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2005/07/31

休耕田巡り

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 7月下旬になると、休耕田巡りのシーズンに入ります。
 前橋、伊勢崎、玉村には広い水田地帯があります。稲を植えることを休んでいる田んぼが休耕田です。そこは、草地になっていたり、水が張ってあったり、環境は様々です。
 そこを目指して、多くの種類のシギ、チドリの仲間がやって来ます。それを観察するのが休耕田巡りです。
 これからは、こちらの報告もしていきたいと思っています。
「ちょっと待った!」
 稲作が乱入。
「なに?」
「俺たちの出番がなかったじゃねぇか」
「あれ?そうだったけ」
 と、白を切る僕。
「さっきから、そでで待ってたのに」
「これは舞台なのか?……ごめん、今日は話を考えつかなかった」
 いつも、行き当たりばったりなのもので、ごめんなさい。
「こんな事、やっている間に考えろよ、まったく」
 

 今日の写真は「ミヤマホツツジ」(2005.07.28長野県で撮影)
 深山穂躑躅。深山の名の通りホツツジより標高が高いところに生えますが、同じところで見かけることも多いです。
 ホツツジとの見分け方は、めしべの向きです。ミヤマホツツジはゾウの鼻みたいにくるんと上を向いていますが、ホツツジは、真っ直ぐ。1㎝ほどで目立たない色の花ですが、よく見ると個性的な形をしていますね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/07/30

大人の問題

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《前回のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックしてください
「で、あなたはどうしたいの?」
 麗華は、俺の話を理解した上で問い直してきた。
「どうって――」
「大人の問題に首を突っ込まない方がいいわ、子供は」
「誰が子供だ!」
「体だけは大きいけれど、中身は子供」
「後悔は、してほしくねぇんだ。俺みたいな」
「ただいま!」
 話の途中で、ジルと妙が帰ってきた。
「ジル凄いよ、どうしてこんなの売っているところを知っているの?」
 妙が袋から取りだした物には、乾燥ポルチーニと書かれている。
「稲作のために買いに行っています。お店の人に尋ねたら、置いてくれるようになりました」
「俺、そんなの食ったっけ?」
「作りがいのない人ね」
 麗華は呆れて言った。
「稲作は、全ての料理にしょう油をかけてたべます」
「だって、味がしねぇんだもの」
「そんなことをしていると、塩分取りすぎで早死にするわよ」
「早死にか……」

「また、伺ってもいいかしら?」
「お客様をお断りする理由はありません」
 彼女は嬉しそうな顔をした。この顔が見たくて、僕は彼女のわがままに付き合ったのだ。
 昔の話だ。
《次回につづきます》


 今日の写真は「シモツケソウ」(2005.07.28長野県で撮影)
 下野草と書きます。まだつぼみが多いこのくらいの咲き加減が、花火みたいでいいですね。この花が至る所に咲いて、天然のお花畑に彩りを添えていました。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/07/29

最後のチャンス

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《前回のつづきです》
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 4人は、早々に帰ってしまった。
 いつもだったら、彼らが来た後、沼田さんたちが来てもいいのに……。二人きりは間が持たない。出来れば来てほしかった。
 後でわかったことだが、4人は、帰り際に店の看板を「準備中」にしていったのだ。
「沢木さん」
「はい」
「楽しいお客様が見えるのね」
「はあ」
 会話が弾むわけもなく、彼女は、お勧めのブレンドで良いというから、僕は黙ってコーヒーを淹れる作業に没頭した。済んでしまったらどうしよう。
「……おいしいわ」
「ありがとうございます」
「――捜したの」
「は?」
「あなたは、黙って居なくなってしまったから」
 あんな別れ方をした女性に、転居の知らせをしたりはしない。それどころか、ごく親しい人たちにしか連絡をしていない。同じ県内でも当時の知人と会うことはほとんど無かった。逃げ隠れしているつもりはないのだけれど。

「何を作ろうかしら……何!?これ」
 冷蔵庫の扉を開けた麗華は、声をあげた。
 ビールとトマトジュースしか入っていなかったからだろう。
「妙ちゃんジルちゃん、お買い物をしてきてちょうだい」
 麗華はさらさらとメモを書いて渡すと、二人を使いに出した。食材が揃わないことは保証してもいい。こんな田舎に彼女の望む物が売っているはずがない。
 稲作の事務所県住居に来ている。
「思っていたよりずっと綺麗に暮らしているわね。冷蔵庫の中は綺麗すぎだわ」
「ジルがうるさいんだ。賞味期限が1日でも過ぎると全部捨てちまうんだ」
「当たり前でしょ」
「腐ってなきゃ、大丈夫だ」
 麗華は呆れた顔をして、こちらを見た。
「広木」
 催促されて、話せる限りの事情を伝えた。
 相談するのなら、彼女が一番事情通だし、これが最後のチャンスだからだ。
《次回につづきます》


 昨日一昨日とお休みをいただき、スキー場で有名な栂池、八方尾根に行ってきました。夏はスキー用のリフトを利用出来、手軽に高山植物に会いに行ける素敵なお花畑です。泊めていただいたペンションのオーナーによると、八方尾根では咲いている花だけで150種類くらいあるとのこと。
 栂池では、オオシラビソの紫色の松ぼっくりが10年ぶりの実つきの良さだと教えていただきました。
 八方尾根では、リフトに乗ると足下すれすれに、シモツケソウのピンク、トリアシショウマの白、クガイソウ、タテヤマウツボグサの紫、の花たちが出迎えてくれました。

 今日の写真は「ハッポウタカネセンブリ」(2005.07.28長野県で撮影)
 今回の旅のメインスター。八方高嶺千振というだけあって、八方尾根の蛇紋岩地でしか会うことが出来ません。
 高さは10~20㎝ほど、花の大きさは3~4㎜と、急ぎ足で歩いていると気付かないかも知れません。近くでよく見ると、何とも言えない可愛らしい模様の花を付けています。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/07/26

台風前夜

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《昨日のつづきです》
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「いらっしゃいませ」
 開いたドアから、強烈な薔薇の香りが流れ込んできた。

「うわっ!マダムだ」
 香りの正体はもちろんマダム麗華。ジルまで一緒だ。
 女の戦い(?)が始まりそうで恐い。
「ジル、かっこいい」
 ジルは、珍しくネクタイを締め、スーツ姿。
 稲作のカレーを平らげた妙は、すっかり機嫌を直し、この状況を楽しむことにしたようだ。

「こんにちは。今日はマダムをお連れしました」
 いつも無感情のジルは、自分と稲作のこと以外は無関心だ。この面白い状況に興味を感じないらしい。
 反対に、マダムは興味津々な様子。いつものようなドレスじゃないところがインパクトにかけるが、白いフリルの付いたブラウスに、夏らしい薄い黒い生地のゆったりしたパンツ。水晶玉でも持たせれば、妖しい占い師みたいだ。
「あら、絹さん。こちらの方、紹介してくださらないの?」
 マダムは、絹さんと彼女のただならぬ雰囲気を敏感に察知した様子だ。やっぱり妖しい占い師みたいだ。
「いらっしゃいませ、麗華さん、こちらは」
「須藤美和子と申します」
 絹さんが驚かないところを見ると、まだ、彼女の結婚は破綻していないようだ。たしか、相手は地元の総合病院の御曹司と聞いた。
「よろしく」
 と、言った麗華がこっちを見た。ジルは、さっきからずっと見ているが……。
 直接対決は後回しにして、こちらで情報収集する作戦に切り替えたのか?
 二人が迫ってくる。これはこれで、かなり恐い。

「広木、いたのね」
「入った時から、匂いがしていました」
「え?俺、臭うか?妙」
 麗華が来たから、香水の香りしか感じない。
「知らないわよ、臭いんじゃないの?」
「……俺、臭いのかな……」
「そんな事はどうでもいいわ。あの二人、訳ありね。――私たちは邪魔だから、あなたの事務所に行きましょう」
《次回につづきます》


 夕べから風雨が強くなったり、不安定な天気が続いています。
 僕が住む前橋というところは、災害が少ない町です。台風も、来るか来るかとドキドキしてかまえていても、気付かぬ間に通り過ぎていて青空が見え始める、なんていうことが多いのです。
 子供の頃などは「台風が来そうだ」とニュースが流れると、近所のおじさんが雨戸を閉め、釘と材木でトントンと補強を始めたものでした。まるで、サザエさんのような世界ですね。
 こちらでは今夜最接近するようですが、通り道の皆さんも十分お気をつけ下さい。

 今日の写真は「イブキトラノオ」(2005.07.17栃木県で撮影)
 伊吹虎の尾と書きます。「白山」と同じく「伊吹山」が名前に付く植物は多いですね。両方とも訪れたことがありませんが、いつか行ってみたいです。
 この花は、ピンクが濃かったので思わず撮した1枚です。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
麗華……クラブ〔Madam☆Rose〕のマダム。年齢不詳の超美形(♂)。
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

☆お知らせ☆―明日明後日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/07/25

前触れ

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《昨日のつづきです》
最初から見たい方はこちらをクリックしてください
「絹さん、今日はどこに連れて行ってくれるの?デート」
 カウンター席に行った妙は、目をパチパチさせて言った。
「あら、沢木さん、こういうご趣味に変わられたの?……坊や、お幾つ?」
「坊やじゃない!ボクは――」
「ボク?」
「……」

「にゃう~!悔しい!」
「っていうか、相手にされてねぇじゃねぇか。女とも思われてねえ」
 妙は何も言い返せずに戻ってきた。
「ちょうだいよ!」
 やっとありついた大盛りカレーを食べていた稲作から、食べかけのカレーを取り上げた妙は、頬張った。
「ソースなんかかけないでよ!しょっぱいじゃない!」
「俺の昼飯……」
「何よ!――あの女、ちょっとぐらい綺麗だからって!チョームカツク!」
 取り返そうと、そっと手を出した稲作は、引っかかれそうになって思わず手を引っ込めた。エサを取られそうになった子猫の行動だ。人間の女性と言うにはほど遠い。
 今日の昼飯は、あきらめか……。

「いらっしゃいませ」
 開いたドアから、強烈な薔薇の香りが流れ込んできた。
《明日につづきます》

  
 今日の写真は「バラ」(2005.07.17栃木県で撮影)
 この写真は、戦場ヶ原で出会ったバラの花です。ノイバラにしては花が大きくピンク色です。甘酸っぱい香りが強いこの花は、園芸品が逃げた物でしょうか。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/07/24

再会

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《昨日のつづきです》
「ごめんください」
「いらっしゃいま……せ……」
 彼女だった。
 あの頃からブランド物が好きな人だった。今日も好みのブランドで固めているのだろう。シンプルで品がいいスタイルをしている。

「妙、奥に移動するぜ」
「なによ」
「今朝の女だ」
「ウソ、綺麗な人じゃない」
「綺麗かどうかは関係ねぇと思うが」

 稲作と妙ちゃんは、僕を置き去りにして奥の席に行ってしまった。
「こんな所にいらしたのね。連絡してくだされば、お祝いくらい差し上げたのに」
「すみません」
 
「何か絹さん弱腰じゃない?」
「どんな付き合い方していたか、目に浮かぶぜ」
「アッシー君とか?」
「相手は金持ちだから、しもべ扱いだろ」
「何か、腹が立ってきた。行って来る」
「どこに?」
「絹さんの彼女の振りをするんだ」
「お前が、勝てるわけねえだろ」
「ボクの方がずっと若いもん!」
「待てよ!」

「絹さん、今日はどこに連れて行ってくれるの?デート」
 奥の席からやって来た妙ちゃんは、目をパチパチさせて言った。
《明日につづきます》
 

 今日は「石焼きラーメン」を食べました。何だろうと気になっていたのです。
 熱く熱した石焼きビビンバの入れ物に、麺と具材を入れて、スープは別の入れ物に入れられて運ばれてきました。目の前でスープを注いでもらうと、ぶくぶくと凄い勢いで沸騰します。音と見た目のパフォーマンスは楽しかったし、野菜がたっぷりで美味しかったですよ。今度は、真冬の寒い時に食べたいです。

 今日の写真は「ニッコウキスゲ」(2005.07.18群馬県で撮影)
 写真は地蔵岳で出会ったニッコウキスゲです。背景に一昨日紹介した電波塔群が写っています。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

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2005/07/23

エーデルワイスの思い出

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《昨日のつづきです》
「絹さん、カレーまだか?」
 今日は映画「サウンド・オブ・ミュージック」のサウンドトラックをかけている。
 彼女と二人で、僕の部屋で見た、唯一のビデオ。
 何年ぶりになるだろう。彼女に再会したのは……。
 彼女は全く変わっていなかった。
「絹さん、カレー!」
 彼女には、だらしないジャージ姿にぼさぼさ頭の僕がわからなかったかも知れない。
 彼女は、僕らに会釈をしただけで帰ってしまった。
「――ごめん、何だっけ?」
「大丈夫か?」
「朝からずっと、ああだよ」
「あの女、あんたの知り合いなのか?」
「うん、結婚式挙げた人。君には話したことがあると思うけど――」
「ブーッ!」水を吹いたのは妙ちゃん。
「けっ、結婚!?絹さん結婚してたことあるの?バツイチ?」
「式を挙げただけで、籍を入れなかったから」
「誰かに略奪されたの?映画みたいに」
「来なかった。式場に」
「ウソ……」
 黙ってしまった妙ちゃんは、花嫁を略奪された男と、式場で来ない花嫁を呆然と待つ男、どっちが惨めか想像を巡らしているのだろう。
「……なんだ。ボク、絹さんはライバルなんだと思ってた」
 妙ちゃんが、僕を傷つけないようにと考えついた二の句。
「ライバル?」
「だって絹さん、ぜんぜん女っ気がないんだもん。稲作とジルに興味があるのかなって」
「ブーッ!」今度水を吹いたのは稲作。
「ゲホ、ゲホッ、そりゃ俺たちは長い付き合いだけど」
「僕は、君たちのことを、自分が持てなかった子供のような気持ちで見ているんだ。いや、責任ないから、孫の成長を見守るおじいちゃんのような気持ちかな」
「だから、ジジくせぇんだよ」

「ごめんください」
「いらっしゃいま……せ……」
《明日につづきます》


 今日の写真は「ウスユキソウ」(2005.07.18群馬県で撮影)
 初夏に咲きますが、白い綿毛が薄く積もった雪のように見えることから薄雪草と言う名前が付いています。アルプスのエーデルワイスはこの仲間です。
 写真は、昨日紹介した地蔵岳で出会ったウスユキソウです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
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2005/07/22

不思議な光景

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「おはよう、水道借りてるぜ」
 稲作は裏庭で、汗でびっしょりの黒いTシャツを脱いで、頭から水をかぶっている。
 仕事の一部である犬の散歩帰りに、必ずここに寄っていくのだ。
 連れのグレート・デーンのチョビは、傍で大人しくお座りをして待っている。
「おはよう、ふぁ~あ」
 寝坊した。
 寝間着がわりのジャージを着て、寝癖が付いたままの頭を手櫛で整えながら、僕は稲作を迎えた。
 開店に間に合わない訳じゃないけれど、いつもだったら身支度は整えている。
「牛乳」
「はいはい」
「ガウーッ」
 チョビは、牛乳を注ごうとすると、自分の食器にさわるなと、歯を剥いて威嚇する。毎朝のように顔を合わせているのに、全く慣れる素振りを見せない。
 チョビは、注いだ牛乳をもの凄い勢いで飲んでいる。これが彼の楽しみなのだろうから、少しぐらい慣れてくれてもいいのに……。

「なんだ?何か見えるか?」
 頭がまだ、ほとんど起きていない。ぼんやりと稲作の若い身体を見ていた。
「羨ましいと思って」
「あんただって毎日走って、沼田道場で鍛えればまだ間に合うぜ」
 彼は、安心したように白い歯を見せて笑うと、そう言った。何に間に合うのだろう。
「じゃあな。また後で来る。行くぜ、チョビ!」
「ワン!」
「君、上半身裸で帰るのか」
「着替え忘れた。こんな時間は年寄りしか歩いてないから大丈夫だ」
 と言う彼の前に、年寄りと言うには若すぎる女性が立っていた。
 僕の知人。
 彼女の視線は、稲作の胸元に釘付だ。  
《明日につづきます》


 今日の写真は「地蔵岳山頂」(2005.07.18群馬県で撮影)
 この不思議な建造物群は電波塔。麓の町からもよく見え、赤城山の中の地蔵岳を目立たせています。かつてあった、売店とロープウエイは廃墟になってしまっています。
 そんな人工物の足下に山の花たちは咲いています。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
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2005/07/21

ウインナコーヒー

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「いらっしゃいませ。何だ、じいさんか」
「何だとは何だ。絹さんはどうした?」
「ちょっと買い出しだ」
 濃緑色の作務衣を着たこの老人、黙って座っていれば上品そうに見える、稲作の拳法の師匠だ。
「帰るまで待とう」
「俺が淹れてやる。いつも見ているから出来るぜ」
「じゃ、いつものウインナコーヒーを」
「わかった」
「お前、いつまで正業に就かずにふらふらしている気だ」
「食うのには困ってねえ」
「お前にその気があれば――」
「あの道場じゃ、なお食えねえだろ」
「忠宣の仕事を手伝わないか」
「冗談だろ」
 吸血鬼ハンターなんて職業の方がよっぽど不安定だ。
「貿易商だ。あれでもそこそこの稼ぎをしている、青年実業家だぞ」
「あれが青年実業家?吸血鬼ハンターってのは?」
「趣味だ。条件を一つ、飲んでくれれば取りなすが」
 条件は、ジルを遠ざけることだろう。
「やめとくよ。あんたの息子だ、悪いヤツじゃないと思うが、俺とは合わない。……出来たぜ」

「ただいま。……!!稲さん、沼田さんに何出したんだ!?」
 二人は、モーニングサービスの残りのウインナーをつまみにコーヒーを飲んでいる。
「お帰り、やっぱりウインナコーヒーは、絹さんが淹れた方がこくがあって美味しいな」
 この二人、誰が何と言っても、師弟に間違いない。


 奥日光からの帰り道。車がやっとすれ違えるくらいの道にハザードランプを点けたパトカーが止まっていました。対向車が来ないことを確認してパトカーを抜くと、その前には、なんと、4本の足を上に向け、交通事故死した鹿がいました。二次事故を防ぐために警察の配慮だったのです。
 歩いている時も鹿を見ました。木は、冬場に皮を食べられないように、網で保護されていました。奥日光も鹿が増えているようですね。

 今日の写真は「ショウキラン」(2005.07.17栃木県で撮影)
 今年は会えないと思っていましたが、辛うじて出会えた一輪です。

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広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
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      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。
沼田さん……〔月の光〕の常連で、稲作の拳法の師匠。

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2005/07/20

蝶のように

P81801681
「昨日は麗華さんに泊めてもらったの?」
「?」
「薔薇の香りがしている」
「マジかよ」
 稲作は、自分の腕やTシャツの裾の匂いを嗅いでみる。鼻が慣れてしまっているのか、あまり匂いが気にならない。
「ジルちゃんは、まだ向こうか」
「ヤツに何か用か?」
「いや、新鮮なレバーが手に入ったから食べさせてあげようと思ったんだけど。……あの子、顔色良くないでしょう。きっと貧血だから。この前、焼き肉屋で美味しそうにレバー食べてたからね」
 返答に困る。顔色が良い吸血鬼なんて、聞いたことがない。
「新鮮なうちに、二人で食べちゃおうか」
「いらねぇ」
「え?体調でも悪いの?」
「何でだ」
「君が食べ物の誘いを断るなんて、体の具合が悪いとしか思えない」
「悪かったな。嫌いなんだ、食えない」
「!?……わはははは」
「何だよ」
「君に食べられない物があったなんて、ははははは」
「あんたにはないのかよ、好き嫌い」
「子供の頃は、食べられない物あったけどなぁ。ニンジンとか、ピーマンとか。気付かないうちに食べられるようになってた」
「どうしても食えない物を、食えるようになる方法はねえかなぁ」
「レバーだけなんでしょう?無理して食べられるようにならなくたって大丈夫じゃない?お肉とか好きなんだし」
「ああ」
 ジルの仲間になってしまえば、ヤツの食事も美味く感じられるようになるのかも知れない。
 葉っぱを食べていたイモ虫が花の蜜を吸う蝶になるように……。


 今日の写真は「アサギマダラ」(2003.08.18長野県で撮影)
 マダラチョウ科の美しい大型の蝶。少し標高の高いところに行くと、ふわふわと大きな羽ばたきで優雅に舞うアサギマダラに会います。渡りをするこの蝶は、春の北上,秋の南下を繰り返すのです。

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    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/07/19

それぞれの食べ物

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《昨日のつづきです》
「嬉しいわ。二人が揃うなんて久しぶりね」
 店が終わった明け方近く。
 稲作とジルは麗華のマンションに招かれた。
「すぐに何か作るから待っていてね」
 エプロンを掛けた麗華は、二人の前に飲み物を置きながら言った。綺麗なお姉さんとしか見えない。
 稲作の前にはウーロン茶、ジルの前には赤いジュースが置かれた。
「ジル、ブラッドオレンジジュースって、オレンジジュースと同じ味なのか?」
「地中海地域で栽培されている赤いオレンジの実を絞ったジュースです」
「一口くれ。さっき飲んでみたかったんだ」
「それは、私の食事です」
「!!」言い終わる前に飲んだ稲作。

「あら?ジルちゃん、広木は?」
「トイレから出てきません」


 昨日は赤城山の地蔵岳に登ってきました。コースタイム30分で山頂に着いてしまうので、気軽に行ける山です。
 一面のお花畑というわけには行きませんが、ニッコウキスゲ、ノハナショウブ、シモツケ、ハクサンフウロなどに会うことが出来ます。
 
 今日の写真は「シモツケマルハバチの幼虫」(2005.07.18群馬県で撮影)
 頂上に咲いていたシモツケの花を食べていました。頭からシッポへの暖色から寒色に変わっていくグラデーション、白い星が可愛くて、ついモデルになってもらいました。
 虫が苦手な方、ごめんなさい。

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2005/07/18

両手に花

PICT02061
「お待ちしていました」
「来るなんて、言ったっけ?」
「私は、いつでもあなたを待っています」
「たまには違う言葉が言えねぇのかよ」
 ジルのバイト先に来ている。
 羨望と嫉妬の視線が、向けられているのがわかる。普段そんな目で見られたことがないから余計に感じるのだ。
 ここは、麗華の店〔Madam☆Rose〕。
 中世ヨーロッパ調の内装と家具調度、中で働く人間もみんな派手なドレスを着飾っている。しかも全員が女より綺麗な男だという倒錯した店だ。その中で、ジルと警備係だけが男装を許されている。
「お前、よくそんな格好してられるぜ」
 まるで、おとぎ話に出てくる王子さまそのものの衣装。
「マダムが昔着ていた服を借りています」
「そういう事じゃなくてさ」
「昔、こんな姿をしていたこともありました」
 違和感がないのは、そのせいか。
 この俺が、みんなの王子さまと親しそうに話しているのが、女性客たちは羨ましいのだろう。麗華の店には幅広い世代の男女が訪れる。不思議な店なのだ。
「サービスは、金払ってる客にしろ」
 この店で代金を請求されることはない。麗華とはそういう仲なのだ。
 ここで働いていたことがある。もちろん用心棒としてだけど。
 終電を逃した稲作は、麗華か、かつての同僚のところに泊めてもらおうとこの店にやってきたのだ。
「マダムには、好きに行動して良いと言われています」
 ジルが居るだけで、客が増えるらしい。

「広木、いらっしゃい、ずいぶんお久しぶりね。寂しかったわ。何にする?……セリオス、あなたにはブラッドオレンジのジュースよ」
 麗華がやってきた。彼女も、稲作が顔を出すと歓待してくれる。だから来辛いのだ。
 店の看板二人を益々羨望と嫉妬の視線で見られちまうじゃないか。
 それにしても、誰がセリオスだ、全く。


 今日はジルの職場風景でした。
 セリオスという名前は、僕がRPGをする時に必ず主人公に付けていた名前でした。
 むかしむかし、PC98を使っていた頃のこと。
 弟が何枚かのFDを貸してくれました。初めてのRPG。ドラゴンスレイヤー英雄伝説(うろ覚えです)の主人公の名前がセリオスでした。
 初めてのRPGにはずいぶん熱中しました。ゲームの最後、一番強い敵キャラと対決直前にバグリました。そのゲームだけ、ラストシーンを見ていません。だから忘れられない名前なのです。
 もう何年もそういうゲームをしていません。書いていて懐かしくなりました。

 昨日は奥日光、戦場ヶ原を歩いてきました。赤沼、三本松の駐車場は満員。有料の湯滝の駐車場にやっと止めることが出来、そこから赤沼を目指して歩きました。

 今日の写真は「戦場ヶ原の風景」(2005.07.17栃木県で撮影)
 ホザキシモツケはやっと咲き始めたところでした。

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ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。
麗華……クラブ〔Madam☆Rose〕のマダム。年齢不詳の超美形(♂)。

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2005/07/17

ちょっとそこまで

 おはようございます。
 今日はちょっと出掛けてきます。
 また、素敵なお花を紹介出来るように、しっかり観察してきますね。

「土産を忘れるなよ」
「キーホルダー?」
 な、訳がない。

それでは、行ってきます。

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2005/07/16

迷惑〇〇

PICT01691
「うほっ、すげぇ、何だこりゃ」
 機械が苦手な稲作は、僕のパソコンをさわったことがない。
 今日は、妙ちゃんに貸しているから、後ろからのぞき見ているのだ。
「妙ちゃん、何のサイト見ているの?」
「〔月の光〕だよりだよ」
 え!?稲さんが喜ぶようなもの、載せていないはずだけど。


 昨日、初めて迷惑トラックバックを受けました。
 今までは、内容があまり関係なくても、興味を持ってトラックバックをしていただいたということで、削除をしたことはありませんでした。
 が、一目でそれとわかるブログ名。恐る恐る訪ねてみると、凄い写真がいっぱい!!(喜ぶな!)。消しますよ、とコメントを書くところもわからなかったので、削除させていただきました。
 もし、見てしまった方がいたらごめんなさい。
 今後も、僕が不快と感じたトラックバックは削除させていただきますので、皆さん安心していらして下さい。

 それにしても、トラックバックは初めてでしたが、迷惑メールは毎日嫌になるほど送られてきますね。
 若い男の子などは、嫌な気分になるのではないかと心配になってしまいます。
 
 今日の写真は「アヤメ」(2005.07.11長野県で撮影)
 池の平湿原はアヤメが花盛りでした。 

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/07/15

PICT01651
「今日は若い者はいないのかい?」
「いらっしゃいませ、沼田さん。みんな仕事に出ているのですよ」
「いつものをもらおうか。……1つ、聞いてもいいかな」
 沼田さんのいつものは‘ウインナコーヒー’。
「はい?」
「広木とジルのことなんだが」
「ふたりはうらやましいくらい仲が良いですね。ジルちゃんは稲さんを信じ切っているし、稲さんはジルちゃんを裏切るようなことは決してしないでしょう。……心配なのは、稲さんが、ジルちゃんに智紘君を重ねていることでしょうか」
「智紘か」
「二度と同じ思いをしたくないのでしょう」
 僕らは、店に飾られている肖像画を見た。


 先日、スーパーにところてんを買いに行きました。
 1件目、あるはずの場所に見あたりません。2件目で見つけてレジに並ぶと、
「今流行っているんですよね」
 と、レジの女性。
「ところてんがですか?」
 だから品数が少なかったのです。あまり暑くもないのに?
 僕は、糖尿病でダイエット中の父へのお土産のつもりで探したのですが、本当に寒天ダイエットが流行っているのですね。
 いつだったか、ココアを買おうと売り場に行ったら、あるべき場所にずらりと板チョコが並んでいたことがありました。あれはダイエットというより健康にいいという理由の流行だったと思いますが。
 群馬県民としては、ダイエットにはこんにゃくもお勧めです。煮ても大丈夫だし、歯ごたえもあります。夏は刺身こんにゃくも良し。
 でも、何だか、冷たく冷やしたところてんに、酢醤油をかけて七味をふって、チュルチュルッと食べたくなってしまいました。

 今日の写真は「グンバイヅル」(2005.07.11長野県で撮影)
 軍配蔓と書きます。花をよく見て下さい。ゴマノハグサ科クワガタソウ属のこの花は、野原で見かけるオオイヌノフグリに似ていませんか。この花も中部地方の山地でしか見られない花です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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2005/07/14

追い詰められるふたり

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《前回のつづきです》
「来るな!ジル!」
「こんにちは、みなさん」
 忠宣とジルの目が合った。
「初めまして」
「やあ」
「これは――」
 ジルは、テーブルに並べられた忠宣の道具に目を奪われている。
 バレる!?
「凄いだろう?」
「素敵なアンティークですね。特にこれ、触ってもいいですか?」
 忠宣は、どうぞ、という手つきをした。
 銀の十字架を手にするジル。
 うわっ、バレ……な……い。
 一瞬目を閉じてしまった稲作は、静かなジルの声で片目を開けた。
「見事な銀細工ですね。妙ちゃん、見せてもらいましたか?」
「アンティークなの?鑑定団に出したら高い値段が出るかな」
「おお、わしもあの番組大好きだ」
「あたしもだよ。安い値段が出ると、気持ちがいいねぇ。ワハハハハ」
「稲作、どうしたのですか。そんなに汗をかいて」
「汗じゃねえ、水を掛けられたんだ」
「何で人狼じゃないんだろう」
「しつこいぞ!」

 その夜。
 稲作の事務所兼住居でくつろぐ二人。
「トマトジュース買ってあるぜ。……さっきは、どうなることかと思ったぜ」
 稲作は缶ビールのプルトップを開けながら言った。
「何がですか。今はジュースはいりません」
「うさんくさいヤツだが、道具は本物だった」
「彼は本物のハンターです」
「何で平気なんだ?お前」
「私はキリスト教徒ではありませんから。私の起源を説明出来る賢者がいたら、私はその方に帰依してもいい。……稲作、隣に座っても良いですか」
「ああ、いいぜ」
 稲作がいるソファに座り直したジルは、彼にそっと身体を寄せた。

 その夜Ⅱ。
 沼田道場の一室。
「どうだ?忠宣」
「あいつかい?不合格だよ、パパ」
「聖水をかけられた時の芝居は、なかなかだったと思うがな」
「あんな堅い芝居じゃなぁ」
「お前の後継者は、無理か」
「無理だね、あいつは優しすぎるよ。あの吸血鬼を殺せないだろう?」
「あの子を狩るのか?」
「大人しくしている者を狩りはしないさ。……もしも、あいつを仲間に引き入れるようなことがあったら」
「連絡するよ、お前に」


 今日の写真は「シャジクソウ」(2005.07.11長野県で撮影)
 一見レンゲに見える車軸草は、北海道、長野県、群馬県、宮城県でしか見ることが出来ないそうです。
 
【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/07/13

親心

PICT01811
《前回のつづきです》
「アマゾンのアジトか?」
 沼田さんは、一瞬、忠宣さんを見た。
「吸血鬼のアジトだよ~」
「吸血コウモリ?」
「バンパイアだよ、お嬢ちゃん。世の中にはお嬢ちゃんの知らないことがたくさんあるんだ」
 忠宣さんは、パスタをズルズルすすりながら答えた。
「いいものを見せてあげよう」
 彼は、年季が入ったリュックから古びた袋を取り出すと、中身をテーブルに並べ始めた。
「聖水、十字架、ニンニク、銀の弾丸、銃は日本に持ち込めないんだ……おじさんはバンパイアハンターなんだよ」
「ウッソ~。信じられない」
 変なおじさんの言うことを、冗談としか思えない様子の妙ちゃん。

 一人、離れて座っていた稲作が忠宣の言葉に驚いて飛んで行くと、
 ビシャッ!
 顔に水を掛けられた。聖水と言って並べた小瓶の中身だ。
「ウウッ!!」
 胸を押さえて苦しがる稲作。
「なんてなる訳ねぇだろ!!――何すんだ!」
 ノッてしまった自分が悲しい……。
「すまない。犬みたいな顔してるから人狼かと思った。効き目がないところを見ると人間かな?」
 ニヤニヤしながらあやまる忠宣。
「何が聖水だ! カルキ臭い!水道水じゃねぇか!」
「あれ?勘が鈍ったかな?そんな匂いが判るところを見ると、やっぱり人狼だったかな?」
 忠宣はニンニクを、稲作の鼻先に突き付けた。
「止めろ!!――じいさん!いったい何なんだよ、こいつ!」
「お前たち、初対面だったっけ?わしの自慢の息子だ。世界平和のために日夜働いているのだ」
 あきれ果てた稲作は、お千代ちゃんとお梅ちゃんに目で助けを求めた。
「まあまあ、子供なんてものは、元気で人に迷惑さえかけないでいてくれれば、親は満足なものなんだよ、稲作」
 自分にも当てはまる慰めの言葉。……でも、忠宣は子供じゃなくて、オヤジじゃないか。
「パパ、今度はロシアに行ってシベリヤを食べようと思ってるんだ。今度は涼しいところがいいや」
「おお、そうかそうか」
 沼田のじいさんは目を細めてうなづいている。

「こんにちは。今日は賑やかですね」
「いらっしゃいませ、ジルちゃん」


 今日の写真は「ハクサンチドリ」(2005.07.11長野県で撮影)
 白山千鳥と書きます。別名はシラネチドリ。撮影場所は池の平湿原です。木道から見渡すと、ぽつりぽつりと見られる豪華なランです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/07/12

アマゾンのアジト

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《前回のつづきです》
 外に出ていた全員が店に戻ってきた。
「アマゾンはどうだった。アジトは見つけたか?」
「見つからなかったよ、パパ」
「さあ、何でも好きなものを注文しなさい」
「うん。じゃあね、森のキノコのパスタと、マルガリータと、デザートはプリンアラモード、飲み物はアイスコーヒーと」
「コーラか?」
「駄目だよ、パパ。コーラは骨が溶けるから」
「そんなものは迷信だぞ、忠宣」
「相変わらずだね、忠宣ちゃん。お嫁さんはまだかい?」
 と、お千代ちゃん。
「私なんかそんなに食べたら大変だよ、太っちゃって。ワハハハハ」
 お梅ちゃんは豊かな胸とお腹を揺らして笑った。
 沼田さんの息子、黒ずくめの男忠宣さんと、お千代ちゃん、お梅ちゃんは旧知の仲のようだ。忠宣さんのギャグマンガ並みの変貌ぶりに、全く驚いた様子がない。

「ねえ稲作、あの二人、親子なの?」
「性格がそっくりだ。鼻が赤いところも」
 沼田さんたちと離れた席に着いた稲作と妙ちゃん。
「アマゾンのアジトって何だろうね」
 妙ちゃんは、みんなの会話に耳がダンボになっている様子。
「知るか」
「気にならないの?」
「なるか」
「何落ち込んでるのよ」
「落ち込みもするぜ。あの二人が俺の師匠と兄弟子だなんて」
 
「稲作、妙ちゃん、こっちにおいで。忠宣ちゃんが1年ぶりに無事に帰ってきたんだ。一緒にお祝いをしよう。好きなものを頼んで良いよ」
「ほんと?」
 妙ちゃんは喜んで合流。
「あの、アマゾンのアジトって何ですか?」


 昨日はお休みをいただき、またも長野県に行って来ました。
 その花に会うために長野に行くのは3年目です。どこにあるともわからないまま、背丈ほどあるササで、道が消えかけた遊歩道を歩きました。
 しばらく歩くと、地面に凄い数のアリ。前を行くPさんの白っぽいズボンにも何十匹ものアリが這い上がっている!自分のズボンにもです。
 映画「黒い絨毯」を思い出してしまいました。南米アマゾン川流域が舞台の、人食いアリと農園開拓者の死闘とロマンスを描いたのお話。1954年制作、チャールトン・ヘストン主演の古い映画です。
 そんな思いをしながら、今年もまた駄目かと諦めかけた時、ようやく見つけることが出来ました。

 今日の写真は「ツキヌキソウ」(2005.07.11長野県で撮影)
 突抜草と書きます。くっついた葉の真ん中を茎が突き抜いているように見えるから、付けられた名前です。地味な花ですが、その形見たさに探し続けた花なのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

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2005/07/10

黒ずくめの男

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「ねえ、稲作、どっか連れてってよ」
「日帰り温泉でも行って来い」
「ケチ」
 日曜日。
 いつも暇な探偵と探偵助手は、今日も暇そうだ。

 ドアが開く。
「いらっしゃいませ」
 入ってきたのは全身黒ずくめの肉感的な男。僕と同年代だろうか。彼は、黒革のズボンをはいて、タンクトップを着ている。常連ではないが、時々顔を見せてくれるお客様だ。
 稲作も黒ずくめだが、彼は色が落ちかけたジーンズとTシャツ。
「夕べ、南米から戻った。日本に帰ったら、ここのコーヒーを飲まないとな」
「ありがとうございます。お仕事ですか?」
「まあ、そんなものだ。アナコンダを絞め殺して蒲焼きにして食ってみたんだが、やはり大味で不味かった」
「!?」
 誰かに似ていると思ったら、彼は「藤岡弘、」さんに似ているのだ。
「冗談だ。食ったのはカピバラだ」
「カピ?」
 シャボテン公園で温泉に浸かっている彼らの映像を見たことがある。最近苦手になってしまったネズミの仲間。世界最大の大ネズミだ。
 彼は、いつものカウンター席に座らず、稲作たちがいる席の方に、つかつかと歩いていった。

「お前」
「んが?何だ?」
 稲作と黒ずくめの男との間に緊張感が漂う。
 突然、男の手刀が稲作を襲う。
「何すんだ!!」
 腕で受け止めた稲作は怒鳴った。
 飛び退いた男は、ニヤリと笑って稲作の攻撃に備えて、型を作った。
 店が壊される!
「外へ出ろ!」

 店の外、河川敷に出た二人は、戦闘開始。
 カンフー映画を見ているようなのは、稲作が八卦掌の使い手だからだ。黒ずくめの男は空手か?
「絹さん、何これ?」
「わからない。どうしよう、妙ちゃん」
「でも、何かカッコイイかも」
 二人は、本気で戦っているようには見えない。お互いの技量を確かめ合っているようだ。

「あんた、何で空手なんだ?」
「マイブームだからだ」
「親父が泣くぜ」
「ふん」

「おお、やっているな」
 緊張感がない声を掛けたのは、青空気功教室の先生、沼田さん。今日も両手に花のお千代ちゃん、お梅ちゃんと一緒だ。
 振り返った黒ずくめの男は叫んだ。
「パパ!」
《長くなったので、つづきは次回》


 前におなじみさんが出てくるシリーズものの小説が好きだと書いたことがありました。その中の1つの映画が封切り間近です。
 「姑獲鳥の夏」。
 この作品とは、笑っちゃうようなおかしな出会いかたをしました。
 作者がTVでインタビューを受けるほど話題になっていた作品でしたが、知らなかったのです。
 インタビューを受ける京極夏彦さんを見て、読んでみたいと思ったのです。
 黒ずくめの服装の上、指先の開いた黒革の手袋。微笑む口元は片岡千恵蔵さんに似ていて(あの時はそう思いました)、口調はデーモン木暮さんに似ている。本人がこんなに面白いのに、作品が面白くないはずがない!
 翌日、さっそく書店に向かいましたが、何処へ行っても入荷待ち。人気作品であることを知り、何日も待ってやっと手に入れた時は酔うように読みました。それ以来、作品の世界観の虜になり、どんなに厚くなろうとも、2冊組になろうとも、新刊が出るたびに読んでいます。

 映画のキャスティングには満足していますが。
 僕が初めて読んだ時の勝手なキャスティングをご紹介しましょう。
 中禅寺秋彦……豊川悦司さん。声は野村萬斎さん
 関口巽…………西村雅彦さん
 榎津礼二郎……沖雅也さん
 木場修太郎……村田雄浩さん
 故人も含まれた妄想キャストです。

 今日の写真は「アヤメ」(2005.05.18群馬県で撮影)
 昨日のお約束通り、今日の写真は菖蒲です。ヒオウギアヤメよりも乾燥気味の平地で見ることが出来ます。どこが違うかわかりますか?
  
【登場人物を少しずつ紹介します】
沼田さん……〔月の光〕の常連で、稲作の拳法の師匠。
お千代ちゃん……知恵袋的存在の細身のおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。
お梅ちゃん……料理上手なふくよかなおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。

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☆お知らせ☆―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

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2005/07/09

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《昨日のつづきです》
「稲作、あなたには夢がないのですか。私がこれまで出会ってきた人たちは、みな夢を持って生きていました。画家、音楽家」
「そんなもん、考えたこともなかったぜ。日々、食うのが精一杯で」
「子供の頃も?サッカー選手とか、野球選手とかになりたくなかった?」
「遊んでばっかだったからな。あんたは?」
「僕には少年らしい夢があったよ。お相撲さんになりたかった」
「すもうとり!?わはははは。ジル、見たことあるか、相撲」
「太った裸の人が行う競技ですね。絹さんみたいな人は見たことがありませんが」
「背はぎりぎり合格だな。でも、そのカトンボみたいな体格じゃな。わはははは」
「笑うなよ。大鵬や北の湖みたいに強くなりたかったんだから」
 笑われるに決まっていたけれど言ってみたのだ。今日の彼にはいつもの元気がないから。
「そういえば俺んとこに、地元出身の親方が来たことがあったんだぜ。中学卒業したら迎えに来るはずだったんだ。こっちに来ちまったから話はそれきりになったけど」
「稲作は子供の頃から、大きかったのですか?」
「そう、その上乱暴者だったんだって。君がお相撲さんになっていればなぁ。絶対ファンになったのに。……そういう夢も良いかも知れないな」
 熱狂的な阪神ファンの姿が思い浮かんだ。阪神が優勝することが、夢、みたいな。
「ジルちゃんの夢は?」
「私の夢は叶いました」
「?」
「ここにいること」
「日本に来たかったんだね。じゃ、次を見つけなくちゃ」
「望みは――」
 稲作を見詰める、ジルの瞳が青く輝いた。


 TV版「電車男」を見ました。
 普通の男の子で気弱なオタクの主人公を見ていて、もらい泣きしそうになりました。23歳の誕生日に何も良いことがなくて、自分で買ったショートケーキを夜のビルの屋上で泣きながら食べるシーンです。
 主演の伊藤敦史さん、大河ドラマで義経の家来、喜三太も演じていますね。子役の頃からの面影が残っているところも、近所の男の子の成長を見ているようで好もしいです。
 ネットの世界。嫌なニュースばかり耳にしますが、「電車男」に登場するネットワーカーたちのように優しい心でネットを使えるといいですね。

 今日の写真は「ヒオウギアヤメ」(2005.07.03群馬県で撮影)
 桧扇菖蒲と書きます。アヤメと違い、高原や北地の湿原に生えます。
 明日はアヤメを載せてみましょう。花を見ただけでだけで、違いがわかりますよ。 

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
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2005/07/08

衝動

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 お千代ちゃん家からの帰り道。
 早く仕事が済んだ稲作は、高速に入った。
 いい歳をして、無性に飛ばしたくなることがある。
 いい歳をして、Z750が足代わりというのもどうかと思うが、慣れ親しんできた相棒だ。いまさら、自動車に乗り換えたいとは思わない。
 スピードを上げる。
 急ハンドルを切ってみたい。
 側壁に突っ込んでみたい。
 確かめてみたくなるのだ。俺は死ねるのだということを。
 いい歳をして。

 ジルと二人きり。
 〔月の光〕には静かすぎる時間が流れている。
 彼がヒルを食べるという悪夢は、自分が勝手に見たものなのに、どうも声を掛け辛い。「稲さん遅いね」なんて言うと、ポケットからネズミが出てきそうだし……。
「CDかけようか?」
 この間太朗君が置いていった物だ。彼やジルには古すぎるだろう。僕には新しすぎる。
 尾崎豊。「I LOVE YOU」なら知っている。
 痛々しい青春。
「違うのにする?」
「いいえ、構いません」

 ドアが開く。
「お帰りなさい」
「いたのか。先に帰ってていいんだぜ。迷惑になる」
「絹さん、迷惑ですか」
「いや、そんなことないよ。……何か食べる?夕飯まだなんでしょう?」
「ああまずはコーラだ。のどが渇いた」
 カウンター席に座った稲作は、コーラを一気に飲み干す。いつものように喋らない。
「稲作、どうしました」
「……尾崎か」
 曲は「I LOVE YOU」から「シェリー」に変わっていた。
「あんたはまだいいさ、見る夢があったんだから」
 稲作は、誰にともなく呟いた。


 今日の写真は「オゼヌマタイゲキ」(2005.07.03群馬県で撮影)
 正式名称はハクサンタイゲキ。湿原一面に咲いていて、ヒオウギアヤメと共にお花畑を作っていました。 

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/07/07

懐かしい風景

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「稲作!お茶が入ったから、降りておいで」
 今日は、元勤めていた職場から回してもらった仕事。お千代ちゃん家の庭木の剪定作業だ。
 いつもの通り、縁側には濃いお茶。せんべい、シベリヤ、桃山、石衣、五家宝と、お千代ちゃんの好物が菓子器の中に入っている。甘い物が苦手な稲作は、しょう油せんべい専門だが、今日は小腹が空いているから、シベリヤも食べてみる。
「甘えなぁ」
「お茶を飲みな」
「ああ」
「今年も、たくさん実が付いたね」
 お千代ちゃんは、大きな柿の木を見上げて言った。
「今年ももいでやるよ」
「足を折らないでおくれよ」
「また、それを言う。……干し柿も作ろうな」
「稲作、肩にイラガが付いているよ」
「うわっ、取ってくれ!」


 今日は店を離れて、稲さんの勤労風景です。
 柿の木には、刺されると痛いイラガの幼虫が付くんですよね。
 お千代ちゃんの好物は、僕の祖母の好物。だから、皆さんにとっては曾お祖母ちゃんの世代のお菓子かも知れません。味と姿が思い浮かびますか?

 今日の写真は「キンコウカ」(2005.07.03群馬県で撮影)
 金黄花と書きます。湿原に咲く、花火みたいですね。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。
お千代ちゃん……知恵袋的存在の細身のおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。

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2005/07/06

嫉妬

PICT01261
「ねえ、妙ちゃん」
 キッチンで、鍋の焦げをこすっている妙ちゃんに声を掛けた。
「起きても大丈夫?」
 と、いうより、寝ている方がおかしいのだ。若い娘でもないのに、ヒルに驚いて気絶するなんて恥ずかしすぎる。
「今日はお休みにするから、何かお料理、教えてあげようか?何が好き?」
 妙ちゃんが作ってくれた‘おじや’は言語に絶する出来だった。キッチンにある調味料をすべて入れてみたのじゃないかと思える複雑怪奇な味のうえ、焦げ付いて炭化したご飯が混ざって、黒っぽい色をしていたのだ。
 何でも美味しいと言って食べる稲作も、さすがに言葉がなかった。
「いいんだ。ボク、才能ないんだから」
「三つ星レストランのシェフになる訳じゃないんだから、才能なんていらないよ」
「いいんだ。料理なんて出来なくても。コンビニもあるし、スーパーのお総菜コーナーだってある」
 今の時代、料理が出来なくても困ることはないだろうけど。
「作ってみたいものはないか……」
「プリン!」
 妙ちゃんは、作りたいものじゃなくて、食べたい物を答えた。

「ジル、すまなかった」
 俺は、ジルを傷つけた。
「何がです?」
「俺は、お前を疑った」
「慣れています」
 場所は、稲作の事務所兼住居。
 日頃の彼を見ていると、さぞ男らしく汚い生活をしていそうだが、以外ときれい好きなのだ。ジルが同居するようになってから、整理整頓もされて、いっそうきれいになった。
「嫉妬だったら、よかった」
「嫉妬だ」
「?」
「一番最初にお前の仲間になるのは、俺じゃなきゃ嫌だった」
「本当ですか」
 ジルの瞳が青く輝いた。


 今日は田んぼに行って来ました。田植えして日が浅いというのにカブトエビ、ホウネンエビ、ガムシの幼虫がいました。

 今日の写真は「ツルコケモモ」(2005.07.03群馬県で撮影)
 湿原に咲く小さな花です。コケモモと同じく、赤く熟した実は、食べることが出来るそうです。クランベリーはこの仲間。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

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2005/07/05

夢か現か

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《昨日のつづきです》
「何やってるんだ!!」
 稲作は、僕の首に口を付けるジルを見て、突き飛ばして叫んだ。
「あんた!契約したのか!ジルと約束したのか!!」
 彼は、僕の両肩を持って揺すって何か言っている。言っている意味がわからない。
 でも、彼は、酷く怒っている。何か言わなくちゃ。
「誤解だ、稲さん」
「何が誤解だ!……ジル!てめえ!」
 今度は、自分が弾き飛ばしたジルの襟元を掴んで怒りをぶつけている。
 僕は、二人の間に割って入る。手に負えないのはわかっているけれど、ジルが壊される。
「ジルちゃん、大丈夫?」
「はい。……あっ、潰してしまいました」
 ジルは、赤く染まった手のひらをぺろりと舐めた。
 ヒルを、食べた!?。
 ――暗転。

 火事だ!
 自分のベッドに寝ている僕は、焦げ臭い匂いで目が覚めた。部屋の中が煙っている!
「気が付いたか。年寄りの一人暮らしは心配だな。卒中起こしたんだと思って篠原先生呼んじまったんだぜ」
「火事」
「妙が、何か作るって張り切ってるんだ。食えるものが出来ればいいがな」
「ジルちゃんは?」
「ん?……一昨日から東京だ。言ってなかったっけ?妙に言われて、少しは働く気になったんじゃねぇか」
 さっきのは、夢か。
 僕は、首を触ってみる。傷絆創膏。
「慌てて、篠原先生呼んでから気付いたんだ。あんたが、ヒルに驚いて気絶したんだってことに。心配するなって、ヤツは俺が焼き殺しておいた」


 今日の写真は「アサヒラン」(2005.07.03群馬県で撮影)
 昨日のトキソウに混ざって、濃いピンク色の花を咲かせていました。恥ずかしがり屋さんなのか、トキソウのようにぱっと開きません。  

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/07/04

続・静かなる吸血鬼

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「ただいま」
 夜。誰も居ない店に帰る。
 朝の祈りは虚しく、さんざんな目に遭ってしまった。
 コーヒーを淹れて、シャワーを浴びて、早く寝よう。
 一瞬、店の中央に2つの青い光を見た気がした。
 電気を点け――。
 !?
 ジルが、ボーッと立ってこちらを見ている。
「どうしたの!?そんな暗いところで!」
「稲作と待ち合わせています。絹さん、不用心です。ドアの鍵が開いていました」
「開いてた?――る、留守番していてくれたの?電気ぐらい点ければよかったのに」
 まだ動悸が納まらない。
「忘れていました」
 電気を点けるのを忘れていた?居眠りしていたわけでもないのに。
「コーヒー、淹れるね」
「絹さん、ちょっと動かないでください」
「?」
「首に、こんなモノが付いていました」
 ジルの手のひらの上には、まるまると太ったヤマビル。
 首筋を触って、手のひらを見ると、血。
「!?」
「さあ、椅子に掛けて」
 ジルの青い瞳が、輝きを増して近付いて来る。
 ひんやりとした唇が、僕の首筋に触れる――。


 と、いうことにならないように、完全装備をして出掛けました。
 足には、登山用のニッカポッカをはく時にはく、厚手の膝上までの靴下を、みっともなくも普通のズボンの上からはき、ヒルが入り込む隙間を作らないようにしました。その上から、たっぷりと虫除けスプレーを。手には軍手をはめ、消毒液、脱脂綿、傷絆創膏も持ちました。

 予想に反して霧雨。ヤマビルたちが大好きな気象条件です。
 歩き始め、消毒を散布したような匂いがしていました。
「地元の人が撒いたのかな?」
 ちょっと油断をしている隙に、僕と同じ装備の上、膝までの長靴を履いたPさんの悲鳴が。
「うわ~っ!」
 すでに、長靴の一番上まで上がり取り付く先を探して、長く伸びているヤマビル。慌てずに、ヒルが尺を取って移動するために、吸引力の強い後ろ足を上げた時、棒でピンッと、弾くと簡単に取れます。が、一番多い場所では、1匹取っている間にもう1匹登って来るという状態でした。
 前回より天候がマシだったせいか、大勢の人と会いました。胴長を着ている人、半ズボンで足を出している人、装備は様々でした。
 彼らによると、ヤマビルが出始めたのは、ここ数年のことなのだそうです。

ヤマビルの炭酸ガスへの反応は、面白いものです。獲物を感じない時は、ナメクジのように動かずにいますが、近付いて息を吹きかけてみると、急に伸び上がって体を激しく動かして、取り付こうとします。
 おかげで、メッシュ調査は気もそぞろになってしまいました。
  
 今日の写真は「トキソウ」(2005.07.03群馬県で撮影)
 今日は、全編不気味系でしたから、最後くらい美しく行きましょう。
 湿原に生える、名前の通り、朱鷺色の小さなランです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/07/03

リベンジ

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「いらっしゃいませ、○○さん」

「え?誰もいないじゃないかって?」

「いいえ、今日のお客様はあなたです」

「たまには、こういうのもいいじゃないですか。どうぞお好きなものをご注文下さい」

「手抜きじゃないかって?」

「ははは、バレました?」

「実はこれから、この間のメッシュ調査のリベンジに出掛けるのです。お天気が良いようですから、ヤマビルは出てこないかも知れません。出てこないことを祈りたいです。今回は装備をきちんとして行ってきます」


 今日の写真は「キヨスミウツボ」(2005.06.25関東地方で撮影)
 清澄靫と書きます。千葉県の清澄山で見つかったことから付いた名前だそうです。草や木の根に寄生し、葉緑素を持たないハマウツボ科の植物です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/07/02

転機

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「あいつ、大人になったな。学校のウサギが死んだって、メソメソ泣いていたのに」
 帰る太朗を見送った稲作は言った。
「そんな昔のことを言って。……彼には目指すものがあるからね」
「まだ弁護士か?」
「うん。優秀な、君の後輩だ」
「おちょくっているのか?」
 そうじゃない。稲作と智紘が卒業した高校は、県内有数の進学校。太朗はそこの在校生だ。
 小学生の頃、太朗は、僕らの前で誓ったのだ。弁護士になると。なって弱者の力になるのだと。その夢に向かって、彼は着実に進んでいる。
「若い時に夢を持つのは良いことだ」
「夢ねぇ……。俺は家業を継ぐものだと思っていたからな」
「持っていないと、僕のようになる」
 普通のサラリーマンを経て小さな茶店の店主。昔は夢を持っていなくても、真面目にしていれば、今の僕程度の生活が出来るような仕組みになっていた。
 勉強を妨げる誘惑は、TVと深夜ラジオくらいしかなかった。携帯もパソコンもTVゲームもなかった。
 分不相応な高望みをしなければ進学も出来たし、就職浪人なんていうこともなかった。
 ニートなんて言葉は聞かなかったし、引きこもりも社会問題になるほどいなかった。その代わり、働かなくても親が食べさせてくれる、なんていうこともなかったけれど。
「子供の時に出会ったことは、大事なのかも知れねえな」
「太朗君の転機は、智紘君に出会ったことなんだろうね」
「俺も、そうなんだけどな」
 稲作は懐かしそうに、智紘の肖像画を見ながら言った。
 

 今日の写真は「ミヤマハナシノブ」(2005.06.26甲信越地方で撮影)
 深山花忍と書きます。美しい字ですね。ほんとうに、高い山の草むらに忍ぶように咲いていました。
 ブユの蚊柱に、半分負けながら撮した1枚です。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/07/01

少年

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「いらっしゃいませ、太朗君!久しぶりだね。また、背が伸びたみたい」
 高校生の吉野太朗君。初めて彼が〔月の光〕に訪れたのは、小学生の時だった。彼が投げた石が智紘に当たり、怒った稲作がここに連れてきて説教をしたのだ。
「はい」
「太朗、おめえは大丈夫なんだろうな」
「稲作さん!会えると思わなかった。全然変わってない。元気だったんですね!」
「まあな」
 4年ぶりの再会に喜ぶ太朗に、稲作は素っ気ない。
「ところで、何が大丈夫なんです?」
「最近のガキは、ちょっとのことで友だち刺したり爆弾作ったりろくな事しねえからな」
「わぁ、ほんとに変わってないや。僕は大丈夫ですよ。いいお手本が身近にいますから」
「?」
「あなたですよ」
「俺?……反面教師か」
「違いますよ。僕はあなたのように友だちを大切にしたいし、自分の思った道を進んでいきたい」
「そんな立派なことはしてない。真似すると、こんな風になっちまうぞ」
 と、言いながら、稲作は嬉しそうだ。
「稲作さん、色々な国を回ってきたんでしょう?聞かせてください」
 稲作は、智紘が亡くなった後数年間、放浪の旅をしてきたのだ。
「話すようなことは何もないぞ」
「どんな話しでもいいですから」
 太朗は、時には逃げても良いということも、稲作の生き方から学んでいるだろう。


 曲の紹介をしようと思う時、その曲を聴きながら考えます。
 今日はSTARDUST REVUEの「少年」。
 何でも手に入れることが出来ると、大きな夢を抱いて都会に出た少年が、やがて愛するものを手に入れ、夢を忘れてしまう。でも、心の中では、あの日の少年の自分が、あの頃を忘れるなと叫んでいる……。という内容の詩です。
 今の時代、少年は大志を抱けなくなっているのでしょうか。

 今日の写真は「ナガサルオガセ」(2005.06.26甲信越地方で撮影)
 亜高山の森に入ると、何だろう?この‘とろろこんぶ’みたいなものに出会うことがあります。サルオガセという地衣類です。薄暗くなってくると幽霊みたいです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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