊張して、コーヒーを差し出す。小心者だから。
「いつぞやは、美和子がお世話になりました。あれから、あれが、ここの話ばかりするものだから。……やっと来てみる気になりました」
 僕より少し年上に見えるこの男性は、彼女のご主人?
「?」
「家内は、ずっとあなたのことを気にしていたようなのです。あなたに酷いことをしてしまったと。……昔の経緯は知っています」
「安心して、いただけたようですね」
「ええ。心残り無く、彼女は逝きました」
 この後、医者であるご主人が、彼女を助けることが出来なかったという話を、僕は、上の空で聞いていた。
 あの時の彼女は、病人には見えなかった……。

「稲作、あの人には、これが見えていたのですね」
 奥の席で話を聞いていたジルが、稲作の胸元の空間を摘んでブラブラさせる仕草をしている。ジルの目には、彼の目の色と同じ青いペンダントが見えているのだろう。死が近いヤツか、生きていないヤツにしか見えない青いペンダントが。


 栂池の湿原に、全身が黒で羽根の付け根の背中だけ赤いトンボが飛んでいました。図鑑でもネットでも検索出来ず諦めかけ、何気なく「湿原に飛ぶカオジロトンボ」という項目を見てみたら、探していたトンボでした。湿原で見た時、顔には全く目がいきませんでした。日常のことでも、注意して見る部分によって違って見えてしまうということを、トンボに教えてもらったような気がします。

 今日の写真は「コバノトンボソウ」(2005.07.27長野県で撮影)
 小葉の蜻蛉草。低山帯、亜高山帯の湿地に生えます。小さい上に緑色の目立たないランの仲間です。名前の通りトンボが止まっているように見えますね。尾瀬、八幡平の湿原で群生しているのを見たことがありますが、登山道で見たのは初めてでした。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

☆お知らせ☆―明日明後日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―
                    ――ライチョウに会いに行ってきます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/08/03

もしも

PICT00681
《前回のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックしてください
「いらっしゃいませ――!!」
 数日後。
 再び、美和子さんが来店した。ドレッシーな姿しか見たことがない彼女が、妙ちゃんと同じ、白いTシャツとブルージーンズにスニーカー。初めてこんな姿をしたのかも知れない。全てがおろしたてだ。ゴージャスだった巻き髪は、きっちり後ろで束ねられている。
「どうしたのですか?」
「お手伝いをさせて下さい」
 彼女は手に持っていたエプロンを掛けながら言った。
「あの、人に頼むほど忙しくないので……」
「気になさらないで」
 そういう事じゃない。

「絹さん、腹減ったー!何か食わせてくれ!」
「いらっしゃいませ」
 女声に驚いた稲作は、辺りを見回している。
「あんた」
「何度かお目に掛かりましたね。沢木さんのお友達?」
「そんなところだ。……絹さん、やっぱりいいや。俺帰らぁ」
 いつもだったら、説教されるこの状況なのに、稲作は何も言わずに帰っていった。
 後で、何か言われるだろう。

 夕方。
 結局、一日手伝わせてしまった。
 たぶん初めて働いたのだろう。楽しそうな彼女を見ていたら、時間はあっという間に過ぎていった。
「今日は1日ありがとうございました」
 僕は、彼女に日当を渡す。
「困ります」
「困るのはこちらです。あなたにタダで働いていただく理由がありません。今度は、そのお金でコーヒーを飲みに来て下さい」
「――もしも、あなたと結婚していたら、こんな風に暮らしていたのかしら」
「いいえ、あなたは普通のサラリーマンの奥さんでしたよ。あのまま、あの町で暮らしているでしょう。あなたと別れなければ、この町の人と会うことはなかった。さっきの彼とも。……僕は、幸せに暮らしています」
 あなたは?と彼女を見た。
「わたしもよ。だから、あなたのことが気になったの」
 今頃どうして?
《次回につづきます》


 今日の写真は「ムシトリスミレ」(2005.07.27長野県で撮影)
 虫取菫。亜高山から高山の湿ったところに生えます。
 見た目のせいでスミレと名付けられていますが、タヌキモ科の食虫植物。虫を捕るのは葉の部分、粘液が出ていて虫を捕らえます。日本にも、こういう植物があるのです。
 食虫植物は、怪人サラセニアン(仮面ライダー1号)を見た世代の僕にとって、ちょっと恐いような変な思い入れがあります。実際子供の頃、モウセンゴケやハエジゴクを育てていたことがありました。サラセニアやウツボカズラは高価で買えませんでしたっけ。
 
【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2005/08/02

不味い!

PICT00211
《前回のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックしてください
「さあ、妙ちゃん、ジルちゃん手伝ってね」
「え?ボクも?」
「男の人は、美味しい手料理に弱いのよ」
「コンビニのお総菜の方が美味しいよ」
「まあ。……じゃがいもむいてみて」
 妙がむいたじゃがいもは、食べるところの方が少ないほど、厚く皮をむいてある。しかもガタガタ。
「妙ちゃん、お料理したことあるの?」
「ある!」
 俺は、いつだったか〔月の光〕で妙が作った、焦げて茶色いおじやを思い出した。
「広木は、お煮染めとか肉じゃがが好きなのよ。味は濃いめね」
「私は作ったことがありません。マダム、教えていただけませんか」
「いいわよ。妙ちゃんも頑張らないと、ジルちゃんに負けちゃうわよ」
「うん!」

 なぜ、妙が料理を作ると、不味そうな色になるのだろう。
 稲作の前には、色つやの悪い肉じゃがと真っ黒な煮染めが並べられている。
 ソース味の肉じゃがと、正にしょう油のみで煮染めた煮染め。
「ごめんなさいね。味付けに自信があるって言うから、妙ちゃんに任せたんだけど……」
「これが、稲作の好みの料理ですか」
 ジルは、顔色一つ変えずに料理の味をみている。
「ジル、ちょっと違う。……マダム、何とかなりそうか?」
「難しそうね。妙ちゃん、まずは病院に行って治ったら、美味しい物を食べてみることから始めましょうか」
「ボク、何でも美味しいよ」
 麗華は、妙を味覚障害と判断したようだ。

 須藤美和子さんが帰った後、一人のお客様も見えない。
 なぜ、彼女は今頃になって僕の前に現れたのだろう。
 今が幸せではないのだろうか。
《次回につづきます》     


 昨日は、予告もなくお休みをしてすみませんでした。
 休耕田巡りは、一昨日(7/31)から、シーズン到来を告げる使者である、ムナグロを確認出来たました。

 今日の写真は「ベニバナイチゴ」(2005.07.27長野県で撮影)
 見た通り、紅色の花を咲かせる苺。亜高山から高山の湿気が多いところに生えます。今回は花の季節でしたが、数年前、実を口にする機会がありました。図鑑に「これほどまずい木イチゴは他にない」と書かれていたからです。どれほど不味いのか興味がありました。たしかに不味い。苦くて渋くて、飲み込むことが出来ませんでした。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2005年7月 | トップページ | 2005年9月 »