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2005/06/30

人は見かけに

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「稲さん、気を悪くしないで聞いてくれる?」
「何だ?」
「理容室、行くお金無いの?」
 いつものように、大盛りのカレーライスを掻き込んでいる稲作に尋ねてみた。長く伸びた髪が、この季節にはうっとうしそうだ。
「気付かれたか。しばらく床屋に行ってねえんだ」
 お金がないの?と、訊いたのは切っ掛けに過ぎない。
 僕は、長い髪の彼との方が付き合いが長いのだ。彼が髪を伸ばしていた理由に問題がある。彼は、智紘が生きている間、髪を切ることが出来なかったのだ。
 また何か、そんな状況におかれているのだろうか。
 人は見かけに寄らないというのは、彼のためにある言葉だと思う。
「夏場は、こうしておくと涼しいんだぜ」
 稲作は、手首に通していた輪ゴムでポニーテールにすると、いつもの人懐っこい笑顔を見せた。


 今日の写真は「テガタチドリ」(2005.06.26甲信越地方で撮影)
 やっと咲き始めた一輪。特徴は、花の後ろが長く伸びているところと、細長い葉の形です。手形千鳥と書きます。なぜ、手形なのか?根が、手のひらを広げたような形に伸びているからだそうです。
 その他、ランの仲間は、ノビネチドリ(延根千鳥)、サカネラン(逆根蘭)、エビネ(海老根)など、根の形が名前に付いている物が多いのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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2005/06/29

静かなる吸血鬼

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「兄貴、ちょっと」
 耕作は、稲作を引っ張って奥に行き、何やらこそこそ話している。らしいが、声が大きいからまる聞こえだ。
「――だから、あいつは人間じゃねえって言ってるだんべぇ!ヒゲが生えてねえ」
「お肌のお手入れが良いんだろうよ。ほっぺたがつるつるだと人間じゃねえのか?」
「お袋だって生えてるっていうのに」
「そりゃ、お袋の方が女を捨ててるんだ」
 群馬県人同士の会話は、早口で怒鳴り合っているようだ。
 ここで余談。上州弁の「だんべぇ」は、「だろう」とか「でしょう」と同じように使うのだが、北海道出身の僕の母は初めて聞いた時、大変驚いたらしい。言葉に出せない女の子の体の一部。「〇〇ちゃん、おしっこ済んだらだんべちゃん拭いて」って使うのだって。
「けんかは止めて下さい」
 心配になったのか、二人近付いて訊ねるジル。
「ん?けんかなんてしてねぇぞ」と、同時に答える兄弟。

「昼飯食いに行くぜ。耕作、ジル、何が良い」
「焼き肉。さっき車乗ってたら何軒も見たんだ。食いたくなっちまった」
「それでは、私はレバ刺しとユッケを」
「この季節に生肉なんかあるかな」
 前橋市は焼き肉屋がやたらと目に付く。店の前に焚かれた篝火を見て店から漏れる匂いを嗅ぐと、若い人だったら余計に食欲を刺激されることだろう。


 以下は2月19日、このブログを始めたばかりの頃に書いたものです。
   ***  
 私たちは暫しの眠りから覚めた。
 人の匂い。
 頭を持ち上げ、匂いのする方に向かう。
「エモノダ」
「獲物だ」
「えものだ」

「うわーっ!」
「何!?どうしたの?」
「首に、首に!」
 彼はパニックを起こしながら、襟のボタンを外している。
「見て、見て、何かか首にくっついた!」
 彼の首には、木の枝から落ちてきた黒っぽくぐにょぐにょしたモノが付いている。
「脅かさないでよ。ヒルじゃない」
「早く取ってくれ!」
 ヒルに刺されても痛みも痒みもないけれど、引っ張って取ると出血が止まらない厄介者だ。
「ちょっと待ってね」
 煙草の火を付けて脅すとか、塩を掛けるとか、自ら吸い付くのを止めてもらう方法が一番いいのだ。
 この時、ヒルたちが彼らの靴を這い上がり、すねの周りで食事にありついていることに気付かなかった。
 辺り一面で、ヒルたちが彼らの方に向かって頭をもたげていることに気付かなかった。
   ***
 昨日、見ることが出来ました。しかも、罰も当たりました。
 昨日は早出をして、野鳥の会から委託されているメッシュ調査に同行しました。メッシュ調査とは、決められた場所を決められた季節に歩いて、野鳥の生息状態を調べるものです。
 場所は、新潟に近い川古温泉の側。前橋は降っていませんでしたが、近付くに従って雨が強くなってしまい、しばらく様子を見ましたが、諦めきれずに歩き出してみました。10分ほど歩きましたが、やはり無理と判断して帰り掛けた時、Pさん(自然観察のパートナーで筆者の良人)のズボンに小さな茶色い尺取り虫が付いていました。
 かわいいー。という感じで逃がそうと思ったら、ちょっと変なのです。尺を取っているのではなく、伸び縮みしている!
 思っていたよりずっと小さいヤマビルでした。
 棒で落とそうとしても、シャクトリムシと違ってしっかりくっついていて落ちません。仕方がないから近くの葉を取ってそれで摘み取り、草の上に乗せて写真撮影。炭酸ガスに反応するヤマビルは、僕の方に向かって体を伸ばしてきます。群馬の山は、寒いせいなのか、ヤマビルを見たことがありませんでした。20年近く山歩きをしているPさんも初めて見たのだそうです。
 そんなことをしているうちに、
「うわ~ぁ、靴の上にも付いている!」と、Pさん。
 それを取る騒ぎをしているうちに、脛にチクリとした感じが……。普段だったら気にしないほどの痛みですが、恐る恐るズボンを捲って見ると、
 !!
 予想通りの光景が!
 撃退グッズを何も持っていません。仕方がないから、指で摘んで取りました。こういう時は指で触るのも平気なのですね。指に付いたのをパニック状態で、足下の水たまりで洗い落とし、駐車場まで一目散で逃げました。
 駐車場で確認すると、Pさんの靴下に1匹、どうして付いたのかわかりませんが、僕の手の指に1匹。しばらくの間どこかに見落としがあるのではないかと、気になって仕方ありませんでした。
 自分で書いた通りに、刺された所からの出血はなかなか止まりませんでした。

 この後晴れても、(精神的に)調査の続行は不可能だったでしょう。
 中止したので、また後日行かなくてはなりません。どんな対策を取ればいいか、思案中です。
 
 今日の写真は「イチヨウラン」(2005.06.26甲信越地方で撮影)
 一葉蘭の名の通り地上近くに1枚の葉を付けます。林の下でひっそりと咲く姿は、美しいものです。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/06/28

出会いは突然で

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「いらっしゃいませ、ジルちゃん、今はちょっと――」
「何か?」
 中をのぞき込んだジルは、普段見せない天使の微笑みで耕作に近付いていく。
「お前」
 さっきの僕との会話に気まずい様子の耕作。
「いつもお兄さんには、お世話になっています」
 ジルは、耕作の両肩に手を置くと、小首を傾げてじっと見詰めた。瞳が青く輝く。そのまま、ふっと抱き付くと、彼の頬に頬をすり寄せた。
「何すんだ!!」
 真っ赤になった耕作は、慌ててジルを振り払った。
「あなたは、私の大切な稲作の弟。親愛の情を示したのですが」
「これでも悪魔?」
 僕は、耕作の耳元でささやく。
「私は、悪魔ではありません。私は――」
「ごめんね、ジルちゃん、聞こえちゃった?」
 外国人にとって悪魔呼ばわりは、僕ら以上に傷付くことに違いない。
「私は――」
「小悪魔だ。弟を惑わすようなことするなよ。俺と違って田舎の純情青年なんだからな」
 入ってきた稲作が言った。
「兄貴!」
「麗華の店じゃろくな事を教えねぇ。誰彼構わず手管を使うんじゃねえぜ。耕作は絶対だめだからな」


 今日UPが遅くなってしまったのは、朝早く外出したからなのです。その顛末は、明日のブログで。

 用事が果たせないままの帰り際、会えないものかと立ち寄った林で、
「ゲ、ゲ、ツキ、ヒ、ホシ、ホイホイホイ」
 と、いう声が聞こえました。その先に、長い尾を持つ声の主、念願のサンコウチョウがいたのです。
 他と見間違いようがない尾が長い小鳥です。腹から下が白い以外は全身黒で、目の周りだけが鮮やかな青をしています。全長45センチというのは、尾の長さが体の3倍くらいあるから。
 いつもいつも振られ続けたサンコウチョウとの出会いは、突然で短い間のことでした。

 今日の写真は「ヒメムヨウラン」(2005.06.26甲信越地方で撮影)
 姫無葉蘭と漢字で書くとわかる通り、葉がない腐生植物。
 高さ10㎝ほどで、探すつもりで見ていないと、まるで枯れ草のようなランです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。
麗華……クラブ〔Madam☆Rose〕のマダム。年齢不詳の超美形(♂)。

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2005/06/27

見た目だけでは

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「いらっしゃいませ、あれ?耕作君。今日はお兄さん来てないよ」
 稲作の弟耕作は、稲作を一回り小さくしたような青年。
「いいんだ、あんたに会いに来た」
「僕に?」
「あいつのことどう思う」
「?」
「ジルだよ」
「どうって、綺麗な男の子だね。礼儀正しいし」
「不自然だと思わねえか?そんなやつが何で兄貴にくっついているんだよ」
「気が合うんじゃないの?人は見た目で仲良くなる訳じゃない」
「俺は、あいつは人間じゃないと思う」
「何言ってるの?どう見ても僕らより出来が良い人間じゃない。耕作君は、彼を何だと思うの?」
「悪魔」
「ゲームじゃないんだから。……今、コーヒー淹れるから落ち着いて考えてみてよ。悪魔だったら、あんな風に普通の生活してないんじゃない?世界の混沌を企むとかさ」
 って、僕の方がずっとゲームっぽいですね。
 「スターウォーズ」の酒場風景だったら、見た目の違いがはっきりとわかりますが、「ゼイリブ」や「メンインブラック」みたいだったら、その人が人間かどうかなんてわかりませんよね。
 僕だって、自分が人間だと思い込んでいるだけかも……。


 昨日は甲信越地方の山に行ってきました。
 そこは、野生ランの自生地として有名な所です。本などにも紹介されていますから、行く前までは場所を書くつもりでした。が、保護されている自生地であるはずなのにシャベルで掘った盗掘の跡を見ました。だから、場所は書けません。

 今日の写真は「キバナノアツモリソウ」(2005.06.26甲信越地方で撮影)
 山に入っている人を見ると、中高年の女性が多いです。ずっと若い僕などより、ずっと元気で、楽しそうに笑いながら歩いています。
 僕らは20年後、あんなに元気でいられるでしょうか。
 ゲームと携帯世代の子供達は?と、考えてしまいます。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/06/25

新しい生命

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「……33,34,あれ?1匹少ない」
「また数えてるのか?妖しすぎるぜ」
 窓辺に水槽を並べて2週間。毎日新しい命が生まれている。
 クロメダカを買いはじめて3年目、減る一方で、とうとう4匹になってしまった。
 水草を2本買ってきて、それぞれの水槽に入れ、卵が産み付けられているかも知れない水草を新しい水槽に移してみた。それでもまだ心配で、今年が最後のチャンスと、インターネットに頼ってみた。メダカ観察のサイトが多いことに驚く。それによると、雌の腹に着いている卵は受精しているから、網で捕まえて筆でそっと採って親と分けるようにと書かれていた。その通りにしてみると、どんどん稚魚が生まれてくる。
 半透明の小さなメダカが追いかけっこをしているのを見ていると、時間が経つのを忘れてしまう。
「それじゃ、スプーン半分だな」
「何?」
「躍り食い」
「もう!」
 稲作が言うと、冗談に聞こえないのだ。


 昨日、紫陽花が咲いていない「紫陽花祭り」のニュースが流れていました。場所は、何と、群馬県渋川市。原因は剪定のし過ぎとのこと。でもきっと来年は、たくさん咲いてくれることでしょう。移り気な紫陽花のことですから。
 アジサイの花言葉は「移り気」「耐える愛」「ひたむきな愛」「冷酷」「自慢家」「変節」などです。

 今日の写真は「エゾアジサイ」(2004.07.03群馬県で撮影)
蝦夷紫陽花。日本海側に行かないと、鮮やかな青のエゾアジサイに会うことが出来ません。
 撮影場所は谷川岳の麓。前橋からは、ここまで行かないとエゾアジサイに会えないのです。

☆お知らせ―明日、喫茶店〔月の光〕は臨時休業させていただきます―

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/06/24

欲望

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「ねえ、稲作。もっとお金になる仕事しようと思わないの?」
 暇そうな探偵助手の妙ちゃんが訊いた。
 いつものようにフルーツパフェを食べていられるのは、探偵助手のバイト料を当てにしない生活をしているからだ。大学を休学していても、親からの仕送りがあるらしい。
「宵越しの金は持たねえ主義だ」
「江戸っ子じゃないんだから。将来に向けて貯蓄するとかいう考えはないの?……これじゃ、先行き不安なんだよね」
「心配してくれんのか?」
「自分の将来の心配してるの!」
「ん?……俺は無欲なんだ」
「食欲は人一倍だけれどね」
 僕は、稲作の鈍感さ加減を笑いながら、大盛りカレーを差し出す。
「ジルだって、もっと身を入れて働きなさいよ。いつもここでトマトジュースばっかり飲んで!」
 妙ちゃんのとばっちりとヤキモチが、ジルに向いた。
「お金はいりません。私の望みはただ1つ」
「も~う、どうしてここの男はみんなやる気がないわけ?――絹さん!逃げないの!!」


 1987か8年の夏。会社の同僚たちとビアガーデンに行った時のこと。
 後輩の女の子が、カラオケを歌うから付いてきてというので、隣で手拍子でもしてあげようと一緒に前の舞台に行きました。
 彼女の選曲は中森明菜の「デザイアー」。
 かかった曲は、もんた&ブラザーズの「デザイアー」。
 ♪振り向きざまにー、っていう歌、覚えていますか?
 二人、舞台で、ただ立ったままでした。
 知っているだけで、ルナシー、U2にも「デザイアー」という曲があります。きっともっと大勢の人が歌っているでしょうね。ショービジネスは欲望渦巻く世界でしょうから。

 今日の写真は「グンナイフウロ」(2005.06.19長野県で撮影)
 郡内風露。郡内は山梨県東部桂川流域の古名だそうです。色が淡いせいでしょうか、大きい割に目立たない花です。
 
【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/06/23

痒くなりそう

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「どうした!?」
 稲作が訊いた。ジルの友だちの報告通り帰ってきた。
「いらっしゃい――何でもない。ちょっとビックリしただけだ」
 僕は目の前が暗くなり、カウンターにもたれ掛かっていた。
「大丈夫か、少し座って休んだ方がいい。……ジル、何をした?」
「私は何も――」
 ジルは胸のポケットをそっと押さえた。
「ジルちゃん、それは君のペットなの?」
「いいえ、友だちです」
 前に言っていた友だちのネズミって、誰かのあだ名じゃなくて、本物のネズミだったんだ。
「野生?」
「はい」
「外に放してあげた方がいい。ダニが移ると大変だから」
「私には移りません。私の血は美味しくない」
「そういう問題じゃない。お前、ここは一応飲食店なんだから」
「……一応、じゃないよ。れっきとした飲食店だ」


 〔月の光〕の中の僕は、ちょっと情けないですねぇ。実際の僕はあんな事で貧血を起こしません。クマとオオスズメバチは恐いですけど。

 利根川河川敷が遊び場所の実家の猫たち。
 ある日、耳に黒いイボが出来ていました。「どうしたの?」と、触ってみると、簡単に取れてしまいました。よく見ると、取れたイボの先端に足が付いて動いている!米粒大のそれは、血を吸って巨大化したマダニでした。それから、毎日気を付けて彼らの体を見るようにしていると、時々耳や口の周りにマダニを付けて帰ってきます。草原で遊ぶペットがいる人は、チェックしてあげてください。
 山野を歩いて帰った時は注意しなければいけませんね。僕らもマダニが好む毛が薄いほ乳類ですから。

 今日の写真は「ヒメイズイ」(2005.06.19長野県で撮影)
 姫萎蕤=萎蕤とは、アマドコロ類の根茎を乾燥した滋養強壮薬。小さなアマドコロのような花です。

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2005/06/22

頭隠くして……

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 黒い影が床を走った。
 何?
 影が消えた先にはジル。いつものようにトマトジュースを飲んでいる。
「何か?」
「いや、何でも――!?」
 彼の胸のポケットが大きく膨らんでいるうえ、出ているのだ!ミミズに似たアレが!!
 僕の慌てぶりに気付いたジルは、膨らんだポケットをそっと押さえる。ミミズは、シュルシュルとポケットの中に引っ込んだ。
「ジルちゃん、お願いだから――」
「すみません、緊急の報告に来てくれたのです。もうすぐ稲作が帰ってきます」
 それが緊急の報告。……目眩がした。
「嫌いですか?私のともだちです」
 好き、嫌いの問題じゃない。体長25㎝もあるドブネズミがうろちょろする喫茶店なんて聞いたことがない。しかも、それをあんなに綺麗なジルが胸のポケットに入れているなんて!
 ジルのともだちはポケットから顔を出すと、長い2本の前歯をむきだして頭を激しく縦に振っている。
「ヨロシク!」とでも言っているように。
 目の前が暗くなっていく――。


 ネズミはどうも……という人は、衛生上の問題もありますが、シッポが嫌いという人がいます。毛があまり生えていない長い尾は、僕が思ったようにミミズに似ているからでしょうか。
 子供の頃初めてドブネズミを見た時、ネズミだとは思えませんでした。飼っていた猫が自慢げに獲物を見せに来たのです。腹を噛まれて連れてこられたドブネズミは、頭とシッポをズルズルと引きずるほどの大きさ。半泣き状態で猫から逃げ回りましたっけ。それまで小さなハツカネズミ(体長6~7㎝)しか連れてきたことがなかったものですから。
 2度目に見たのは、公園の鶏小屋。地下に穴を掘って棲んでいた彼らは家族だったのでしょうか、小柄のネズミも混ざっていて、ところどころに開けられていた穴からちょこちょこと顔を出し、まるでモグラ叩きゲームみたいでした。ネズミ見たさに通ったのですが、しばらくすると鶏の飼育員さんに見つかってしまったようで、穴が塞がれていなくなってしまいました。

 6月12日に山道を歩いていて、足下からガサガサという音が聞こえました。目を凝らして探すと、黒いビロード状の毛に覆われた小さな動物が、枯れ葉の間に隠れようとしています。上半身しか隠せていませんが、本人は隠れた気になっているようです。
 側に落ちていた木の枝で、突いてみても動きません。顔を見たかったのですが、意地悪するのを止めて僕らがそこを立ち去ったのは、正体が判ったからです。隠しきれなかったお尻に、まばらに毛が生えた短いシッポが見えたからです。
 ヒミズは体長10㎝ほどのモグラの仲間。

 今日の写真は「シロスミレ」(2005.06.19長野県で撮影)
 山地の湿った草原に生えるスミレです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

ねずみ&こうもり……ジルの友達。

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2005/06/21

当たり前な生活

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「絹さん、カレーライス大盛り!」
 奥の席から戻ってきた稲作は、すっかり復活していつもの通り。
「大丈夫?」
「ああ。早く食って午後の仕事だ」
「私には、トマトジュースを」
 音もなくやって来たジルは彼の隣に座った。
 この二人、同居するほど仲が良い理由がわからない。共通の話題などあるのだろうか。
「なんだ?」
「どうかしましたか?」
 同時に訊かれて、二人をボーッと見ていたことに気付いた。
「いや、二人はどうして一緒に住むほど仲が良いんだろうと思って」
「おい、誤解すんなよ。俺たちはあんたが考えてるような仲じゃねえからな」
 稲作は恥ずかしそうに言った。そんなことは思ってもみなかったけれど、彼は気にしているらしい。美女と野獣のような二人だから。
「どんな仲ですか?」
 恥じらっている稲作を見ても、ジルに意味は解っていないようだ。
「わかんなきゃいい。これで疑いは晴れただろう?」
「初めから疑ってなんかないよ」

「さーて、もう一働きしてくるか」
 人生長くてもたったの100年。食って寝て働いて繁殖して、地球に生まれた生き物らしく最期を迎える……が、それが叶えられないのは自分で決めたことだ。体を使って疲れるまで働いて、帰ったらすぐに眠るような当たり前な生活を送っていれば、余計なことを考える暇もないはずだ。
 ‘その時’がいつ来るのかわからないが、それまでは。


 見る人の理想の姿に見えるジルちゃん。僕にはマーク・レスターに見える、と書いていますが、実は「小さな恋のメロディー」を観ていません。だから、僕にとっての彼のイメージは「オーメン」の少年時代のダミアンとか「シザーハンズ」のエドワードでなのです。

 好きな俳優として、以前ブルース・ウィリスさんを挙げましたが、彼の吸血鬼姿と長髪はどう考えても似合いませんね。稲作の方が吸血鬼姿は似合いませんが……。

 黒ずくめで黒マント、夜な夜な美女の生き血を求めて彷徨うドラキュラ伯爵だったら、クリストファー・リーさんが一番でしょう。彼の近況は「ロード・オブ・ザ・リング」の悪の魔法使いサルマン。なんか、イメージありますね。

 今日の写真は「イブキジャコウソウ」(2005.06.19長野県で撮影)
 まだ咲き始めたばかりでした。盛りの頃にはピンクの絨毯のように見えます。
 伊吹麝香草と書くこの花は、大変小さく高さは2~10㎝の低木です。低地~高山帯の岩場や乾いた草地に這うように生えています。
 ハーブのタイムをご存じだと思います。イブキジャコウソウはタイムの近縁種で葉を触って手の匂いを嗅ぐと独特の香りがします。山で出会ったら、ぜひお試し下さい。

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2005/06/20

寿命

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「どうしたの稲さん?お腹でも痛い?」
「どうもしねえよ」
 いつもだったら、腹が減ったとか、早くしろとかうるさい稲作が、黙ってカウンター席に座った。色黒だから判りにくいけれど、いくぶん顔色が悪いようにも見える。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、ジルちゃん」
 ジルは、稲作の隣に座って訊いた。
「見たのですね」
「お前もあそこにいたのか?」
「はい。あなたは私に気付かなかった」
「あの子は?」
「亡くなったでしょう。首が折れていました」
「何!?聞いてもいい話なの?」
 僕は二人の会話に、思わず口を挟んだ。 
「表の通りでオートバイと乗用車の事故があったのです」
 交通事故の話か。そういえば、さっきサイレンが聞こえていた。
 不謹慎だが、ほっとした。二人がここにいるということは、関わっていないということだから。
「稲作、ちょっとあちらへ」
 ジルは、稲作を促して奥の席に移動してしまった。

「解っていますね、あれが彼の寿命でした。あなたにはどうすることも出来ないことなのです」
「ああ」
「どうしても辛くて、我慢が出来なくなったら、私に言って下さい。……私が、あなたを、新しい世界にお連れします」
 ジルの瞳が青く輝き、風もないのに金色の髪がそよいだ。

 事故に遭ったのは、稲作が絡まれて喧嘩をした時、胸のペンダントに気付いた少年だった。
  
 今日の写真は「カイジンドウ」(2005.06.19長野県で撮影)
 会いたいと思っていましたが、なかなか会えなかった花です。ビーナスラインを走っていて「あれは何!?」と見つけました。
 霧ヶ峰はレンゲツツジが見頃で大勢の人が訪れていました。

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2005/06/19

モンタージュ

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「絹さん、この間の人、‘おねえ’でしょ?綺麗な人だね。なんですぐに帰っちゃったんだろう、話してみたかったのになぁ」
 日曜日だというのにいつもの通り、フルーツパフェを頬張りながら、妙ちゃんが言った。彼女は昌子と智紘の経緯を知らない。
「急用を思いだしたと言っていたよ」
「あなたと私が智紘に似ていたから驚いたのです」
「ジルは、智紘になんか似て無いじゃない」
「あの人にはそう見えたのです」
「そうかなぁ。……ジルはブラピに似てると思うんだけど。そういえば、みんな意見が違うんだよね」
 妙ちゃんは、奥の席にいる公園帰りの3人のお年寄りに声を掛けた。公園の松林で『青空気功教室』の先生をしている沼田さん、生徒のお千代ちゃん、お梅ちゃん。
「わしは、アラン・ドロンにそっくりだと思う」
「いつみてもジェームス・スチュワートみたいだわねぇ」
「いや、ヨン様にそっくりだよ。ワハハハ」
 お千代ちゃんとお梅ちゃんは、お目目がハートマークになっている。気持ちは、若い娘と同じなのだ。
「絹さんには?」
「僕には、マーク・レスターに似て見える」
「私には、東洋人はみんな同じ顔に見えます」
「稲作も?」
「彼は、狼に似ている」

 今日の写真は「ショウキラン」(2003.06.22栃木県で撮影)
 鍾馗蘭という名前は、鍾馗様のかぶっている帽子に花の形が似ているからだそうです。皆さん、鍾馗様の容姿が思い浮かびますか?
 このランも、葉緑素のない腐生植物です。
 腐生=生物の死体または排泄物などから養分を摂取して生活すること。菌類や植物に見られる。
 腐生ラン第3弾です。今までのランで一番豪華な花でしょう?今年もどこかで出会えるといいですね。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

沼田さん……〔月の光〕の常連で、稲作の拳法の師匠。
お千代ちゃん……知恵袋的存在の細身のおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。
お梅ちゃん……料理上手なふくよかなおばあちゃん。沼田さんの気功の生徒。

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2005/06/18

共生

P70400151
「こいつが見えたんだ。奴らの中の一人に」
 稲作は胸元を押さえながら言った。
 場面は一昨日の続き。
「そうですか」
「出来ねえじゃねぇか、手出しなんか。俺が殴ったせいで死んだらどうする」
 それだけは避けたい。
「困ります。あなたに刑務所に行かれると」
「そういう理由で困るのか」
 
 ジルが、俺にとって天使なのか悪魔なのか(吸血鬼だけれど)。幸運をもたらすのか、厄災をもたらすのかは解らない。だが、お互いが必要としていることは確かなのだ。


 今日の写真は「オニノヤガラ」(2004.07.04群馬県で撮影)
 鬼の矢柄と書きます。鬼の持つ矢柄のように大きいからでしょうか。 
 これも野生のラン。葉緑素を持たない腐生植物で、ナラタケの菌糸と共生しています。
 共生=異種の生物が行動的・生理的な結びつきを持ち、一所に生活している状態。共利共生(相互に利益がある)と片利共生(一方しか利益を受けない)とに分けられる。
 知っていれば走っている車の中からでも見つけられる1㍍ほどの大きさ。知らなければ、去年の草の枯れ残りのように見えることでしょう。真っ直ぐな葉のない茎の先端によく見ればランに見える花を付けています。
 昨日のツチアケビより会いやすいランです。
 僕は林道を歩いていて、匂いでこのランを見つけました。
 良い匂いなのかって?
 いいえ、辺り一面キノコの臭いがしていたのです。どんなキノコが生えているのかしら?と、分け入ってみると僕の肩までの高さがあるオニノヤガラが生えていました。地面がナラタケの菌糸で覆われていたのですね。でも、不思議とオニノヤガラとツチアケビが生えている所ではナラタケを見ません。うどんに入れると美味しいのですけどねぇ。
 ナラタケは身近なキノコ。群馬ではナラブサといいます。北海道ではボリボリというらしいです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/06/17

宿命Ⅲ

P70400181
 稲作の、誰にも言えない2つの秘密。

 1つは、ジルが吸血鬼で、いずれ俺は彼の仲間になるのだということ。
 もう1つは、この胸のペンダントのことだ。
 今のところ、俺には見えないし触る事も出来ない。絹さんにも見えないらしい。
 これをくれた男は、俺に託すとすぐに死んでしまった。彼にはこのペンダントが青く輝いて見えていた。
 ときどき、これが青く輝いて見えるヤツに会うのだ。

 智紘と最後の夜を過ごした日。
 当時の俺の薄汚いアパートの部屋。
 月明かりの中。
「稲作、こっちを向いて。……綺麗だね」
 智紘の視線は胸元に注がれている。
「触っても、いい?」
「ああ、いいぜ」
 彼は俺には見えない青い石を俺の胸元からそっと摘み上げて手のひらに乗せている。
「綺麗」
「心配するな。俺がこれを受け取ったのはお前に見えなかったからじゃねえから。お前にこれが見えていたこと、判っていたから」
「ずっと気になっていたの。ぼくが嘘を付いたせいで、きみがあんなに簡単にこれを受け取ってしまったのかと」
「お前が嘘つきなのはあの時に始まった事じゃねぇだろ。……『宿命』なんて言葉、そんなに軽々しく使わねえよ、いくら俺でも」

 ジルに青く輝いて見えるのは、彼が生きていないからかも知れない。


 昨日、映画『砂の器』を話を書いていたら、今朝のTVでデジタルリマスター版が完成し、再上映されるといっていました。
 親子の放浪のシーンは美しく悲しく蘇ることでしょう。
 中居君のドラマしか見ていない人は、ぜひ、ご覧になってみて下さい。時代背景のせいで仕方がないのでしょうが、親子の放浪の理由は余りにもやり切れないものです。

 今日の写真は「ツチアケビ」(2004.07.04群馬県で撮影)
 野生のランです。この株は、高さが60センチくらいの大株でした。
 葉緑素を持たない腐生植物で、ナラタケの菌糸と共生しています。
 共生=異種の生物が行動的・生理的な結びつきを持ち、一所に生活している状態。共利共生(相互に利益がある)と片利共生(一方しか利益を受けない)とに分けられる。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい。

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2005/06/16

宿命Ⅱ

PICT00941
「ジルちゃん、先に帰って家で待っていれば?」
「ここに来ると言っていました。一緒に帰りたい」
 我慢強いと言えばいいのだろうか。彼は、こうと決めたことは必ず貫く。稲作が帰って来るまで、朝まででもここにいるだろう。
 もしも彼が、誰かと恋に落ちたら――。
「どうしたのです!」
 稲作が帰ってきた。
「どうしたもこうしたもねえ。酔っぱらったガキに絡まれたんだ」
 よくあることなのだ。彼は喧嘩を売られやすい。負け知らずの彼だが、今日は酷くやられてしまったようだ。傷だらけ、いつもきっちり一番上までかけてある前ボタンがはじけて胸がはだけてしまっている。
「君がそこまでやられるなんて凄い相手だね。救急箱取ってくる」

「大丈夫?」
 ジルは目を青く輝かせて、絹さんが奥の部屋に入っていくのを確認すると、稲作の口の端から滴っている血を指で拭い取り、自分の口に含んだ。
「ああ、大したことはねえ。そんな嬉しそうな顔するなよ、やられちまったの喜ばれてるみてえだぜ」
「あなたらしくない」
 今度は、血が滲んだ稲作の拳を、両手で包んでなめている。犬か?お前。
「腹、減ってんのか?」
「いいえ。あなたの血を前にして、我慢など出来ない」
「言ってろ」
「……美しい」
 ジルの目が、稲作のはだけた胸元に掛けられたペンダントと呼応するように、青い輝きを増す。
 ――思い出してしまった。
「見えたんだ」
 稲作は、慌てて襟を寄せると、無事なボタンを留めた。2つ無くなっている。
「?」
「こいつが見えたんだ。奴らの中の一人に」
 稲作は胸元を押さえながら言った。


 長くなってしまったので、続きは明日。
 こういう話を書いていると、何だか、おかしな気分になりますね。読んで気分を害した人、ごめんなさい。
 一昨日の『宿命』。もう一つ、忘れてはいけない曲がありました。
 彼は自分の人生を曲に込め、ピアノを弾きます。コンサート会場には刑事が彼を迎えに来ている……。
 映画『砂の器』を盛り上げる挿入曲『宿命』も忘れられない1曲です。
 汚れた巡礼姿で海辺を放浪する親子のシーンに流れる曲。
 名場面を揚げるときりがありませんが、僕は、ラスト近く、生きていた父親が何十年ぶりに会った息子を庇おうと、息子じゃないと泣くシーンが忘れられません。名優、加藤嘉さんでした。

 今日の写真は「シロバナノヘビイチゴ」(2005.05.29長野県で撮影)
 実は、小さいだけで、市販されているイチゴのよう。味も酸っぱいけれどよく似ています。ヘビイチゴと言う名前が付いているけれど食べられるのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。
      誰にも言えない2つの秘密を、ジルと共有している。

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2005/06/15

夜想曲

P617005911
「いらっしゃいませ、先生。お久しぶりです、いつこちらに戻られたのですか」 
「昨日ね。早くここに来たかったのだが、ばたばたしてしまって」
 夜。
 そろそろ閉めようと思っていたところに、思いがけないお客様がやってきた。地元出身で、今は海外で暮らしている画家の浅倉さん。
 彼が描いた絵が〔月の光〕に掛けられているのだ。
 背景は、彼が座った席から通路を越えた反対側の席。そこに、男にしては繊細すぎる横顔、長めの巻き毛を持った少年が描かれている。昼間だったら席の窓の向こうは、絵と同じく緑に包まれているはずだ。
 僕は、CDをセットし再生ボタンを押した。
 ショパンのノクターン第2番。
「トゥ・ラブ・アゲイン……。初めて智紘君にリクエストした曲。綺麗だったんだよ、キム・ノヴァックが……」
 彼は、あの時と同じ事を言い、自分が描いた絵と弾き手のいないピアノを交互に見た。


 1955年の映画「愛情物語」。ピアニストと家族の愛情をつづった伝記映画です。
 この映画のテーマ曲は、ショパンのノクターン第2番をアレンジした「トゥ・ラブ・アゲイン」でした。
 浅倉さんが綺麗だと言ったキム・ノヴァックさん。僕は、ヒッチコックの「めまい」の彼女が好きです。女性って化粧と服装でこうも変われるものなのかって。

 今日の写真は「月下美人」(2004.06.17群馬県で撮影)
夜の花がこれしか思い浮かびませんでした。栽培している方も多いと思います。
 一夜しか開かない神秘的な花は部屋中に芳香が広がります。

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喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
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2005/06/14

宿命

PICT00041
「――アハハハ、いやだぁ、ジルったら」
「何が、おかしいのですか?」
 妙とジルがじゃれあいながらやって来た。
 なぜ自分が笑われているのか、わからない様子のジルが可笑しい。
「いらっしゃいませ、妙ちゃん、ジルちゃん」
「絹さん聞いてよ、またボクは置いてけ堀なんだ」
「なんです?オイテケボリって?」

「!?――智紘」
 カウンター席に座っていた昌子は、驚いた表情で二人を見た。
「昌子さんと二人とは初対面なんだね」
「みんなにそっくりだって言われるんだ。ボク、いえ、私は智紘の従妹の水沢妙です。稲作の助手をやってます」
「私は、ジル。稲作のルームメイト――」
「――冗談だろ?お前たち、いったい何なんだ。……ごめん絹さん。あたし、今日は帰るよ」昌子は店を出て行った。
「昌子さん!!」
 感覚が麻痺してしまっていた。
 自分だって、そうだったじゃないか。妙ちゃんがあの姿でここに訪ねてきた時、どんなに驚いたことか。

その夜遅く。
「いらっしゃいませ、昌子さん!?……稲さんいるけどいいの?」
「聞きたいことがある」
 思い詰めた様子の昌子が来店した。真っ直ぐに稲作の方へ向かう。
「よぉ、おねえ、久しぶりだな」
 稲作は、何年ぶりに逢ったとは思えない軽いあいさつをして、遅い夕飯を食べている。
「あんた――」
「いつも悪いな、仕事回してもらって」
 彼は、仕事を回してもらっていることを知っていたようだ。
「そんなこと聞きに来たんじゃない。どういうつもりなんだ」
 昌子は、美しい見た目に反して言葉使いが悪い。それは、高校時代の二人が不良を気取っていたからだ。
「ん?」
「あんた、正気かい?どうしてあの二人を傍に置けるんだ」
「あの二人?妙とジルのことか?……おねえ、ジルをどう思う?」
「智紘にそっくりじゃないか!まるで髪と目の色が違う双子だ」
「そうか、おねえにもそう見えるか……」
「二人を遠ざけろ。あんたを心配して言うんだ」
 昌子は、稲作の心の弱さを知っている。
「そう言われてもなぁ。俺、あいつらが智紘に似ているから一緒にいる訳じゃねぇんだ。奴らが、俺を頼ってくれているから一緒にいる」
「いいのか?大丈夫なのか?」
「ああ、どうやらそれが、俺の宿命らしいぜ」


 初めて彼らの歌声を聞いた時、なんて変わった歌い方なのだろうと思いました。それに暗い歌詞。その時、気になった曲は『花葬』です。気になると他の曲を聴きたくなりますよね。そこで手にしたのがアルバム『True』で、その中の1曲を聴いて彼らのファンになりました。
 その1曲は『flower』。演歌で育った世代には衝撃的でした。
 演歌の世界では、花は女で男は蝶で、女は港で男は船。女は身を細らせて待ち続けていても死にはしません。ところが『flower』は……。解釈が間違っていたら、ごめんなさい。
 バンドの名前は『L’Arc~en~Ciel』。
 僕が、彼らの曲の中で1曲だけ選ぶとしたら『fate』(宿命)という曲です。

 今日の写真は「タツナミソウ」(2005.06.12群馬県で撮影)
 杉の林床に、群生していました。立浪草。花の咲き方が、打ち寄せる波に似ていますか。

【登場人物を少しずつ紹介します】
水沢妙……押し掛け探偵所員。智紘にそっくりな彼の従妹。
     年齢20代前半。肖像画の智紘と同じ姿をすることで
     心の均衡を保っている。

ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/06/13

遠いふたり

P61900891
「いらっしゃいませ、昌子さん」
 高校時代、稲作と智紘に「おねえ」と呼ばれていた、赤木昌子さん。美少女だった彼女は、憂えを帯びた美しい人になった。
 バレンタインデー以来か。
 近所の父親の経営する建設会社に勤めているが、ここに来店することは滅多にない。
「あいつ、いないだろ?」
「朝一で千葉に出掛けて行った」
 だから来店したのだという。
 彼女がこっそり口利きし、回した仕事で、稲作は県外に出ているのだ。
「家賃くらい稼げないと、気にするだろ」
 稲作が借りている、事務所兼住居の所有者は昌子。彼女が大家さんなのだ。
「どうしても、逢えないの?」
「逢えないね」
 高校時代、二人はお互いを憎からずと思っていたはずだ。
 あんな事が起こらなければ。
 不慮の事件に巻き込まれた智紘は、彼女の腕の中で亡くなった。巻き込まれなくても、長くは生きられなかった智紘にとって、彼女を守って死ねたことは本望だっただろう。
 若い日の、淡い三角関係。
 彼女は、智紘の身体のことを黙っていた稲作に激怒した。
 それ以来、今のような状態が続いている。
「あぁ、おいしい……」
 昌子は、一口、コーヒーを飲むと呟いた。
 稲作と二人で‘おいしいね’と言いあえる日が来ればいい。


昨日は、赤城山中腹から草木湖の辺りを散策しました。
 赤城では、サンコウチョウを探したのですが、声を聞くことも出来ませんでした。代わりに、タツナミソウと、まだ蕾のクモキリソウの群生を見ることが出来ました。
 草木湖周辺では、散った花びらが道を白く染めていました。エゴとハクウンボクでした。コアジサイはちょうど盛りで、オオバアサガラはまだ蕾。モミジイチゴは食べ頃で、小さなイクラのかたまりのような実をたくさん付けていました。
 
 今日の写真は「コアジサイ」(2004.06.24群馬県で撮影)
 小さな空色の花は、一見アジサイには見えません。アジサイの特徴のガクがないからです。僕がコアジサイが好きな理由は、香り。一面に咲いている山道を歩くと、甘い香りに包まれるのです。
 昨日は良い写真が撮れなかったので、これは去年の写真です。
 
【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          どこか、と言いつつモデル地は
          前橋市の敷島公園辺りのような……。
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2005/06/12

密猟

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 昨日、野鳥病院を見学させていただきました。
 病院には、オオルリ・キビタキ・メジロ・フクロウ・オオコノハズク・オオタカ・ノスリなどの傷付いた野鳥たちが保護されていました。
「昨日は、オオルリを二十数羽放しました」
と、いう院長さんの言葉にビックリ。台風が来たのでもないのに。
 理由は、密猟でした。
 密猟者から保護された、元気な鳥たちを昨日放したのです。
 山にはよく出掛けますが、密猟現場(かすみ網)には遭遇したことがなかったものですから。そういう現実に驚きました。

 友人が、ミッタイレンの会議に行く、と言っていたのを思い出しました。
 ニッタイレン(日体連)?彼は体育会系じゃないよなぁ。と思いながら話を聞いていたら、ミッタイレン(密対連)、全国野鳥密猟対策連絡会の事だったのです。
 病院で籠に入っていた鳥たちは怯えていて、悲しそうな目をしていました。
 野鳥は野外で、見て、声を楽しむのが一番美しいのです。

「いらっしゃいませ。あれ?耕作君は?」
 稲作は〔月の光〕に一人で戻ってきた。
「帰った」
「いいのですか」
 ジルの瞳が青く輝く。
「なにが?……いまさら、帰れねえさ」


 今日の写真は「コミヤマカタバミ」(2005.05.29長野県で撮影)
 白い花の中のピンクの筋が可愛らしい。‘傍食’と書くのは、睡眠運動で夕方、葉が閉じると一方が欠けて見えるからだそうです。
 子供の頃、ムラサキカタバミの長い茎を折って、筋だけを残して‘耳飾り’などと言って遊んだことはありませんか?あの時の酸っぱい匂いは、シュウ酸の匂いなのですって。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/06/11

PICT00031
 私たちは〔月の光〕に戻った。
「何か飲む?」
「いいえ」
 マスターの瞳に映る私は、智紘の姿をしていない。彼を思う気持ちは稲作と同じはずなのに、おかしな人間だ。
「耕作君は、稲さんを迎えに来たのかも知れないね」
「稲作は帰らない」
 彼が、私との約束を違えるはずはない。

 稲作と耕作は、〔月の光〕の近くの回転寿司屋にいた。
 耕作は子供の頃から、遊びに来るとコンビニのハシゴをする。好きなネタばかり食べられる回転寿司も大好きだ。幾つになっても変わらない。
本当だったら、回っていない寿司屋で腹一杯食べさせてやりたいところだが、情けないことに、それほどの持ち合わせがない。回転寿司だって、二人で食べれば4~50皿はいくだろう。
 俺たちには微妙な距離感がある。それは、二人が一緒に暮らした時間が短いことによるのだろう。稲作が10歳、耕作は6歳の時、二人は離ればなれに暮らすようになった。それは、智紘と同じ学校に通いたいという俺のわがままのせい。
 だから、子供の頃の耕作には寂しい思いをさせただろうと思う。
「兄貴、親父とお袋どう思う」
「年とったな」
「だろ?帰ってくる気はねえか?その気があれば、お袋と二人で親父を説得する」
「お前、農業嫌か?」
「そういう事じゃない」
 親父にしてみれば、家を継ぐのは長男だと思っていたはずだ。その期待を裏切って俺は家を捨てたのだ。田畑が莫大な財産ででもあるのなら、弟にこれほどの負い目は感じないだろう。だが、食うのがやっとの農家では、苦労ばかりを背負わせることになる。
「考えたくはないが、二人が具合悪くなったりしたら戻って面倒見るから。心配するな」
「そんな心配してるんじゃねえよ。兄貴の心配してるんだ。いつまでこんな生活続ける気だ」
「お前が?そんな心配を?……してくれるのか」
 出来ることなら、俺が帰って弟を解放してやりたい。
「もう、ここにいる理由なんてねえんだろ?」
「……ある」
「あいつか」
「?」
「ジル」
「……違う」
「悪いヤツじゃないことは、わかるんだ。でも、あいつは似すぎているよ、智紘に」
 耕作にも、ジルは智紘に見えるのか。
「わかっている。ジルと一緒にいるのは、智紘に似ているからじゃない」
「智紘のために俺は我慢してきたんだから。今度は俺の番だろ?」
 初めて聞いた耕作の気持ち。今まで見たことがないほど真剣だ。
 弟はジルの正体に勘付いているのかも知れない。
「――」
 すまない、耕作。ジルに仲間にしてくれと頼んだのは、俺の方なのだ。
「行くなよ」
「……すまない」


 今日は昨日と同じ会話。視点を変えてみました。

 今日の写真は「イカリソウ」(2005.05.28長野県で撮影)
 昨日のクルマバツクバネソウと同じ場所に咲いていました。こちらは派手な花ですね。
 碇草、船の碇に花の形が似ていることから名付けられました。

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2005/06/10

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 僕らは〔月の光〕に戻った。
 ジルはカウンター席に座って、所在なさそうに足をぶらぶらさせている。
「何か飲む?」
「いいえ」
「耕作君は、稲さんを迎えに来たのかも知れないね」
「稲作は帰らない」
 一瞬、ジルの瞳が青く輝いたように見えた。

 耕作と稲作は、〔月の光〕の近くの回転寿司屋にいた。
 兄貴は、いつまでも回転寿司が俺の好物だと思っている。子供の頃は、村に無いコンビニや回転寿司が珍しかったが、今は車でどこにでも行ける。さっきにぎりめしを食べたのだって、ここに連れて来られることがわかっていたからだ。遠慮くらい出来る歳になったのだ。
 兄とは微妙な距離感がある。それは、二人が一緒に暮らした時間が短いことによるのだろう。稲作が10歳、耕作は6歳の時、二人は離ればなれに暮らすようになった。それは、親友と同じ学校に通いたいという稲作のわがままのせい。
 だから、子供の頃の耕作にとって一人きりの兄は、夏休みや冬休みにやってきて家に泊まっていく存在だったのだ。
「兄貴、親父とお袋どう思う」
「年とったな」
「だろ?帰ってくる気はねえか?その気があれば、お袋と二人で親父を説得する」
「お前、農業嫌か?」
「そういう事じゃない」
「考えたくはないが、二人が具合悪くなったりしたら戻って面倒見るから。心配するな」
「そんな心配してるんじゃねえよ。兄貴の心配してるんだ。いつまでこんな生活続ける気だ」
 出来ることなら、田舎に連れ帰りたい。
「お前が?そんな心配を?……してくれるのか」
「もう、ここにいる理由なんてねえんだろ?」
「……ある」
「あいつか」
「?」
「ジル」
「……違う」
「悪いヤツじゃないことは、わかるんだ。でも、あいつは似すぎているよ、智紘に」
 さっきジルに見詰められて感じたのだ。彼は人の心の中に入り込みすぎる。あの時、耳を塞いで目を閉じたとしても、そんなことには関係なく侵入してきただろう。
 人間じゃない。
 二人が一緒にいるのはよくない。絶対に。
 自分にも多少はある野生の勘が警告しているのだ。――兄を失うことになると。
「わかっている。ジルと一緒にいるのは、智紘に似ているからじゃない」
「智紘のために俺は我慢してきたんだから。今度は俺の番だろ?」
「――」
「行くなよ」
 俺の知らない世界へ。
「……すまない」


 なんだか兄弟の話を書いてみたくなりました。
 今、兄弟の確執が話題になっているからでしょうか。
 一連のニュースを見ていて思うこと。もしも、僕が角界に入りたい子供を持つ親だとしたら、あの部屋を奨めることはしないでしょう。

 今日の写真は「クルマバツクバネソウ」(2005.05.28長野県で撮影)
 車葉衝羽根草、はねつきの羽根にたとえた名前。目立たないですが、真ん中に緑色の花を咲かせています。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/06/09

麦秋

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「いらっしゃいませ、お千代ちゃん、お梅ちゃん」
 「青空気功教室」帰りにいつも寄ってくれる、元気で仲良しなおばあちゃん二人組。
「じいさんは?」
と、稲作。いつもだったら教室の先生、沼田さんが一緒なのだ。
「用事があるんだって」
「おかげで、美女二人だけになっちゃったよ。ワハハハハ」
「ジルちゃんと、そこの2人、こっちへおいで」
 ジルが来るようになって以来、二人は彼の大ファン。その前は稲作を可愛がっていたのに、今では、‘そこの2人’のうちの1人に格下げだ。
 初対面の老婦人に呼ばれて、困った顔をして兄を見る耕作。
「遠慮はいらない。どうせ俺たちは刺身のツマだ。好きなものをおごってもらえ」
 ジルを真ん中に座った3人。
 耕作は、お千代ちゃんとお梅ちゃんに見られて恥ずかしそうにしている。今日の二人の興味は、新顔の彼に向いたようだ。
「あんた、兄さんに似ずに大人しいねぇ」
「兄さんと違って、真面目そうじゃないか」
「二人そっくりな顔して座ってると、なんか暑苦しいねぇ」
「いいんだよ、ジル様の美しさが引き立つじゃないか」
「悪かったな」
 と、言いつつも楽しそうな兄を弟は不思議そうに見ている。

「付いていかないの?」
「二人には大切な話があるようです」
 お千代ちゃんとお梅ちゃんが帰ったあと、稲作と耕作も見送ったジルと僕。
 側の畑では、実った麦が風に吹かれている。金色に輝く大麦の穂は、ジルの髪のようだ。
「美しいですね」
「麦秋というんだ」


 麦を見ようと出掛けてみると、小麦だけが残されていて、刈り取りが済んでいました。
 小麦色の肌、なんていうだけあって小麦の方が色が濃いのです。
 鑑賞するには、ノギが長く色が薄い大麦の方が美しいように思います。

 今日の1枚は麦畑の畦で撮した「アカバナユウゲショウ」(2005.06.09群馬県で撮影)
 「赤花夕化粧」と書くこの花は夕暮れに花を開く、帰化植物です。

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2005/06/08

兄弟

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「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、マスターはただいま留守にしております。すぐに戻りますが、お急ぎでしたら――」
「気にしねえでくれ。俺は客じゃねえから」
 客はカウンター席に座ると、下げてきたコンビニの袋からおにぎりを取りだしながら言った。
「あなたは、耕作」
 相手は、名前を呼ばれて初めて声の主の方を見た。
「お前がジルか!」
 初対面なのに、一目で彼が誰だかわかる。稲作を一回り小さくしたような若者。
「チッ、また海苔が千切れちまったぜ」
「お茶を入れましょうか」
「ペットボトル買ってきたからいい」
「お兄さんも、もうすぐ来ます」
「いいんだ。お前を見に来たんだから」
「私を?」
「お前、この前うちに来たろう?」
「あなたには会えませんでした」
「友達と旅行行ってたんだ。そんで、戻ったら村八分だ」
「ムラハチブ?」
「親父もお袋もお前の話しかしねぇんだもの。だから見に来た」
「どうでしょうか」
 ジルは、青い瞳を輝かせて、じっと耕作を見詰めた。

「ウォリャーッ!お前、なに赤くなってるんだよ」
「うるせえな!何すんだよ、にぎりめし落とすだろ!」
 耕作を見つけて、嬉しそうにヘッドロック攻撃を仕掛けた稲作。
 途中で会って一緒に戻ってきたのだ。
「相変わらず‘ツナマヨ’なんか食って」
「いいだろ、好きなんだから」
「仲が良いのはいいけれど、店を壊さないでくれよ」
 
 兄弟の乱暴な挨拶に、ジルは目を丸くしている。


 今日の話こそ、山もオチも意味もあったものじゃないですね。

 今日の写真は「ツノハシバミ」(2005.05.20新潟県で撮影)
 角榛と書くハンノキ科の花です。実は、西洋榛(ヘーゼルナッツ)と同様に食べることができます。
 外国小説やファンタジーに「榛色の髪や瞳を持つ少女」なんていう説明が出てくることがありますね。榛の実の色のことなのですって。この花の名の語感に、ふんわりとしたものを感じるのはそのせいかも知れませんね。僕だけかな。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。

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2005/06/07

元気だったね

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 シリーズものの小説が好きです。たとえ、途中で結末が見えてしまう推理物であったとしても。
 前作から、数ヶ月、数年経って発表されるお話の中の登場人物が、成長しているのか、そのままなのか。読んでいて、懐かしい人たちに再会したような喜びを感じます。
 元気だったね相変わらずだね、という感じと、慣れ親しんだ文体が心地良いからでしょう。

 『〔月の光〕だより』は、山なし、オチなし、意味なしの喫茶店の日常風景です。
 そんな日常を、こうして見に来てくれるお客様がいるということは、僕らも多少なりとも皆さんに慣れ親しんでいただけているのでしょうか。


 !?
 そこのお嬢さん、言葉に反応して萌えないで。
 僕はサービス精神旺盛なのだから。

「きみ……」
 僕は、熱いまなざしで稲作を見詰めた。
「ん?どうした、熱でもあるのか?……目が潤んでるぜ」

*注「やおい」とは、「やまなし、おちなし、いみなし」の略だが、少女の、少女による、少女のための、少年同性愛マンガ・小説作品という意味がある。

……決して、僕らのようなおじさん同士の話ではない。


 今日の写真は「イワナシ」(2005.05.20新潟県で撮影)
 山の斜面にひっそりと咲いています。名前の由来は、小さな実の形も味も梨に似ているからだそうですが、味をみたことはありません。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/06/06

サメと子犬

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 いつも通りに軽音楽が流れている〔月の光〕。
 いつも通りじゃないのは、お客様が一人しか来店していないことと、店内の空気に緊張感が漂っていること。
 緊張感の源は、いつも決まった席について決まったオーダーをする。
 オーダーは必ずブルーマウンテンとその日お勧めのケーキだ。
 入ってきた時は険しい表情の彼も、コーヒーが入る頃には表情が和らぐ。彼は、時々智紘の肖像に目をやりながら、一人静にお茶を楽しむのだ。
 年齢は稲作と同じくらいか。彼のこんな穏やかな顔を知っているのは、僕だけじゃないかと思うことがある。
 いつだったか、訊かれたことがあった。
「迷惑だろうな、俺がここに来るのは」
「あなたは、智紘君のお友達ですから。迷惑なんていうことはありません」
 悪い人間ではないはずだが、恐い人ではある。こんな所に彼のような人が来ることは想定外だったから、張り紙をしようとも考えなかった。“暴力団お断りの店”という。
 彼が座る席は、背後が厚い壁、窓からは死角になった場所。いつも命を狙われる危険にさらされているのか。
 彼が訪れる時、他の客は入って来られないのだろうと思う。確認に行く勇気がないから想像だけれど、駐車場には僕などは一生さわることもないだろう黒塗りの高級外車が止められているはずだ。店の前では強面の部下が、彼を守るために目を光らせているかも知れない。

「俺は客だ!!」
「てめえ!どこの鉄砲玉だ!!」
「客だって、言ってんだんべぇ!」
 怒号と共に入ってきたのは、彼の部下2人に拘束された稲作。
「絹さん、大丈夫か?――和哉!何しに来た!!」
 だ、大丈夫じゃないのは稲作の方だ。胸に拳銃を突き付けられている!
「お茶だ。――お前達、素人さんに手荒な真似をするな。顔を見て判らないのか」
 彼=石坂組の若き組長、石坂和哉は静に言った。静なのに恐い、恐すぎる。
 部下はすごすごと持ち場に戻っていった。
 顔を見ただけでは稲作の方がずっとその筋の人みたいだ。だが、二人には決定的な違いがある。目だ。和哉の目はホオジロザメみたいに冷たく、何を考えているのかわからない。反対に、稲作は遊んでもらいたくて、何かイタズラをしてやろう、どうやってみんなの気を惹こうかと、くるくる動く子犬の目なのだ。

「迷惑かけて、すまなかった」
 和哉は1万円を置いてそのまま帰ろうとする。
「待ってください。おつりです。――また来て下さいね、彼に会いに」
 僕は、智紘の肖像画に目をやりながら言っていた。彼から穏やかな顔をできる場所を取り上げたくなかったから。

「稲さん大丈夫?」
「ああ、何でまた来いなんて言うんだ?」
「智紘君の友達だ。悪い人じゃない」
「その割には、膝がガクガク震えてないか?」
 稲作は子犬の目をして、僕をからかった。


 ホームセンターに日用品を買いに行きました。ふと見た、ペットショップに可愛い子犬と子猫たちが……。
 チワワの前に立った時、頭の中を流れました。
 ♪どうする?アイフル~
 子供は可愛いですね。今日のお話は、そのせいではないのですが。

 今日の写真は「カマキリの赤ちゃん」(2005.06.03群馬県で撮影)
 毎年この時期に会えることを楽しみにしています。小さいのに虚勢を張って威嚇する姿が可愛いのです。

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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2005/06/05

懐かしい香り

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 日曜日。
 今日は、バラ園帰りの親子連れやカップルで満員だ。春と秋のバラの季節は、〔月の光〕も書き入れ時なのだ。
「絹さん、3番、森のキノコのパスタとペスカトーレトとブレンド2つ」
 妙ちゃんがウエートレスのアルバイトをしてくれている。

 忙しい時間が過ぎ、一息ついた時、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
「もしかして、沢木さん?」
「鈴木さん?」
 彼女はニコニコと肯いた。
 後ろから、穏やかそうな男性と小学生の男の子が入ってきた。
「今は加藤。主人と息子です」
 一家は一番奥の眺めのいい席に座って、楽しそうにメニューを見ている。

「会社員時代の後輩。不思議だね、勤めていた会社とこの店は同じ市内にあるのに、10年ぶりだよ」
 久しぶりの再会、彼女の幸せそうな様子。聞きたそうな妙ちゃんに、自ら説明してしまった。


 今日の写真は「公園のバラ」(2005.06.03群馬県で撮影)
 バラの盛りは過ぎてしまったようです。まだ、お祭り開催中のため、苗木などが売られていて賑やかでした。
 バラソフトクリームを食べてみました。ほんのりピンク色のソフトクリームは、うっすらとバラの花の香り。昔噛んだロッテのチューインガム「イブ」のような懐かしい香りでした。

【登場人物を少しずつ紹介します】
僕(絹)……喫茶店〔月の光〕のマスター。年齢40代半ば。
      何度会っても思い出せないような無個性な人。
      気弱で自然観察好き。筆者の分身で、筆者よりお人好し。

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2005/06/04

終わりなき旅

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……But I still haven't found what I'm looking for
    (それでも僕はいまだに見つけていない
自分が探し求めているものを)
「珍しいですね」
 そう、珍しい。
 普段、洋楽ならシカゴやカーペンターズ、癒し系の曲をかけるようにしているから。
「知っている?」
「はい、U2ですね。“I still haven't found what I'm looking for”」
「邦題は“終わりなき旅”っていうんだ」
「終わりなき旅、But I still haven't found what I'm looking for……。私と同じ」
 彼は、稲作を慕って来日した外国人。
 若いのに、そんなことを思うのか。
 若いから、そんなことを思うのか。
「……トマトジュースをいただけませんか」
 ジルは、差し出したトマトジュースを青い瞳を輝かせてうっとりと見詰めている。
 僕は彼の正体を知らない。
 店内を流れる曲は「終わりなき旅」から「プライド」、「ブラディ・サンデー」へと変わっていく。


 初めて聴いたU2は「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」。ボーカルの迫力に、他の曲も聴いてみたいと思い、アルバムを聴いてみると、この曲が異質で、平和や反戦を歌うロックバンドだと知りました。そういう曲が、全世界で受け入れられているということも。
 ちなみに、このウィズ・オア・ウィズアウト・ユーは98年に放映されたドラマ「眠れる森」の印象的な挿入曲でした。
 なぜ、そんなことを覚えているのかって?
 挿入曲がU2で、主演がキムタク(中山美穂さんが主演?)で、森のロケ地が群馬県だったからです。
 脚本を担当された、野沢尚さんが亡くなって1年が経とうとしています。彼の、「眠れる森」や「青い鳥」の美しく、幻想的な世界観が好きでした。年齢を重ねた後の、彼の作品が観てみたかった。あらためて、早すぎる死が惜しまれます。

 洋楽など聴いたこともなかった僕を、新しい世界に導いてくれたのは、昨日の日記でお話ししたブルース・ウィリスさんでした。彼見たさにベストヒットUSAを見ているうちに他の人たちも好きになりました。
 ちょうどその頃、邦楽の歌詞を耳で追い切れなくなっていて、どうせ歌詞カードを見ながら聞くなら英語だっていいじゃない、なんて思ったこともあって。
 聞いていたのは、80年代後半から90年代前半。U2、ジェネシス、シカゴ、ヒューイルイス・アンド・ニューズ、ホイットニー・ヒューストン、マドンナ、ジョージ・マイケル、ボン・ジョビの流行った時代です。

 今日の写真は「高原の風景」(2005.05.28長野県で撮影)
 眠れる森風に。

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
ジル……自称22歳、本当は1300歳の吸血鬼。
    金髪碧眼で、見た人の理想の姿に見える。
    仲間にする約束を、稲作と交わしている。

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2005/06/03

あの男が帰って来た

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 スバル・レガシーのCMに帰ってきたブルース・ウィリスさん。歳をとりましたね、お互い様ですが。
 彼を初めてTVで見たのは、20年くらい前になるでしょうか。年末、NHKで放映していた海外ドラマの1時間半ほどの特番でした。「こちらブルームーン探偵社」というドラマで、元売れっ子モデルのマディと陽気でハンサムなデビッドの探偵物語でした。
 デビッドの弾丸トークと日本人には理解不能なウイット。お洒落な二人に釘付けになりましたっけ。それからしばらくして毎週放映されるようになり、ブルース・ウィリスさんのファンになりました。
 歌手デビューしたと聞けばベストヒットUSAを見て、映画出演したと聞けば見に行って……。歌は「リスペクト・ユアセルフ」、映画は「ブラインド・デート」です。
 ドラマも映画もコメディーだったので、「ダイ・ハード」には違和感がありました。でも、あの映画のおかげで今も彼を見ることが出来るのですし、面白い映画でしたね。


 そんな記憶が残っているので、うちの看板スター(?)の職業は、探偵だったりするのだ。
 ランチを食べ終えた稲作は、ほうじ茶をすすっている。
 そして。
 掘じくるな!鼻の穴。
 抜くな!鼻毛。
「んが?……なに、人の顔じろじろ見てんだ?」
 僕の、お洒落な探偵さんの夢は、彼の言動で破られている。


 今日の写真は「サンカヨウ」(2005.05.29長野県で撮影)
 不思議な形の葉の真ん中に白い小花を咲かせます。酸っぱい香りもいいですよ。

【登場人物を少しずつ紹介します】
広木稲作……当店のワイルド系担当。便利屋のような私立探偵。
      年齢20代半ば。190㎝の長身、色黒で猛犬顔。
      義理人情に厚い上州男児。

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2005/06/02

パパでちゅよ

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「あっ、来た来た。……パパでちゅよ」
 愛娘を抱いて来店していた春菜は、入ってきた稲作に言った。
「誰がパパだ!?誤解を招くようなことを言うな」
 この中で誤解をしそうなのは、耳がダンボになっている妙ちゃんだけ。
「へーぇ、そういう事なんだ」
 春菜は、稲作と妙ちゃんの微妙な関係を察知したらしい。妙ちゃんの傍に行き、耳元でささやいた。
「心配しないで。私は稲作の大昔の彼女。私はだめだったけれど、あなたは頑張ってね。あいつは良いヤツだよ。恋愛には優柔不断だけれどね」
「そうなんですか?」
 耳まで赤くなった妙ちゃんと春菜は、こちらを見ながらヒソヒソ話を始めた。時々、うそーとか信じられないーという声が漏れ聞こえてくる。

「女ってヤツは、何考えてるんだかわかんねぇ」
「君はパパ、僕はおじいちゃんだって」
「俺たち親子か?」


 上高地からの帰り際、駐車場でみんなが崖の中程を見ています。そこには、カモシカの母子がいました。何かが動いているのがわかる程度の距離。
 こんな時、バードウォッチャーは有利です。首からは8倍の双眼鏡を下げ、車のトランクには20倍のフィールドスコープがあるのですから。
 見てみると、可愛い!
 毎日現れるという母子は、足を滑らせたら真っ逆様に落ちそうな岩場を歩いて、僅かに生えた草を食べています。生後1週間くらいという子カモシカは親がベージュ色に対してグレー。母親の足下を必至で歩いています。なぜ、あんな所を歩かせるのでしょう?森に美味しい草はないのでしょうか。子供を鍛えるためなのでしょうか。
 無事に戻れるかどうか、見えなくなるまでフィールドスコープで追ってしまいました。

 今日の写真は「ニホンザルの母子」(2005.05.29長野県で撮影)
 こちらも生まれて間もない赤ちゃんを抱いています。
 遠くだったのでぼけていますが、ちょっと良い表情でしょう?

【登場人物(人物以外も)を少しずつ紹介します】
喫茶店〔月の光〕……どこかにあるかも知れない
          大きな川の畔に建つログハウス風の喫茶店。
          どこか、と言いつつモデル地は
          前橋市の敷島公園辺りのような……。
          僕らをもっと知りたい方はHPをご覧下さい

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2005/06/01

ひとりで生きてゆければ

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「……ちくしょう」
 誰にでもなく、何処にでもなく呟く。
 ジルを診療所に送り届けた稲作は、夜の街に出た。

……東京は たそがれて ほんの少しだけ やさしくみえる

 〔月の光〕でかかっていたCDのフレーズが頭の中を流れる。
 リアルタイムでは聞いたことがない昔の曲。
 稲作は、このボーカルが好きだ。
 声が智紘と似ているから。
 ジルが智紘に見えるのは、俺がヤツにこだわっているから。
 妙が智紘に似て見えるのは、従妹だからしようがない。
 智紘は満足して成仏したはずだ。
 俺が、思い切れないだけなのだ。

……あゝありふれた幸せに 背を向けてゆく 勇気が欲しい
「♪声をはりあげ 泣いてみるのもいいさ――」
 相変わらず、俺は音痴だ。

「ねえ、絹さん」
「なあに」
 夜。
〔月の光〕のお客様は、妙ちゃん一人。
「あの二人、どう思う?」
「稲さんとジルちゃん?」
 うなずく妙ちゃん。
「ジルちゃんは、また二人で旅をしたいと言っていた」
「旅?」
「きっと、忘れられない旅をしたのだろうねぇ」


 今日はちょっと趣向を変えて。
 一緒に口ずさめる人は、僕と同じオフコース好きですね。

 今日の写真は「ラショウモンカズラ」(2005.05.28長野県で撮影)
 花の様子を筋骨隆々の羅生門の鬼の腕にたとえたのですって。
 皆さんにはどう見えますか?

【登場人物を少しずつ紹介します】
森本智紘……店に飾られた肖像画の主。
      22歳で早世した〔月の光〕常連で、稲作の親友。
      彼の亡くなり方がみんなの心に影を落としている。

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